台割着手

本当は全エピソードが揃ってから手を付けるのだが、すでに到着している分を基本に台割を作り始める。ここでの台割とは、平たく言えば「目次の原形」と思ってもらってよい。どの話をどこに配置するか、どういう順番で読ませ、どこにピークを置き、どこに「気を抜く話」を置くかなどなど、「怪談本」としての全体の構成そのものである。
夢明さんは(これは僕もだが)だいたい最初のうちはある意味気軽な怪談(それでもヘビーだが)や短めの怪談を仕上げ、最後の最後に【爆弾】を送り込んでくる。
この爆弾または猛毒の怪談は、それ一個で相当な破壊力があるので、どこに配置するか、その怪談を読ませるために枕に何を置くかで、評価や印象がガラリと変わってしまう。「超」怖い話の場合、そういう「猛毒級怪談」が何本もあったり、読む順番で効果が激変したりするケースが多々あるので、本当は全話揃ってからでないと台割は作れないわけである。
が、未着分をはめ込み、また場合によっては何本かを丸ごと位置替えすることを前提に、台割を進める。
この台割を作る前に、全作を読み、傾向(カテゴリ)、キーワード、それが起きる場所、ヒント、などなど、様々な「関連事項」を全部洗い出して一覧表を作る。
登場人物の仮名がダブってたりすることが極稀にあるので、それのチェックもこの一覧表でやってしまう。
毎回、台割は2〜3パターン作って、結果的によさそうなものを残しているのだが、今回もうまく効果的にいけるといいな、と思う。
1頁のショート怪談は、必ず見開きの左側(奇数頁)に来るようにしなければならない。おこれは、立ち読みの人がぱらぱらぱら〜と捲ったときに、視界に入りやすくするため。1頁怪談が入るとその後は全部1頁ずつずれていってしまうので、そのあたりも考えないといけない。
元々は夢明さんの原稿を先にもらい、僕の原稿を1〜2本残しておいて、この偶数奇数の調整や、残り頁の調整などをやっていたのだが、最近は僕の担当分が先に終わってしまい、夢明さんの原稿がぎりぎりまで来ない(=頁数を夢明さんがぴったりに納めなければならない)と、逆転してしまっている。
台割が完成したら、その順番通りに元の原稿を並べ替えて1個のファイルにする。
この基本テキストデータができたところで、表記統一などの作業に入る。(素読みと推敲は最初に原稿を頂いた時点で済ませてしまう。誤変換や重複表現などを跳ねていく。場合によっては文意整理のために文章そのものに手が入る場合もある。著者校が取れないケースが増えているので、この作業は責任重大である(つД`))
 
また、1頁怪談の本文レイアウトは毎巻ごとに変えている。
やりすぎで読みにくかったりする場合もあるが、「通常頁と異なる→そこに違和感を作り出す」のが主目的になっているので、毎回悩みどころ。凝りすぎると読みにくい、さりとて読み易すぎてもいけない。1頁怪談は数行(下手すると2〜3行)しかないので、レイアウトによってはいきなりオチが読めてしまったりもする。むしろ読みにくく、というのは短編怪談のオチをわかりにくくさせるための工夫でもある。
ノウハウはほぼ完成しているはずなのだが、毎回同じようにはならない。
 
以前、「幽」のイベントを拝見しに行った折り、夢明さんに「一週間で入稿する秘密兵器」とご紹介いただいた。それについては、京極先生に「原稿渡すと1週間で校了! ……うちにも貸して頂きたい」とお言葉をいただいている。
今は多分、それよりもっと作業時間が短くなっていると思われるが、品質保持と引換になっている部分もある。(一番時間が必要なのは誤字脱字をチェックする時間そのものであり、圧縮が効くのはもはやそこしかないからだ)
作業時間が短くなっていくことは必ずしも自慢にはならない、と自分を戒めたい。
以前伺った話では、新耳袋では6〜7回は著者校を取るということだが、「超」怖い話は著者校は1回。下手すると今回は夢明さんは著者校を見る時間がないか、見ても赤を反映させる時間も取れない可能性がある。綱渡り過ぎである。
戦いは、厳しい。