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煮えています。
煮え煮えです。


本日、一週間煮込んだおでんよりも、シャトルシェフで毎日温め直したデミグラソースよりも、うっかり風呂で変死してしまって一週間後に発見されたひとり暮らしの女子大生よりも、ぐつぐつきてます。


酒飲んで寝てしまいたいのですが、そうもいきません。
困ります。困ってます。


困った挙げ句にティーブレイク。
気分転換に「超」怖い話の既刊旧刊を紐解いてみる(それは逃避だ(^^;))。
安藤怪談、樋口怪談、平山怪談はそれぞれ異質な怪談である。現在の竹書房「超」怖い話は平山怪談が主軸となっており、「超」怖い話と言えば「グロコワ」で耳目を集めた怪談シリーズという評はあながち外れていない(平山怪談は割りと幅が広く、実はグロばっかりでもないのだが、どうしても印象が強いせいで平山怪談=グロと評されがちなのは確かだ)。
一方で、樋口怪談はオーソドックスにして美しい怪談だったと思う。妖艶というか、艶がある怪談が多かったような。艶、輝きというか、妖しい光というか……平山怪談を鮮血の滴りだとすれば、樋口怪談は真夜中の林の中に鱗粉を散らして舞う夜の蝶のような。
安藤怪談は、それは初回の1冊しかなかったが(先頃、†で書き下ろしも書かれていたが)、樋口怪談とは別種のオーソドックスさがある一方で、それまで怪談と言えば「幽霊話」と決められていた相場に、「奇天烈な話」という新風を吹き込んだというかなんというか……例えれば、安藤怪談は眩しかった。暗闇を歩いていたのだと思っていたら、急に目の前が真っ白になるほど明るくなったような。しかもその灯りはすぐに消え、元の暗闇の中にぽつねんと立たされているような。
平山怪談の恐怖でなければ満足できない、または平山怪談ですら食い足りないというおっかないことをいうジャンキーが増殖した今となっては、安藤怪談・樋口怪談は「別種の恐怖」「伝統的な怪談」になってしまうのかもしれないが、あのまぶしさ、艶っぽさは忘れがたくも捨てがたい。
思えば、安藤・樋口・平山と、「超」怖い話を担ってきた全ての編著者・その他の共著者の方々の薫陶を間近に受ける機会に恵まれたことは、僕にとって最大の幸福であったと思う。言うなれば、安藤・樋口・平山三氏を師と仰ぐ弟子と言えないこともない(笑)。もっとも、「オマエを弟子にしたつもりはない!」と叱られそうではある(^^;)
怪談界の新人については、「書ける人材を探す、掘り出す、連れてくる」という青田買い的発掘作業も重要だと思う。その反面、「見つかった人材は原木のようなもので、そこから育てる」という作業も必要なのかもしれない。ただし、その「育てる」作業というのは、徒弟制的関係でなければ身に付かないものなのかもしれない。文筆界では書き手は編集者が育てるという伝統が確かにあったのだが、作家を「育てられる編集者」というのは近頃では随分減ってしまっている。漫画家、作家、雑誌ライターなどなど話や文を書く仕事をしている知己友人も少なからずいるが、「編集者に恵まれ、よく育てて貰った」という話を最近あまり聞かなくなった。有能かつ目利きの編集者はまだあちこちにいるのだと思うのだが……。やはり、人が人を育てるというのは難しいものなのかもしれない。学ぶ側に意欲がなければ続かないという点、僕としては徒弟制を推奨したいところである。

ともあれ、長年の薫陶を受けながらも、僕は安藤・樋口・平山怪談にはまだまだ全く及ぶべくもないのだが(そういえばこの三氏は歳も近いのだよなあ。僕だけがミソっかす)、「超」怖い話編集担当として間近に原稿に接してきたことで、僕の中に「怖がりなのに、怪談を書く能力だけは研ぎ澄まされてしまう」というジレンマが生じている。その能力の発達はありがたく嬉しいことであるのに、怖いモノは怖い、という気持ちにも嘘偽りはない。
今怖いのは、「怖いと言われているものを見て、怖いと感じられなくなってしまったらどうしよう」ということ。怖い、という怯えが麻痺してしまったら、怪談は書けない。いかなる種類の恐怖であれ、そこにリアルを感じられなければ「怖い」気持ちにはなれない。
法則性として、著者当人が怖いと思っていないものは、読者として読んでも怖くない、ということはわかっている。(だから僕が書く怪談は、僕が怖かった話だけだ。そして僕の怖い沸点は非常に低い(^^;)。なんでも怖い。低いが故にまだ怪談は書けそうだが、低いが故にあんまり怖くない、と言われちゃったらどうしよう的な恐怖にはいつも呵まされている)
稲川氏の話が怖いのは、稲川氏が「怖い」と感じているから、その怖さが読者・客に伝わるということなんじゃないのか、とも思う。
もっとも、夢明さんは本人が怖いと思ってるのかどうか、僕とは違う次元におられるので僕にはいまいち不明なのだが(^^;)


というところで中休み終了。
僕は、まだまだまだまだ怪談を書かなければならない。
年内に「超」怖い話Η/「弩」怖い話3とは別に、とある雑誌(女性自身でもナックルズでもありません)に怪談を2本書き下ろす約束になっている。〆切は12/20。でもまだ書いてない。スミマセン。