「実話」怪談草紙

上原尚子さんの新刊が昨日発売になった、ということで見本が届く。

『実話』怪談草紙 (竹書房文庫)

『実話』怪談草紙 (竹書房文庫)

そういえば、女性で実話怪談を書く人というのは改めて言われてみれば稀少である。
圧倒的に男性の作家のほうが多い気がするし、事実そうだ。
一方、実話怪談を消費する側はどうだろう。
これを「ホラー」というくくりにしてしまうと、消費者は圧倒的に男性が多い。
「超」怖い話の場合で言うと、男性と女性の性別比はおよそ6:4くらいで女性の比率が高いように思う。
男性は「恐怖を理解しようとする。理解することで納得しようとし、納得することで恐怖を緩和しようとする」という行動を取る。このため、恐怖のロジックを理解・説明できるホラー(創作、文学・文芸としての怪談、ホラー映画など)を好む。
女性は「恐怖を生理的に感じる。理解できないことそのものに恐怖を感じ、理解不能であるということに理屈を付けて恐怖の緩和(恐怖の解体?)をしようとしない」。怖いモノを怖いままにしておく、「怖くないようにする、恐怖を解毒しようとする」というのが男性の行動で、「解毒しないままその毒にのたうつことを由とする」のが女性の行動。
女性の比率が高い実話怪談である「超」怖い話では、そうした「解毒されない恐怖」が女性読者の支持を得ているのかなあ、と思ってみたりする。そういえば、稲川怪談のファンだと公言する知人の多くも女性であったように思う。
男性の作家が男性的に書く(つまりは、恐怖の理論を解説しようとする)恐怖は男性に受け、同じ男性の作家が書いたものでも「理解不能を前提とする恐怖」は女性に強く支持を受ける。例えば夢明さんの小説の方のファンに女性が多く見受けられるのは、「理解不能」を描いているからなのかなあ、とも思う。でも、理解不能を記述するというのは生半可なことではできないわけで(著者自身が理解できないことを、ただ記録として書いていくというのは、猿ぐつわをはめた状態で歌え、というのと同じだと思うし)、それをする能力というのはやはり「異能」なのだろうとも思う。


そんなわけで、男性の視点から見た恐怖というのは一杯出ているけど、女性の視点から見た恐怖、特に実話怪談というのは、比較考察できるほどサンプルがないというのが実情かも知れない。本作『実話』怪談草紙 (竹書房文庫)は、久々の実話怪談の新人(上原さん自身は実話怪談以外のジャンルで長く仕事をされているベテランなので、「新人」という言い方は失礼かもしれないが)、しかも希有な女性怪談作家の手による新刊である。
そのあたり、読者の方々がどのような反応を見せるのか、非常に興味深く見守りたいと思っている。


……というようなことを解説に書けばよかったな、と今思った_| ̄|○ il||li