違和感を感じる訓練

韓国、自国にロケット発射基地を建設へ
http://www.technobahn.com/cgi-bin/news/read2?f=200703011203
これは、本日付のtechnobahnの記事で、要旨は「韓国が自国領内にロケット発射基地を建設する」というものなのだけれど、リンク先の記事を読むと微妙な違和感を感じる。
記事中では「100kg程度のペイロードを持つ小型ロケットを開発中」「(打ち上げに成功した場合)韓国は世界で9番目に自国の技術で人工衛星を打ち上げた国となる」とする一方で、「ロケットの打ち上げに関する技術に関してはロシアから技術供与を受ける」とある。
ロシアから受ける打ち上げノウハウの技術供与の部分は、「自国の技術で人工衛星を打ち上げた」とは矛盾している気がする。
「自国の技術で作られたロケットで自国の人工衛星を打ち上げた」なら通りはいい。
だが、「自国の技術で人工衛星を打ち上げた」とは、似ているけどニュアンスは異なる。


昨今、新聞記事などでもこうした「よく似た言い回しの文言」「しかし実際とは若干(または大いに)異なる」というものが増えている気がする。日本語の場合、てにをはや、が・は・もなど助詞を変えるだけで意味が逆転してしまうものもある。
主語を省略しておきつつ、省略部分は読者に想像で補完させるように書く技法はあるのだろうが、そこで意図的に誤解や混乱を招くような見出しが非常に多い。新聞記事を眺めていて、見出しと内容がまったく逆の意味になっているなんていうのもしばしばある。現代人は忙しく、どうせ読者は見出ししか見ない。本誌の記事中ではある程度の説明をしてアリバイを作りつつ、電子版や携帯向けコンテンツとして配信される、見出しが大幅に省略されたもの(文字数制限の多いもの)では、本文と意味が変わってくる恐れの多い見出しを、意図的に付けてるんじゃあるまいな?? と疑ってしまうものすらある。
例えば読売新聞、朝日新聞毎日新聞産経新聞共同通信からの配信)、時事通信日経新聞のそれぞれの同じ記事を読み比べてみると、各社それぞれが発表を過不足なく書いている場合は稀で、だいたいどこの新聞社・通信社も「それを入れておかなければ意味が通じないか誤解を呼ぶ」という重要事項を「入れ忘れ」ているのが目に付く。おかげで、複数社の記事をクロスファイア的に読み、海外からの記事まで重ね合わせないと全体像が見えてこない。新聞記事における「解説」っていうのは、そういう作業をスペシャリストがやってくれるもののことかと思ってきたが、その解説委員からして幾つかの情報を伏せている場合があったりするので侮れない。
これは「注意力・洞察力と、記事を疑って盲信しないことと、自分で情報を峻別する能力と……総じると【違和感を感じる能力】を養わせているのか?」とも考えてしまう。
ソースを一度は疑い、それをよく峻別し、提示された情報によく注意し、文意の裏に隠された所謂「行間嫁」的なものを読み取る洞察力を養い……この「違和感」は、実話怪談を取材したり書いたり、書かれている内容から怪異を想像したりするのに必要な能力でもある。同様に、注意力と洞察力はパズルを解くのにも必須の能力で、実話怪談とパズルの共時性はここにも(ry


話を戻そう。
違和感に対して鈍感である場合どうなるか。
違和感は「何らかの矛盾、安定に対する不安定、そこから導きだされる危険の予兆」であると思う。
パズルなら「解き方のきっかけ」であろうし、実話怪談なら「怪異の入り口」であろうか。
新聞記事やニュースには、そうした違和感は本来不要なものであるわけで、ヒントに基づいて答えを見つけないと正しいニュースが得られないのでは、News(新報・速報)である意味がまるでない。これでは暗号である。
が、最近の新聞はそうした暗号的な作りになっているものが非常に多いわけで、パズルマニアや実話怪談好きにとっては喜ばしいことなんだろうけど、新聞はそんなエンタテインメントに走らなくてもいいんじゃないかと思ったりする。
このように、違和感に対して鈍感なままでいると、その違和感が増幅された結果として現実のものになる「なんらかの危機」に対して、準備や心構えができない可能性がある。「思いもしなかった」「考えも付かなかった」というような危機に対する備えに新聞がそのままでは役に立たない以上、自力で記事に違和感を感じ、「新聞に隠されたナゾ」を解くしかないのではないか。


情報過多の時代である。
信頼できるはずの大手新聞にすら、虚報や願望記事が混じる時代である。
事実にもっとも近い情報を峻別するには、違和感を感じる訓練を重ねるしかないのかもしれない。
実話怪談好きとパズルマニアは、その辺については一歩リードしていると言えないこともないような(ry




PS.
今回例に引いたtechnobahnは金融情報専門の通信社なのだけれど、科学・技術・軍事に関する情報がいろいろあって、ミリヲタには嬉しいニュースサイト。ときどき日本語が変だったりするので、日本以外の人が書いた記事を機械翻訳しているものもあるのかもしれない。
金融関係者向けの情報は、それによって「誰に投資するか」を決めるということの指標にされるものでもある。何しろ儲けが掛かっているので情報は早く正確でなければならず、記者の願望とは別のところで正直であったりすることが比較的多い(そうでなければ損害を出させることになってしまうため)。
日本国内外の政治動向を見るときも、マーケット情報&金融筋ニュースをチェックする習慣ができたのは米911以降からなのだけれど、国内の記者の願望記事(「〜が懸念される」など)と比べて、金が絡んでる人たちの動向は遥かに正確だった。
ニュースソースをどれかひとつに絞るのではなく、視点の違うものをたくさん並列で読む習慣を付けるときに、毛色の違うソースを幾つか持っておくといいかもしれない。technobahnはそういった毛色の違うニュースサイトのひとつとしてお奨めしておきたい。
*1

*1:technobahnだけが例外というわけではなく(むしろ例外なんかひとつもないのだが)、日本では韓国に関する情報は大昔から腫れ物扱いになっている。僕が子供の頃は、大人たちは韓国も北朝鮮も【名前を出すのも憚られる】【何か不幸な迷惑が掛かる】といったニュアンスで、引き合いに出すことすら忌避する雰囲気があった。触らぬ神に祟りなしというのが一番近かったかもしれない。新聞社の扱い方が韓国贔屓(過度の遠慮)、または韓国の一挙手一投足を批判したり不安視したり矛盾を指摘したりしないのが基本なのは、そうした僕が子供の頃に大人だった人たちの敷いた基準が生きているからなのか、と思ったりもする。