参院選

ぼちぼちそういうシーズンなので、覚え書きとして。*1


日本は衆議院参議院の二院制で、両議院が法案や様々な決定を二重チェックすることになっている。
ただし、衆院参院で結論が違う場合(つまり、衆院で可決された法案が参院で否決されるとか)、衆院で審議をやり直す。ここで再度衆院が可決したら、法案成立。参院は差し戻すことはできても、二度目の衆院採決には従わざるを得ない。
つまり、衆議院が強い権限を持っている。


現在の国会で言うと、2005年の911郵政選挙自民党が圧勝したため、衆議院は与党絶対安定多数になっている。
これに対して、参議院は2001年の参院選小泉政権最初の参院選)で自民党が圧勝したものの、2004年の参院選では民主党が勝利。今度の参院選では自民党が小泉バブルで獲得した議席数を大幅に減らすだろう、と言われている。


昭和の日本人の選挙行動は、多数派への帰属だった。これは与党第一党が絶対多数を保っていたことに起因する。俄阪神ファンwに見られるように、勝ち馬に乗るのを好む傾向があるためだ。
平成の日本人の選挙行動はバランス重視で、一方に勢力が集まりすぎることを警戒する。これは、民主党の躍進で与野党が伯仲していることもある。
加えて、投票方式に比例制が取り入れられたことで、選挙時にふたつの投票権が得られていることも、バランス主義の一因になっている。
個人候補を自民に入れたら、比例票は民主に。個人候補を民主に入れたら、比例票は自民に、といった具合である。
その結果がわかりやすく出たのが911郵政選挙で、民主党の有力議員の多くが選挙区では落選しており、比例復活で当選している。これは、「個人候補(選挙区)は自民に、比例は民主に」とした結果と言える。


与野党が伯仲すると、政治的にはどういうことが起きてくるか。
議論が活発になるようなイメージがあるが、実際には重要案件が通過しにくくなる。国会(本会議)に法案が送られる前に、委員会を通過しなければならないが、委員会での議論や採決に多くの議員が参加しない状態で委員会採決が行われることをして「強行採決」と言うが、与野党の議員勢力比が近付いてくると、反対派の議員が半分近く欠席、出席(採決)拒否ということも起きてくる。


さらに、衆議院参議院与野党の勢力構成比が異なる場合はどうなるか。
例えば次の参院選民主党が勝利して参院民主党が与党(多数派)に、衆院自民党が与党(多数派)になったとする。
従来は衆参ともに自民党(+公明党を加えた与党)が多数派なので、衆院で可決された法案はそのまま参院でも可決される。
しかし、衆院が与党(自民公明)、参院は野党(民主)がそれぞれ多数派になると、衆院で可決された重要法案のうち、与野党で意見が異なるものは参院では否決されることになる。
もちろん、差し戻されて衆院で再可決されれば結果的に法案は成立するのだが、それには60日も多くの時間を余計に掛けることになり、素早い対応を求められる重要法案ほど、なかなか決まらないことになる。


そうなってしまうと政権運営にも支障が出てくるので、参院が多数派を占めた場合、内閣は総辞職するか衆院を解散して、民意を問うことになる。
総辞職して衆院を解散しない場合、首班が変わっても衆参与野党の勢力比は変わらないので、結局次の内閣もなかなか法案が通らずに苦労することになる。
そうすると、参院には解散はないので、参院で与党が敗北した場合、衆院を解散して総選挙を行うことで、衆院参院の勢力比が同じになるようにする(つまり、与野党逆転の可能性)。
それを同日に行うのが衆参同日選。
これは、野党が政権交替をする方法であると同時に、与党が劣勢の参院衆院の「勢い」でひっくり返そうという一種のギャンブルでもある。


どちらにせよ、参院与野党の勢力比が逆転すると、遠からず民主党政権が成立する可能性が見えてくる、ということなのだが、これは政局絡みの数字上の問題。


日本人は二次大戦後に「一度全て焼け野原になって、そこからやり直したら前よりマシになった」という成功体験を持つ。これは二次大戦後だけではなくて、関東大震災後、明治維新後、などなど「大乱と秩序の崩壊の後の再生」というのを歴史的にもしばしば経験しているせいかもしれない。
このこともあって、「今のままよりガラガラポンで、今よりマシになることを望む」というギャンブラー気質が強い。
911衆院選では自民党(というより小泉内閣)との一体感で、国民総勝ち組wになった成功体験を持つが、それへの引け目が「衆院は自民。だから参院民主党に勝たせてやろう」という意識と、「いっそガラガラポンで」という意識に繋がっていく。


民主党については、元自民党出身議員によって作られた自民党に準じる政党だという意識が強い。また、若手議員の登用*2により、フレッシュ・新しさを強調する。
一方で、民主党内にも右派左派、民族主義などがある。「沖縄を独立国にする*3」「在日韓国人朝鮮人に、日本国籍を与えないまま日本への参政権を認める*4」「労働組合の権利を保障する*5」などなど、政策上党内で統一意見のないものも多い。
民主党は広く様々な支持団体を持ち、その所属団体から候補者を出すシステムを持つため、団体間で意見が異なるものについては元々挙党一致をしにくい。
過去にも民主党議席数を伸ばしたときは、党内で派閥争いが起きている。55年体制下の自民党でも党内派閥争いは激しかったが、それと同じことが挙党一致をしにくい民主党内でも起きるだろうと思われる。


以上から、衆参で民主党が多数派を獲得して民主党政権ができた場合、新進党(現民主党代表の小沢一郎氏が推進役となった、昔あった政党。)時代同様、政治的にはなにひとつ決まらない機能停止状態に陥る可能性がある。現与党の自民党が野党に転落した場合、自民党も現在とは逆に全力で民主党の法案すべてに反対することになる*6
もし、民主党政権がスムーズな政権運営をしようと思ったら、衆参ともに過半数以上の圧倒的多数を得て、なおかつ党内派閥争いをしない、させないカリスマを持った代表がその座に着き、国民の圧倒的支持を集めなければならない。
「一番いいのは小泉前総理が民主党の代表になること」というジョークがあるのだが、そのくらいしなければ(そのくらいをしても)民主党による政権運営は難しい。


どちらの肩を持つにせよ、与野党伯仲または与野党が衆参で逆転する捻れ体制は、失われた十年の再来になることだけは覚悟しといたほうがいいかもしれない。


内政に関しては「試しにやらせてみよう」でもいいんだけど、外交・安全保障問題は「試しに(ry」は取り返しが付かない。*7
そこんところをちゃんとやってくれるなら、自民でなくてもいいんだけど……民主党にそれを期待していいのやらどうなのやら……。*8

*1:政治観測って、お金の掛からない趣味だと思う(笑)。高校時代あたりにやった公民とか現代社会とかの復習にもなるし。

*2:多くは官僚出身だが、永田メール事件の永田議員、山本モナ事件の細野議員などを始め、官僚出世レースからドロップアウトした候補が、民主党から出馬するケースが多い

*3:岡崎トミ子議員による発案。一国二制度を促進し、沖縄に年間3000万人の中国人観光客の長期滞在を招致しようというもの。民主党の公的政策案として、民主党サイトで閲覧できる。

*4:白真勲議員は「在日同胞」の利益を代表するために日本に帰化して民主党から立候補した。当選後、支持団体である民団に挨拶もしている。

*5:今話題の社会保険庁労働組合である自治労は、民主党の支持団体のひとつ。

*6:新進党政権下では実際そうだった

*7:村山内閣のお詫び、宮沢内閣の河野談話、などなど挙げればきりがない。

*8:民主党のサイトを精査するたびに、どんどん暗い気持ちになっていくので……。今日本に必要なのはまともで最強の野党。でも野党比は与党の1/2くらいでいいや、という気もする。共産党共産主義を捨て、公明党創価学会から自立できれば、それぞれ理想的なそして自民党にとってはもっとも恐るべき野党になるという説もあったっけなあ。