テロ特措法問題の本旨

テロ特措法。正式名は、「平成十三年九月十一日のアメリカ合衆国において発生したテロリストによる攻撃等に対応して行われる国際連合憲章の目的達成のための諸外国の活動に対して我が国が実施する措置及び関連する国際連合決議等に基づく人道的措置に関する特別措置法」。
あまりに長いのでテロ特措法と省略されているこの法律は、正式名にある内容を要約すると

  • 911同時テロについての国際協力
  • 国連決議に基づく特別措置法

ということになる。
アメリカは911テロの後、テロを実際に行ったアルカイダ及びタリバンを、大量破壊行為を行うテロリストであるとし、アメリカ以外の各国もこれに同意してテロリストの監視と排除を行うことで一致した。
この法律を根拠に、日本はインド洋で活動中の洋上艦に給油活動を行っている。
これが現状。


ここから概ねふたつの意見とその帰結が抽出できる。
「(テロ特措法は)国連決議に基づいている」→「テロへの国際的な協力活動」→支持(政府・与党系)
911同時テロの報復攻撃をするアメリカの片棒を担いでいる」→「アメリカの戦争に巻き込まれている」→反対(民主党・野党系)
党別で分けるとこうなる。
民主党の意見に同調する情緒的な反対理由の典型例を俯瞰すると、以下の通り。


  1. アメリカの言いなり
  2. アメリカの戦争に巻き込まれている
  3. 日本の艦艇が危険
  4. テロ戦争に協力することは9条違反
  5. テロ戦争に協力する日本もテロの標的にされる
  6. 石油をタダで配るガソリンスタンドにされている
  7. アメリカ下院の慰安婦決議に対する意趣返しをして、アメリカを困らせろ
  8. 資金提供以外の協力はすべきでない

このほかにもいろいろあるが、まずは代表的な反対意見は上のようなもの。
順番にその意見の内容と誤謬を見ていこう。

アメリカの言いなり

戦後世代のうち、学生運動を知らない今の40代前半から30代以下の世代向けには、これについて少し基礎知識を持つ必要がある。


1945年、日本はアメリカとの戦争に負けた後、拡大するソ連共産主義の勢力圏下に巻き込まれる恐れがあった。その共産主義圏拡大を阻止したいアメリカ(共和党)と、大敗を喫して自衛戦力がほぼ失われた日本の目的が合致、「アメリカが日本を守るが、日本はアメリカを守らなくていい」という片務的条約として成立したのが日米安全保障条約(安保)。その後改正されて延長され、今日の日米同盟に至る。*1


所謂、安保改正というのは学生運動のまっただ中あるいはクライマックスに行われた。
日本における学生運動の主目的は、ベトナム戦争反対から「日米安保改正反対」に流れていく。これはベトナム戦争アメリカとソ連共産主義)の代理戦争であったため、日本国内の左翼/学生左翼はソ連に味方すべくアメリカと、その前線基地となっている日本国内の駐留米軍基地に反対活動を行った。日米安保改正に反対することで、共産主義への側面支援を行おうとしたというのが政略上の動きなのだが、学生運動に参加した学生の大部分は実はそこまで考えていなかった。
当時の学生は所謂戦後の団塊の世代に当たるのだが、「アンポハンターイ」を叫んだことをお祭りのように懐かしく覚えている人はいても、その主張の正確な意味を理解している人は10人に一人もいない。


「アンポハンターイ」を無邪気に叫んでいた人々は、結局岸総理の政権下安保改正が行われ、無邪気なデモでは何も変わらないことを知って学生運動に嫌気が差し、浅間山山荘事件などの暴力事件を経て冷や水をぶっかけられ、「長い髪を切って就職活動をして大人になる」ことになる。
このとき、「権力に反対する自分に陶酔する」という快感を知ってしまった人々は、

  1. 市民運動に所属して、地域権力と闘争する
  2. 労働組合に所属して、労働側代表として雇用側と闘争する
  3. 上の延長線上としての左派政党に所属して、政府と闘争する(共産党社会党社民党、そしてそれらの行き着く先としての現在の民主党
  4. そのいずれにも所属しないか表だっては態度表明しないが、心はいつもアンポハンターイ

に、それぞれ分化していく。
(3)にあるように(1)〜(2)は民主党に合流する形で権力を奪おうとし、(4)は(3)を支持・支援する勢力となる。


そもそもこの学生運動がなぜ共産ソ連に味方して、アメリカと対立しようとしたのかというのを考えたとき、情緒的な見方をするなら、これも日本が戦争に負けたことと繋がりがあるように見える。
団塊の世代は戦中世代からは若干外れてくるのだが、戦争に負けたのはその親の世代であると言える。親が負けたアメリカへの反抗心、負けたことについてしおらしくなっている親への反抗心、そして「俺たちなら勝てたはずだ」という野心が、当時アメリカに対抗していたソ連や中国などの共産主義勢力に対する応援心に繋がっていったと考えられる。
現在、民主党にそうした「反権力的な組織や、かつて労組・市民運動で馴らした人々、学生運動に参加していた団塊の世代」の支持が多く集まっているのは、自民党が「学生運動当時の総理の孫をトップに据えている」ということと、密接な関係がある。
アメリカ寄り」というキーワードは、この岸=安倍への憎しみの再燃も大いに含まれる。

アメリカの戦争に巻き込まれている

これはテロ特措法が911同時テロに端を発していることと関連がある。当時、主被害国だったアメリカが、対テロの盟主として立ち上がったことは記憶に新しい。このとき、英仏独の他、ロシア、中国もアメリカに同調し、日本でも小泉政権だけでなく、小沢一郎*2を含めた現民主党幹部の多くも、アメリカに賛意を示している
時期的にアフガンのタリバンアルカイダを攻撃したのとイラク戦争が近いため、これを混同している向きが多い。(実は小沢代表も混同している)



賛成


反対


アフガン対テロ戦


米、英、日、仏、独、露、中、豪、蘭、伊、西、韓、、他


-


イラク戦争


米、英、日、豪、蘭、伊、西、韓、他


仏、独、露、中


テロ特措法は、イラク戦争ではなく対テロ戦に参加する洋上作戦に補給作業を行うものであって、これにはイラク戦争では反対の立場を取った仏独露中も合意しているし、仏独は現地に艦艇を派遣している。
対テロ戦にはイスラム勢力の暴発を抑止するという意味も含まれていて、中東や北アフリカイスラム教国圏と海を挟んで接している欧州各国にとって、「テロが成功して意味を成す」という成功事例は一方ならない恐怖と言える。(オランダの内戦、イギリス・フランスの移民問題など、欧州各国が内包する国内問題の多くは、イスラム系との軋轢と密接な関係がある)
その一方で、対テロ戦にはイスラム教国であるパキスタン*3も協力しており、キリスト教徒vsイスラム教徒の宗教戦争という単純な図式で見ることはできない。*4
このように、対テロ戦はアメリカ一国の戦争とは言えない。

日本の艦艇が危険

「現場海域は対テロ戦で艦艇出動しなければならないほどテロリストがうようよしているのなら、日本の艦艇がそこにいることは危険ではないか」
という主張があるのだが、それは「通学路が危険だから、子供を通学させない」というのに近いほど無理がある。


この話は、1991年の湾岸戦争にまで遡る必要があるのだが、民主党小沢一郎代表は湾岸戦争当時は自民党の幹事長だった。湾岸戦争を巡っては、当時の日本は自衛隊の現地派遣は行えないという結論から、小沢幹事長の決断で90億ドルの戦費負担のみを行った。
結果、「日本は金は出しても汗をかかない」(実働をしなかった)として激しい批判を浴びた上に、湾岸戦争後に関係国の名を挙げた感謝広告には名前も載らなかったという屈辱を受けた。
ここから、

  • 国際社会で認められるためには、汗をかかなければならない(現政府・自民党
  • 金を出しても感謝されないなら、もう金は出すもんか(現民主党及びその支援者)
  • 日本は戦争に拘わるべきではない(反戦運動・9条支持者)

という主張が生まれる。
「国際社会で認められるためには」という考えが現在の政府の基本路線にある。

  • 日本は、国連安全保障理事会常任理事国にならなければ、国際社会での発言力が失墜する*5
  • 現在の常任理事国P5は、国際紛争について一定の発言と同時に実働を行っている*6
  • 核兵器を持たず、国連の旧敵国であった日本が認められるためには、金だけ出すのではなく実際に働きを見せねば評価されない。
  • 同時に、自由と繁栄の弧の沿岸国と友好的な関係を作る必要が不可欠。(実はこれが最も重要なので後述)

そうした考えのもと、対テロ戦に参加することになった。
しかし、テロリストとの直接的戦闘が避けられない陸戦に日本が参加することは現状ではほぼ不可能に近い。仮に参加する場合、「非武装・丸腰」でなければ参加できない。結果、丸腰の自衛隊を守るために他国軍の手を患わせることになり、「おまえら何しに来たんだヽ(`Д´)ノ」となる。
かつて、丸腰の民間人(文民警察官やNGO)が陸戦に巻き込まれて抵抗も自衛もできずに亡くなったこともある。自衛隊は対抗する武装を持っているとは言え、「敵を能動的に攻撃する訓練」は受けていないし、日本が海外で積極的に戦争に従事するということについて、日本の世論*7はアレルギーを持っている。
そこで、輸送・兵站(ロジスティック)を担当するというところに落としどころが設けられた。一番安全だろうからという印象も手伝って、この案がテロ特措法で実現されることになった。


テロ戦争に協力することは9条違反

これも、「自衛隊を海外(日本の領海外)に派遣している」というその一点しか見ていない近視眼的な反対意見と言える。
「戦争をしている他国を支援することは、戦闘行為を行っていなくても集団的自衛権の行使に当たる」という主張もある。
集団的自衛権は平たく言うと「味方が攻撃されたら、自分が攻撃されていなくても反撃に加わる」というもので、憲法九条にある「紛争解決のための戦争は行わない」に反することになるため、「日本は集団的自衛権の権利を保持しているが行使しない」というのが現在の憲法解釈だ。
かといって、
集団的自衛権を行使できないから、君たちがやられても黙って見てる。だけど自分がやられたらみんなは僕を助けてね」
で、通じるだろうか。
いざというときに誰も助けてくれない国、日本。
それでも自衛しなければならないから、結果的に防衛力を独自に拡大しなければならなくなる。
その自衛のための防衛力拡大もままならないとなれば、「丸裸だけど強姦しないでね*8」「家に鍵を掛けてないが、泥棒されても泥棒が悪い」というようなもので、「主張が正論であっても、自己防衛の努力を怠っている側に落ち度がある」としか思われない。


日本は法治主義の国であるので、法律さえ守っていれば法律に守って貰えるという暗黙の了解がある。これは開国以前、戦国時代が終わって江戸時代が終わるまでの「超法治主義」時代が長かったせいもあるかもしれない。「お上の言う通りにしていれば大丈夫」「自分の身はお上が守ってくれる」という、体制(法)への依存意識が非常に強い。
国内はそれでいいのだろうが、国際社会には「罪を罰する決まり」は、あるようでない。
例えば二次大戦以降言われるようになった「戦争犯罪(大量虐殺に対する罪、戦争を始めた罪などの類)」にしたところで、戦勝国側が敗戦国側を戦力で物理的に圧倒し、敗戦国側責任者を物理的に拿捕できて初めて裁判ができる。法律は戦勝国側が作れる*9
このように、国際間には「決まりを守らせるには実力行使が必要」「落ち度を見せないことが重要」「やるべきことをやっておくことが大事」というのが今もってまかり通っている。


問われているのは、「国内法と国際協力、どちらが優先か」ということかもしれない。
国内法が優先なら、他国のすべてを国内法に従わせなければ国内法は意味を持たない。
通常、国内法は「主権の及ぶ国内でのみ通用する」ことになっている。日本でイスラム法が適用されず、日本の法律がアメリカで適用されない、また外国大使館の敷地内にその国の法律が及ばないのは、「国内法は主権の及ぶ範囲内まで」という原則が守られているためだ。(大使館特権もこれに当たる)
国外で起きている出来事を、国外で対処することが求められるときに、国内法はどれほどそれを束縛でき、国際協力に優先できるのか。
もちろん、国内が優先という考え方も取ることが出来るだろうが、その場合、「国際協力を蔑ろにした報い」は受けなければならない。


国内優先で国際的に批判・阻害されるのと、国際協力優先で国内から批判されるのと。
前者の場合は、各国から日本が非難され、後者の場合は国民(の中の反対派)から日本政府が非難される。
長期的な日本の利益を考えると、政府が非難されるよりは日本が非難されないことのほうが重要、というのが安倍総理の判断と言える。

テロ戦争に協力する日本もテロの標的にされる

「テロリスト排除の戦争に協力すると、敵の敵は味方として日本もテロの標的にされる」
これも日本的な考え方の典型例で、平たく言えば
「触らぬ神に祟りなし」
を、テロリストに適用しようという考え方だ。
これは、テロがアメリカに向けられたもので、日本とは無関係であるとう誤解から来ている。
次項で詳しく述べるが、テロリストが跋扈する海域は日本の原油タンカーが往来する最重要海域。
テロリストに融和的なら日本が攻撃されないかと言えば、そういうことはない。
イラク戦争での拉致事件は、軍関係者よりも、報道関係者、NGO、ただの旅行者などなど、主に非戦闘員がその標的になった。先のタリバンによる韓国人拉致でも、拉致されたのは非戦闘員だ。
武装の正規軍を「ハードターゲット」と呼ぶのに対して、非武装の民間人を「ソフトターゲット」と呼ぶ。正規戦争で敵の兵器や武器を壊し合うのに対して、民間人すし詰めのビルを爆破するようなテロ全般が、ソフトターゲット狙いの非正規戦争であると言える。
「取れるとこから取る。弱いから取る。弱い奴だから楽に取れる。楽に取れる奴を人質にして、強い奴に言うことを聞かせる」
というのは、低いコストで最大限の効果が上げられる。韓国軍を直接攻撃するコストよりも、韓国の非戦闘員を攫うコストのほうが安く、それでいて撤退の確約と資金(身代金)が手に入るなら、そんな効率のいいことはない。タリバンが「大成功だった。これからもどんどんやる」とホクホクするのも無理からぬことだ。


日本が補給活動から撤退したら日本がテロの標的から外してもらえるというのは、これは甘い考えでしかない。
日本が補給活動から撤退して、海上監視活動が手薄になった中東を、丸腰で丸裸の日本のタンカーがうようよ往来する。
僕がテロリストなら、手薄になったアラビア海で片っ端からタンカージャック、タンカーへの自爆攻撃を行い、日本からむしれるだけむしり取る、という戦略を選ぶだろう。「日本は無抵抗。言えば言っただけ金を出す」という戦略に転じられた後、日本が無抵抗に言われただけテロリストへの資金協力を続けることになった場合、テロ支援国家の烙印を押された日本は国際的に孤立することになる。
国際的に孤立した日本は、貿易もままならず急激に国際競争力を失い(以下略。

石油をタダで配るガソリンスタンドにされている

戦争アレルギーの人は、ロジスティック軽視の人が非常に多いのだが、日本が先の戦争で負けた最大の理由は戦力でも戦意でもなく、ロジスティックが貧弱であったこと、貧弱な上にそれを軽視していたことに尽きる。*10
前線ではなく後方で活動するのは「安全なところをうろちょろするだけ」のような非難もあるかもしれないが、この輸送・兵站(補給活動)は、相当重要な任務であると言える。
現在、「給油で金をばらまくだけ」「対して感謝もされない」と思っている人が多いようなのだが、現在インド洋で補給活動を行えるのは、日本とアメリカの二国だけ。これは、経済力の問題だけではなく、洋上補給というのがとてつもなく難しく高い技術を要するため、その他の国では担当できないという事情もある。
洋上補給は時速30〜40ノットくらいで海上を航行している船舶が、50mくらいの距離まで近付いて併走し、その状態を数十分〜一時間ほど保ったまま船舶用燃料+航空燃料などを艦艇同士で受け渡すというものだ。補給艦と被補給艦は、それぞれ点滴のような特大のチューブで繋がれた状態で同じ速度、同じ進路を、50mという近接状態、高速でそれを保たなければならない。
海軍艦艇を持っている国でも、海上補給力を持っている国は少ない。日本人にあまり知られていないだけで、海洋国家である日本の保有艦艇数及び艦隊運用練度は、今も世界第二位クラス*11にある。
パキスタン、ドイツ、フランスなど各国が相次いで日本へのテロ特措法延長支援を申し出ているのは、日本が抜けるとそうした補給能力を持つアメリカ一国では、対テロ戦に参加中の艦艇群を支えきれなくなってしまう。


対テロ戦の海上監視が継続できなくなると、中東一帯はテロリストの海になる。
ピンと来ないかもしれないが、スーダンのテロリストは石油パイプラインを爆破し、スーダンの産油量を激減させた。
補給で寄港中だった艦艇*12は、給油で動けないそのときに小型艦艇による自爆テロを受けている。
現在のテロリストは、「爆発物製造能力」を持ち、「ロケット弾などの積極的攻撃用武器」を調達する能力・資金力と運用能力を持ち、船舶攻撃を仕掛ける意思を持っている。
海上監視が続行できなくなると、日本の海自艦艇が危険どころかその超危険な海域を往来して日本に原油を運んでくるタンカーの一切がそこを通過できなくなる。
日本が消費する原油は、サウジ、イラン、イラクUAEスーダン他、中東からのものがその大半を占めている。

  • 原子力発電を減らすなら火力発電に石油が必要。
  • コスト高な電気自動車を選べないなら燃料に石油は必要。
  • 食糧の二倍の製造コストが掛かるバイオ燃料にシフトするには日本の食糧自給率は低すぎる。
  • 燃料以外のプラスティック/樹脂など工業製品加工材料としての石油がなくなれば、工業製品輸出国としての日本は息の根が止まる。

石油輸入のための必須生命維持航路=中東からインド洋へのシーレーンを死守するためには、そこをテロリストが自由に往来できない状況を作り、維持することが不可欠だ。
海上給油の継続は、シーレーンをうろつくテロリストを排除する、海上警察艦隊の維持と考えてよい。

アメリカ下院の慰安婦決議に対する意趣返しをして、アメリカを困らせろ

ここまでは「左翼的反米意識」「国内法至上主義的過剰な法治意識」「日本の古式ゆかしき怨霊慰撫信仰」そして「外交音痴・経済音痴」からくる反対論の中身について論じてきたが、この「慰安婦決議に対する意趣返し」というのは、「右翼的反米意識」としてもいいかもしれない。
これは先のアメリカ下院による慰安婦問題への謝罪を求める決議に憤慨した人々からよく聞かれる意見。
日本に多い情緒的な反米には、「アメリカの敵を応援する左翼的反米」と、「アメリカそのものを否定する右翼的反米」がある。そのどちらもが反米なのは、やはり敗戦後の負い目を負い続けているということあたりに源流を発しているのではないかと思う。
同時に、これまた日本的ではあるのだが「判官贔屓」の概念。強いもの(源頼朝)に対する嫌悪感、弱いもの(源義経)に対する同情心がある。
この例で言うと、「韓国中国の言い分を真に受けて、強権を日本に押し付けようとするアメリカ」が頼朝で、「弱い立場で言いなりにさせられ、屈辱を与えられた日本」が義経となる。
この強いアメリカ(への嫉妬?)を批判するという図式は他の事例にも多くあって、アフガン空爆などでも一方的な戦争になったイラク戦争でも、アメリカが一方的に勝つことを「ずるい」「大国の横暴」「フェアじゃない(?)」としてブッシュ・アメリカを批判する向きが多かった。
このフェアじゃない概念というのが、そのまま判官贔屓に繋がっている。
「テロリストは弱者なので、正面決戦をしたらアメリカに勝てないから、不正規戦でアメリカに抗っている。アメリカにかつて負けた日本人としては、アメリカを困らせているテロリストには同情している」
この例だと、アメリカ=頼朝、テロリスト=義経になってくる。
テロリストに同情的=アメリカに批判的な論調を続けるマスコミ各誌は、よく考えたら反米の急先鋒だった団塊の世代が経営や主導的地位を占めているわけで、「アメリカを困らせることなら、何でも肯定」ということになびきやすいのかもしれない。
反権力が、政府からその上位存在(と認識している)アメリカへ向かっており、アメリカと同調する政府を「犬」と呼び、アメリカを困らせることを全肯定する。


さすがに「慰安婦決議の意趣返しでアメリカを困らせろ」という論陣を張ってくる報道は少ないwが、反米右派の中にはそういう見方で、少しでもアメリカの足かせになるような仕返しをしてやれ、そしてテロ特措法を高く売りつけてやれ(つまり最終的にはその他のアメリカの譲歩と引き替えにテロ特措法を通せ)というもので、いささか幼稚なナショナリズムと言えなくもない。
ただ、反米的右翼或いは反米右派から、そういう声がなくもないということで紹介しておく。

資金提供以外の協力はすべきでない

危ないところに人は出さない。しかし国際協力はしておかないとカッコが付かない。
じゃあ、どうすんのよ!
というところに来て、1991年の湾岸戦争では「とりあえず金だけ出す。後はそっちでやってくれ」という手段に打って出た。これは前述の通り、小沢一郎自民党幹事長の主導で行われた話だ。
そしてこれも前述の通り、戦費を負担したにも拘わらず「国際貢献に役立たなかった」という烙印を押された。
今から16年ほど前の話なのだが、今20代〜30代前半くらいの人はその当時のことはほとんど知らなかったか、興味を持っていなかったかではないかと思う。
が、いっぺんそういうことをやらかして、国際的な大恥をかいている。
この路線はまたそれを繰り返すことに他ならない。

小沢代表による民主党の戦略は、次期政権を担う民主党の国際的価値を高めること

その大恥をかかされた張本人が小沢一郎民主党代表であるわけで、アメリカや諸外国の大使、外相、首相からの「民主党も協力してくれ」の申し入れに対してガンとして首を縦に振らないのは、「アメリカにかかされた大恥・屈辱」に対する意趣返しも大きいのではないか。
ここですぐに意見を曲げれば、民主党党内で党勢を伸ばしている左派勢力(先の参院選で特に大勝ちしたのは労組系左派)が統制できなくなってしまう。反小沢の党内右派が分裂、新党を……というようなシナリオに進みかねない。
そこで、できるだけこの問題を引っ張ってレートを高くする。
ここでへそを曲げておけば、次期政権を担うかもしれない最大野党の代表ということで、国外の首脳からも重要視されるようになる。それこそ、安倍総理より比重の大きい存在と認識されることになる。
そこで、できるだけ引っ張るだけ引っ張って小沢代表自身の価値を高めておき、ぎりぎりで党内を丸め込んで「協力」する。
テロ特措法の波及する範囲や、延長しなかった場合の日本のデメリットが十分に説明された後であれば、むしろ賛成しないほうが分が悪い。世論を賛成圧力に持って行ければ、党内左派を説き伏せやすい。
そうなった場合、テロ特措法そのままの延長ではなく、自民党の言う新法に民主党案をねじ込ませたほうが、「民主党の得点」としてアピールしやすい。


ただ民主党が主張する案というのは陸戦が終わっていないアフガン本土でのNGO協力に関するもので、民主党の支持基盤のひとつであるNGO系団体が連なるNGO利権と密接な関係がある。NGOへの資金提供の権限なども利権のひとつなのだ。
また、韓国人拉致が行われたのと同様の拉致問題に発展する土壌を作りかねない。韓国軍と違って陸自は民間人が攻撃されたとき、それが自身の防衛圏内にいた場合は武器行使して守ることができるが、陸自と行動を伴にしていない場所で民間人が攻撃を受けた場合、そのままでは守ることも武器行使もできないので、民間人と攻撃側の間に割って入って自分達が攻撃を受けたことにして、そこでようやく武器行使と民間人保護が行えることになる(そうした場合のROE=交戦規定は、「陸自は戦争をしない」という前提があるためほとんど未策定なのだそうだ)。
ここをどのように解決するのか、もしくは解決しないまま民主党案を取り込んだ新法として可決させた上で、民間人に犠牲者を出させておいてから「新法を急いだ政府の政府責任を追及する」という布石にするつもりなのかもしれない。


ともあれ、「まずあり得ない、小沢代表の新法成立への妥協」は、安倍内閣の辞職とバーターであればないとは言えない。事後の民主党の立場&小沢代表の国際的お披露目を考えれば。


やっぱりちょっとは勉強したほうがいいかも

しかし、日本人にとって何より重要な「中東から日本へかけてのシーレーン確保」を政権奪取という国内政局のための人質にするというのは、相当卑劣な手段であるように思う。
シーファー大使やメルケル首相との会談申し出を蹴っておいて王毅(中国)とは随分にこやかに訪中の約束してたけど、小沢民主は「反米親中」というのを明確にアピールしたということだろうか。
右にも左にも潜在的反米が多いだろうことは本日のエントリーで繰り返し書いた通りなので、「アメリカを困らせるためなら、中国に手を貸す」ことを肯定する人も多いのかもしれない。参院選民主党勝利は「自民にお灸」だったのか、「民主党に未来を託す」だったのか判断はまだ付きかねるが、反米を優先して人治主義の共産中国に期待を掛けているのだとすれば、団塊の世代は相変わらず夢を見すぎだし、若い世代は昔*13のことを知らされなさすぎ。


そういえば、僕は学生運動より若干後の世代なんだけど、僕らの親(学生運動よりは若干上)の世代なんかは、学生運動・暴力的左翼運動みたいなものに対する嫌悪感が強い人が多かったかも。学校の先生なんかは逆にちょっと前までゲバ棒振ってたような人たちだから、学生運動に対する擁護意識が強く、親は毛嫌いして近づけさせない。だから、どういう過程を踏んでそういうムーブメントが起き、その当事者はどういうつもりでいて、そして何に利用されていたのかについて、落ち着いて知る機会は少なかった。
今だって、日々の生活に忙しい人々の多くは、学校では戦後史をほとんど習わず、よくわからないまま新聞やテレビ、携帯配信、車内吊りの「断片的で情緒的な見出し」だけでしか起きていることを知らない。
正しい判断力があっても、前提になる情報をきちんと把握できていなければ、正しい判断を下すことは難しい。


なんというか、勉強をさぼってたツケが来てるのか、受験勉強には出ないからってことで1945年以降の歴史をまったく教えない学校教育に問題があったのか。(なんとなく日本史の最後のほうって、戦争で負けて、高度成長期、新幹線、オリンピック、万博で、めでたしめでたしってイメージが強い)

結論:テロ特措法は、日本の原油輸入航路をテロリストから守るために必要

とりあえず本日のまとめとしては、

  • テロ特措法は、テロリストによる原油輸入航路への攻撃から日本のタンカーを守るために活動する、多国籍艦艇群に活動のための燃料を補給する法律。
  • テロ特措法延長或いは同じ内容で海上給油のできる恒久法を作らないと、多国籍艦艇群による海上哨戒活動が続けられなくなり、日本のタンカーが通る原油輸入航路が遮断され、日本は経済的にも日常生活も干上がる可能性が高くなる。
  • 中東のテロ活動の活発化は、日本にとって他人事ではなく、「アメリカの勝手な戦争」でもない。

テロ特措法延長か新法が、民主党の反対によって成立しない場合(現状)、それによって起こされる様々な日本の不利益は、民主党及びそれを支持して民主党に力を与えた有権者(=国民)の多数意見によってもたらされたものなので、それによって被るあらゆる不利益は、民主党を支持して応援した全ての人間(と、一蓮托生になるその他の有権者)が追わなければならないですよ、っていうお話。

*1:安保改正時の総理大臣は、安倍総理の祖父・岸信介

*2:当時は自由党

*3:インド独立時に、イスラム教徒が分離独立したのがパキスタン

*4:先だって、アフガンでタリバンに拉致された韓国人は、キリスト教の布教を行う宣教師も含まれていたらしい。それはいくらなんでも現地人を刺激しすぎというか、デリカシーの点でどうかと思った。

*5:大国中国の延伸が続く場合、日本と対立する中国と対等の地位を得るためには、国連常任理事国への就任が不可欠。

*6:問題も起こしているし、核兵器も持ってるけど。

*7:団塊世代

*8:臨死!江古田ちゃんか!

*9:法治主義の視点から考えれば決していいことじゃないわけで、東京裁判で判事を務めたインドのパール博士はそのことを法治主義への挑戦として批判した。

*10:それでも日露戦争ではロジスティック重視だったのだが、太平洋戦争では極端に兵站能力は下がっていった。

*11:一位はアメリカ。練度も。

*12:アメリカだったかな

*13:戦後、学生運動時代