安倍後を想像する(2)

今し方まで、マットさんと長電話<ぉぃ
今、CNN、WSJ、TIME、WaPo、NYTなどのアメリカの各紙、アメリカ以外の海外誌の多くが、安倍総理辞任表明をトップニュースで伝えているとのこと。
その論調は「驚き」として伝えられており、「政策に何ら過ちがなく、多くの成果を上げているのに、なぜ!?」というもの。安倍総理は日本では不人気、海外では高評価だったのだが、海外での高評価を日本人が知らないのは、それが伝えられないせいなんだろうか、てな話などなど。


その中で、テロ特措法が通過しなかった場合のシナリオの話が出たので、覚え書きとして書いておく。

  1. テロ特措法(=日本が海上給油を行うための根拠法)が通らないことによって、日本による海上給油が中止される。
  2. 現在、海上給油を行える技術を持っている国は日本とアメリカだけなので、アメリカが全面負担することになる。
  3. アメリカの負担増で賄いきれなくなった場合(アメリカ議会が負担増を不満とした場合)、対テロ戦の洋上警備活動は縮小されるか中止される。
  4. 対テロ戦線から日本が後退した結果、アルカイダ他のテロ組織の海上活動が活発化した場合の責任を、日本が追及される。また、自由と繁栄の弧でなぞられる、インドネシア、インド、中東の沿岸国からの信頼を失い、日本の原油タンカーの航行ルート(=シーレーン)での不安が増大する。

これは日本が撤退した後、その穴を埋めるものがなかった場合の想定。
もうひとつ別の想定。

  1. テロ特措法(=日本が海上給油を行うための根拠法)が通らないことによって、日本による海上給油が中止される。
  2. 現在、海上給油を行える技術を持っている国は日本とアメリカだけなので、アメリカの負担が増える。
  3. その負担増を補うために、中国が日本の代わりに名乗りを上げる。
  4. 「大国としての責任を果たす」と宣言すれば中国のメンツが立ち、同時に日本が贖ってきたポジションとその功績を中国が得られる。
  5. しかし、陸軍国であった中国には海軍(艦隊)運用能力の面で劣っているため、実際の海上給油活動を行うことは技術的に難しい。
  6. 「日本の代わりに海上給油活動を中国が代行するのだから、必要な技術供与/技術交流を要求する」として、海上給油技術の中国への指導を求められる。
  7. 「日本の代わりに海上給油活動をするに当たって、せめて日本は費用負担だけでもしたらどうか」として、日本はフネは出さずにカネだけ出すように促される。湾岸戦争のときのように。

現状の中国海軍に、海上航行をしながら給油をする技術がどの程度あるのかは不明なのだが、基本的に陸軍国である中国がそうした技術に秀でている可能性は低く、この想定にあるように「日本の肩代わりを口実に、技術取得を目指す」というシナリオがないとは限らない。
この想定で話が進んだ場合、日本の世論(というより、民主党の主張とマスコミの報道の方向性)を考えると、次のようなものが予想される。

  • 日本は憲法の制限でフネを出せないのだから、肩代わりしてくれる中国の負担を軽減するために、技術指導と資金供与はすべき。これで国際社会への義理を果たせる。
  • 最初からこの方法を検討すべきだった。中国との対話を怠り協力を取り付けにくい環境を作ってきた小泉内閣の失政だった。
  • 日本に出来る形での国際協力は進めるべき。
  • この連携を天啓として中国との関係修復に役立てるべき。

この論調で話が進むと、防衛省・海自内部からは、海上給油技術を流出させるわけにはいかないという反対論が出る。海上給油技術というのは、展開中の艦船の活動範囲&活動期間を伸張するもので、日本の持つ技術=手の内を明かすことは、中国艦隊の活動範囲をさらに拡げる手助けに繋がってしまい、防衛上非常によくない。
しかし、「日中友好」と「テロとの戦いから後退した負い目」が、中国への協力を正当化する論調を形成していくことになるだろう。


もちろんこれは、考えられるシナリオのひとつに過ぎないので、実際にどう転んでいくかはわからない。
もうひとつの想定として、「日本が撤退した後、アメリカは独力で日本の分も含めた給油活動を続け、作戦規模を維持する」というのもある。もちろん、その場合もひとつめの想定と同じように、「逃げた日本」への風当たりは厳しくなるし、負担増となるアメリカだけでなく、給油を受けているISAF各国艦隊、周辺沿岸国の日本への心証は悪化する。
これについて、「安倍総理が批判を受ける、自分には関係ない」と思っている向きが多いようなのだが、批判を受けるのは安倍総理ではなくて、「日本」である。
我々が「アメリカが、フランスが」とその国の決定を、決定を下した個人の主張と考えないように、各国も日本が下した決定を個人の決定とは考えずに「日本の決定」と考える。
今回の安倍総理辞任表明、民主党海上給油反対、これは総じて「日本はテロとの戦いから逃げだし、大国としての責任を果たさない」という表明として受け取られることになる。


責任を果たさない国、約束を守れない国となれば、またしても「独自の発言力を持つ、国連常任理事国」への道から後退することになる。
アメリカ追従を否定する小沢代表は国連主義を標榜し、故に今回の反対理由を国連決議がないからという(実際にはテロ特措法は法案名にもあるように国連決議に基づいている)。
しかし、約束を守らない国となれば国連常任理事国の可能性からは遠ざかり、アメリカに対する発言力も、アメリカに頼らない発言力も手に入らない。


ちなみに、もうひとつの想定は、安倍総理の次の総理がテロ特措法或いは恒久法を、参院民主党の反対に関係なく衆院与党2/3の議席で可決するというもの。問題を再燃させないためには、特措法延長ではなく新法可決が望ましい。
この場合、問題があるとしたら、

  • 11/1に間に合わない
  • 「与党の数の暴力*1」という批判を受ける

の2点。
今後の政権運営を考えた場合、民主党が対話に応じない拒否路線を走る限り、今度は逆に与党自民党は「野党無視路線」を取らない限り、国会は脳死状態に陥ってしまう。
その間、野党/参院の審議拒否が続いても、与党は野党抜きで法案審議、可決を粛々と進めていくしかない。「数の暴力」の批判が続いても、衆院2/3を維持したまま解散総選挙を行わないとしたら、それ以外に現与党の政権運営方法はない。
なお、先の11/1に間に合わないについて言えば、特措法延長或いは新法可決が数週間程度の遅れである場合、海自艦艇は引き揚げるのではなく「活動を休止して現地待機」になるのではないかと思われる。
現実問題として、11/1までは延長前の特措法が生きているため、現地に留まることはできる。また、それ以降の海上給油継続が完全にないと判明するまでは今の状況は続く(11/1までは続けられる)。撤退には準備期間も必要になるため、11/2になったらすぐに艦艇が日本に戻ってくるというわけでもない。
自民党が、新総裁(新総理)の決定を急ぎ、戦時総理を可及的速やかに担ごうとしているのは、時間との勝負になっているからではないかと思われる。


今度の総理は、喧嘩のできる人だといいな、と。
というより、面の皮が厚くて喧嘩ができる人でないとこの状況は渡っていけない。

*1:繰り返すが、衆院与党の2/3の議席を与えたのも有権者衆院参院に優先する、と憲法で定められており、参院の決定が衆院で覆されてもそれは暴力でも横暴でもない。