「どこがいいんですか?」

話すと長くなりますから……w


blogであまりにも初音ミク初音ミクと連呼しているせいで、「随分ハマっていらっしゃいますね」とか「ラヴですね」とか「ロリコンですか?」とか言われるようになりました。
いやいやいや……(゚Д゚;≡;゚д゚)


まあ、確かに、だ。濱田マリ小川美潮、セラジ・ポーニ、FAIRCHILDなんかの素養があれば違和感なく、と思う。実は頑張って坂本真綾そっくりに歌う初音ミクとかも存在するし、今日久々にスペースシャワーTV見てたら、大塚愛とか木村カエラあたりは初音ミクでできるんじゃねえかとさえ思うように。
これは初音ミクというソフト(これは、ミドルウェアの一バリエーションになるのか)そのものがとりたてて凄い、ということではないような気もする。同様のことが出来る高価なソフトはこれまでにもあったからだ。
むしろ、そういうことができるソフトを、素人が個人の判断で気軽に買える値段で提供したということがひとつ。でも、安いってことだけに意味があったわけじゃない。安くたって不要なものは誰も買わない。実際、初音ミクの15000円(約)というのは、DTMソフトとしては破格に安いと思うのだが、DTMに興味ない人から見れば、箱絵以外に絵らしいものもなく、OPムービーがあるわけでもなく、萌えストーリーがあるわけでもなく……そんなものに15000円というのは実際安くない。てか高い。

ではどのへんが凄いと思ってるのかというと、「音楽を作りたい、歌わせたいと思っている人」というのを掘り起こしたその一点が凄いんじゃないかなあと思うのだ。


ここからが今日の本題。
かつて、僕も音楽を演っていた側にいた時代があった。まあ、お決まりの話でもあるのだが、子供の頃に電子オルガン(エレクトーンとか)を習っていた。その流れもあって、キーボード・シンセサイザーなんかを嗜み、バンドめいたこともしていた。中学〜高校生のほんの一時期まで。時代としては僕はポプコンど真ん中世代なので、同様のことをしていた人は少なからずいるのではないか。たぶん。
もうちょっと後になると、イカ天ブームがあったり、ホコ天でバンドをやるのがかっこよかったり、ライブハウスでわりとすぐにやれるようになったり、という時代が来るのだが、僕の全盛期はさすがにそこまでは。


で、音楽をやろう、やりたい、として実際にやってるのはおそらく大部分は若い世代。年齢で言うと大学くらいまでが大多数で、そこで社会人になるかどうかというところで、最初の選択を迫られる。おそらく親に。
「オマエ、いつまでバンドごっこなんかやってるんだ。それで食えるわけじゃないだろう」
まあ、耳に痛い話で、実際バンドをやっていてハマればハマるほどずっとやっていたくなる。ずっと、一日中一生音楽のことを考えていようと思ったら、もうプロを目指すしかなくなるわけで、インディーズシーンのひとつの「ゴール」はやはりプロだということになる。


もちろん、誰もがプロデビューできるわけじゃないから、大多数はプロへの道からは落ちこぼれる。
「別にプロになろうと思ってるわけじゃないから」と言い訳し、「最近仕事のほうが忙しくてさ」「いやあ子供できて」といろいろ言い訳しているうちに、音楽のことをずっと考えていたい、というところからは脱落していく。
中には「食えなくてもいいからプロを目指すんだ」と頑張り続ける人もいるし、「プロを目指してるわけじゃないけど、音楽は続けたいんだ」と、仕事を続けながらもバンド活動を続けている人もいる。悠々自適で、なおバンドをやっている人もいるけど、たぶんそれは相当な少数派。


なんであんなに音楽したかったのかというと、青年期は言いたいことがいっぱいありすぎたからではないのかな、と思う。もちろん、自分で曲を書く人ばかりじゃないから、大部分はコピーだったりするのだが、それでも「自分の言いたいことをうまく言ってくれている人がいる、歌がある」から、それを自分の言葉として歌っていたんだと思う。
そのうち、言いたいことがなくなってきたり、バンドを続ける時間がなくなったり、そして絶対的なところでは「メンバーが足りなくなり、メンバーとの時間が合わなくなる」ことによって、決定的にバンド活動は終わりを告げる。


音楽から離れて暫くは仕事が忙しかったりで、そのことを忘れている。
でも、音楽を志して途中で挫折した人は、それじゃあもう二度と音楽を演る側、歌う側、歌を世に訴える側になることは許されず、毎日ぼんやりiPodを聞くしかないのか。
というとそんなことはないわけで、やはり生き方に慣れてきて、または「仕事や家庭」を経験する中で、若い頃とはまた違う「言いたいこと。今、聞いて欲しいこと」なんかが沈殿してくる。自分の中に堆く溜まっていく。
そうして溜まった澱のようなものを、どうやって吐き出すのか。
もちろん、ギャンブルや飲酒やSEXや、時にカラオケなんかでも排出することはできるんだろう。
カラオケで歌ってるうちに、歌うという快感を思い出し、家に帰って押し入れから昔使ったギターなんかを引っ張り出し、また音楽やろうかなあ、なんて考える。

でも、メンバーがいない。
みんな忙しい、っていう現実に直面して、カラオケで上気した頭が覚めてくる頃には、それをもう諦めてしまう。
澱はまた静かに溜まっていく。


お仕着せの歌を歌うだけでも救いにはなるからカラオケがあり、一時のブームだけで終わらずに定着したのは、歌が人間に必要だからなのだと思う。*1
同様に、「カラオケに入ってない自分の思いを歌にして、誰かが歌ってくれたら」というのもある。あるのだ。くたびれたおっさんの身体の奥の方にも。


初音ミクは箱絵が萌え系、「バーチャル・アイドルをプロデュース」というギミックから、そっち系のイメージも強く持たれているし、それは実際に間違っていない。今、現役でDTMを続けている層のそれなりの人数は、萌え系ゲームミュージックからの流れなのは間違いないし。
一方で、「言いたいことがいっぱいあるけど、今まで言う手段がなかった」人々が、一斉にネットという発言手段を手に入れたのと同じ文脈で、「歌いたい、歌で訴えたいことがいっぱいあるけど、もうバンドは諦めてた」という人々が音楽という手段を取り戻すきっかけに、初音ミクはなりつつあるんじゃないのかな、と思った。




そう思う根拠は何かというと、やはり作られた楽曲の傾向とか。
初音ミクのために書き下ろされた曲の多くは、初音ミクの視点からの「自分(初音ミクというソフトウェア)をよろしくね」という自己紹介ソング。まずは皆そこから入る。
そのうちに、「初音ミクと自分(プロデューサーとして、初音ミクに語りかける側)との対話」というフェーズに移る。そこでは、初音ミクというソフトウェアに「あなたはナニを訴えたいのか」ということを問われるようで、そこで徐々にユーザー/チューナー/プロデューサーが訴えたい内面を、初音ミクに代弁させるという形で、「言いたいこと」が曲に滲出してくる。
今はまだ自己紹介系の歌が多いのだけど、ユーザーの内面を代弁させる歌が、少しずつ出てくるようになった。それはユーザーの心の叫びだったりもするし、ユーザーが眺めている風景を描写したスケッチのようなものだったりもするし、家族や友人や恋人などへの囁きだったりもする。


そういうものが、一晩に20〜30曲近く現れる。
全てが支持されるわけではないし、良い曲なのに注目されずに埋もれていく曲もかなりある。
逆に、作者の手を離れて歌われる曲に成長していくものもある。
自分の作った歌が、多くの人の共感を集め、また多くの人の口の端に上がり、歌われる。これはなんと幸せなことか。


次のフェーズとして考えられるのは、初音ミク自身を3D化する(それは多分にCG的な意味において)という方向性と、初音ミクを経て初音ミクのために作られた曲を、歌いこなす「人間の歌手」の出現だろう。
「celluloid」のように、もう何十人もの人間に歌われている曲は出現している。プロが歌うでもいいし、そうした初音ミクのための曲だけを演奏するライブなんかがあったら、僕はたぶん万障繰り上げて見にいくと思う。一日中それを流している局があったら、たぶん付けっぱなしにする<今自宅がその状態


初音ミクは一時のブームで終わるかもしれないし、続くかもしれない。どこまでも広がるかもしれないし、飽きられるのも早いかもしれない。ツールとしては。
ただ、「歌いたいけど歌えない」や「メンバー(ボーカルとオケ)が集まらないからもう諦めた」というのを補完するためには十分であると思う。ツールとして。


「歌うのはもううんざり。誰かが歌っているのを聞くだけでいい」
という人ばっかりになったら、このブームは終焉を迎えるだろうけど、「俺にも歌わせろ」「俺にも一言言わせろ」っていう流れはもはや止まらないわけで、言いたいことが尽きるまで今の状態は続くんじゃないかなあ、と思っている。



本項を書いている最中のBGMは、初音ミクによる「Time After Time(シンディ・ローパー)」。
ボーカロイドシリーズには、英語歌唱のためのソフトも存在する(SweetAnnとか)。日本語歌唱向けにチューンされた初音ミクは英語は不得意と言われているのだけど、案外聞ける。演歌を歌わせてるチューナーもいる。プロデューサーの育て方次第でどんな歌でも歌えるんだな、ということにも感心する。


ミリヲタは同時に「技術革新ヲタ」でもあるので、やっぱりこういうツールの出現とそれを乗りこなしてしまう多数の人々を見るにつけ、ニヤニヤしてしまうんだよなあ。

*1:この前、池袋で劇場版エヴァを見た後に入った居酒屋で、カラオケを開発した人と燐席していろいろ伺ったのだが、そのときに「カラオケは必要なもの」と力説して会社独立しちゃったという、その人の熱意にプロジェクトXを見たw