楽曲対価を支払うたったひとつ(ではないかもしれない)の冴えたやり方

いつもそうだけどこのエントリーも与太。


著作物に対する権利の主張と確保、という点からのみ語られがちな一連の問題を、著作物に対する対価の支払いを進んで積極的にしたいと思ってる側から考えてみる。


その前にまず。
少し前のエントリーでも触れているのだが、僕はフリーウェアやシェアウェアをこよなく愛している。Windowsを使うようになる遥か前、PC9801の時代にはフリーウェアやシェアウェアがなければ真っ当に動くパソコン環境などまったく構築できなかった。
そうしたソフトウェアの多くは、開発者の善意(または、自身のスキルアップや自身の個人用途のものをお裾分け)によってフリーウェアとして公開されていた。中には、カンパウェアというのがあって、「フリーウェアとして使っていただいてかまわないけど、もしよかったらカンパをお願いします」という性格だった。その次の段階にシェアウェアがあったが、これも「送金しなくても全機能を使い続けられるけど、お金くださいっていうメッセージは送金すると消えます」というものから、「30日の試用期間内はフリーで使えるけど、それを過ぎると機能制限がかかります/使えなくなります」まで、幅広い。
もちろん、「こいつは便利」「これはないと生きていけない」系のシェアウェアは、開発者の労をねぎらいソフトに敬意を払い正当な対価を支払うという意味を込めて支払いをする。
シェアウェアに送金するという文化は、もう随分と根付いているようにも思っている。もちろん、広告掲示型フリーウェア(料金徴収を個々のソフトの利用者ではなく、広告出資者から得るアフィリエイト方式)のようなものもある一方で、Vectorなどにあるような送金型シェアウェアも決して衰えてはいない。


原曲作者によって書かれた楽曲は、データであってプログラムではない。このため、これらのシェアウェアと同様の扱いをしていいものかどうか、この場では判断できない。
ただ、「デジタルデータである」「パッケージを含めた実体を持たない」「複製可能である」「パソコンかそれに準じるデバイス上でのみ再生できる」「作者の多くは個人である」という点に共通点がある。


リスナー=ユーザーの視点から言えば、もちろんタダで聞けるならそれに越したことはない。これは誰もが否定できない正直な本音だろうと思う。
その一方で、
「凄く良い曲を書いてくれた原曲作者に、なにがしかのお礼をしたい。対価を支払いたい。お金を払うだけの価値があった、と労をねぎらいたい」
という気持ちを駆り立ててくれるほどの曲というのは、確かにある。
これは、「10回再生したら11回目以降を再生するためには支払いによる解除が必要」とかいう制度を設けろという話ではなくて、そんなこととは関係なしに「褒めちぎりたい」という気持ちを表したい、ということなのだ。


これまでのところ、カラオケにするか着うたにする以外に、リスナーから料金を徴収する方法はない、とされてきた。カラオケと着うたはJASRACの管轄だということもあって、一連の問題が起きているとも言える。
カラオケはさておき、着うたについては一部機種では勝手着うたが作れる。*1
つまり、金を払う気がない人にとっての抜け道は最初からある。
カラオケにしようが着うたにしようが、払いたいと思う人しか払わないだろうなと思う。


私案としては、例えば楽曲ファイルをプログラムに準じるデータとしてVectorなどのような送金ができるシステムを持ったダウンロードサイトに登録してみるというのはどうか、と思う。高音質なMP3ファイルの形で、とか。
こうした方法で登録されたMP3ファイルは、もちろん誰かがどこかに勝手に転載してしまうだろうし、実質的な意味でダウンロードの対価という意味を100%持つかどうかは怪しい。
しかし、どこで誰にどのくらいさっ引かれるのかわからないJASRAC経由の着うた信託に比べれば、遥かに「原曲作者」への対価支払いの流れは明確だ。
1曲の価格をいくらにするか、というのも懸念のひとつかもしれない。


現在、着うたとして配信されている楽曲の多くは、1曲あたり105〜230円前後が多いように思う。確かドワンゴ配信の初音ミク系着うたは、auからのDLは200円台だった。
CDに置き換えると、2曲(+カラオケ)入りCDが600円くらい。4曲のマキシCDで1000円くらい。
iTunesで取り扱われている楽曲のDL購入価格も、一曲あたり200円。
やはり、1曲あたり200〜250円くらいという認識なんだろうか。
これで音楽出版社に半額、もう半額がJASRAC音楽出版社からいくらかわからん分配率で原曲作者に支払われているはずらしい。
複製ができない方式(CDは別)だから、取りっぱぐれは少ないだろうけど、でも原曲作者の取り分は果たしてどれほどなのか。


もし。
Vectorなどのような送金システムを、ピアプロかニコ動が持ったとする。
支払いはカード払いか、電子マネー。ニコ動ならモリタポでもいいのかもしれない。
そういう形で支払いをする仕組みがあるといいなと思う。
着うたやカラオケにはならないけど、原曲作者に限りなく「よい作品に対する評価・対価」を直接支払うことができる。
このシステムを構築する事業者が、そこから仲介手数料を取るというのは、シェアウェアの世界でも確立されている概念だ。それがJASRACである必然はない。
その方法であれば、事業者も単なる持ち出しではなくある程度の収益を上げつつ、原曲作者へのペイバックを支援する体制が作れるのではないか。
また、「いくら支払われたか(何人が評価し、対価を支払ったか)」をランキング化する形で、再生数とは別のランキング情報を開示してもいいかもしれない。


そうした方法で支払いをし、その対価としてもらえる高音質なMP3ファイルなり、公開されているものに、ちょっとオマケがついたスペシャルバージョンのファイルなり。
支払い(ダウンロード)の時点で、誰が何回どれだけ「買ったか」というデータを事業者側は蓄積していくことができるわけで、例えば「10作品分に対価を払った人には、何らかの特典資格を与える」というポイントカード制を導入する、ということもできるのではないか。MP3ファイルを手に入れることではなく、支払いを実際に行ったという実績がある人に、プラス特典を与える方法はいくらでも考えられる。
この方法論は、複製MP3を手に入れようとする人による損失をあまり念頭に置いていないんだけど、そういう人=WAREZを使う人は、結局のところどう転んでも「タダでどうにかする」という方に興味があるのであって、良いものに金銭で対価を、という発想を肯定的に捉えることは出来ないんじゃないかなあ、とも思う。だから支払い意思がない人はこの案では考慮しない。

実は、そこがJASRACを始めとする音楽著作権管理団体、音楽著作権者が気になるところだろうと思う。
この案に当てはめると、「MP3をダウンロードする際に送金をしてもらう仕組み」を作った場合に、「対価として得られるはずのMP3ファイルを無断複製・配布されると、本来得られるはずだった報酬が得られず、損失を被る。だから、無断複製させないようにするか、無断複製した人間から料金を徴収する」ということになる。
逆に、「そういう奴は料金徴収の対象として考えない。使用料・料金*2ではなく、作品への評価として支払い意思がある人が支払いを行うための送金方法としてのみ提示する」というのが、今次の案になる。


JASRAC的損失を損失として考えるなら、いろいろ無駄というか損の出やすいシステムということになるけれど、実は仮にそうやって無断複製されたとしても、原曲作者も送金システム事業者も、実際にはなんら損は出ていない。
損というのは、原材料費を含めた製作コストに対して、設定された売価では黒字化しない場合にでる差損のことを言うのだと思う。
ミクオリジナル系楽曲の作者が、最初から「儲けるつもりで寝食を削り、それだけで食っていくつもりで作品を作った」というなら、人件費や開発機材費なども作品の料金で賄っていくべきなんだろうけど、これらの楽曲は最初から金を取るつもりで作られたものではない。ある意味、趣味の範疇で作られ、人件費は無視されている。
そして、商品に相当する楽曲は、デジタルファイルの形でのみ存在している。
パッケージ、プレスしたディスクなどの媒体実体を持たないので、在庫が存在しない。プレスしすぎて余り、保管しておくための倉庫代がかさむこともなければ、それらを全国のCDショップに運ぶトラック配送代が必要なわけでもない。
つまり、管理コストがほぼゼロに近い。(強いて言えば、データを保存しておくHDDとサーバの管理費用くらいだろう)
売れなくて(送金がなくて)保存されたままになったとしても、MP3ファイル1曲あたりのサイズは4〜5MB程度。これはサーバの負担としては問題視しなくていい規模と言える。
つまり、売れれば売れただけ差益は出るが、売れないことによる差損はCDの在庫を抱えることに比べればさほど考える必要がないように思える。


ニコニコ動画のプレミアム会員の会費は、月額525円。
一曲200円で送金できるシステムを作ったとして、一人のユーザーが月間で3曲に送金したら、それだけでプレミアム会費1人分を越える金額を徴収できることになる(もちろん、そこから原曲作者に分配されるにしても)。
むしろ、そういうJASRACが噛まない料金徴収システム(送金システム)を、ユーザーのフェアユーズ&シェアユーズを満たす形で整備したほうが、事業者にとってもユーザーにとっても原曲作者にとってもプラスなんじゃないの? と思ったりはする。


この方式は、ニコ動ではなくてピアプロがやってもいいし、Vectorあたりのように「デジタルデータをDLすることと引き替えに、作者に送金する(作者への送金と配分を代行する)」というノウハウやシステムをすでに持っているところが名乗りを上げてもおもしろいかもしれない。カード決済のノウハウを持っているサイトなら、どこででも可能なはずだ。


そういうところがあったらねえ。
僕だったら、月間1000円ずつチャージして、1曲200円ずつ5曲、あるいは1曲100円ずつ10曲に投資」っていう使い方をするかも。
または、1曲いくらじゃなくて、1曲「いくら払ってもいい」にしてもおもしろいかも。そういう「支払者が価格を自由設定できるシェアウェア送金方法」というのはあまり見ない(これはカード決済会社がめんどくさいからだろうと思うけどw)。でも、「払ってもいいけど、俺だったら10円の価値しかない」「この曲は200円と言ってるけど、400円分の価値がある」「この作者の曲を5曲まとめて1200円でどうだろう」みたいな対価設定を、原曲作者ではなくて、楽曲を買う側が決めるっていうのもおもしろい。
それで、「現在の平均価格」っていうのをリアルタイムで出すのw

「みくみくにしてあげる♪――現在の価格230円(前日比+10円:作者希望価格105円:累積売上額2103090円)」
「voyakiloid――現在の価格90円(前日比−5円:作者希望価格210円:累積売上額319103円)」

※あくまで例えばですw

こんな感じで。再生数の順位、総売り上げとは別に、支払った人々は「いくらぐらいの価値があると思っているか」が出たりして、これはこれでニコ厨wあたりのワルノリ欲を刺激する要素にもなりうるし。


関わる人間誰もが得をし、原曲権利者が妬まれず、事業者にもプラスになることをユーザーも批判しない。そういうのが喜ばしい状態ってなことを、ニコニコ動画の取締役が言ってなかったっけ?

「ユーザーのボランティア精神にひっかかるようにする」--ニコニコ動画運営のコツ:インタビュー - CNET Japan
http://japan.cnet.com/interview/media/story/0,2000055959,20363442,00.htm



……というようなことを書いていたら、同じようなことを考えてる方がいた。

ニコニコ動画で見ている動画の作者に、直接お金を渡せるようにするGREASEMONKEYスクリプト(プレミアム会員限定) - 60坪書店日記
http://d.hatena.ne.jp/kongou_ae/20071220/1198146293

*1:ただし、auの新しい機種では、gp3はメール添付で携帯内に転送できても、着うた登録はできない。W43H、W53Hはダメでしたorz

*2:いずれも、対価の支払いを利用者に対する義務として課している考え方