クリプトン・ドワンゴ争議の理解

例によって凄く長いwけど覚え書きとして。


正式な契約書を作る前に並行して作業が進むというのは出版業界でもよくあることなんだけど、これまでにいっしょに仕事をした経験がある者同士ではない場合、条件の説明なんかはドラフトか、少なくとも記録に残る文書(せめてメール)でしないと大変なことになるよ、という他山の石として。

ドワンゴ側説明(1)
ニコニコニュース‐「みくみくにしてあげる♪【してやんよ】」JASRAC登録にいたる経緯 2007/12/19 20:44
http://blog.nicovideo.jp/niconews/2007/12/000733.html

 ↓

ドワンゴ側説明(2)
ニコニコニュース‐「みくみくにしてあげる♪」【してやんよ】JASRAC届出情報変更に関するお知らせ 2007/12/21 04:04
http://blog.nicovideo.jp/niconews/2007/12/000742.html

 ↓

クリプトン側からクリエイターへの謝罪文(1) 2007/12/21 01:29
着うた配信の経緯:メディアファージ事業部 ブログ
http://blog.crypton.co.jp/mp/2007/12/post_61.html

 ↓

ドワンゴ側からクリプトン側への反論(補足)(3) 2007/12/21 04:04
ニコニコニュース‐クリプトン社の謝罪に対するコメント
http://blog.nicovideo.jp/niconews/2007/12/000744.html

 ↓

クリプトン側からドワンゴ側への反論(2) 2007/12/21 11:49
着うた配信の経緯(2):メディアファージ事業部 ブログ
http://blog.crypton.co.jp/mp/2007/12/2_3.html

 ↓

ドワンゴ側からクリプトン側への反論(補足)(4) 2007/12/21 22:30
ニコニコニュース‐クリプトン社様からの着うた配信の経緯(2)に関して
http://blog.nicovideo.jp/niconews/2007/12/000751.html


※ここまで、2007/12/22 0:35現在までの経緯。伊藤社長が事態に気付いた2007/12/17〜19までは割愛。

※※[2007/12/27 10:10に確認]上記リンクのうち、ドワンゴ側反論は「この記事は水に流されました」の表示と共に、ニュースから削除されている。クリプトン側はこれまで通り開発ブログ上に残されている。Web魚拓取ってる人や全文引用してる人もいるだろうに、こういう形でのナイナイは却って証拠隠滅のような悪意で受け取られかねないかと思う。

※※※さらにクリプトン伊藤社長から返球があった模様。*1
http://blog.crypton.co.jp/mp/2007/12/2_3.html のコメント欄内へのポストなので、以下に引用。

こんばんは、クリプトン伊藤です。
先ほどドワンゴ社の意見の続編が出たので私の意見述べさせていただきたいのですが、新エントリに書くと目立つのと、だんだん反論するのに疲れてきましたので、このコメント欄にて手短に意見述べさせていただきます。

『1.「独占」に関する当社の見解』について
仲介業者担当者様が言うには、"最初は誰も配信してないので、30日くらいその状態が続くなら独占みたいなものですよね"的なやりとりはあったということ。とにかく全てが口頭のやりとりでドキュメントも無くいい加減です。

『3.「着うた無断配信」との主張に関する当社の見解』
何か勘違いされているようです。ドワンゴ社と仲介業者間にあるのは音楽出版権か何かの契約かと思います。しかし、「初音ミク」の名称、キャラクタを商用で用いるためには弊社からの事前の許諾契約が必要です。その許諾契約が済まないうちはキャラクタを使用してはいけないのに、事前の連絡もそこそこに唐突に配信をスタートさせ、その一方で未だクリエイター様との契約が済んでいないという弊社サイドの不手際を責めています。

先ほどもドワンゴ・ミュージックパブリッシング社の責任者と電話でお話しました。ブログで言い合っているにも関らず、案外電話でもやりとりしてます。いい加減もう泥仕合は止めて建設モードに入れるよう週末にでもまた電話してみたいと思ってます。


投稿者 itoh : 2007年12月22日 00:00


[重要]※2007年12月25日 11:33追記。

着うた配信及び今後の協業に関する共同コメント
http://blog.crypton.co.jp/mp/2007/12/post_63.html
http://blog.nicovideo.jp/niconews/2007/12/000756.html
クリプトン開発blogとニコニコニュースに、(ドワンゴDMPとの)「共同コメント」と称する声明が公開された。
要約すると、このエントリーでも懸念してきた幾つかの争点についての確認と明文化、共同声明による和解合意の宣言としてみてよいだろう。
内容についてはリンクをご覧いただくとして、これについての考察は別のエントリー(http://d.hatena.ne.jp/azuki-glg/20071225/1198552775)にて。


ここまでのところ、ドワンゴ側はTB/コメントなしのニコニコニュースで、クリプトン側はTB/コメントありの開発元ブログで、それぞれの声明を発表しあっている状況。
恐らく(ここは想像)ドワンゴ(DMP)担当者、クリプトン伊藤社長、フロンティアワークス(権利管理代行事業者)担当者、の間で、文書による取り交わしがない(担当者とは電話会談のみ?)まま、会談後の感想を速報しあってしまっているのが問題点ではないかと思われる。


また、両者とも論点(争点)が非常に不明確なため、状況はますます混迷の途を極めているような……。


この問題の争点はいくつかあって、

  1. 初音ミク」という名称を使用する上での許諾判断権はクリプトン側にある?
  2. 初音ミクというソフトウェアを使用して作られた楽曲の使用許諾判断権は誰にある?
  3. 慣例に基づく手続きは是?非?
  4. 手続き(契約と実務の遂行)の煩雑さはなぜ起きた?

(1)について。
初音ミクはギターやピアノのような楽器と同様であるけれど、ギターやピアノに萌えはない。つまり、名前+付加設定に付加価値が発生している時点で、通常の楽器と同列に扱うことができない、という判断。それを考えれば、「初音ミクという名称の使用許諾判断の権利は、当然クリプトンにあると思う。
そうなれば、初音ミクという名称の使用許諾ドワンゴがクリプトンに求め、クリプトンがそれの許認可を行った、というのは問題(いずれかの非)であるとは思えない。どうもドワンゴの担当者は、この点(名称に対するクリプトンの許認可)と楽曲そのものの許認可を混同しているように見えてしまう。実際には違うのかもしれないけど、あの書き方じゃそう見える←ここ重要


(2)について。
これは当然ながら、「楽曲(作詞作曲編曲されたもの)の制作者」にあるのであって、その点に関する許認可権はクリプトンにはない。例えば、カラオケになる場合、当然ながら初音ミクの声はメロディから外れるわけで、曲としての評価を受けるのは初音ミクの歌声ではなく制作者自身が作った楽曲そのものとなる。その成果物のペイバックを受けるのも当然制作者だ。
クリプトン伊藤社長が「クリプトンがJASRACに申請する=クリプトンがそれらの楽曲の権利について管理する(制作者の権利を代行する)ことはない」としているのはそこだと思う。クリプトンはDTMのための仮想楽器を開発販売してきた会社であるわけで、「うちのソフトを使って作ったら、その曲はうちのもの」というようなジャイアニズムを主張していたら、そもそもそういった仮想楽器ソフトウェアが発展するはずがないことは承知しているはずだ。
ただ、そういった「アマチュア楽曲制作者が、わけもわからないままJASRACなどに登録されてしまう」という状況に対して、「出口」を用意する必要も考えなければならないのではないかという表明をしている。これは、入り口としてのニコ動に替わるピアプロを発表したのと同様に、出口としてのDMPに替わる何かをクリプトンが用意する、つまりニコニコ動画ドワンゴの商売敵になる意思がある、とドワンゴ側担当者は受け取ったのではないか、という気もする。


(3)について。
冒頭にも述べたように、僕のいる出版業界でもこうした「慣例による手続きの省略と実務の並行」というのはわりとよくある。これは会社によって様々で、「作業発注書」を最初に書かないと打ち合わせにも入らないという会社もあれば、編集者と著者(ライター)間の口約束で話が進み、本が出てから契約書が届くというところもある。契約書が最後まで来ないところもあるw 支払い期日は聞けば教えてくれるところもあれば、「○○○締め、○○○払いです」と口頭或いはメールで知らせてくれるところもある。事前にいくらもらえるかというのは聞かない(というか決まらない)という慣例もある。これは文庫などでは発売直前くらいまで発行部数が決まらない場合も多く、定価確定+発行部数確定でようやく印税の総額が見えてくるためだ。明冶時代からそうらしい(^^;) この慣例が書籍以外の例えば雑誌記事なんかでも当てはめられているケースは、老舗ではよくあることだ。
ただ、これは関東の常識の場合で、関西では「で、いくらもらえまんの?」と仕事の前に聞いてしまうのが非礼に当たらないケースもあるらしい。もちろん関東の会社でも「予算としてはこのくらいになります」という提示があって、ドラフトを作成、印鑑証明を取ったハンコを押して同意を確認した上で契約書を、というところもある*2

これら出版業界の「手続きの省略と実務の並行」の慣行の理由は、たぶん「発売日は不動である」という前提から来ているのだと思う。発売日の遅延に対して多少融通の利く単行本では「発売延期になりました」という話もしばしば聞く*3
ところが、発売日厳守が定められている雑誌*4、同じく流通についてPOS管理しているために非常な厳格さが要求されるコンビニ文庫などでは、発売日の遅延はまず許されない*5
このため、仕事の話が決まったらだいたいまず発売日、校了日、原稿締め切り日……とスケジュールを逆算していって、作業日程が決まる。また、前述のように「頒布単価がいくらぐらいか」「何部くらい刷る予定か」で、だいたいの予算(原稿料)がわかってしまう。この「何部するか」は案外動いたりはするのだが、「これ以下の部数になると足が出てしまうので企画そのものが流れる」という製作コストの下限値もあるため、大きく予想値を下回ることはない。
出版の場合、紙代、印刷代、流通*6、出版社の取り分、著者の取り分*7など、制作コストと配分比率といくらぐらいの収益が上がるのかが、だいたい全部見えてしまう。結構透明性が高いとも言える。

音楽業界の場合も、従来の「レコードをプレス」「CDをプレス」という、書籍で言うところの紙束としての実体が主流だった頃は、そうした製作原価と流通費用なんかも単価に上乗せされてきたと思う。また、初回プレス枚数が決まらないと、支払予想額が見えてこないというのも出版に似ているのかもしれない*8
また、楽曲の販売については、本来は「発売日の厳守」はなかったんじゃないかな、という気もする。出版で言う不定期刊単発単行本のようなもので、例えば雑誌などのように、「定例の発売日に絶対に発売しないといけない」という性格のものではなかったはずだ。雑誌などは、情報誌など定期刊行の必要があるものや、そうした定期刊行を裏付けたものに許諾される雑誌コードなどの関係もあって発売日厳守が前提になっているが、これは印刷*9・流通などへの予約*10を確実に守らないと、いろいろ問題が起きてくる。


しかし、近年の楽曲販売もまた「事前の宣伝、発売日の予告、それに合わせた発売イベント」などが密に連動する形になってきている。このため、雑誌やコンビニ文庫とさほど替わらない「〆切」に作詞作曲編曲者が追われるという状況が出現してきているのではないか。
「いいものができたから売ってくれ」というスタイルはある意味すでに業界では滅びていて、「いついつまでに売らないとならないから、確実にその日までに上げてくれ」というスケジュール先行になっているが故の、「契約は実務と並行して、後回し」という慣例ができたのではないかと思う。

出版(例えば明冶時代の新聞など)に限らず、江戸時代の小屋がけしていた狂言・芝居の類でもこうした「発表日は決まっている」という仕事スタイルはあったようで、また音楽の世界でも自然発生的に音楽が流行った時代を終えて、音楽が商品として認識され始めた明治の辻演歌師の時代には、今ほど厳密ではなかったにせよ「とにかく〆切までに曲を考えなくちゃ」的な苦悩はあったらしい*11

商業主義の浸透と厳密化は、締め切り日(発売日)だけが先行して作業は口約束、契約は後回しという日本流の慣行を形作る一端ともなっているのかもしれない。

こうした「発売日が決まってるから、手続きは後でもいい」という商習慣は確かに出版業界にはあるし、似た形質を持つ音楽業界にあるだろうことも想像に難くない。
出版界などでは話が決まるまでが長くて、決まってから*12は矢のように早いが、発売日の厳守が必ずしも優先ではない業界や、開発期日が長期に渡る業界、繰り返し協業関係にあって実績による信頼が築けている関係ではない間柄の相手に対しては、文書による契約書による信用と安心を与えてから実務を始める(つまり、契約が成立するまでは実務を始めない)ほうが安全だし、トラブルも少ないはずだ。

今回の慣例について言えば、ドワンゴDMP側はそうした「発売日(配信開始日)は決まっているから、それに合わせて作業は先に進行してしまい、契約は後でもいい」という認識だったことが、そのコメントからもありありとわかる。クリプトン伊藤社長が言う「我々の知らない慣例」という商慣習への戸惑いも理解できる。


(4)について。
クリプトン側が代理事業者を入れたのは、クリプトンの本来の業務はソフトウェアの開発・販売であり、音楽/キャラクターの版権管理についてのノウハウがなかったため、となっている。オファーが来て受け答えしてみたら、煩雑すぎて手に負えない(本業に支障が出る)ので、アニメイト系列のキャラクター版権管理経験がある会社(フロンティアワークス)にアウトソージングでの代行を頼んだというのは、クリプトン側の事情から理解できる。
この時点で、クリプトン側は(1)の「初音ミクという名称のキャラクターに対する版権」として認識していたのではないか、と思う。ところが、楽曲管理にまで話が及び、音楽版権管理に関する話にまで広がってしまった(おそらくは、口頭で)。開発会社であるクリプトンには元々そういう専門の社員もいなかっただろうことは、一連の問題で常に伊藤社長という会社トップが対応の窓口になっていることからもわかる。
そこで、フロンティアワークスに代行を一任したのだろう*13

初音ミクという名称とキャラクターの版権について
ドワンゴDMP ←フロンティアワークス ←クリプトン

まず、この図式はクリプトンの理解によるなら「初音ミクという名称(のキャラクター)の許諾についての流れかと思われる。初音ミクというキャラクターをJASRACに登録することは同意していない、またフロンティアワークスアニメイト系つまり「アニメ・イラストなどのキャラクター管理」系の会社であろうことから推測すると、クリプトン側が許認可の範疇として諒解しようとしていたのは、あくまで初音ミクという名称の使用についてであって、JASRAC登録によって、自社キャラクターの展開をクリプトン自身が自由に行えなくなる可能性を排除するため、JASRAC登録(信任=財産管理権の移譲)に抵抗したのではないか。
楽曲に対する許認可はクリプトンの権利の範疇外であるという点も、クリプトン伊藤社長は明言している(楽曲は楽曲作者の判断するもの)。

初音ミクでの演奏を前提に作られた楽曲の版権について
JASRAC ←ドワンゴDMP ←楽曲作者

こちらについてはドワンゴDMPが楽曲作者と直接交渉しているわけで、ここにクリプトンは関わっていないし、関わる権利もない。(「初音ミク」という単独名称の使用についてのみ許認可権を持つ)
ドワンゴDMPは商慣習によって楽曲作者との契約が成立する前にJASRACへの登録を進めてしまったわけだが、JASRACにどこまでの財産管理権の移譲をしたのかについて、明確な取り決めをしないまま、楽曲の配信開始とJASRACへの登録完了が、当事者に直接通知されないまま明るみに出てしまった。
ここでの問題点はクリプトンは一切無関係で、

  • 契約未成立段階での配信開始(商慣習についての説明不足)
  • 契約未成立段階でのJASRAC登録(登録に関する諸条件の説明・周知不足)
  • 作者へのフォローアップの不足
  • 将来作者になる可能性がある潜在ユーザーへのフォローアップの不足(告知・周知の不足)

など、ドワンゴDMP担当者の不手際が大きい。
商慣習については業界内にいれば常識でも、業界外(ましてや今次の楽曲制作者はいずれもアマチュア、中には未成年もいるだろう。未成年との契約は親権者の承諾もいるのでは?)に対する説明が不十分だった点は責められざるをえない。
また、JASRAC登録についてはメリット・デメリットの十分な説明が足りなかったのではないか。特に、「そうした経緯で進んでいる」ということについて、作者側へのフォローアップ並びに作者(当事者)以外への進渉報告はされるべきではなかったか。


この「当事者以外への進渉報告」については音楽業界並びに出版業界にもそんな前例はなかっただろうと思うし、定着は難しいかもしれない。
ただ、この事例は「今後、リスナー・ユーザー・視聴者・読者という消費者群の中から、潜在的な次のクリエイター/楽曲制作者が出る可能性がある」ということを考えれば、非常に下手を打っていると思う。
今次の数人の作者だけが才能を持ち、今後も彼らだけがヒットを飛ばし続けるということであれば、彼らだけを囲い込めば済んだかもしれない。
が、「不特定の匿名のアマチュア」の中から才能が芽吹いた、というのが今次のヒット作の発掘に繋がっているわけで、今回の不手際は潜在的な将来の楽曲提供者に疑惑や不信感を植え付けることに繋がりかねない。というか繋がってる。
今後、「もっといい条件」を提示するところがあれば、楽曲提供者はそちらに流れてしまう可能性もあるわけで、ニワンゴの杉本取締役の言う「ユーザーのボランティア精神に引っ掛かる(http://japan.cnet.com/interview/media/story/0,2000055959,20363442,00.htm )」というニコニコ動画の源泉部分を大きく挫くことにも繋がりかねない。ここはニワンゴ企業として危惧すべき点だろう。


んじゃあ、自分だったらどうする?
ということを問われると悩ましいけど、「商慣習が異なる可能性がある人には、極力文書・文面での説明を心がけ、それらは可能な限り誰にでも見られる場所に残す*14ようにしておく、というのをこれまで以上に徹底していく必要があるかもしれない。
他山の石とし看過しないよう気を付けないとなー、という反省と自戒のために、一応覚え書き。


なお、事態は今も進行中であり非常に流動的なので、ここに書いた内容が一夜にして陳腐化する可能性は大きい。
現状、ドワンゴ・クリプトンのいずれに軍配を上げるといった評価判断はできないし、どっちも少しもちつけ、と言いたくもなるのだが(^^;)、発言責任者の実名を明かして発言しているクリプトン伊藤社長と、あくまで「ドワンゴとして」という立場で発言責任者(つまり、対応窓口となった実務当事者)を明かさないままに反論しているドワンゴ側(sらに言うとドワンゴ側は炎上の可能性を危惧して、TB/コメントのできないニコニュースに掲載、クリプトン側は炎上の可能性も覚悟してかTB/コメントのできる開発元ブログに掲載。リスクはもちろんクリプトン側のほうが大きいのだが(でも工作したらIPでばれちゃうので亞北ネル発生の可能性は低いでしょうw)、発言の信用性(発言責任者の責任担保)という点で言えば、クリプトン伊藤社長のほうを応援したくなる気持ちもなくはない。
「顔の見えない攻撃」というのは2ちゃんねるニコニコ動画なんかでは横行していることだけど、こと契約や信用を商する企業がそれやっちゃうのはいかがなものか。


いずれにせよ、この勝敗はこの先、「弁護士」と「契約書」の水面下の法務戦になるのではないかとは思う。
ただ、方向性としてドワンゴはクリプトンを切り捨てたいのか手打ちにして提携したいのかが、よくわからない。
クリプトンは自社でピアプロなど、ニコ動と競合する動きを持っているわけで、ニワンゴドワンゴ)的には初音ミク関連作品はこれまで通りニコニコ動画に集中投下されるほうが(真っ白なコンテンツという意味では)嬉しいはずだ。
そうなると、クリプトンと提携関係を結ぶか、クリプトンのピアプロはコケてくれたほうが都合がいい。
が、JASRAC登録など業界的にはクリプトンの対応は嬉しくない。
クリプトンを厭うか、手を組むか。


そのドワンゴ側判断を、いったい誰がやっているのかというのが気になる。
例の「担当交渉者」が直接ニコニコニュースの文面を書いているのだとすると、クリプトンとどうなりたいのかの判断は、その交渉担当者に一任されているということだろうか。ドワンゴの2007/11/26付けのリリース(http://info.dwango.co.jp/pdf/news/service/2007/071126.pdf )を見ると、着うた扱い担当者名に「佐藤、中澤」、宣伝に「内海、寺田、森」の5者の名前が見える。誰がどこまでを担当しているかは不明だが、いずれかがあくまで「着うたの管理と進行」という点でのみ動いているのか。


わからんけど、少なくとも彼らは「未知の潜在作者の発掘と獲得」という視点は抜け落ちているようには見える。
ニコニコ動画CGMの成功例だと思うんだけど、そこに連なる運営スタッフに、「オーディエンスを味方に付けるという発想」が抜け落ちているのはどうなんでしょう。
ねえ。



水面下での法務戦で何らかの手打ちが行われるだろうとは思っている。

まさか、完全に物別れに終わって以後、ドワンゴ初音ミク関連を商品として扱えなくなるのか、初音ミクニコニコ動画から締め出す(それは愚だ)のか、というような展開は、両社にとって利益にならないし、初音ミクを巡るユーザーにとっても楽曲制作者への利益還元の上でもプラスにならない。
が、ニコニコ動画での過去の例(例えば「エアーマンが倒せない」とか)でもそうなんだけど、やり方によってはオーディエンスの失望と嫉妬が、ムーブメントに冷や水をかけてしまう恐れがあるし、今そうなりつつもある。
担当者同士がブログで争議っていうのは、商業的には「いい大人がいかがなものか」的な見られ方をする*15一方、すべてを水面下で終わらせ、密約を公開しない状態で手打ちに至ったら、たぶん事態はもっと悪化する可能性が残る。

というのは、繰り返すけれどニコニコ動画CGMを行うための器の成功例であり、初音ミクというのはそれを満たすプレーンなコンテンツとしての成功例である。その点において、両社は相互補完関係にあると言っていい。
が、CGMというのは積極的なオーディエンスの存在を無視・軽視しては成り立たない。今回で言えば、楽曲作者はクリエイターであると同時にそのオーディエンスの出身者でもあるわけで、出身母体である不特定匿名のオーディエンス群の支持を失い、ひたすら嫉妬で叩かれるような立場に突き出されることを望んではいない。そこまで精神的に疲労するくらいなら、商利用したくないしされたくない、という意向に流れる作者も少なからずいるだろう(すでに、そういう態度表明をしている作者もいる)。
そうなってしまっては、クリプトンはともかくドワンゴDMPにとっての商機は失われてしまうことになるわけで、この状況下で潜在的作者の潜んでいる、そして突出した作者への支持(と、嫉妬)を抱えるオーディエンスをCGMにおける能動的な味方に付けるためには、状況・経緯の透明化、決着に至る経緯の説明、今後の手続きの透明化などが、一層求められることになるのではないか。ドワンゴDMPに。

JASRACに対する警戒心というのは、「権利剥奪者」としての一面が広く知られているためでもあるわけで、そこを解消するのか、メリット部分の説明を行うのか、諦めて折れてくれと説得するのか*16、そのあたりの説明責任は「楽器とキャラクター版権の提供者」であるクリプトンではなくて、楽曲の商利用による作者への利益配分に正当性を掲げるドワンゴDMP/ニワンゴが説明責任を果たさなければ、CGMオーディエンスは納得しないのではないか、と思うんだがどうなんでしょう。そこんとこ。

仮に水面下の密約の結果(経緯)が説明されなかった場合、クリプトンにも疑惑と失望が向かうことになるわけなのだが、クリプトン伊藤社長は、ドワンゴの説明がなければ自社説明を再びやってくれる気がするw そうなったとき「我々の理解と違う!」とドワンゴDMPが再反論争議再燃をさせないようにするためには、共同声明・共同説明を出させるか、明確な契約の仕切り直しをするしかない。


すべてが透明化するのは難しいんだろうけど、ユーザーの自発性に期待をかける信用商売をするからには、そうした透明性を担保していかないと信頼を得にくいのは確か。
ニコニコ動画の職人というのはその点で大多数は枯れ木も山の賑わい的ではあるけど、ときどき黄金の林檎を付けてるのもいたりするところがあるわけで、そうした黄金の林檎が生まれる可能性のある枯れ木から、林檎もいで終わりじゃなくて、黄金の林檎の木が枯れずにさらに増えるようにしていく努力は必要なんじゃないかいな。




[2007/12/25追記]
既報http://blog.crypton.co.jp/mp/2007/12/post_63.htmlにあるように、このエントリーで挙げた指摘についてはかなりの解決を見たようだ。
その意味で、このエントリーは予告通り陳腐化したとも言える(いい意味で)が、そこに至るまでの考察、懸念、提言の記録としてこのまま残しておく。

*1:気付いたのは2007/12/05:55。

*2:し、本が出てから「悪いけどお金ないから半額にしてくれる?」とか言われて大喧嘩になったところもあるwのだが、そんなのは希有な例。

*3:最近では拙書・忌火起草がそうでしたorz

*4:遅延がひどかったり出なかったりしたら雑誌コードが取り上げられたり広告主や印刷所や取り次ぎからペナルティを受けたり。

*5:遅延すると干されてしまう。

*6:トラックの予約や倉庫の予約、それに取り次ぎ会社の取り分

*7:これはだいたい10%前後となっているのだが、イラストが占める割合が大きかったり、原典があってロイヤリティ支払いが発生する場合は、5〜6%くらいになったりもする。

*8:僕は音楽業界は疎いので、類似点から想像で言ってますけど、基本は音楽は門外漢なので詳しい人がいたらそちらに準じます。

*9:印刷機、オペレーターは、事前のスケジュールによって作業期間が予約されている。原稿が遅れると予約が違約になってしまうのでペナルティが発生する場合がある。

*10:これも、倉庫や配送トラックのスケジュールは事前予約になるわけで、予定通りにいかないと押さえたトラックが無駄になるなど予約が違約になってペナルティ発生=コスト高になる。

*11:添田唖蝉坊の生涯を記した、唖蝉坊の実子・添田さつきによる記録などを読むと、しばしばそういう〆切間際の狂乱の話が出てくるw

*12:発売日が確定してから

*13:このへんは双方の発表しているコメントが事実であるという前提からの推測で。

*14:または、3人以上が同じ文面を共有し、有事に相互検証ができる

*15:実際、もっと頭冷やせとは思うw

*16:これは最も愚策