原盤権の話

新たに持ち上がった原盤権の話。
これも触れたいんだけど、さすがに仕事がちょっと。
いや、クリスマスは全然関係なくて平常運転中なんだけど。


手短に、後で書くための覚え書きのみ。

ドワンゴDMPからの要請で「とりあえずマスターWAVファイルください」
 ↓
作者、マスターWAVファイルをドワンゴDMPに提供
 ↓
ドワンゴDMP、マスターWAVファイルを「原盤」としてJASRACに登録。
この時点で、曲の原盤権(オリジナルを主張する権利)が作者からWAVファイルを登録したドワンゴDMPに移る。
 ↓
以後、作者は自分の曲の改変、配信・配布の決定権その他一切の権利がなくなる(原盤としてドワンゴDMPが登録したマスターWAVを所有するドワンゴDMPが権利を持つ)。

つまりこれは、12/7のエントリー「夫婦喧嘩のネタが初音ミクhttp://d.hatena.ne.jp/azuki-glg/20071206/1196920989 」で奇しくも指摘した、

デジタルデータをただコピーしたものを、「自分の作だ」と言い張ったら、それはもはや真似ではなく「権利と評価の窃盗」になってしまうが〜

という部分がモロ的中の可能性がある。
作者が提供に同意したマスターWAVを原盤として登録したドワンゴDMPは、作者の権利と評価を騙し取ったと見られる。
もちろん、「口約束も契約として成立する」という民事判例をタテに、マスターWAVの提供を「正当な権利譲渡」と主張するだろうけど、これはこれまでも危惧しているように、今後、ヒット楽曲を生み出す可能性がある将来の潜在的楽曲作者に、楽曲提供を慎重にさせることに繋がるんじゃないかと思う。


そうなった場合、以下の可能性が考えられる。

ありそうな展開

  • 作者に対して、音楽業界の商慣習でデータ提供を迫る(従来通り)。
  • ニコニコ動画に投稿された動画の著作権は、ニワンゴ(=ドワンゴDMP)の所有物、と判断。作者の合意を得ずに劣化データをそのまま原盤登録。

なさそうな展開

  • 作者に対して、条件交渉をオープンで行う
  • 作者主張の条件を呑んで、JASRAC登録せずに着うた配信を公開契約書*1にて確約

ともあれ、このへん、現状未解決のまま強行するとすでに指摘の出ている「クリプトン及びYAMAHAの許諾」を無視して大事になる可能性があるが、クリプトンはともかくYAMAHAは口説ける自信があるのかもしれない。リベートなどの契約内容設定で。
逆にクリプトンは伊藤社長が(ドワンゴDMPから見て)ユーザー側に立ちすぎる難物と映っているだろうなと思うのでw、「YAMAHAの諒解さえ取れればクリプトンが何を言おうと無視する」というクリプトン外しに動く可能性はあるんじゃないかなと疑っている。これまで露出したドワンゴDMP側の公式声明の論調などから、そういう態度を取るんじゃないかという、プロファイリング的推測に基づく「妄想」でしかないことは断っておくけど。印象ってあるからね(^^;)




とりあえず、お急ぎの方は以下を。

【作者様要確認】初音ミク 新規問題【原盤権について】
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1846665


この動画の最後のところ、文字が小さくて非常に読みにくいんだけど、要約するとだいたいこんなことが書かれている。

初音ミクは、生まれる前から望まれなかった。
声アテする声優には拒否され続けた。
権威あるDTM専門誌には邪道であるとして掲載拒否された。
生まれ落ち、多くの楽曲作者やリスナーの支持を受けたが、同時期に同様のバーチャルアイドルセカンドライフで売りだそうとして大ゴケした電通の嫌がらせ*2を受けた。
TBSからは「ふーん、ご立派ですね。ヲタクのおもちゃですか」と鼻であしらわれた。*3
GoogleYahoo!では画像検索してもまったく現れないという、画像村八分を受けた。*4
ドワンゴDMPによってJASRACに「初音ミク」の名前が登録されかけた。
さらにドワンゴDMPは初音ミク系曲の原盤権を略取しようとしつつある。

ここには書かれていないけど、「歌うロボット」の登場は、人間の歌手の仕事を奪うのではないか、という歌手側からの警戒感もあった、らしい。僕んちでも夫婦喧嘩のネタwになりかけたように、リスナー側にだって「プログラムの歌声なんか」という意識はまだまだ根強い。




まったく悲惨だ。
初音ミクはしばしば擬人化されるけれど、まったくもって悲惨だ。
ふとデトロイトを思い出した。
産業用ロボットはアメリカで発明されたが、デトロイトなどの自動車工場への導入は「人間の職を奪う」という労働組合の反対もあって、なかなか実現しなかった。
日本では、試験的に導入された産業用ロボットに「百恵ちゃん」「順子ちゃん」などのシールと愛称*5が与えられ、それは瞬く間に、「タフな同僚」として普及した。


初音ミクが恐らく幸せであろうことは、日本に生まれ落ちたこと。
自らの意思でものを言うことはない人形である「初音ミク」の心を汲み取ろうとする、そういう気質を持った不特定多数のユーザーがいてこそ、この歌う人形は命を得た。
彼女と逆境を共にし、その逆境を代弁し慰めようとする。そういうユーザーがいた。

傑作はむしろ逆境があるからこそ育まれるんじゃないかなー、とか思う僕としては、生まれたときからこの逆境だらけの状況こそが、初音ミクにとっての傑作名作の母胎ではないかとさえ思えてくる。




PS.
そういや、mixiピアプロとzoomeにはアカウント持ってたけど、はつねぎは未登録だったんで、取ってみました。
つってもこのblogへのリンク置いただけなんだけど(^^;)



※2007/12/25の共同声明で、ここで挙げた原盤権の話も解決を見たらしい。その意味でこのエントリーも陳腐化した(いい意味で)けど、一応これも記録としてこのまま残しておく。

*1:そんな言葉も定義も前例もないので、まああり得ないけどw

*2:事実かどうかは不明の陰謀論

*3:TBS系「アッコにおまかせ」での1コーナー。でも、これはあんまりだった。

*4:これも電通陰謀論がある一方、純粋に技術的問題だったという説明もあった。

*5:ここには多分に擬人化された思い入れもあったようだ。