鏡音リン・レンの登場とVocaloid俳優制の兆し
そういえば今日は鏡音リン・レンのリリース日。
今日を境に初音ミクが一斉に消え……ということはもちろんないんだろうけど、これからしばらくは鏡音リン・レン系の曲ラッシュが続くんだろなと思われる。
すでに(;´Д`)ハァハァしている方々は、
などを繰り出してくるに違いないと思っている。
初音ミクで作っておいたデータをリン・レンに移植して、そちらで調整……というような作り方をしてる人もいるだろうし、新曲が出てくるのは案外早いんじゃないだろか。
と思ってたら、本日6:00〜12:00予定だったニコニコ動画のメンテナンスが、12:00から15:00、15:00から18:00へ延長。12時間メンテは久々かも。
メンテ終わってみたら(RC3)になってたりして。
ところで、Vocaloidというのはあくまでサンプリング音声データで歌唱させるプログラム、或いは「仮想楽器」というのがクリプトンの公式見解。それとは別にユーザーがそれぞれに作り出している「設定」によって、それぞれの歌の中でいろいろなキャスティングというか役割を与えられている。
広く見られるものとしては、「兄妹」。
KAITO&MEIKOがそれぞれ兄と姉で、初音ミクが妹。鏡音リン・レンはさらにその下の末妹と弟。5人兄妹。大家族。組曲『焼売』なんかはこの流れに乗っている。
SweetAnnなんかをコーラスに使う人が結構増えてきたけど、Annはこの兄妹設定にはあまり絡んでこない。
他に、「親子」というのがある。
これは、KAITOがパパでMEIKOがママで、初音ミクが娘というパターン。今後はリン&レンも含めた大家族展開もあるかも。
親子には別のバリエーションがあって、ユーザーをパパ、初音ミクを娘とするパターン。
これが、KAITOやMEIKOの場合はユーザーは「マスター」という認識になるものが多いようだ。この流れだと初音ミクだとマスターじゃなくて「プロデューサー」になる。
もちろん、そうしたVocaloid間の擬似的な人間関係を考慮しないキャスティングもある。護法少女ソワカちゃんなんかは、動画こそ初音ミクらしきキャラクターが登場するが、本編中に初音ミクという名前は一切出てこない。
昔、手塚治虫の漫画スタイルを「漫画俳優制」と呼んでいるのをどこかで読んだ覚えがある。そのとき、なるほどー、と感心した。
それ以前の漫画というのは、登場人物の書き分けがほとんどできていないか、そうでなければ作品毎にまったく別の登場人物が書かれていたし、そうした違うキャラクターを描き分けるのも結構大変だったんじゃないかと思う。
手塚治虫の漫画は例えばヒゲオヤジ(伴俊作)やロック、トーチランプなどのように、別の配役を演じる同じ顔のキャラクターが多く出てくる。ブラックジャックは元々「手塚作品の人気キャラクターを総登場させる」というコンセプトの記念碑的シリーズだったそうなので、既存手塚漫画の登場人物が客演するのは当然といえば当然の流れだったのかもしれないが、端役をよくよく見ていくと『またおまえか』的に何度も登場するエキストラキャラも少なくなかった。
初音ミクに限らず、多くのVocaloidは、原曲作者の作った曲の持つストーリーに合わせて、いろいろな設定の登場人物を演じさせられている。
この辺り、「仮想歌手」であると同時に「仮想俳優」という形質も持っているように思う。
もちろん、演技がうまくできるほど会話発音がうまくできている例はまだまだ少ない。だが、芝居/ミュージカルっぽい流れで演技を組み立てている物語性のある連作シリーズを見ていると、Vocaloidが俳優に見えてくる。このあたり、人間の脳内補完力ってすげえなあ、と思うw
初音ミクやその他のVocaloid自身の設定を使った芝居というのは、一連のVocaloid関連曲では一般的な手法だと思うが、これは「木村拓哉の芝居」的だなと思う。キムタクは魅力的だが、何をやってもキムタクになってしまうという側面がある。役作りをしてその役をモノにするという俳優に対して、キムタクは「その配役の個性をキムタクにしてしまう」というか、キムタクの個性をその配役に貼り付ける、というスタイルが多い。つまり、キムタク的でない配役は、キムタクには向かない*1という感じ。
現状の、「それぞれのVocaloidの個性(設定)を詰めていき、その個性に見合うストーリーを付ける」というキャラクターソングの方向は、この「キムタクが演じる役はみんなキムタク」なのと同じようなもんで、もちろん今後も続くだろうとは思う。
その一方で、「初音ミク(或いはその他のVocaloid)という俳優に、初音ミク以外の役を演じさせる」というスタイルのものが増えてきたら、それはそれで面白くなってくるんじゃないかとも思う。
- 護法少女ソワカちゃんOP http://www.nicovideo.jp/watch/sm1235394
- 護法少女ソワカちゃん第03話挿入歌 哀しみ行脚日本海 http://www.nicovideo.jp/watch/sm1381807
- 護法少女ソワカちゃん第04話挿入歌 LOVE or DYE http://www.nicovideo.jp/watch/sm1618266
- 護法少女ソワカちゃん第05話挿入歌 夢の曼珠沙華 http://www.nicovideo.jp/watch/sm1565102
- 護法少女ソワカちゃん第06話挿入歌 虚空蔵からのメッセージ http://www.nicovideo.jp/watch/sm1452171
- 護法少女ソワカちゃん第07話挿入歌 あの菩提樹の下へ http://www.nicovideo.jp/watch/sm1366726
- 護法少女ソワカちゃん第08話挿入歌 やがて業火に包まれん http://www.nicovideo.jp/watch/sm1510720
- 護法少女ソワカちゃん第11話挿入歌 修羅礼賛 http://www.nicovideo.jp/watch/sm1705674
- 護法少女ソワカちゃん メリークリスマス in お寺 http://www.nicovideo.jp/watch/sm1760113
- 護法少女ソワカちゃんED 極楽に行きたいのなら http://www.nicovideo.jp/watch/sm1283174
架空のアニメのOP/ED、各話挿入歌というスタイルを採るシリーズ*2だが、ヒロインの造作は初音ミクっぽいものの、作中でのヒロイン名は「ソワカちゃん」であって初音ミクは俳優に徹している、と言える。
- 私だってVocaloid http://www.nicovideo.jp/watch/sm1278126
- 3秒ルール http://www.nicovideo.jp/watch/sm1395817
- おもいよどいてよ http://www.nicovideo.jp/watch/sm1494804
- カイトとミクと扉の向こう様 http://www.nicovideo.jp/watch/sm1677660
- 一人 http://www.nicovideo.jp/watch/sm1790845
MEIKOを主人公としつつ、掛け合いやミュージカルめいた芝居をさせているシリーズ。これはKAITO=兄、MEIKO=姉、初音ミク=妹という定番の人間関係設定を再現するコメディドラマシリーズだが、その流れの中では最高峰。
初音ミクに歌わせつつも「初音ミク自身ではない」とされている亞北ネルや弱音ハクなども、この「Vocaloid俳優制」の一端を成している、と見ることもできるかもしれない。
「沢尻エリカ」と「ERIKA」の関係とか、「ともさかりえ」と「さかともえり」とか、「川瀬智子」の「Tommy february6」と「Tommy heavenly6」とか、みんな了解してるけど別キャラクター(別の役)として扱う、みたいな。
今のところ、「中身は初音ミクだけど、建前としては別キャラクター(別の役)」というのは亞北ネルと弱音ハク*4あたりが筆頭だが、他にもまだ開花していない派生系キャラクターは生まれつつある。
それらを「別キャラクター」と見ずに、「初音ミクが演じている別の配役」という見方をしていくと、KAITOやMEIKOや鏡音リン・レンからもそうした別配役のキャラクターが生まれてくるんじゃないかなと思う。
うる星やつらやクッキングパパ、美味しんぼなんかがそうだったけど、登場人物が増えるとそれだけで「誰と誰を組み合わせるか」というカップリングのバリエーションが増え、ストーリーメイキングの幅は俄然広がってくる。
「初音ミクのキャラクターはすでに飽和状態で、鏡音リン・レンが出てきたらみんなそっちに乗り換えて、ミクは衰退していく」
という懸念観測をしている人も多いかもしれないが、KAITOやMEIKOが初音ミクの登場によって名バイプレイヤーとして再脚光を浴び、それぞれの立ち位置を獲得したように、鏡音リン・レンの登場はVocaloidファミリーの中での初音ミクの立ち位置に多少の変化を加えることはあっても、それが衰退するということはないように思う。
ファミリーがどかすか増えていくことによる設定の広がり+配役の増加によって、ますます楽曲作者の「歌詞のネタ」は増えていくんじゃないだろうか。