クリプトン社による削除声明

一連のデP曲削除について、クリプトン社から声明。

公序良俗に反する歌詞を含む楽曲について - ピアプロ開発者ブログ
http://blog.piapro.jp/2008/01/post-15.html

  • 規約上、18禁曲は公開・配布禁止している
  • Vocaloidのキャラクターのイメージを損なうものは認められない
  • エロティック/バイオレンス/グロテスクなものが対象
  • ユーザーからの通報があった
  • 黙認のレベルを越えているため削除依頼した
  • 民放連の基準に則して判断している

概ねこんなところ。
これで、「権利者を騙った第三者による削除」という線は消えた。

声明文中に「黙認できなくなった」という一文があるのだが、一言で言うなら「通報があったから動かざるを得なくなった」というところだろうと思われる。
規約違反曲があるが削除しないのか、すべきではないのか」
という申し入れがあった場合に、対応しなければ「公認」になってしまう。もちろん、公認するわけにはいかないから、通報に対してはそのまま受け入れるしかない、ということになる。
これは企業の事情としては理解できる。建前*1として18禁禁止を規約に挙げている以上、それを破っているものを放置するのかと言われたら動かざるを得ない。
これがクリプトン社の判断である以上、

は確定事項となった。
ただ、「卑猥」の基準については、なおも疑問は残る。
民放連の基準とあるが、例えば民放はセックスシーンのある映画を放映しているわけで、それと同程度ならokということなんだろうか?




ここから、また別の問題は出てくる。


まずひとつは、それでは「シュークリームのうた」は何故消されないのか? 「ベジタリアン」とはどこが違うと判断したのか?
もし根拠が「シュークリームのうたは、ランキング除外曲ではないから」だとするなら、判断基準はランキング作成者に委ねられていることになる。公序良俗の基準を、ランキング作成者に委ねてしまっていいのか? 「シュークリームのうた」に限らず、「おちんちんランド国歌」や「フルチン☆ブギ」、デPの曲を歌ってみた動画などはなぜ削除されないのか? 通報がないからか?
ということ。

これは「シュークリームのうた」が残された理由と照らし合わせても、やはりなんとなく曖昧に思える。エロティックを理由にするなら、もっと多くの曲、及び歌ってみたなどの関連動画全てが削除対象に含まれなければいけないはずだ。しかし、そうしたジェノサイドはまだ起きていない。その点で、建前としての削除理由は弱い。
もっとも、「通報されたから削除せざるを得なくなった、黙認のレベルを超えた」とあるところから、通報されなければなお黙認されていた可能性はある。
だとすれば、今次の削除は公序良俗に照らし合わせてというのは、削除を行った口実であって、「通報があったかどうか」だけが実質的な削除遂行の判断基準ではなかったのだろうか。
やるなら徹底的にやらなければ、偏向判断の誹りを受けるのではないか?
徹底的にやればやったで、別の問題も起きてきそうだけど……。
*2

ふたつめは、通報されればそれらもすぐに権利者削除を要請するということか? ということ。

これは、荒らしに新しい手段を与えてしまった悪例になるかもしれない。
というのは、これで「個人的に気に入らない動画があった場合、その権利者に通報することで削除を強制することができる」という前例ができたからだ。
音楽は歴史的に見ても恋愛を歌ったものが多く、また猥歌抑圧の歴史からも隠喩暗喩を含ませるものは夥しくある。その気になれば「エロティック」或いは「バイオレンス」を連想させる曲の範囲は、とめどなく広げることができてしまう。エロスと切り離した、健全な恋以外は歌うなという傾向が出来たとしても、それでもそこに「エロティックな連想」をした人間が一人でもいれば、そしてそれを今回の場合はクリプトン社に通報すれば、いくらでも削除が可能だということになる。


もっと言えば、JASRACに通報すればニコニコ動画のほとんどのコンテンツを消失させることも可能だということになる。*3
前例というのは、以後のあらゆる判断の礎になる。今回の前例は、そういう展開に発展していく最初の萌芽になりかねない。


ところで、エロティックの他に「バイオレンス」「グロテスク」も含まれるようなのだが、そうすると戦争と死をイメージさせる曲、例えば「ストラトスフィア」のようなバイオレンスを連想させるものはダメということになるし、「不思議な幸せ」のようなサイコ的なものも広義ではダメということになるのではないか?
この心配はこじつけのように思えるかもしれないけど、一度前例ができた以上、それに気をよくした通報者は今後も善意での通報を続けるだろうし、その善意の通報の範囲は広まることはあっても狭まることはないだろう。悲観的に考えるなら。そして世界はいつも悲観的な方向に転がっていくものだ。


なんとなく、「そういうのもokな歌唱ソフト」が、いずれクリプトン社以外からリリースされるような気がしてきたw
現状ではクリプトン社がいちばんうまくVocaloidを扱えるのだろうし、競合他社の追随を心配する必要がないほどにDTM市場を席巻できているという余裕もあるのかもしれない。



このクリプトン社の声明に照らし合わせると、3月リリースを予定していたデPの初音ミク関連曲CDの頒布も、禁止事項に含まれることになるのではないかと思われる。
歌詞の内容から初音ミクVocaloidを連想させる部分を削除し、なおかつパッケージから初音ミクVocaloid関連のクレジットを削除し、初音ミクではない人間の歌い手が歌った状態であれば、クリプトン社の禁止事項からは離脱することができるので、頒布可能になる。
つまり、その時点で「初音ミクとは無関係」であれば出せる、関係がある限り出せない、ということになるのかも。
仮に「フル歌ってみたCD」というのもそれはそれで興味深いので、早く予約が始まらないかなと思ってみたりもするけど。




しかし、だ。
音楽の主題にはあらゆるものが含まれる。
愛、恋、悩み、憎しみ、辛さ、喜び、悦び、そうしたもののうち、歌ってはいけない主題というのが他者に指定されるというのは、果たしてよいことなんだろうか?






PS.
ちなみに、対処方法としてどういったものが望ましかったかと言われたら、それもまた難しいものではある。
ユーザーを萎縮させず、なおかつ反発を受けないように、しかし建前としての権利規約は主張しておかなければならない。
今回、「楽器提供者による権利者削除」という強制力が、「楽曲作者の権利よりも上回る」という前例ができたわけなのだが(モチーフとして初音ミクを使っていないとしても、楽器として初音ミクを使った時点でアウトという判断ならば)、この強制削除は建前的な喝采を呼ぶ一方で、警戒・萎縮と反発の萌芽も産んでいることは間違いない。

例えとして、もし自分がそういった「規約違反の作品があるが削除すべきではないか」という通報を受け、判断を下す担当者だったとしたら、
「規約にある通り、当社としては好ましくないと判断する。しかし、それらの発表を見合わせるかどうかについては、公序良俗に照らし合わせた上で個々の動画投稿者と視聴者の良識に委ねる」
という、「楽曲作者へのお願い」の形を採ったかもしれない。

これなら、建前としての規約遵守、会社としての価値判断は示した上で、それをどうするかという「良識」に基づく判断を個々の楽曲作者(楽曲権利者)、その支持者に問いかける形で、責任をそちらに委ねることができる。強制ではないから、その上で見合わせを行うかどうかの下駄(判断責任)を楽曲権利者に押し付け委ねると同時に、自社のスタンスを明示した上で矛先が自社に向かないようにすることもできる。

仮に削除すべきという圧力が多数派を占めていた場合は、楽曲権利者自身が削除意見の同調者に指弾される形で圧力がかかるだろうし、削除すべきという圧力(通報者)が実はごく一部によるものだった場合は、同意の少ない意見として無視することも可能だろう(ユーザーが納得したなら仕方ない、という意味で)。
このあたりの概念については、昨日のエントリー「無機物を愛する日本人のメンタリティー http://d.hatena.ne.jp/azuki-glg/20080124/1201197275」の末尾で触れているので割愛。


今回、「公序良俗」「一般通念」「民放連の基準」などの言葉が飛び交い、具体的には「エロティック」「バイオレンス」「グロテスク」などのカテゴリも示された。が、では「どこまでやったら許容基準を超えるのか?」については、結局示されていない。
エロ・バイオレンス・グロテスクといった不快表現*4というのは、数値で基準値や目標値を示すことができない性質のものだ。そうなると具体的なキーワードの出現条件(性器の名前、凶器の名前、臓器の名前など)をチェックするなどしないと、デジタルな判断は難しい。そうしたデータベースを充実していくことは、結果的に言葉狩りの前哨戦になるものであるわけで、モノカキ屋としては賛同できない。かといって、「良識のある判断者」という個人の感性を全ての判断基準にしてしまうことも危険であるように思う。


絶対的基準を示すなら、以後はその基準を積極的に適用していき続けなければ、必ず不公平の誹りを受ける。そうした判断はどれほど下しても利益は生まないものであるわけで(判断有料とかにするわけにいかないし)、結局は今後、同様の通報に対応せざるを得なくなることによって、大いなる「余計な手間」を背負い込むことになってしまうのではないか、と思われる。






追記。
デPの声明によって、一応この問題は終了したことになる。デPとクリプトン社の間では。
ただ、これを前例として今後も「公序良俗に反しないものを」ということであれば、「では、どこまでなら大丈夫なのか?」という疑問はやはり残る。


繰り返しになるが、規約に準じて契約を守るのは当然だが、守るべき契約(規約)に解釈の齟齬が生じる余地が残っている、ということが今後も同様の問題を引き起こす可能性に繋がっている。
「最終判断は楽器提供者であるクリプトンが下す」というクリプトン側の優先が明示されたことにより、二次創作を「楽器提供者が線引きする」という前例もできたが、それは偏りなく線引きをすることを強いられれば判断者の負担を増やすと同時に、強権者という批判を集める。偏りのある(つまり、通報されたものだけに)対応するなら、判断基準への疑問は残り続ける。つまり、どういった対応を取っても批判される可能性を残してしまった点、満点の対応だったとは言い難い。
この問題はきっと後を引く。


デPの声明文の中にあったけど、クリプトンからの連絡は1/24にあったらしい。削除そのものが行われたのは1/17、連絡が1/24で一週間のブランクがある。可能ならば事前、しかし連絡先がわからない場合もあるだろうから、それを差し引いてもどういった事情で削除を行ったかの本人通知は、削除当日には行われるべきだったかもー、という気がしないでもない。こういうのはタイムラグがあればあるほど類推を多く呼ぶわけで。*5

どういったものを削除依頼の対象にするか、どういった手順で削除意思を通知するか(そもそも可能なら、投稿者本人の自主的取り下げを期待したほうが傷が小さいわけで)、そういう手続き論的な問題は今回のケースを元に整備されていくのかもしんない。

また、「公序良俗という温泉」の湯加減は、未だによくわからない。「熱い!」という人が一人でもいれば、その湯は熱すぎるということになるのかもしれないが、「ぬるすぎる」という不満へは何を基準に対応するのだろうか、などと思う。

さらに発火点であった善意の通報者は、削除に関連して指弾される立場から、うまうまと逃げおおせた……といったら言い過ぎだろうか?

*1:もちろん建前だけでなく、Vocaloidの印象悪化を招くという危機感はあるだろう

*2:シュークリームのうたを始め、いくつかの暫定版が削除されなかったのは「申請時の手違い」とのことらしい。デPのblogで確認。これにより、「なぜ残った? 差違は何?」という一連の疑問は、「手違い。一律削除」で解決となるのだが、デPによる「替え歌版」を見ると、どこが違うのかほとんどわからないという……w

*3:この事例の文脈は、「特定の第三者が、特定の動画を削除させるために、外部の権利者に働きかけを行うことで、目的を達成することができる」という、「なりすまし荒らしの強化版的手法」についての警戒を指摘したもの。そういう理解でお願いしたい。

*4:エロは快感表現w

*5:今回僕が類推しまくりでしたが。