デPの挑戦をwktkしながら見る

さて。
いろいろ論点が分散してしまったのだが、いろいろな考え方があることは見えてきた。そこらへんを整理してみよう、と思ったのだがそれはちょっとおいといて。



ここまでの事態を改めて整理。

初音ミク発売。「卑猥なこと歌わせないでよ!」とかなんとか言われながらも、卑猥な言葉を一生懸命喋らせるユーザー続出。
するも、クリプトンは放置。

デP、「ちょっとHな〜」シリーズ開始。
直接的な表現を極力避けるけれど、聞きようによってはそう聞こえる――という絡め手の曲をリリース。

じわじわと内容がヒートアップ。
ボカロランキング*1から、「大人の事情」で除外されるとともに、「名誉の除外曲」と称されるように。
また、新曲発表と同時にカラオケ(オフボーカル版)が公開されるパターンが定着。初音ミクはあくまで底歌用ソフトで、実際には「歌ってみた」を意図的に促していた。*2
「歌ってみた」動画にデPが頻繁に出現することから、歌ってみた人々が続出。
「歌われる」→「原曲も閲覧される」という、相乗効果で再生数が伸びる。

この時点でまだクリプトンからのアウト通知はなし。放置。

デP、「どこまでやったらアウトか?」をさらに踏み込む。
_hidden、木枯らしの朝発表。

クリプトンへ善意の通報者による通報。
クリプトン、削除依頼へ。

デP、削除勧告受け入れ。(1/24)
規約に基づき、歌詞を「規約に抵触しない内容」に変更。(1/25)

・既成事実(修正版)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2135243
・牛乳飲め!(修正版)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2132271
・私は人間じゃないから(修正版)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2166779
/hidden(修正版)*3
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2176526
・木枯らしの朝(修正版)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2182661
・続・既成事実(修正版)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2203065
・1LDK(修正版)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2203360
ベジタリアン(修正版)*4
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2260233


2/8の時点でクリプトンからのアウト通知はなし。


当然ながら僕はデP当人ではないので、真実はわからねども、実際にデPが取ってきた行動から、その意図を類推してみたい。
これまでにもこのblogで繰り返してきたように、初音ミクの規約には若干の抜け穴がある。
これは、「公序良俗に反する利用を禁じる」としながら(これには誰でも合意できるだろう)、「どこまでやったらアウトか?」という、公序良俗範囲度合いについての明示がなかった。

猥歌/エロというのは、基本的にはおおっぴらにはできない=常に弾圧を受け続ける種類の文化である一方、「ここまでならOK」という度合いの上限/下限というのはある。
初音ミクには当初そうした「度合い」についての明示がなかったことから、デPは「どこまでやったらアウトか?」を手探りで探っていたのではないか? 何も言われなければ、さらにどぎつさを上乗せして限界値を試そうととしていた、と言ったら読み過ぎだろうかw

実際のところ、「エロティック」「バイオレンス」「グロテスク」はダメ、という公序良俗に反する範囲(カテゴリ)の明示というのが示されたのは、今回のデP削除の後だ。それ以前は曖昧な「公序良俗という空気」しかなかったわけで、デPの踏み込みによってようやくその対象範囲を(まだおおざっぱながら)示されたと言える。
「どこまでやったらアウトか」、今度は「度合い」や何が基準になるのかについての条件基準の明示を含めた「規約の見直しと修正」は、今回のデP削除事件に合わせて行われたと聞く。

個人的には、今後、今回を前例として同様の削除が積極的に行われることで、クリプトン社が自ら明示した基準にその他の動画すべてが従っていくようになる(そして既存曲で問題があるものは、クリプトン基準に従った一斉削除が行われるようになる)かどうか気になるところなのだが、それはこのエントリのテーマからは外れるので一時横に置く。

「民放で放送できるかどうかが判断基準」という具体的指針について言えば、つまり「メジャーデビューの障害にならないかどうか」「電通/博報堂の基準に合うかどうか」という意味なのかな? と、僕などはちょっと思ったりもしたのだが、デPは、「これは放送コードに従ったものならokという判断」と了解したようだ。

1/25に公開された「既成事実」「牛乳飲め!」の歌詞修正版は、民放で放送できる文言しか使われていないものに改訂された。「もしこれがアウトに聞こえる人は耳鼻科に行ったほうがいい」「vsqファイルを公開してもいい」とデPは胸を張る。改めてよく聞くと「放送コードに引っ掛かる直接的表現」は確かにひとつもない。*5

現在、削除(クリプトンからは自主削除依頼はあった)されていない「ベジタリアン(暫定版:旧版のまま)」http://www.nicovideo.jp/watch/sm2061972 を改めて聞いてみたが、やはりこれも放送コードに引っ掛かる内容はない。



ちょっと脱線する。

仕事柄、放送禁止用語だの出版時言い換え推奨用語などにいろいろ縁があり、以前いた編集部では「人権擁護研修」というものまで勉強させていただいたことがある。
丁度1990年代の前半〜半ば頃の話で、この頃はとにかく差別/猥褻表現などが口やかましかった。
今聞くと笑い話に聞こえるくらいなのだが、当時、ロードス島戦記の登場人物・暗黒騎士アシュラム*6に当てた読者ハガキに「私は真っ黒い人が大好きです」と書いてあったのをそのまま掲載しようとしたら、「黒い人というのは、黒人差別に当たるからダメ」と言われて掲載が見送りになった、という……。当時本当にあった話なんすよ。
案外知られていないところでは、「お巡りさん」「女中さん」「お手伝いさん」「○○○屋さん(魚屋さんでも八百屋さんでも)」「百姓」、このあたりの言葉は差別語に当たるので使ってはいけない、と当時は指導されていた。これは結局かなりの部分がうやむやになったようで、女中さんなんかは今も引っ掛かっているものの、お巡りさん、○○○屋さんなんかは抹殺されることなく使われ続けている。
もちろん、この規制に引っ掛かって消えた言葉は実際にいろいろあって、「屠殺」「人夫/日雇い人夫」「バッタ屋」などは、職業差別に当たるということで極力使わないよう、今も指導されているらしい。特に「屠殺」というのは凄くうるさくて、バイオレンス作品なんかで血塗れの様相を描写するのに「屠殺場のような」と書くと大変叱られたりするらしい。*7
他には「半島人」「部落」「チョン」「在日」などの言葉、及びそれを匂わせる描写というのは、今もほとんどの場合、出しにくい。嫌韓流やその類書などのため、そうした禁忌が解けたように見えるかもしれないがあれはまだまだ特例で、今もそうした言葉や描写・表現はないことになっている。

で、出版禁止用語みたいなものは厳然として存在するんだけど、運用は各社・各編集部、各編集者ごとに度合いが違ったりするし、明確な罰則規定があるわけでもない。まあ、それ使ってどっかから何かねじこまれたら、次からその出版社で使って貰えなくなるというリスクがあるから、よほど大物でない限りあんまり無茶はできないだろうと思う。*8

放送コードの場合は放送業界に詳しいわけではないので断言はしないけれども、概ね「特定の用語を直接言ったらダメ」という感じで明確化されているものらしい。あと、放送禁止部位の放映。これは性器(下半身の。乳はok)などなのだが、不思議なのは「小さな男の子のチンコ」はセーフで、「小さな女の子の○○○」はアウト、しかしもっと小さな赤ん坊の場合は、そのままでもセーフというあの基準はいったいどこで誰が決めたものなんだろう。年齢で何歳からはこう、っていう取り決めがきっとあるんだろうと思うけど。

それでも、放送業界にも抜け穴的なものは結構あるわけで、そうした抜け穴的なものが、時代時代に眉を顰められながらもヒット曲となってきた事実もある。
有名どころを羅列してみると、

  • サザン・オールスターズの「マンPのGスポット」を始めとする暗喩を含む猥歌。(ほとんどそのまま放送されてた。原由子がボーカルだった「I LOVE YOUはひとりごと」は、オカマが登場するということで放送禁止になってた気がする)
  • つボイノリオの「金太の大冒険」(これはヒットしたけど早々に放送禁止に)
  • なぎら建壱の「悲惨な戦い」(これは今は放送禁止にはなってないけど、発表当時は放送禁止歌になってた)
  • 小谷浩代/前野良典の「チンチンポンポン」(これは普通に放送され、ヒットした)
  • おニャン子クラブの「セーラー服を脱がさないで」(これも言うまでもなくヒットした)
  • 山本正之の「ヤッターマンのうた」(これもヒットし、今も新作が同じ歌詞で歌われてる。「なんで?」と思うかもしれないけど、「おー、チンチンチーン」なところは、当時は眉をしかめられてはいたけど、「犬の芸です」と言い張って黙認だったわけでw)
  • 山口百恵の「ひと夏の経験」(これも大ヒット)

まあ、このまま挙げていくときりがないのだが、他にも高田渡の「自衛隊へ入ろう」なんかも、放送禁止歌ではあった気がする。エロじゃないけど。

デPの「歌詞修正版」や「ベジタリアン」「1LDK」なんかは、この伝で行くとほとんどセーフというか、民放で放送できるレベルになる。つまり、「音が同じかよく似ているが、文字にしたときに意味が違うもの」、「作詞者の意図が明確であること」を踏襲すると、あとはそれこそ「耳鼻科行け」になる。


デPの「民放で放送可能な歌詞」が、どう解釈・判断されるのかについては、「公序良俗の判断基準」を問うものにもなっていて、非常に楽しみなところ。
こうした提議・審議請求wを、実際の楽曲を以てできるという才能は素直に羨ましいと思う。




これで再削除があったら、今度は何がいけないのか? という話になってくるのだが、「いやらしいと思って聞くからいかがわしく聞こえる」というのが通用するのかどうか(それ言ったら、歴代の民放放送ヒット曲の否定になるんだけど)、というのはちょっと知りたいかも。
また、これで再削除がなければ「直接的な言葉と表現がなく、作詞者による明確な別解釈があるものならok」という前例になるかもしれない。


ところで、これがセーフの場合、CDには歌詞修正版で歌わせたものが入るのだろうけど、歌詞カードにのみ修正されていない歌詞のものを載せることは可能なんだろうか?
ミクというクレジットが入っているいないに関わらず、歌詞カードそのものは初音ミクに歌わせていないただの文面で、しかもCDに収録された歌詞と違う場合は、これは規約に抵触しないような気がするのだが、どうなんだろう?
ライブ盤など、添付されている歌詞とライブで歌われた歌詞が違うっていうのは、よくあることだしなあw

*1:当時は初音ミクランキング

*2:実はこれ結構重要かも。以前から「歌ってみた」はあったけど、新曲毎に最初から「歌わせる」ことを意図していたのは、デPあたりが草分けでは?

*3:確信犯だwwとは言わないが、これはセーフにせざるを得ないだろう。そして、クリプトン社自身が扱っているサンプリング・サウンドデータをコーラスに使って「補強」を行っている。あんた酷い人だww(褒め言葉として) 

*4:歌詞だけでなくアレンジも相当変更&拡大されている。

*5:空耳でそう聞こえるものはあるかもしれないがw、それこそ「そう聞こえたなら耳鼻科に行くべき」だ。

*6:全身黒づくめの、所謂「黒騎士」の定番なキャラクター。

*7:僕はバイオレンス描写はあまりしないのでアレですがw

*8:モノカキというのは悠々自適の印税生活者ってわけでもなくて、20年やっていても下働きの下請け業者ですorz