初音ミクを巡る論点/意見を俯瞰してみる

そういうわけで、論点/意見の再整理。
いろいろな見方、いろいろな考え方、いろいろな解釈、そしていろいろな正論があるな、と思う。自分が納得している正論を補強するもよし、自分が信じる正論にほつれがないか疑うもよし。ということで、やはり他の視点からの意見をいろいろ知る必要があるかも。

以下について、僕には僕なりの意見もあるが、ここでは「こうした意見があった」ということを俯瞰することに務めたい。その上で、論点が複雑に入り交じっていること、それぞれの意見・主張にどういったものがあるかを把握した上で、個々の考察に役立てるとよいのかも。


公序良俗について
・規約があるのだから、規約に準じてエロは控えるべき
公序良俗に反する内容はよくない。公序良俗に準じたものにすべき。
公序良俗に準じるのは当然だけど、公序良俗の基準、範囲、指針は誰が判断するのか?*1


●「猥褻」と「俺の嫁」、自重するならどっち?
・卑猥/エロなど、初音ミクの品格のイメージを貶める下品な曲は控えるべき
・卑猥/エロなど、「初音ミク」の人格を考慮して控えるべき
・卑猥/エロなど、声優のイメージを守るため控えるべき
・過度のキャラクター没入曲は、一般人にキモヲタ呼ばわりされ、共感を得にくいので控えるべき
初音ミクのキャラクターイメージに合わない一切の曲は控えるべき
初音ミクのキャラクターイメージとは違う曲を歌唱させたい場合は、初音ミクのクレジットを外すべき*2
・キャラクターイメージが楽曲作者のモチベーションを制限することは正しくないのでは?


●クリプトンはどこまでやるべき?
・今後もクリプトンの最終判断が最優先であるべき?
・クリプトンが、楽曲内容まで判断するのは行きすぎ?
・クリプトンは個別の事例についてその都度判断すべき?
・クリプトンは個別事例をその都度判断しなくていいように、誰にでもわかるようなわかりやすい基準を示すべき?


●楽器「初音ミク」、キャラクター版権【初音ミク
・キャラクター版権の規約を尊重するなら、初音ミクのクレジットがあるものについてはクリプトンの判断に従うべき。
・ソフトウェアとしての初音ミクを使っているが、「初音ミク」のクレジット、キャラクター名、イラスト(二次創作含む)がないものであっても、初音ミクに歌わせる限り、クリプトンの提示した規約は適用される?
・ソフトウェア・シンセサイザー=楽器提供者であるクリプトンは、制作される楽曲の内容について、禁止措置を行う権利・資格を持つ? どこまで持つ?(楽曲作者と楽器提供者、どちらの権利が優先する?)
・クリプトンは「作られた楽曲の発表によって、クレーム他を含む不利益がユーザーに発生した場合、クリプトンは責任を負わない」と宣言しているが、今回はデP(個別ユーザー)の楽曲に対するクレームについて、クリプトンの責任で削除を行った。これは、規約にクリプトン自身が反していることにならない?
・「作られた楽曲によって生じる不利益について責任を負わない」のに、「作られた楽曲の公開を阻止する権利はある」というのは、矛盾していて片務的では?(小飼弾さんとこのご意見)


●評価を換金するシステムは「楽曲作者」には必要か?
・評価を換金する仕組みは必要か? 不要か? 必要だけど時期尚早か?
・楽曲作者自身は評価を金に換えたいとは思っていないのでは?
・金が絡むといいものができなくなるのでは?
・金を欲しいとは言い出せなくても、もらえるならもらいたいのが人の理では? しかし、清貧をよしとする空気が横行しすぎて、言い出しづらい雰囲気がある(JASRAC登録、ドワンゴへの協力について、否定的・裏切り者という空気が定着したため)
・過度の「清貧」の強要は、いいものを作った人を正当に評価することの妨げにならないか?(そして、「清貧の強要」は、成功者への妬みを正当化するものになってはいないか?


・楽曲作者【への】評価・応援・支援・支払いを望んでいる【リスナー】もいるが?
・同人CD、同人誌などで収益を上げたい人はあげているのでは?
・同人CD、同人誌などは、「その場所に行けない人」には関われない。ネット上で支払える方法が欲しい*3


●評価を換金するシステムを作るとしたら
・MP3ファイルを有料DLさせる仕組みをピアプロに実装しては?(現状でも、ニコ動で劣化音質版をプロモーション、高音質版MP3をピアプロでDLという流れができつつある)
投げ銭的な仕組みを整備して、金銭またはポイント、Webマネーなどを支払う形を採っては?
・楽曲対価を支払うたったひとつ(ではないかもしれない)の冴えたやり方( http://d.hatena.ne.jp/azuki-glg/20071220/1198121928
ニコニコ動画で見ている動画の作者に、直接お金を渡せるようにするGREASEMONKEYスクリプト(プレミアム会員限定)(http://d.hatena.ne.jp/kongou_ae/20071220/1198146293


CGMサービス提供企業によるCGMコンテンツの事業化は善か悪か?
・事業化によって、楽曲作者以外の企業に中間搾取されるのなら不要
CGMコンテンツの事業化は必要(でないと、CGMは先細りしてしまうかも)
・広告収入、アピール力ならすでにあり、事業化していると言える
ねんどろいどなどのスピンアウト商品、Amazonアフェリ(ニコニコ市場)で収益は上がっている
・そうした小商いではなくシステマチックな手法として、CGMコンテンツそのものを商品化(換金)できる方法は確立されているとは言えない
・クリプトンはソフトが売れることで潤っているから、これ以上は不要
ピアプロ展開などのように、別の収益をあげられる可能性を拡大していく義務があるのでは(Vocaloid商品の旗振り役火付け役として)
・事業化は必要だし発展のために進むべきだが、利益配分、手順・手続きなど、透明化が必要では?


他にもあったかもしれないけど、とりあえずここまで。
気付いたこと、漏らしていたものなどがあれば、適宜補足しとくかもしれないし、〆切間際なので棚上げになるかも。〆切&校了を間近に控えた社会人ですので、仕事が優先です。
よろしかったら本買ってくださいw





ちなみに、僕が「公序良俗という空気への抵抗」「表現の自由の死守」「強圧的な言葉狩りへの抵抗」といった方向性を持っているのは、よくも悪くも僕が「人に何かを伝える仕事」を長年続けてきたことと不可分なのだろうなと思っている。
商業誌で書くということは、「言いたくても言えないこと」「言ったら消されること」が山ほどあるわけで、一介の雑誌ライターから曲がりなりにも自分の名前が表紙に載ってる本を出させていただけるようになった今でも、状況はそう大きくは変わっていない。プロであるが故のしがらみがあるが故に、本当に誌面に書きたいことを飲み込まざるを得ないという局面はいくらもある。
それは、企業=商売の都合だったり、高度に政治的な事情だったりもする。長くやってるから余計にそれもよく理解できる。
マチュアであることは、ある意味でそうした「企業の都合」という軛から逃れることができている。ニコニコ動画などでよくある「プロの犯行」というのは、プロがその威力を見せつけるためにやっているというわけではなく(それもあるかもしれないけど)、アマチュアの制限の少なさ、しがらみがなかったあの頃に憧れて、こっそりやってくるものであったりするのかもしれない。そうだとするなら……いや、きっとそう。
また、実話怪談という、どちらかというと胡散臭く思われ、公序良俗を乱し、時に下劣な内容であったり、目を背けたくなるような陰惨な、お子様・ご家庭にはちょっと見せられないような内容について、書き記す仕事をしているということとも不可分であろうと思う。
何しろ禁忌が多く、「どこまでやったら大丈夫か」を試し続けるという仕事でもある。表現、描写、用語、そうしたものと首っ引きで向かい合うなかで、できるだけ様々な表現を試したい、許されたいという気持ちがある。
もし、そうした試みを試した結果、読者の評価を得られなければ本が売れない。本が売れなければ次の本は出させてもらえない。出させてもらえなければ、僕はそのまま淘汰されていくことになる。少なくとも、読者の評価が得られれば*4、その試みは次も続けることができる。
人と同じことをするのではなく、人と違うことをしなければならない、というのがモノカキの宿命でもあって、しかし人と違う(前例のない)ことは、とにかくいっぺん試してみないと始まらない。そのときに、できるだけ多くのフリーハンドを残しておきたい、と常に考える。だからこそ、表現の自由へのこだわりと言葉狩りへの抵抗感がより強いのかもしれない。たぶん、これは全てのモノカキが抱える職業病であり、譲れない一線だ。

やってみてダメだったら、その人の責任。ダメなものを出したら支持を得られず、支持を集めなかったら、次からは同じものは出てこない。
やる前からやらせない、というのでは、「もしかしたら支持を集めるかもしれない」という可能性をも潰してしまう。リスクを当人が引き受けた上で、とりあえずアタックしてみるという自由は、残していってもらえるといいな。
マチュアとして発表をするというのは、プロとしてそれをするより多くの選択肢があっていいと思う。そうであってほしい。

*1:そういえば、「バイオレンス」「グロテスク」も禁止範囲に含まれてたけど、「ヤンデレ」「サイコ」はどこまでなら許されるんだろう? それとも精神疾患系の曲はセーフ? また、放送禁止系では定番の「人種差別」「政治的傾向(反社会的/反国家的)」のものについての制限はなかったが、そうしたものはセーフ?

*2:実際、イメージに合う合わないとは別に、初音ミクをイメージさせない曲は幾つも出ているし、それなりにヒットしている。

*3:「同人CD、同人誌などは通販可能というコメントを頂戴したので補足。「全てが通販されているわけではない」ので、というニュアンスでよいかと。また、通販についてポータル的な窓口が欲しいという意見もあるかもしれない。それはまた別種の問題なので、詳しくはまたいずれ。

*4:この場合の評価=本が赤字にならないくらいに売れるということ