強いて言うなれば

先週末に発売になった新刊「極」怖い話は、たぶんようやく今週あたりから、都市部以外の書店さんやコンビニなどにも行き渡り始めたのではないかなと思われる。以前、キオスクで買って出張途中の飛行機の上で読んだとかいうお話を寄せてくださった読者の方もいらしたのだが、そういう縁起悪いことこの上ない皆様に支えられて、また新しいのが出てますよ、と。


仕事は怪談屋なのだが、自己紹介の折り、いつもなんかこう言葉に詰まる。


「作家ですか!」とキラキラした目で見られると、いやそんな大層なもんでは、と思わずこちらが尻込みする。賞取ってるわけじゃないし、小説はそんなに書いてないし、雑誌に連載があるわけじゃないし、有名な作家さんとツーカーの仲であるわけでもなく、銀座を飲み歩くとかそういういいことがあるわけでもない。ごく稀な例外を除き、ほとんどの飲み代は自前です。

怪談を書いていてと言うと「稲川淳二とかの!」とまたキラキラした目で見られる。確かにそっち系なんだけど僕は稲川さんとツーカーなわけでもなく、やはり業界的には端っこ/隅っこのほうでひっそりとやってるだけのっておーい聞いてますかー、となる。

だんだん小物だとわかってもらえるようになったらなったで「どんなの書いてるんですか」とキラ、くらいの目から若干胡散臭い奴だなくらいの目で見て貰えるようになって、そこでようやく書名を口に出してみたりするんだけど、いちばん売れてる「超」怖い話を切り出してみたところで、ジャンル的に門外漢の人はやっぱ全然「そんな本は知らない」ので、「ああ、そうですか。へえ」くらいの尻つぼみなリアクションになっていくのである。

まあそのくらいのところで、そっとしておいてもらえたほうが気楽なので全然問題はない。


怪談屋的なキャリアという意味で言えば、やっぱり「超」怖い話が代表作ということになる。第一巻からずっとおつきあいさせていただいているし、自分なりにこれは別格、これこそフラグシップ、という自覚もあるけれども、昨年冬のΙ、今年の冬のΛを除けば基本的には共著であるわけで、ここまで来たのは安藤さん、樋口さん、夢明さんという歴代編著者の業績のほうが大きく、僕なんかはもうお裾分けを頂いてるようなものであるわけで……。

先だって、あかね書房さんの怪異伝説ダレカラキイタ? に編集Eさんがまとめてくださった僕の著者プロフィールなんかを眺めていて、じゃあ僕の代表作ってのはなんだろー、と自分なりに考えてみた。
一応、対外的には「弩」怖い話が代表作(単著では)ということになるんだけど、「弩」怖い話ではどれがいちばんエポックメーキングな本だったかというのを振り返ってみると……うーん。自分では弩3も好きなんだけど、エポックという意味で言えばやっぱり弩2なんだろうなあ、と思った。


[rakuten:book:11346263:title]は最新刊の「極」怖い話の冒頭にもある、家に関連した体験談を集めたもの。家というのは「やっぱり家がいちばん」と帰ってきてホッと一息吐く、いちばん隙が多くできる場所であるわけで、そういう本来なら気を抜いていいはずの場所が、そうではなくなっている方々の話というのは、やはり伺っていて大変辛い経験をなさった(なさっている)のではなかったかということが伝わってきて、話を聞いているだけでもしんどかった。もちろん、僕らのしんどいなんていうのは他人事であって、当事者のほうがずっと辛いであろうことは察して余りある。


代表作とかそういう枠組みを外して好きな本は? と言われたら、二見書房さんから出た「禍禍」と、マイクロマガジン社さんの「妖弄記」とかは結構好きな本かも。どっちも初心者向けw で、同時に「怖いのが苦手な人向け」でもある。ちなみに、たぶんどっちも絶版だと思うし、Amazonに行けば1円で買えるorz


禍禍(まがまが)―プチ怪談の詰め合わせ (二見文庫)は、数行から2頁くらい、長くても4頁くらいで終わってしまうようなごく短い、スレ違いざまの怪異ばかりを集めたもの。
ドゴン! という重量感はほとんどないけど、首筋から流し込まれた節分の豆が、靴下の中に入って歩くときにちょっと痛いみたいな感じの、小粒の違和感がてんこ盛りで、その唐突感が個人的には気に入っている本。サブタイトルの「プチ怪談の詰め合わせ」は、企画段階のタイトルが「助六〜怪談幕の内弁当」だったときの名残なのだが、なかなか体を表してるかもなーと思う。アリンコがたかっている生理的に厭なカバー写真も選ばせて貰ったりで、苦労も多かったけど仕事の密度は濃かった。だから好きな本。


妖弄記―書き下ろし実話妖怪談集 (ルナティック・ウォーカーシリーズ)は、「妖怪見たよ!」という目撃譚を集めた本。
「幽霊はあり得るけど妖怪はあり得ない」というのが世間的な合意であるので、同業の方からも眉をしかめられる始末(^^;)であったのだが、それの正体がなんだかはわからないけど、とにかく何か見た! という、その現象や事象そのものがなんとも興味深く、これもまた個人的には凄く気に入っている本。
怖い話というわけでもなく、どちらかというと民話に近いものと受け止められていたようで、そういえば普段は「実用書*1」「オカルト」「神秘学」「宗教」「超心理学」などの胡散臭いwカテゴリに押し込められてしまうところが、なぜか妖弄記に限っては「民話」というカテゴリに分類されていた。妖怪だからだろうか。一応目撃譚なんですけど。


この書籍の分類というのは通販サイトによってわりとまちまちみたいで、オカルト、超心理学に分類しているところもあれば、文芸・ホラーの一分野に入っているところもある。ジュンク堂の通販(http://www.junkudo.co.jp/detail2.jsp?ID=0281243414 )なんかでは「ビジネス・雑学・ハウツー」に入ってたw 雑学というのはわからんでもないけど、ビジネスとかハウツーとかからはかなり遠いところにいるような気がする。でも、昔から実用書のカテゴリに入ってるからなあ。怪談本って。何をどう実用するんだか書いてる当人も未だにわからん。
僕としてはノンフィクションとかルポルタージュとかに入れて貰いたいところなんだけど、さすがにノンフィクションやルポルタージュを書いている側の方々に厭な顔されそうな気がしなくもない。というかきっとされる。
セケン的にはやっぱりオカルト・超心理学あたりに入ってるのが探しやすくていいのかもしれない。読み物としては、読み捨てられる系の分野だし、それもまたよし。


それにしても、怪談本を「お楽しみ下さい」とか「喜んで貰えて幸いです」というのは、なんか抵抗がある。だって、人の不幸を楽しむってのは人としてどうかと思うし、喜んで貰っていいものやらどうやら、それをまた「幸いです」とか言ってしまうのもいかがなものかと、毎回悩む。
そういうわけなので、「お苦しみ下さい」とか「厭な気分になって貰えて災いです」とかいうくらいのほうが合ってるのではないかなと思ったりもする。
禍禍や妖弄記だったら、「楽しんで笑って読んでください」って断言できるんだけど、弩2や「極」怖い話は笑って楽しむ本じゃないしなあ、とかなんとか。


怪異伝説ダレカラキイタ? は一応児童書ではありますが。これはきっと大人も楽しめる。というか、子供に怖い話をけしかけて、夜寝られなくしてやれ! という近所のおじさん・おばさんのためのネタ本にもなるかもしれない。大人向け過ぎる怪談て、子供にはピンとこないもんね。


そんなこんなをぐねぐね考えつつ、今夜も怖い原稿書いてます。

*1:なぜか実話怪談は実用書に分類されることが多いらしい。