後期高齢者医療制度(長寿医療制度)について

「年金から天引きされてたいへん」というのが該当する高齢者の主張であって、全生活費を年金から捻出してる高齢者は大変だろうなと思う。
その上で、この制度は何を念頭に置いた制度なのかというのを、ちと考えてみる。


国民健康保険などの保険制度というのは、「医療費って高くて大変だから、健康な人も出し合っておいて、病気になった人の治療費をみんなで共同負担しようね。いざというときはこっちのもお願いね」という制度だ。
これは、「病気になる人はそんなに多くないはずだから、健康な人の余力を病気になった人の救済に回しましょう」という精神から来ている。それはよい。


人間というのは歳を重ねると身体のあちこちにガタがくるわけで、当然ながら若くて健康な人よりも、高齢者のほうに病人が多くなる。病気になれば働けず、高齢になればなお働けないので、高齢の病人の治療費その他というのは若くて健康な人が支えるということになる。病気の治療費を支えるのが健康保険で、生活費を支えるのが年金。それもよい。


この制度というのは「高齢者は歳と共に自然に数が減っていく=寿命で亡くなる」「若い人・現役世代の人数は高齢者よりも多い」という前提に立っている。乳幼児の人数がもっとも多く、高齢になるに従って富士山のように山形(ピラミッド型)にすぼまっていくという人口構成になっているなら、これは問題ない。
だが、少子高齢化が進んだ現在では、乳幼児の人数は現役世代より少ない。昨年くらいから始まった団塊世代のリタイアが進むと、釣り鐘型の人口構成は、逆三角形型に進んでいくとさえ言われている。
かつては5〜7人で一人の高齢者を支えていたのが、これからは2〜3人で一人の高齢者を支えていかなければならない。この警鐘はつい最近出てきた話ではなくて、僕の記憶にある限り20年くらい前にはすでに叫ばれていた話だ。このまま行くとマズイ、と。
医療技術の進化は高齢者の死亡率を下げた。それもよい。
だがそれは、「子育てのためのコストを、高齢者を支えることに投入する」ということに繋がった。少子化と高齢化は不可分であるわけだ。*1


で。
先の長寿医療制度は、今現時点で既に高齢者になっている人が対象というよりは、これから一斉に後期高齢者なっていく団塊世代の高齢者を想定している。
これらの団塊世代の高齢化による「超高齢化社会」を支える方法は大きく分けて3つある。

  1. 現役世代に負担を負わせる
  2. 将来の世代に負担を負わせる
  3. 受益当事者が負担を負う

まず一つ目の「現役世代」というのは、今働いている世代。育児コストを割いて、これから莫大に増えていく団塊高齢者を支えるほうに回せ、という考え方。この方法だと、少子化に歯止めが掛からなくなる。

二つ目の「将来の世代」というのは、これは具体的に言うと「国債などで借金*2をして賄う」ということ。借金は利息を付けて返さなければならないわけで、その借金の返済は結局のところ税金その他将来的には国民の負担で返していくことになるわけで、孫の世代にそれらの返済を託すことになる。故に、「将来の世代に前借り」ということ。この方法だと、財政赤字は改善されず、将来的に借金はどこまでもふくらみ続けることになる。*3

三つめの「受益当事者が負担する」というのは、団塊高齢者自身が、自分達の医療費の一部を自分達で負担しなさい、というもの。
「年寄りをまだ働かせるのか!」とか「年金の負担が!」という声は既に上がってるのだけど、この団塊高齢者というのは現時点ですでに高齢者になっている人々とは、若干質が違う。


現在60〜65歳くらいの団塊高齢者というのは、遡って40数年前、1960年代末から70年代にかけての高度成長期に、ウハウハの売り手市場で社会に出た。学生運動終結と時を同じくしているが、長い髪を切ってスーツを着たほうが儲かった、ということらしい。
そして、遡って20数年前、1980年代末から90年代に掛けてのバブルの時代には40歳前後。年齢的には管理職世代で、はっきり言ってバブルでいちばん美味しい目を見た世代。預貯金率も全世代の中でいちばん高いらしい。
もちろん、いい話ばっかりでもないわけで、その後の10年以上続いた暗黒時代の浮沈による格差は出た。よく言われる「格差問題」というのは、実体は団塊世代内部の浮沈による格差への妬みなのではないか、とも思えるが、まあともかく。


そんなわけで、この団塊高齢者があと数年したら「後期高齢者」として莫大な金額の医療費/社会福祉費の負担となってのし掛かってくることになる。実際に、その数年後に行ってしまってから対応策を考えたのでは手遅れになる。
このため、
団塊高齢者は一番裕福な世代なんだから、少しは自分で払いなさいよ」
「窓口で払っても天引きしても結局は支払うことになるんだから、窓口支払いの面倒さを減らすために、天引きにしましたよ」
……というのが長寿医療制度のキモなのだと思う。*4


団塊世代というのは、日本の人口構成分布から見てもとにかく人数が多い。
子どもは人数が多くても票にならないけど、老人というのは現役を引退したって有権者であることには変わりない。
団塊の世代が実際に現役をリタイアして高齢者になってから、長寿医療制度を導入して、一部負担を求めようとしたら、団塊世代全体からの抵抗が起きるのは必然だっただろう。民主党菅直人議員のように「団塊党」と銘打って、これから「投票権を持った高齢者集団」になる団塊世代を票田にしようという動きは既に出ているし、そうした高齢者集団が自己の利益のために一斉に反対したら、他の世代では対抗しきれない。
長寿医療制度小泉内閣時代にギリギリセーフで可決導入が決定されたものなのだが、間一髪で間に合った法律、と言えるものかもしれない。
このまま、廃止に追い込まれなければだけど。


現時点ですでに後期高齢者に当てはまっている方々の負担が増えることになるのは非常に気の毒だと思う。それは本当にそう思うけど、これから10年くらいの間にドッと増える高齢者医療をどうしていくかという全体のことも考えると、物理的に現役世代だけでは支えきれないのも事実。


先の三つの選択肢の他に、もうひとつ(1)現役世代に負担させる、の発展形で「外国人労働者に負担させる」というのがある。

この「現役世代」の人数を増やすために、外国人労働者・将来的には「移民」を受け入れて、人口構成の現役層を増やそう、という考え方。
これも民主党が積極的に推進していて、外国人移民1000万人を受け入れよう、というもの。(http://www.matsui21.com/media/03/08_10voice.htm)。これは2003年のソースで目新しいものではないんだけど、在日外国人に参政権*5を与えようという方向に積極的だ。*6


高齢者を支えるためには、日本語と日本の文化に不自由な外国人を多数招き入れていかないと支えきれない。都内では駅の行く先案内表示が2002年のサッカーワールドカップの前後くらいから、それまでの日本語+英語から、日本語+英語+簡体中国語*7+ハングル文字の四言語並記に変わってきている。
日本に来る観光客、日本在住外国人への配慮から始まったものだが、「日本語が話せなくても日本での生活に不自由がない」つまり、日本語&日本文化への理解がない外国人も日本で生活できるようになってきた、という言い方もできる。*8


故に、高齢者医療を支えるためには、日本語を話せない外国人を移民として迎え入れて、参政権を与えちゃっても致し方ない。


……などと、簡単に受け入れちゃっていいものかどうか。




どんな話題でもそうだけど、糸を辿っていくといろいろな問題と密接に絡み合っていることが浮かび上がってくる。
この「移民1000万人」の話は、治安問題+安全保障問題とも実は密接に繋がっていて、あらゆる問題と連動していることが見て取れるのだが、きりがない。
だからといって、目の前の問題だけを近視眼的に批判したり拒否しているだけでは埒があかない。
「ガソリンを25円安くする」と頑張ったところで、ガソリン高の原因は暫定税率だけの問題ではないのだから、再値上げが起こるのは当然の帰結。無理なダイエットにリバウンドが起きつつあるが、それだって近視眼的な利益追求の典型だ。
どうもこの手の問題は、問題が広範囲に広がりすぎていて、因果関係を把握できないが故に、目の前の短期的利害だけで損得を煽るきらいが強いように思う。
もちっと広く考えないといかんな、と。

*1:この生活コストを抑制するために、中国製の食品や製品という低価格な消費物資が必要になった。それらを消費することで生活コストは抑制できたが、安全性への信頼と引き替えになり、「万一」のリスクは上がった。また、中国製品/食品などの輸入代金支払いによって外貨が流出していくことになる。かつて、日本は国内生産国内消費=内需の拡大によって国内で金を回していく=全員が儲かる、という図式だったのが、中国産の安いものを買うために外貨の形で円が流出していくため、日本国内で金が回らなくなった。安いものを求めた結果起きたことなので自己責任なのだが、近視眼的な行動は結局長期的には自分の首を絞める。

*2:国債は、その3〜4割を郵貯などを原資として郵便局/ゆうちょ銀行が買ってきたそうな。他に銀行、個人、海外投資家も買っている。

*3:かつて、景気対策と称して、公共工事に国の支出を注ぎ込んだのも、国内に金を回すためだったはずなのだが、その金で中国製の安いものを買うので、結果的にお金は外に出て行ってしまう。以下無限ループ。

*4:僕なんかは長年個人事業主ってことで原稿料から源泉徴収されている。取り返す手間wは掛かるけれども、天引きにあまり抵抗感がないのはそのせいかもしれない。逆に、天引き経験がないサラリーマン出身者なんかは、「できれば払いたくない金が天引きされる」ということに抵抗感は強いのかもしれない。

*5:まずは地方参政権からだが、参政権というのは投票権だけではなく、被投票権、公務員としての行政への参加も意味することを忘れずに

*6:これについては公明党も同様。

*7:簡体は普通語=北京語。広東や台湾などは繁体。

*8:これと同時に在日本中国人・韓国人による犯罪の件数が増えつつあるのは、昨今の報道で知られる通り。中国人・韓国人が全て犯罪者ということではないけれども、渡航先の国の言葉がわからなくても自国語で行動できるならば渡航者が増えるのは当たり前で、渡航者が増えれば犯罪者の含有比率が上がるのも当たり前。