「超」怖い話M、読了

一人10話ずつ、全30話。
僕の記憶にある限り、「超」怖い話でもっとも収録本数が少ない巻かもしれない。それだけに、みっちりと濃い。
目次は冒頭にあるけれど、誰がどれを書いたのかは巻末にまとめられていた。
楽しみ方として、最後まで巻末は見ないで読み進めるのがよいと思う。
え? 嘘。マジ?
読了後、答え合わせwを試みたところ、的中率は意外にも6割程度であった。つまり、「超」怖い話史上最強の怪談師と超-1から送り込んだ新人二人が拮抗した……とまでは言わないまでも、三代目編著者ののど元近くまでにじり寄ったと見てもいいようなものが、数割はあった。
個々の内容については、これから読む方の楽しみを奪わないためにも、ここでは語らないことにするけれども、「超」怖い話に夢明さんが刻んできた怪談の集大成を見たような気分を堪能できるだろうことは保証できる。





以下に、送辞を送りたい。


夢明さんは、新「超」怖い話(通巻第三巻)から数えて、のべ19巻(I/Λ除く)を執筆されました。「超」怖い話の通算執筆分量では、過去の「超」怖い話全作およそ1041話*1のうちの、ほぼ5割に当たる571話を書かれています。*2
中興の祖であった第二代編著者の樋口明雄さんが卒業なさった後、新「超」怖い話8(通巻第九巻)からは第三代編著者として、長く「超」怖い話の屋台骨を支えてこられました。


現在の「超」怖い話を例えるの代表的カラーのひとつである「グロくて狂気」という路線は、夢明さんが編著者になる前、新「超」怖い話で執筆を開始された頃から徐々に現れていて、結果それが平山「超」怖い話の代名詞ともなりました。
2007年の冬に新人を迎えた二班体制で分離するまで、途中、休刊を挟んだりもしましたけれども、もっとも長くひとつのシリーズをご一緒することにもなりました。
それだけ長く関わってこられた夢明さんですが、ついに飛翔のときは来たというか、実はとうに来ていたというか。むしろ後進が育つのを見極めるまで巣立ちを待っていただいていたというか。


夢明さんと一緒に作った最後の「超」怖い話Θのあとがきのタイトル「そったく」とは、卒啄と書きます。
卒は、孵化寸前の卵を雛が内側から嘴で突いて割ろうとする音を指し、啄は母鳥が外から卵を突いて孵化を助ける様を言う言葉だそうです。卒啄同時という仏法の説話から来る言葉だそうで、弟子と師匠の継承は絶妙のタイミングで行われなければならず、今がそのタイミングである、ということを意味すると言います。単に巣立ちというだけの意味でもないんですね。
とうに自由に飛び回れるようになっていた夢明さんという親鳥が、「超」怖い話という巣に残る若鳥に「後は自分達の力で飛べ!」という喝を与えてくれたのだ、と思います。


初代編著者・安藤さんから、二代目編著者・樋口さんにバトンが渡された後、安藤さんは「超」怖い話について一切タッチせず、完全に樋口さんに委ねていました。安藤スタイルは第一巻のみ、第二巻からは樋口スタイルに切り替わり、安藤さんが自らが退いた後の「超」怖い話に言及することはありませんでした。
二代目編著者・樋口さんが三代目編著者・夢明さんにバトンを委ねた後も同様で、樋口さんは以後の「超」怖い話には一切タッチせず、完全に夢明さんに委ねていました。樋口流から平山流に変わり、樋口さんが自らが退いた後の「超」怖い話に言及することはありませんでした。
現場に関わらないものは、それについて何も言わないという原則が代々貫かれたことで、後代の編著者は先達を意識せずに自由にその腕を振るうことができたのではないかとも思います。それが故、「超」怖い話は替わり続け、命脈を保ち続けてきたとも言えます。
ですが、初代から三代に渡って、KとMを除く全ての「超」怖い話に関わってきた身として、「超」怖い話を継承した先達の引き際の鮮やかさは、同時にプレッシャーでもありました。
今でこそ「超」怖い話と言えば夢明さんの代名詞のように受け入れられるようにもなりましたが、その初期には昔からの読者の厳しい目によって、常に樋口さんの「超」怖い話と比較され続けてきた時代もありました。書籍シリーズとしての「超」怖い話のライバルは、過去の「超」怖い話、過去代々の編著者であるのかもしれません。
事後を託された後、先達からはなんのアドバイスも干渉なく、自力でやっていかなければならないというのは、夢明さんにとって並大抵のプレッシャーではなかっただろうと思います。そして夢明さんの卒業によって、残された我々も同様のプレッシャーと対面していかなければなりません。いずれ、松村・久田両君に「超」怖い話は引き継がれていくことになるわけですが、我々も先代と比較されるという試練に耐え打ち勝って、「超」怖い話を託されたことに応えていかねばならないという覚悟を新たにしました。


「超」怖い話では、しばしば船を例えに挙げることがありました。二度遭難して連絡を断った船であったり、船長の舵取りであったり、新米の船乗りであったり。夢明さんの卒業は、「超」怖い話という船にとってもちろん小さからぬ重大な出来事なのですが、就役期間の長い大型艦にあっては、艦長の退艦と交替は必ず訪れる避けて通れないものでもあります。
その退任を惜しむとともに、これまでの功績を称え、礼砲と甲板一杯の儀仗兵の敬礼で送り出すのが船乗りの儀礼でもあります。


長らくの「超」怖い話の舵取り、本当にお疲れ様でした。

*1:バンブーコミック書き下ろし分を除く。

*2:ちなみに、加藤執筆分は全体のほぼ2割。