毎日新聞問題:謝罪の価値は

英文サイト出直します 経過を報告しおわびします
http://www.mainichi.co.jp/home.html

本日最大の話題は、毎日変態新聞問題に関する調査報告に尽きるだろうと思う。
例によって、忙しい人のために調査報告と謝罪内容について箇条書きでまとめてみる。

  • チェックを怠ってました
  • クレームを放置/無視してました
  • 重要な問題だと思ってませんでした
  • 追加処分(減俸)もしました
  • 再発防止に努め、同じことが起こらないようにします
  • でも、悪いのは全部ライアン・コネル(記事中では担当記者/外国人ライターと記載され、問題を起こした外国人記者の名前は伏せられており、記名原稿を掲げてきた毎日新聞にしては、原因究明と社会的道義的責任を明らかにしていない)
  • 誤報に基づくサイトには、説明と訂正を行います

まあ、言うのは簡単だけど、誤報に基づくサイトの発見と訂正が実際に行われたことを証明/報告し、読者のチェックを受けるということはどこにも謳われていないわけで、「やってますやってます」「今出ました今出ました」と口先だけで言っているのではない、という証明になっていない。
そもそも毎日新聞が信用を失ったのは、「口ではそう言いながら、結局なにもしていなかった」という事実があるからに他ならないわけで、「気をつけるので、これからは大丈夫です」と繰り返し念じること以上に、「今までの過ちについて、訂正/解消を進める手段と実績を、社外の一般読者が誰でも閲覧できる状態で報告します」ということを約束し実行に移さないことには、もう誰も毎日新聞の言うことは信用されないんじゃないのかな、と思う。



そして、なんでこう火に油を注ぐのが好きなのかな、と思ったのは以下の一節。「開かれた新聞」委員会の、柳田邦男委員による批評の最後のパラグラフ部分。

http://www.mainichi.co.jp/20080720/0720_08.html
(著者:柳田邦男:前半略、最後のパラグラフのみ引用)
 私は数年前からネットの負の側面に警鐘を鳴らしてきたが、今回の件はネット社会の落とし穴がどこに隠れているかわからないことを示唆するものだ。ただ、失敗に対する攻撃が、ネット・アジテーションによる暴動にも似た様相を呈しているのは、匿名ネット社会の暗部がただごとではなくなっていると恐怖を感じる。この問題はマスコミのネットとのかかわり方の教訓にすべきであろう。

ネット・アジテーションによる暴動、匿名ネット社会の暗部
ここについては、どの口が……という怒りに震えている方も多いのではないか。


このあたりの認識については、実名主義と匿名主義の衝突という話と繋がってくると思う。

実名主義と匿名主義の衝突には単純にこれだけの組み合わせがあり、その組み合わせの数だけ条件が変わる。*1


これについては、2008/3/7付けで「SNSとか実名とか匿名とか」というエントリーを書いているので、詳細はそちらに譲るが、
http://d.hatena.ne.jp/azuki-glg/20080307/1204850996
柳田委員は匿名主義のメリットと、実名主義のデメリットの部分に目を瞑っている。
インターネット*2は元々は確かに研究者同士が互いの文献を参照し合うために生まれたという経緯から、その草々初期においては実名主義だった。が、そこから研究者ではない(行使できる肩書きという影響力を持たない)利用者が爆発的に接続したことで、その性格が変わった。
実名主義、実名であるが故の責任の帰属を訴える識者の多くは、自身がその発言を実名ですることに大きなメリットがある人ばかりで、匿名の発言者に対しては往々にして「卑怯者」という烙印を押したがる。*3
だが、実名の発信・発言は、肩書きという絶対的な格差、ポジショントークの強要を生むことになるわけで、肩書きや立場から離れた自由な発想や発言を阻害する。
インターネットで大きな力を持ちつつある、匿名発言者による「肩書きも立場もない発言」というのは、肩書きや立場が重要な実名主義の人間にとっては闇の中から自分の既得権益を脅かすものになりかねないわけで、どうしても疎ましいと考え排除したいと考えてしまいがちになる。
柳田議員の発言の最後に、そうした「実名主義=記名で情報発信する人間の貴族的意識、匿名発信者に対する特権意識」が垣間見えた。



そして、毎日新聞謝罪記事/検証記事を全て通読してみても、なお足りないなと思うこととしては、読者が求めているのは陳謝ではない。それはあって当然だが、それで済む段階は過ぎている。
処罰でもない。それもあって当然だが、処罰で済む段階ではない。
再発防止でもない。それはあって当然だが、それは毎日新聞の社内的問題だ。
これについては以前も触れたので繰り返しとなるのだが、毎日新聞が失った読者、スポンサー、ネットの方々から求められているのは、上記の全てを踏まえた上での、原状復帰であろうと思う。


毎日新聞は、一連の謝罪記事の中にあって、「なぜ起きた」「誰が悪い」「誰を罰した」「もうしません」ということには相当数の誌面を割いている。
が、この最も重要な原状復帰の手段、方法などについては、

http://www.mainichi.co.jp/home.html#02
 「WaiWai」は既に閉鎖しておりますが、過去の記事を転載しているサイトなどが判明すれば、事情を説明し、訂正や削除の要請を続けていきたいと思います。

この一文しか載せていない。


では、過去の記事を転載しているサイトをどうやって探すのか。これは社内のプロジェクトチームだけで対応できるのか。社外の専門組織をアウトソージングとして契約するのか。文面を見た限りでは、「受動的に知った場合は」と受け取ることができるが、読者の通報などの協力を得るのか。だとしたら、その通報のための受け皿はどうなのか。そこに通報するとSPAMが送られてくるということはないのか。
また、過去の記事を転載しているサイトに対して事情説明と記事削除、訂正記事の掲載などを実際に行ったという、作業報告はどのような形で読者が検証できるようにするのか。


最も重要で、最も期待されていて、最も力を入れなければならない部分はここだと思うのだが。
毎日新聞が毎日の名前を使わずライアン・コネルが無記名で個人的な趣味としてblogで発信する分には、それこそ、そのblogが炎上し続けるだけの話だと思うのだが*4毎日新聞は自社の名前を用いて嘘の記事を流したわけで、「もう止めました」「もうしません」だけでは問題の解決にならないのではないか。


柳田委員を始めとする「開かれた新聞」委員会の識者諸氏は、そこのところ分かってるのかな、と大いに疑問を感じた。

*1:さらに、「実名主義の無名人と実名主義の無名人」というのがあるのだが、それはそれ「自意識過剰な人同士、好きにしなはれ」としか。

*2:というか、WWWは。

*3:政治家・タレント・著名人のblogが炎上したとき、だいたい「名を名乗れ、卑怯者!」と叫んで事態を悪化させる人が多いのだが、あれは須く「自分は名前を出すことで、自分の発言に付加価値を与えることができる、何らかの権威を持っている」ということを踏まえたものと言える。肩書きや影響力のない素人が実名を名乗っても、影響力行使に何ら寄与しないばかりか、実生活/社会生活に不自由を来す危険性を高める。議員先生のように守られてもいないし、有名人のようにオートロックのマンションに住んでいる人ばかりではないから。政治家のサイトがblogや掲示板を閉鎖したり、コメントやトラックバックを閉鎖したり、管理放棄したりして、自分に向けてどんな言葉が投げかけられているのかを、自分の支持者に見せないようにしているのも、結局は「名前を名乗らない卑怯者」という意識があるからに他ならないと思うのだが。

*4:朝日新聞のように、無記名で会社として嘘記事を流し続ける新聞社もあるのだが、あれもどうなんだろうか。