流血の日曜日と21世紀最初の世界恐慌

経済は専門ではないので、方々の方々の意見を拝聴しつつ勉強中。誰かに指南するためでなく、並んだ情報を考査して噛み砕いて自分自身が理解するための勉強、ということで。使い途のない知識がまた増えるorz


さて。
リーマン・ブラザーズがヤバイという話は、8月頃にはもう出回っていた。オカルトな話をするなら、「かの国のかの法則*1」というのがあってw、
「かの国について肩入れするような発言や政策、経営方針を採った者は、個人、国、企業、組織の形態に関する別なく、それまでの栄華栄光を失い、没落する」
「かの国から秋波を送られると、個人、国、企業、組織の形態に関する別なく、それまでの栄華栄光を失い、没落する」
というようなもの。「かの国」がどこの国を指すか、実際の事例の子細はもっと詳しいページがあると思うのでそちらに譲ることにする*2
リーマン・ブラザーズは7〜8月くらいから市況予想などが迷走状態に入りつつあり、明確な根拠なく韓国を持ち上げる市況予想が見られた。韓国は今月に入って金融危機の予兆を顕著に見せ始めているけれども、そうなる直前くらいの頃に韓国がリーマン・ブラザーズを買収するという話があって、リーマン側もそのつもりでいたらしい。買収交渉が進んでいたであろう時期と、リーマンがやたら日本経済を不安視して、変わりに韓国経済を持ち上げ投資を唆すような市況予想を垂れ流していた時期が、結構合致する。その時点で既にリーマンも韓国経済も火の車状態*3であったことが予想されるけれども、どうにか生き残りを模索しようとしていたものの、もはや手遅れだった*4ということなんだろなと思う。


ここで、「韓国ざまあ」とか「アメリカの没落」とか「アメリカ追従の自民党ざまあ」とか、ライバルや自分より力がある存在の失脚について手を叩いて喜ぶ感情的判断をする輩が出回るであろうことは想像に難くないのだけど、アメリカで金融不安、金融危機、金融恐慌が起こると、世界情勢全体が不安定化する、というのは先の大戦の発端を思い起こせば想像が付く。
僕の興味は主に安全保障問題なので、そのへんからこの先起こりそうな展開を想像してみる。


1)金融恐慌に陥ったアメリカは現状以上に不景気になり、地政学的な外交、安全保障よりも、国内経済対策など内政問題のほうを重視するようになる。


2)アメリカの二大政党(共和党民主党)はいずれも基本は「アメリカの国益」を優先する保守政党だが、地政学的な外交・安全保障を政策決定の重要事項に据える共和党に対して、民主党アメリカ一国の内政に重点を置く。このため、アメリカが不景気になると民主党が力を持ち、民主党が力を持つとアメリカはモンロー主義的な孤立主義または「自閉的大国」となり、自国経済最優先のために他国を締め出すなどのような行動を取ったりする。


3)現在の恐慌について、「内政重視」「景気回復」「恐慌回避」をアメリカ国民が求める場合、民主党オバマ候補が有利になり、アメリカが民主党政権になる可能性が高まる。


4)アメリカが、国内優先主義の民主党政権に変わった場合、アメリカによる外征(この場合、イラク、アフガンなど)は経済的負担になるという理由から、縮小されるか派遣軍の撤退が進む可能性がある。


5)イラク、アフガン他に駐留している米軍が撤退した場合、それらの地域は「米軍の支配から解放される」のではなく、「米軍にとって替わる勢力による覇権争い」が起こる可能性が高い。
それらの覇権争いは、例えばイラクなら少数派のスンニ派(旧バース党などフセイン大統領の支持基盤)の覇権を米軍が奪ったが、米軍が戦力の逐次投入という愚を犯していた時点では、それを移譲される側であるシーア派内での勢力争いが起きた。また、アメリカ以外の覇権国(例えばグルジアに侵攻したロシア、エネルギー確保のためにアフリカを影響圏下に起きつつある中国)が、アメリカがいなくなった後の空白地帯への影響力行使に進出してくる可能性は少なくない。
アメリカはいざというときに助けてくれない*5」という評価が定着すると、親米的な関係国・同盟国の離反が進み、アメリカの世界経済/国際安全保障に対する影響力(潜在的期待)が減じる。

[2008/9/17 追記]
……と書いていたら、9/17の時点で早速ウクライナの親欧米連立政権が連立解消した。今後、ロシアの介入で親ロシアの政党と連立を組み直し、ウクライナが親ロシア的ロシア衛星圏国に舞い戻るのか、総選挙で信を問うことになるのかはまだわからない。ウクライナグルジア同様ロシアから離反して親欧米に傾いていた旧ソ連邦主要国のひとつで、ロシアに取ってはエネルギーパイプラインを巡って「親ロシアになってもらいたい。厭が応にも」という国のひとつ。「ウクライナ峰不二子」と異名を取る美女首相のユリア・ティモシェンコは、ウクライナでは「ガスの王女」と呼ばれる天然ガスエネルギー富豪。同じくエネルギー利権で大統領退任後も首相としてメドベージェフをアゴでこきつかう神聖皇帝プーチン一世wとは、利権上は競合もすれば協力のために寝返ることもあり得る、まさに不二子ちゃんであるわけで、この先のウクライナで連立解消した後のティモシェンコの率いる政党が、ロシアと密約を交わして力を行使してくる可能性だって、ないとはいえない。

6)日本の太平洋戦争後の安全保障政策は、「世界最強のアメリカの同盟国となり、その庇護下に入る*6」が基本であった。けれども、仮にアメリカが民主党政権となった場合、アメリカはアジアに影響力を行使する覇権国(地域の代表的な大国)として、同盟国日本ではなく、実際に影響力・軍事力を持つ中国を刺激しない政策を選ぶ可能性が高い。*7
ブッシュの共和党は好戦的だったから、同じ共和党のマケインよりも、民主党オバマのほうが(米軍が世界各地から撤退して自国の内政に専念し、世界が多極化するので)世界が平和になる、という論説をあちこちで見かけるのだが……日本国内で自民党民主党が衆参の権勢を分け合う二大政党として権力が二極化した結果、「なにひとつ決まらないねじれ国会空転国会」が顕在化した。これと同じように、アメリカの衰退によって世界が多極化する場合、「ほどほどでバランスがよくなる」のではなくて、バランスをひっくり返してアメリカに取って代わろうとする覇権国同士の、「軍事オプションを視野に入れた」競争が現れてくる可能性が高い。


7)日本は中東からの原油輸入と欧州アフリカ西アジア(中東)への輸出のために、マラッカ海峡を抜けインド洋からペルシア湾に至る海路=シーレーンが、資源国ではない貿易国としての事実上の命綱となっている。
現状、これらのシーレーンペルシア湾・アフガン沖に展開する米軍のプレゼンスによって維持されているけれども、アメリカが内政重視に回帰してこれらのシーレーン維持を放棄した場合、日本はアメリカの庇護から抜け出して、自力でシーレーン維持のために海自を最前線に展開させる必要に迫られるが、自民党が総選挙で敗退した場合は、そのための維持費用の捻出、根拠法成立の成立は見込めなくなる。*8


8)アメリカがインド洋・西太平洋から撤退するようなことがあった場合、その空白を埋めるために手を挙げるのは、インド或いは中国だろうと思う。中国海軍(正確には人民解放軍の海軍。中国の主戦力である人民解放軍は「中国共産党の私軍」であって、中国という国の軍隊ではないため)の念願は太平洋への進出で*9、コレまでの所、弓状列島である日本列島とその領海、その南西端にある台湾島によって、中国は太平洋へ自国艦艇を公式には自由に展開することができないことになっている。高知沖で潜行が確認された未確認艦は恐らく中国海軍の漢級原潜だろうと思われるけれども、このように中国艦船が日本の領海、排他的経済水域などに出没するようになると、日本の船舶は常に「中国の艦船の思惑によって、シーレーンを封鎖されてしまう」という危機に置かれることになる。いっぱんの船舶には軍艦に対抗する能力はないからだ。


9)現状ではアメリカの第七艦隊が影響力を行使しているインド洋、マラッカ海峡を含む西太平洋が、アメリカ軍の縮小/撤退による影響力低下に見込まれた場合、「太平洋の共同管理」「西太平洋の管理を米軍以外に委ねる」といった事態が現実のものになる可能性がある。アメリカは自国負担を減らしつつも、自国と近い立場でアメリカに敵対する可能性が低い同盟国にその負担(海域管理)を委ねたいという思いがある。アメリカが日本にそれらの負担を委ねようとしているのは、そうした意図からだと考えられる。*10


10)日本が縮退するアメリカに替わって自国戦力によるシーレーン維持を行わない場合、縮退したアメリカに替わって太平洋に進出してくる中国と、日米安全保障条約と同程度の拘束内容を持つ「日中安全保障条約」の締結と、「パクス・チャイナ」への服従が求められる、という可能性がある。もちろん、アメリカはアジアの同盟国を簡単に手放すことはないだろうけれども*11、日本の有権者または与党政党が「脱米入華」を選ばないとも言えない。インド洋・西太平洋を中国に確保されてしまったら、中国に傅くことでしか日本は資源輸入も製品輸出もできなくなるからだ。


とまあ、ここまでは最悪のシナリオの予想だけれども、アメリカ発の金融危機によって米民主党政権が成立し、米軍が撤退縮小し、日本も民主党政権に替わっていった場合、こういうことは容易に起こりうる。
この夏の超物価高は政策の失敗というより、原油先物投資による原油価格高騰に端を発していた。政権与党がだらしないからこうなったわけでもなく、世界的に原油価格は高騰していた、ということだ。
もし、予測(10)まで至った場合、世界的な原油高ではなくてシーレーンの極東の末端にある日本だけが、中国の意向によって原油輸入・製品輸出を物理的に封鎖され、日本だけが今回の原油高以上の「燃料枯渇」に押し込まれる*12可能性は否定できない。というか、たぶんそうなる。



とりあえず、「リーマン? 何それ?」「ハゲタカファンドが潰れたんならむしろ万々歳では?」「アメリカが没落するのはざまあみろと思う以外に何も感じない」という向きがいたら、その後の世界はどうなっていくのか? について、幾つかある可能性の中から最悪の展開を想像してみたらいいんじゃないかと思う。


日本は付加価値産業の消費(娯楽消費)が小さくない。
今目の前にある、ささやかな娯楽の全てがすべて消し飛ぶ可能性を、ちょっくら想像して肝を冷やしてみるというのもよいかも。


未来は変わる。ずっと昨日と同じと言うことはあり得ない。
でも都合のよいほうに変わるなんていうこともあり得ない。
僕らはそういうことは遠くのほうで起こりすぎて、ついつい忘れがちなのだけれども、「もしかしたら起こるかもしれない、最悪のこと」を事前に何通りか予想できていれば、いざその事態に実際に見舞われたときに、心の準備くらいにはなるかもしれない。
「まだ起きていないけど、これから起こる最悪を事前に想像する」
っていう習慣を育てるというのは、怪談や恐怖を題材にした商品について、エンターテインメントとして以上に大きな意義を持つ部分だと思う。
あなたは、明日起こる最悪と1年後に起こる最悪を、ちゃんと想像できてますか?

*1:または「あの国のあの法則」とも。

*2:「あの国のあの法則」blog http://s03.2log.net/home/kkk666/

*3:遠因は言うまでもなくサブプライムローン問題。AIG破綻国有化、メリルリンチの買収も同様であり、このへんは「無限に右肩上がりであるような錯覚」に見舞われて狂乱地価暴騰を根拠に膨れあがって、そしてはじけた日本のバブル崩壊と、その余波によって不良債権を抱え込んだその後の銀行危機と構図的にはそっくり。

*4:法則がとどめを刺した、ともw

*5:グルジア紛争とか

*6:パクス・アメリカーナ

*7:民主党政権は伝統的に親中疎日的。80年代のジャパン・バッシングクリントンも、太平洋戦争のルーズベルトも、原爆落としたトルーマンも、全て民主党政権の大統領である

*8:現状でも米軍によるシーレーン維持を支援する給油法について、「タダでガソリンスタンドをやっている」といった非難から否定的に見られているけれども、ガソリン代だけで日本の輸出入船舶の用心棒をしてもらっている、ということについても報じるべきだと思う

*9:この辺りはロシアも伝統的に不凍港を求めて太平洋に出たがっている

*10:けれども、「米軍に金をせびられている」「責任を押しつけられている」「負担ばかり押しつけられている」という論調で、「アメリカに毟られる日本」という図式の報道が多くなされているため、やはりこれも「自国のシーレーン確保のための義務を果たす」という視点での報道や意思形成が阻害されている

*11:それを許すと、太平洋の西端、極東に同盟国がなくなり、アメリカの裏庭(西岸)に敵性大国の回遊を許すことになりかねないから

*12:その封鎖解除との交換として、中国による日本への様々な政治干渉が行われる。経済、軍事、安全保障、文化、報道から発言の自由に至るあらゆる分野に対して。