肉を究める

とうとう12月orz


さて。
今年はなんだかんだでいろいろと肉と立ち向かうことが多かった。
ベーコン、上等なハム、アイスバイン、シュバイネハクセ、リエット、コンビーフ、等々。
唐揚げとか肉団子とかローストビーフの類は以前からの定番レシピであり、新規開拓したわけではないので数のうちには入れないw


いろいろ作っていて思うのが、日本人としての自分の好み。

  • 「可能な限り生食しようとする」
  • 「素材の形がそのままのものをありがたがる」
  • 「味付けはできれば少ないほうが偉い」

大まかに言えばこんな感じで、刺身、姿造り、素材の味を重視、と言い換えられる。これは日本食の概念で、おそらく僕ら日本人は知らず知らずのうちに、この方向に沿うこと=良い食べ物、と考えているのではないかと思う。
これに加えて、恐らく昭和(というか戦後)に加わった要素が、

  • 「脂/油が乗ってると嬉しい」

であろう。鮪は赤身よりトロのほうが高く、口の中で油がほとびてトロけるのが旨いとされるし、牛肉はサシがたっぷり入って肉汁がだらだらこぼれ落ちるのが旨いとされるし。実際のところ、油分というのは甘味として感じられるものなのだそうで、口の中でほろほろと融けていく儚い食感と、その代わりに出てくる油の甘味をして「甘いは旨い」と感じているのかもしれない。まあ、ちょっと料理本や料理の蘊蓄本wを読んでみると、料理研究家を名乗る人はだいたい同じような感想を書いているので、そういうことなんだろうと思う。


今年いろいろ挑戦した肉料理は、どちらかというとヨーロッパ圏の肉食文化に因んだものが多かった。アイスバイン、シュバイネハクセはもろにドイツ料理だが、ベーコン・ハムの類はドイツ以外でもいろいろ作られている。リエットはフレンチ、コンビーフはどこだかわからんけれども、リエットとコンビーフは材料が違うだけで基本的に同じ系統の料理なんじゃないかという気もした。味を含ませて、加熱して、肉を繊維で解く、という食い物だし。


んで、思ったところとして。
日本は主に海産物を主タンパク源としていて*1、要するに魚を食ってきた。魚というのは、塩辛(塩蔵品)や干物にするような場合を除いては、鮮度が落ちないうちに食べることになる。干物もそれを作るのには塩が必要になる。もちろん、塩は海からいくらでも作れる……と思いがちだが、塩を作るのには技術や手間暇が必要なので、その昔は塩も貴重品だった。*2
さらに、日本はその緯度の関係から四季があり湿度も高い。さっさと食わなければどんどん腐敗してしまう。そうすると、なるべく塩も使わずに、鮮度も落ちないうちにとっとと食ってしまう……生食が発達する、ということなのだろう。
だから生食できたほうが新鮮でよいもの、おいしいもの、食べても平気なもの、という考え方になる。


素材の形がのほうが喜ばれるのは、どちらかといえば神経質な日本人の国民性から来るのではないかと思うのだけど、この神経質なところというのは「食品をいい加減に管理するとすぐに腐ってしまう」というところから来てるんじゃないかなあ、と思う。キチッ、カチッとしているのがスッキリする。だから、食材も「形が丸ごと全て見通せる(不備な点がないことを証明する)」ような状態で提供されると喜ばれる。魚なら姿造り、のような。鳥なら手羽先より丸鳥のほうがごちそう、みたいな。子豚は丸焼き、みたいn(ry
まあ、子豚の丸焼き(中華)や牛・羊の丸焼きというのが日本人の料理の概念の中に「豪華なモノ」として登場しにくいのは、日常生活の中にも歴史的にも「当たり前のモノ」としては出てきにくいからかも。
それでも、「丸ごと出される=饗応されている」という自覚はあるかも。


味付けは少ないほうがいいというのに関連して。最近、なんかで読んだけど出典忘れたのだが、「日本人は素材の味を生かすギリギリまでしか塩を使わないのを良しとし、西欧人は素材の味がわからなくなるギリギリまで塩を使うのを良しとする」というような話。日本人は薄味、西欧人は濃い味、というのは分け方としてはちょっと乱暴だとは思うけど、確かに「塩をなるべく使わず素材の味を生かす」のが日本料理の粋と言われ、「塩を可能な限り使って素材の味をはっきりさせる」のが西欧料理、というのはわからんでもない例え。
これは、魚料理圏と肉料理圏の違いなんじゃないかなと思わなくもない。魚料理では塩を使うのは焼く・煮る・蒸すなどする場合で、予め振っておいて水分と臭みを抜くのに使うが、肉料理は水分が抜けないようにするために、加熱する直前&調理の最後の頃に塩を振る。
でも、今年挑戦した肉料理の多くは「予めばっちり塩を振る。というかなする。というか漬ける」というようなものが多かった。ベーコン・ハムはもちろんのこと、アイスバイン・シュバイネハクセ、リエット、コンビーフなどなど、いずれも「下味をばっちり付けて熟成させてから作る」というものばかり。当然そのままではしょっぱいので、下拵えが済んだ時点で塩抜きをするわけなのだが*3、このへんは保存食だからそうなった、ということなのかも。
日本でも魚を材料とした保存食は塩蔵か乾燥のどちらかになるが、欧州の肉を材料とした保存食の多くは、乾燥よりも塩蔵が多いのかなー、という気がした。もちろん、ビーフジャーキーの類のような、燻蒸して長期乾燥する干し肉系保存食というのはいくらでもあるわけで、僕が単にまだそのへんに手を出していないというだけの話なんだけど、肉を塩漬けで保存して、その塩漬けしておいた保存肉、日本人的な感覚で言えば「取れたてではない、新鮮ではない食材」を、どうやって美味しく食べるかということに特化したのが、欧州食肉圏の様々な料理なんだろうなー、と。オレガノクローブ、バジルなどなどスパイスを多用するのも、これは臭み消し、つまり熟成臭を消すためなんだろうかとか、クリームやオイルを多用するのも、これも保存のためのオイル漬けの延長かとか、食材に脂肪膜を作るという工夫かとか……正解ではないかもしれない回答をあれこれこね回していろいろと考察し始めると大変楽しい。料理が仕事じゃなくて本当によかったw


さて。
現在、進行中の肉ネタが2本。
ひとつは前々から作ってみたがっていた「牛肉の生ハム」と呼ばれるイタリア料理・ブレザオラ。正確には牛もも肉*4の半生干し肉であるらしい。これはうちの冷蔵庫では作れないので、事務所の冷蔵庫に空きスペースを貰ってそこで仕込むことにして、先週から始めた。
塩・胡椒をすり込んだ牛もも肉を1週間ほど熟成。その後、表面の水分を拭き取ってから、「乾燥していて涼しいとこ」で保存する。事務所の冷蔵庫は、それはもう凄い年代ものでw 生鮮食品を入れておくと凄い勢いで萎びていくというかカラカラに乾燥していく。昔、ホットケーキミックスを水で溶いたものを入れて、うっかり忘れていたら、ボウルの中身がカビてしまったのだが、カビた上になおかつサラサラの粉になっていた、ということがあった。若気の至り。その他、食材を剥き身で入れておくとどんどん乾くので、以前ビーフジャーキー作りでも重宝した。
近年の冷蔵庫は冷蔵室・野菜室をなるべく乾燥させないでしっとりと湿度を保つ冷蔵というのが定番になっているので、こういう「乾かせまくる」というような熟成には向かないのである。ビバ、古い冷蔵庫。
そういうわけで、こちらは近々下拵えから熟成に移る。事務所番の有袋類がこっそり味見を重ねて完成前に食い尽くすようなことがあったら、全身にフサフサした灰色のむく毛が生え、一生ユーカリの樹から地上に降りることができない罰が下ればいいと思う。
完成は恐らく3カ月後。超-1が折り返しに入る頃、或いは3月発売の新刊の原稿が終わる頃。
ブレザオラは作られている量も多くなく、日本で手に入る所も少なく、出している店も少ないんだそうな。何しろ、ブレザオラで検索しても、楽天にもYahoo!ショップにもない。本来赤身肉で作るべきものをサシたっぷりのサーロインで作っちゃって、しかも100gで3000幾らとかするのしかない。しかも売り切れ*5
どうにかして食ってみたい。となれば、手探りでもなんでも作るしかないんですな。
欧州・牛肉料理の粋に敬意を表して、是非とも成功させたい。
そして、本物のカルパッチョを食いたい。*6


もうひとつは、大多数の欧州人には絶対に楽しめない肉。日本人以外だと、ノルウェーアイスランドくらい。
となれば、もう。アレですよアレ。鯨肉ですよw
イルカ肉ももちろん大好きだけど、鯨肉も大好き。ツチクジラはそれでもほそぼそと近海捕鯨で供給されているが、それよりもっと細々としかやってこないミンククジラ。
そもそもミンククジラに限った話ではないのだが、現在、捕鯨中断(モラトリアム)を行っているIWCというのは「鯨という資源が枯渇しないように、国際的に管理する」という組織であって、「捕鯨中止の組織」でも「鯨愛護組織」でもない。
調査捕鯨は「モラトリアムを解除するに当たって、鯨の生息数を科学的に調査・把握するために行うプログラム」としてIWC科学委員会が定めるもので、「調査捕鯨によって捕獲された鯨は、資源としてこれを無駄にしないようにするために、すべて有効に活用しなければならない」とされているわけで、それを販売処分してIWCの定める調査費用に充てているわけで、グリーンピースシーシェパードはいつでもかかってこいや、という話はさておきまして。


そんなシーシェパードグリーンピースなどの環境テロリスト*7と決死の戦いを繰り広げながら、生息数の科学的調査を行った結果得られた鯨肉なので、資源として無駄にしない、ありがたく頂戴したい。
これは、多くのMeatEaterには触れられない禁忌の食材であるわけで、食べ物について宗教的な制限もほとんどなく、ほぼどんなものでも食える日本人に生まれて良かったと思わざるを得ない。*8


えーと。
鯨肉、大安売りらしい、という情報を受けて、思わず共同購入しましたよ。ミンクが1kg/2980円かあ。すげー。安い。普通はミンククジラ赤身肉で100g当たり500〜800円くらい。
なんというか、久々に鮪の血合いじゃなくてミンクでハリハリ鍋ができる。他にもアレとかコレとかいろいろ思いつくけど、やっぱり刺身とハリハリ鍋で満足しちゃいそうな気がする。鯨臭いゲップが出るほど食える。
ああ、鯨。
ああ、鯨。
肉、ここに極まれり。

*1:長野を除く

*2:くさやは、大島・新島・八丈島などの島嶼地域で作られるが、島では貴重品の塩をなるべく節約するために、つけ汁を使い回し、海水を足したりしてああいう味になった。僕は苦手だけど(^^;)

*3:コンビーフは塩抜きしない。ベーコンは塩抜きをしないほうが使い勝手がいい。

*4:鮪、鴨、鹿、馬もあるらしいが、ここではとりあえず牛で。

*5:http://katogyu.co.jp/ZenCart/index.php?main_page=product_info&products_id=25&zenid=313e54da597703cc86953b10593c74a8

*6:以前も書いたが、本来カルパッチョというのは、豚の生ハムではなく、薄切り生肉でもなく、ましてや鮪の刺身とかでもなく、このブレザオラの薄切りをレモン、胡椒といっしょに饗するのが正しいらしい。

*7:米FBIと日公安調査庁の定める「暴力的組織」としての監視対象にそれぞれ含まれてるそうですよ。

*8:中国人は人間も食べるので、可食食材の幅で言えばさすがに中国人にはかなわない。ただ、大陸国である中国に鯨食文化・鯨食料理があるという話はついぞ聞いたことがない(あるかもしれないから怖いけどw)ので、日本人でよかった、ということにしておきたい。