MD事情:中国のASBMが配備されたら

潜在的脅威度はテポドン以上、中国が開発中の対艦中距離弾道ミサイル - Technobahn
http://www.technobahn.com/cgi-bin/news/read2?f=200904061517

中国が配備済みのCSS-5中距離弾道弾*1をベースに、艦載可能な対艦中距離ミサイル(ASBM)を開発しつつあり、それがほぼ佳境に入ってきてるらしい、というニュース。
これが艦載可能になり、命中誤差がハープーンなみの数メートル内に収まるようになるとどうなるのかというと、CSS-5相当のASBMを人民解放軍*2の海軍が独自に持つことになる。こいつは、当たれば一発で空母を撃沈できる。
それを数メートルの誤差で命中させられるASBMを人民解放軍艦船が搭載するということは、アジアで軍事的緊張が起きたとき、アメリカの空母などによる介入を牽制できる、ということでもある。
アジアでの軍事的緊張で中国が関わる可能性があるものと言えば、

  1. 台湾海峡の緊張
  2. 北朝鮮の軍事的緊張について中国が北朝鮮を支援し、米国と対峙するケース
  3. フィリピン・ベトナムなどと中国が島嶼領土を巡って軍事的に衝突する可能性
  4. 尖閣諸島沖縄諸島を巡って中国と日本が緊張するケース

が考えられる。
他に、中国が米軍に打信したという、「中国が西太平洋を米第七艦隊に変わって管理する」という、太平洋分割管理案にも影響を与える。
これは詳しくはTechnobahnの記事にもあるが、ASBMが配備されれば中国艦が彷徨く西太平洋・マラッカ海峡周辺など、日本が重要なシーレーン*3としている海域から、米第七艦隊が締め出されてしまうことになる。そうなれば、日本は今度は中国に対してみかじめ料を払わなければ、輸出入を断絶され、干乾しにされてしまう。*4
昨年の原油価格暴騰や、ソマリア海賊による船舶航行費用の高騰によって、日本では機械から石油原料製品、小麦粉などの食料品に至るまで、あらゆる末端商品価格に大きな影響を与えたのは記憶に新しいところで、この海域が「みかじめ料を払わないと安全に通過できない、それどころか通過を阻害される」というような、二次大戦中にドイツのUボートがやったような通商破壊行為をじんわりと中国にやられたりすると、それだけで一般的な日本人の日常生活は崩壊する。
この話は、遠い外国の話とか一般人には無関係な話とかではないわけなのだった。


そういえば、西松事件が発覚する直前の3/1頃だったか、2月末頃だったか、民主党小沢一郎代表は、「米軍は第七艦隊だけいれば十分で他はいらない」というような発言を行ったことがある。ほとんど、西松事件で忘れ去られつつあるけど(^^;)
この発言が如何に軍事的なプレゼンスとその影響を考えない暗愚なものであるか、ということ。
このASBMの話だけが中国と日本との緊張ではないんだけど、ここから米軍を排除すべきというのは、「日本は中国にみかじめ料を払って犬になりますワンワン」という以外の意味合いを見いだせない。


で。
日米がというか、日本がアメリカの技術を導入しながら進めていて、今回も備えてきたMD=ミサイル防衛システムというのは、実は配備理由は北朝鮮テポドンなんだけど、実質的にはその背後にある中国から降ってくるミサイルに備えたものだ、という話がある。
まあ、実際どうだと思うw テポドンははっきり言って口実。
中国のミサイルのほうが進んでるし命中率は高く、配備数は多く、そして中国は民主主義国ではなく、決して親日国ではない。
民主党は伝統的に日本外し・中国と親密という悪癖があるんだけど、中国が台頭する中で、アメリカの協力が必要なMDの配備が遅れたりするようなことがあると、日本も将来的にはアメリカも困ることになる。


中国が今回のテポドンを鑑みて、国連安保理への提訴に乗り気ではないのは、日米のMD配備に正当性を与えてしまうと、自分のところに火の粉が降りかかってくるというか、いろいろ障害になるから、と思ってるからじゃないかなあ、と想像してみた。


というような心配しすぎな展望論を、昨今のMD事情から想像したのだった。



追記:ASBMに関する補足情報

中国の新型ミサイルは「米国の超大型空母も1回の攻撃で破壊できる」 : Gizmodo Japan(ギズモード・ジャパン), ガジェット情報満載ブログ
http://www.gizmodo.jp/2009/04/1_21.html

*1:車両搭載して移動できるため、発射は中国の全ての国境地帯から可能になる。リンク先Technobahnに射程圏の図あり。

*2:中国は独自の国軍は持っておらず、中国の軍隊といったら普通は人民解放軍を指すらしい。人民解放軍は中国の国軍ではなくて「中国共産党の私軍」であり、その運用費用を国家予算ではなくすべて自前で賄っている「手弁当の軍隊」であるらしい。だから北京も人民解放軍の意向を軽視はできず、一方で人民解放軍が大戦中のように軍閥化しないように神経質な管理を測っているそうな。

*3:中東からの原油輸入や、欧州への輸出ルート

*4:現状では、西太平洋からインド洋、ペルシャ湾に至る海域は米軍の影響下にあり、中国は南方海域への大きな影響力を持っているとまでは言えない段階。