日本が悪い

今年の1/4に、年末年始の民主党小沢代表のニコニコ中継関連についてのエントリを書いた。小沢代表の動画に批判コメントを付けると、アカウントが削除されちゃうという言論統制の実現についての内容だった。
そこに、こんなことを書いた。

http://d.hatena.ne.jp/azuki-glg/20090102/1230858872
(前略)

日本人は戦争アレルギーと内省癖があるから、やられても文句を言わないどころか、外国から戦争を仕掛けられたら「日本政府が悪い、対応が悪いから相手に戦争をさせてしまった、謝罪すべき、対話で解決」とマスコミと野党が率先して言いそう。

初夢が悪夢というのもどうかと思うけど、昨今の報道の傾向や民主党などの批判傾向から考えると、それはないとは笑えない話。

(後略)


今回の北朝鮮によるテポドン打ち上げを巡って、このエントリで書いたのとほぼ同じ論調が、野党*1&マスコミで平然と出回っていた。
曰く、「日本が騒ぎすぎるから悪い」「事前に対話すべきだった」「今からでも対話路線に戻るべき」などなど。


戦争というのは、行為としての戦争(破壊行為や武器の使用)が目的なわけではなくて、「達成したい政治目標」がまずあって、そこに至るために政治的交渉があり、それらの政治的交渉(外交)が、対話では目的を果たせそうにない、ということになったときに、「強力行為(強制的な行為)として、目的達成を図るために手段を厭わない」ということで、交渉相手国に対して戦術・戦略上の【破壊行為】を加えることで、停戦後により有利な状況下で、初期の政治目標を達成すること、と定義できる。
このへんはクラウゼヴィッツ戦争論に詳しいが、この本は全部読むのは大変w 要旨としては「戦争は政治の延長」「戦争は手段であって、到達目的ではない」というようなことが分かってればOK。*2


んで、僕は安全保障趣味のミリヲタなのだけど、戦争に至らないに越したことはない、とも思う。*3
反戦論には「武器など持つから戦争になるのだ」という考え方と、「相手に戦争を起こす気をなくさせれば、戦争を仕掛けられずに済むのだ」という考え方があって、日本で反戦平和論を唱える人々は、全般に前者を採っている。僕はどちらかというと後者を採る人間なので、戦争をしないで済む、仕掛けられないで済ませるためには、相応の「こいつに手を出しちゃまずい」と躊躇させる程度の装備は必要だと考える。このへん、希求しているのは「平和」ではなくて「安全」である。


もちろん、誰もが拭きなど持たず、対話だけで平和が保たれるのは理想であろうと思う。
が、戦争というのは前述の通り、「異なる政治目的を持つ二国以上が、それぞれ自分達の政治目標の達成を諦めない」ときに起こる。
それも、近代戦は双方の合意によって始まるのではなく、多くのケースでは追い詰められた側が口火を切る、或いは勝利を確信した側が先制攻撃を始めるという感じで、どちらか一方が交渉を放棄した瞬間に戦争が始まる。


例えば、近いところで太平洋戦争(1941-1945:日本vsアメリカ)の場合、物理的な開戦は日本海軍の機動部隊による、真珠湾攻撃からとなっているけれども、ABCD包囲網による石油輸入ルートの遮断とそれにトドメを刺すハルノートによって、日本は「物理的な戦争=破壊行為を伴う政治的意志の完遂」以外に手段を失った、と判断して戦争を決意する。交渉の余地が失われたという諦観が開戦に踏み切らせた、という考え方。これは東京裁判でのパル判事他がそうした理解を示している。


コトが全て終わってしまった後になってから、「もっと粘るべきだった」「もう少し対話すべきだった」「もっと対話していれば開戦せずに解決できたかもしれない」という、たられば論的な批判が上がってくるわけなのだが、当時の日本はと言えば三国干渉による遼東半島返還からベルサイユ条約から譲歩しっぱなしで、「日本が黙っているので、まだまだいけると思っていたら、いきなりキレた*4」という感じだったらしい。
とはいえ、日本が主導的立場で設立にコミットしていた国際連盟*5から、「雄々しく正々堂々と退場」とか言って脱退してしまったのはよくなかった。対話の機会を自ら閉じてしまったのは最悪だった。


テポドン情勢で言えば、六者協議*6という交渉の機会があったのにも拘わらず、なぜそれが機能せず、テポドン発射を未然に止められなかったかと言えば、結局のところ「初期の政治目標を達成するに当たって、強力行為の遂行を躊躇しない」という意志が、日本より北朝鮮のほうが強く、また日本は「専守防衛、先制攻撃をしない」という自分に課した自発的なハンデがあるが故に、それらの強力行為を物理的に未然に阻止することができなかった。


ここで、「では日本が先に先制攻撃をしていればテポドンは防げた」というIFを正当化するつもりはない。
というか、当初触れた「十分に圧倒できる、或いは攻撃を躊躇させる程度の安全保障上の装備と、それを現実に行使する意志」が、相手に十分に伝わっていたなら、つまりは【先制攻撃も辞さず】という装備と意志が伝わっていれば、テポドンの発射を北朝鮮は躊躇していたかもしれない。
1998年の発射、2006年の発射と、日本はそれらに対して経済制裁情報収集衛星の打ち上げや遺憾の意の表明などはしてきた。だが、北朝鮮を軍事的に脅かす脅威を実際に与えたことはなく、「凄い武器はあるけど、国内法の自縄自縛により使わない」と宣言していて、実際、自分からは仕掛けない。


日本人の多くはたぶん内心こう考えている。
「自分達はこのように専守防衛に徹しているのだから、北朝鮮もそうすべきだ」
「やるなら同じ条件下でやるべきだ」
「自分達が我慢しているのに、先に手を出すのはズルイ」
「そっちがそこまでやるなら、こっちも同じだけやってもいいはずだ」
日本人は、わりと公平・平等・同じ条件・フェアというのが好きで、太平洋戦争を振り返る話などでも「同じ条件だったら」「日本も同じだけの物量を投入できたら」「日本も原爆を持っていたら」「日米が互角の戦力だったら負けない」というようなことを言う人が少なからずいる。


が、互角の戦力/勢力を持てているなら、そもそも戦争になどならない。冷戦中、米ソが散発的な緊張はあったものの最後まで全面戦争には至らなかったのは、勢力が互角であることを双方が望んだ*7からだ。核武装というのも、そうした戦力均衡による安定というのが念頭に置かれたものと言える。双方が同じだけの報復兵器を持っているからこそ、核時代は平和になる、というのが核軍拡時代のスローガンだった気がする。*8


戦争は、開戦前夜には勝敗が決まっている。
だから、「いつでも戦争を始められるように」ではなく、「戦争を仕掛ける気を相手がなくすように」するために、安全を保障するだけの装備は用意しておくべきなんじゃないかなあ、とも思う。
何もしないでみんなハッピーwというのが理想なのはわかっているけど、理想は理想であって、今目の前にあるのは理想から最も遠い現実だから。
平和は理想であって、安全保障が現実。
恒久平和は無理でも仕方ないけど、とりあえず安全は保障されたい。
隣近所全ての人が善人であるのが理想だけど、現実にはそうじゃないから家には鍵を掛ける。
安全保障というのは、玄関の鍵と同じもので、「ないに越したことはないけど、それをしていないときに被害を受けて相手の非をなじっても、失われた財産は戻ってこない」*9


現実論として、安全保障を考えた場合。
対話だけではどうにもならない相手や、対話による解決にタイムリミットが存在するような場合などへの対処として、対話以外の対処法を肯定してもいいんじゃないかなー、と思う。


なお、経済制裁は「相手に躊躇させる」という効果的な手段のひとつではあるけど、それは「相手国の経済が、自国に依存している場合」にのみ有効な手段で、元々経済的影響が小さい、依存している市場が小さい、迂回手段がある、などの場合はあまり大きな影響は与えない。どころか、経済的に依存しない別の生計手段を作られてしまえば、以後の効果がないばかりか、手詰まりになる。
日本の場合、「経済制裁を加えれば効果がある」という思いが強いのだけど、北朝鮮と日本の間に活発な経済活動や日本への依存規模が縮小されている現在、これ以上の経済制裁を行っても大きな効果は得られないのかもしれない。


さて、では。
「対話による解決」というのを掲げている人たちは、「お願いです、やめて」と言えば辞めて貰えると思っているんだろうか。「お金払います、やめて」という約束を過去に何度も繰り返し、見返りに軽水炉やら重油やら食糧支援やらをしてきたにも拘わらず、ほとぼりが冷めると全部ひっくり返して約束も守らない、という相手に対して、なお対話を続けたとして、これまでより劇的な改善に迎える、画期的かつ具体的な腹案はあるんだろか。


「平和的に対話で解決」
「粘り強く交渉を続ける」
これは聞こえがよく、無難な提案だけど、結局相手が意志を変えない以上は「とりあえず思考停止」と同じで、何ら解決には寄与しない。
六者協議の参加国の総意は「解決しなくていい、解決しないほうがいい」というのが根底にあって、北朝鮮の崩壊そのものは、実は全ての参加国が望んでいない。*10
日本が国際協調するなら「北朝鮮を崩壊させない=難民を発生させず、核/ミサイル技術を流出拡散させない」という点しかないが、難民の心配があまりないアメリカとは「核/ミサイル技術を拡散させない」という点でのみ協調できるわけで、逆にこの点は交渉相手国である北朝鮮からすれば絶対に合意できない点でもある。


このパズルは実際難しすぎる。
金正日死後、中国は鴨緑江を越えるのか、ロシアはウラジオストックより南に不凍港を入手するのか。まあ、これはどっちも動きそうだ。
だからこそ、北朝鮮というひとつの領域が拡散しない状態で韓国は北を併合したいと考えるんだろうし。
でも、どーなんだろ。
韓国は南下する中露を北朝鮮領内で物理的に押し返す、っていうのは……無理だろうなあ。グルジアなみの抵抗力しかないだろうし、アメリカは半島から撤退する方向で動いている昨今、北朝鮮領内で韓国のために米露中が代理戦争っていう目はまずなさそうだし。
そうなれば北朝鮮から38度線を越えた難民が、南にドッと押し寄せて……というのは、目に見えてるわけで。負け出た難民、或いは「韓国国内の混乱を回避する目的の第二難民(=韓国人)」が、親戚を恃んで日本やアメリカにやってくる、という玉突きのような難民移動があるかもしれない。アメリカはともかく、日本は近いし、先住在日韓国人が多くいるし、主要駅・公共設備はハングルで書いてあるし。
言語と習慣と価値観*11が大いに異なる国に、ごく少数の外国人が暮らす場合はともかく、大挙してなだれ込んできた場合、やはり大きな混乱は周辺国すべてに波及するんじゃなかろか。前の朝鮮戦争のときにも大規模な難民が「特別永住資格」を得たりしたわけだが、その前例に沿って今回も特例を、という話に……なるだろうなあ。*12


しかしそうなっても、やはり日本が悪い。そうでなければ政府が悪い。というところに話がいってしまうんだろか。
そして、○○○が悪い、というのを誰がどういう意図で、○○○ならうまくいく、と煽動するんだろか。そこを早い段階で見極められるよく見える目が欲しい、とか思う。


そんなわけで結論。

  • 「日本が悪い」「対話で解決」では話が先に進まない
  • 国連脱退は馬鹿げている。安保理が無能であっても先に椅子を蹴ったら負け。前回と同じ轍を踏んではいけない
  • 現実的に実行可能で、安全が保障される具体的な方法から目を逸らすべきではない

*1:共産は中露と協調、社民は斜め上、民主は執行部が遙か彼方

*2:他に「戦争論」では部隊編制や兵站の重要性などについても説いているのだが、持って回った書簡形式のうえ、ミリタリーマニアックな話だのクラウゼヴィッツの愚痴だのも書かれていてw、ホントに読むのがしんどい。単純な戦争賛美論ではないが、この本からしばしば引用されて説明のネタにされるもっとも重要なところは岩波版第一巻のごく最初の章にある。「戦争は政治の延長」「戦争は政治目的を達成するための方便(つまり、政治目的が達成できるなら戦争はしなくてもよい)」「勝敗は勝負の前の準備(兵站、戦略=ロジスティック)でその大部分が決していて、戦争の準備を怠る者は戦争には勝てない」(転じて、十分に勝利できる準備ができるなら、開戦することなく戦争に勝利したのと同じ政治目的を達成できる)云々がその重要な要素。

*3:日本刀は高い殺傷能力を持つが美しい。しかし、これを抜いて人を殺さねばならないところまで追い詰められる、または軽侮されてしまう時点で既に負けているのであって、日本刀の殺傷能力を相手に十分に周知させ、またその日本刀を抜いて斬りかかる意志と覚悟もあるということを相手が意識しているなら、実際に抜いて斬りかからなくても相手の意志を挫くことができる。故に「抜かずの宝刀」でありつつ、刀身は常に磨かれており、不用意に鞘から出さず、それを扱う人間は常に健全で正気でなければならないというのが安全保障の正しい概念。これと同じで、武器・兵器というのは高い技術力を持ち、その性能の追及は素晴らしいが、それを無分別に使うというのはいただけないし、実戦に使わねばならないところまで追い詰められたり、十分な性能(脅威)を相手に自覚させられなければ、戦意を事前に挫く役には立たない。今回北朝鮮は「核とミサイル」の運用技術獲得を見せつけることで、日米の反抗意志を「実戦前」に挫こうとしているのだが、それを管理運用する者が健全で正気である、ということを示せない時点で、その「不正規な行使を抑制できる」という信頼性は薄い。

*4:チャーチルの回想録にそうある。

*5:アメリカはモンロー主義の只中にあって参加しなかった。これが国際連盟の機能を後退させ、そのときの反省が国際連合に生かされることになったはずなのだが、結局P5の拒否権乱発が今の国連/安保理を機能停止させることに繋がっていて、二度目の国際機関もイマイチうまく機能していない気もする。

*6:よく「六カ国協議」と呼ばれるものとここで言う「六者協議」は同じものを指すのだけど、北朝鮮は【国】ではないという認識があるため、「six party=六者」というのが正式名になっていて、partyを「国」と訳してしまうのは、ちと無理があるのではないかと思うのだった。

*7:結果、軍拡競争になったが

*8:これを肯定するのは勇気が要ることなのだけど、実際そういう側面はないではなかった。常に核戦争が起こるのではないかという恐怖とも隣り合わせだったが、逆にそういう相互報復の緊張が膨らむに連れて、東西のホットラインの設置など直接対話や同じテーブルに就く機会の創出なども同時に図られた。

*9:刑事事件で財産の損失があったとする。お金などを奪われたとか。刑事事件の後、刑事事件の犯人に盗難された被害額の返還を民事訴訟起こして勝ったとして、犯人がそれらの財産を既に消費してしまっていた場合、なおかつ収監された受刑者に返済能力がない場合(それがほとんど)、結局、犯人が捕まっても失われた財産は戻ってこない。鍵を掛けて自衛していれば、防げたかもしれない。鍵を掛けないで受けた被害は、加害者をいくらでも非難できるが、損害は賠償されないかも、という話。

*10:中露韓日は難民の流入を懸念し、韓は急激な統合による韓国経済の混乱を懸念し、日米中は北の核/ミサイル技術を韓国が独自に継承することを内々懸念している。北朝鮮金正日存命中に核/ミサイルを完全に放棄するなら、体制維持を認める、というのが基本的合意事項のはずなのだけど、体制を崩壊させないためにミサイルを認める、という方向にシフトチェンジしているのが中露、いずれ統合するときにそれらの技術があったら嬉しいな、というのを狙っているのが韓国。各国共に生臭い。

*11:善悪の基準とか

*12:白真勲など大韓民国民団が、「同胞」を日本に帰化させた上で被選挙権を得、民主党に肩入れしているのは、それに備えているからだ――という陰謀論もある。民主党が政権に近付くのは、それだけタイムリミットに近付いているからだ、というような陰謀論民主党の親中/親韓度を見ると、あながち……と陰謀論に身を寄せたくなってしまう。危ない危ない。