小沢代表、辞任

仕事が渦中のときに限って、政治的に興味深いニュースが疾りやがる。


民主党・小沢代表が辞任表明の模様。

民主・小沢代表、辞任の意向(産経新聞) - Yahoo!ニュース
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090511-00000577-san-pol


民主党:「挙党一致をより強固にするために」小沢代表が辞意を表明 緊急会見で
http://www.dpj.or.jp/news/?num=15898&ref=rss

民主党:小沢代表の辞任表明「断腸の思いである。十分に支えられなかったことは大変残念」鳩山幹事長
http://www.dpj.or.jp/news/?num=15900&ref=rss


確か、プーチン首相来日中の5/13に民主党側から党首討論を申し込み、総理は外交日程上忙しくて受諾しないだろうと思ってたら麻生総理が受けちゃって、しかも党首討論直後に民主が嫌がってる法案決議を行う、と通告されたもんだから、「それならば党首討論を拒否するかも!」と、自分で申し入れた日程を拒絶し……そんなに党首討論が嫌なのかと思っていたら。

党首討論が嫌だからって、党首を辞めてしまう

って、どんだけ本末転倒なんだw
そんなに嫌だったのか(^^;)


……というツッコミが、恐らく今日だけで有権者総数に匹敵する数だけ行われていると思う。確信。


次期総選挙に向けた民主党のアキレス腱は小沢代表につきまとう西松献金問題だったわけなので、小沢代表をパージしてしまえば民主党は問題解決、クリーンな身体に戻って新しい代表を立てて総選挙に臨むことになる。と、単純に考えたのだろう。
しかし、政権交替のためなら党首もパージww
次の問題は「では、誰が次の代表に?」という話になる。
取りざたされている候補は以下の通り。

  1. 岡田克也
  2. 鳩山由紀夫
  3. 菅直人
  4. 前原誠司

まあ、妥当な線。
というか、民主党の代表というのは持ち回り輪番制なのではないかという気がしてくるのだが、それはあまりにも短期間に頻繁に交替してしまうから(=信賞必罰というか、パージの条件が厳密すぎ交替サイクルが早すぎるというか)。

それぞれの歴代代表の経歴をざっと見てみよう。

岡田克也

岡田克也小泉政権郵政選挙を行ったときの代表なのだが、小泉政権による未曾有の自民大勝利(与党合計で2/3獲得)の責任を取って代表辞任。
小沢代表の対決路線とは異なる「対案路線」を行っていたけど、郵政民営化に対する対応に失敗。
経歴としては、官僚上がりで、イオングループの御曹司。スローガン・持ち味は「マジメ」「ひたむき」「若さ」とされてきたが、郵政選挙の大敗で「選挙に弱い」「打たれ弱い」という烙印を捺されて退場。
あっ、思い出した。
イオンの店舗建設を、西松建設が非常に数多く請け負っている件。これまでのところ、この問題はマスコミからは「今はまだ焚きつける段階ではないもの」としてやんわりスルーされてきているけれど、民主党代表あるいは政権首班という「ポカがクローズアップされやすい立場」に立たされた場合、俄に注目を集めてしまう可能性がある。その意味では、岡田克也には西松事件に繋がるアキレス腱がある。

鳩山由紀夫

小沢体制下で幹事長を務める。資産家であり、民主党の資金的なオーナーでもある。党内に強い影響力を持ち、小沢続投も辞任も鳩山次第と言われてきた。
民主党創設メンバーであり、民主党が今よりさらに「代表のコマ」が足りなかった頃、盟友の菅直人鳩山由紀夫の間を代表が行ったり来たりしていた時代があった。つまり、安定してはいるけれど「またおまえか」的な印象が強く、新鮮さを打ち出せない。
小沢体制下での幹事長としての発言では迷言・失言を連発しているのだけど、マスコミ総擁護体制下ではあまり注目を集めなかった。
APAホテル社長夫妻主催のワイン会に先に更迭された田母神前空将(空自)と同席していた前科があるのだが、これを【改めて掘り起こされる】恐れがあり、最初っから爆弾を抱えているとも言える。

菅直人

民主党創設メンバーであり、鳩山由紀夫との間で代表のキャッチボールをしていた時代があった。
新党さきがけ出身で、厚生大臣の経験*1を持つ。全般にこの人も迷言が多いんだよなあ(´・ω・`)
民主党議員の国会でのスタンダードなスタイルである、「質問では罵倒ばかりをして相手に答えさせない」「揚げ足取りを狙う」という手法を確立させたのはこの人で、長妻昭馬淵澄夫、自殺した永田寿康など、民主党若手のスタンドプレー気味な「論客」に議論の仕方を指南した、という本人主張を見たことがある。
どちらかと言えば対決路線なのだが、この人の場合、下劣な揚げ足取り、下品な野次、自分の発言も否定するなど迷走が多く、政権を担わせるのはかなり危険だと思う。
年金問題」で自爆して辞任。
スローガンは「政権交替」というくらい政権交替への意欲というか執着心が強いので、対決路線で行くなら有力候補の一人かもしれない。
選挙戦は「麻生の皮肉」「菅の悪口」の応酬となり、「麻生の皮肉は汚い罵倒、菅の悪口は痛烈な批判」という報道になるのが目に見えてるのだが、この人の悪口は下劣なものが多いので、個人的にはちょっとイヤ(´・ω・`)

菅直人語録(菅直人の下劣な悪口と失言wの端的な例)
http://yasz.hp.infoseek.co.jp/log2/kan-56.htm

前原誠司

小泉政権時代に代表を務めるが、故・永田寿康による偽メール事件で引責辞任
方向としては対案路線。リベラルだが安全保障政策は自民とほぼ差がない。それ以外については概ね民主党の権化w
党内を掌握できるほどの影響力を行使できる「権力の源泉」がないため、支持グループによる傀儡政権になる恐れが強い。
前原対案路線が功奏しなかったという理由で、その後の民主党は「政権奪取体制=小沢体制=対決路線」に舵を切ったという経緯があるため、政権交替を最優先するなら「対決路線」人事が優先されると思われる。

一方で自民党が最も怖れる候補は実は対案路線の前原誠司とも言われている。例えば福田/麻生以前、小泉/安倍で行われた郵政民営化などの構造改革政策に限って言えば前原は小泉の盟友と言われるほど路線が近かった*2

民主代表として対案路線に舵を切るなら、自民党としては警戒しなければならない「厭な相手」だが、政権奪取を目前にした民主党としては「対決路線の確約」がなければ推したくない代表。
また、永田偽メール事件に見られるように、党内の安全保障(特に情報管理)がぐだぐだで、【簡単に騙される人】という烙印を捺されて退場した過去がある。党内各派からは逆に「簡単に騙せる代表」「操りやすい」と見られている側面も。
二度目ということもありフレッシュさを押し出すことは難しいだろうけれども、一応、クリーンさは押し出せる、と民主党が「小沢一郎をパージするスケールメリットを最大限に生かしたい」と考えるなら、前原か岡田か、という選択肢になりそうな気はする。



ざっと駆け足かつ朧気な記憶に基づいて。

ただ、今の時点では情報不足で少々判らない点もある。
それは以下の点。

  • いつ辞めるつもりなのか(辞任時期は明言したのか)
  • 代表選は行うのか

まず、「いつ辞めるか」について。
「辞意を表明、今すぐ辞める(総選挙前の代表交代)」
「辞意を表明、総選挙後に辞める(総選挙後に代表交代)」
では、辞任の意味が違ってくる。
今の時点で辞意表明する民主党にとってのメリットは「民主党はクリーンな新代表を選挙の顔に据える」ということになるから、総選挙前の代表交代と考えるのが無難だろうと思うし、多分そうなのだろう。
そうなってくると、判らなくなってくるのが次の疑問点。

代表選は行われるのか?】という。
民主党の2008年の代表選では、「党内に波風を立てないために」という理由で他の候補者が立候補を辞退あるいは断念し、無風状態で小沢代表が再任された。故に、代表選は行われていない。
民主党は「会費を払った党員・サポーターが代表選への投票権を持つ」という党則があるのだが、実はそれ以前の代表選でも一般党員・サポーターは代表選に参加していない。これは、「急な話だったので」ということに尽きるんだけど、ここんところ民主党はずーーーーーーーーーーっと一般党員・サポーターに拓かれた代表選は行っていない。
たぶん、総選挙を目前に控えた今回の場合も、代表選の一般党員・サポーターの参加はないんじゃないかと思われる。党則、有名無実化。
一般党員・サポーターの参加がない場合、民主党所属の衆参両議員による選出になるのだろうが、そうなると投票以前の根回しでほとんどが決まる。
要は、「誰が鳩山由紀夫口説き落とせるか」になるわけだ。
鳩山由紀夫自身が「小沢対決路線を継承し、」擁立される可能性も皆無ではないが、代表が引責辞任をするときに幹事長が連座せずに昇格、という人事が果たしてあるかどうか。
そうなると、菅直人岡田克也前原誠司による鳩山争奪戦で全てが決することになるのではないか。
もしくは、小沢一郎が影響力を残して院政を敷くことを考えて【いないはずがない】のでw、小沢の支援を誰が取り付けるのか、という話になる。
小沢の進退が取りざたされてきたとき、岡田克也菅直人があまり積極的に小沢辞任を言わなかったのは、院政を敷く小沢から権力禅譲を受けるというか、代表選での小沢支援(小沢容認)を受けたい、という気持ちがあったから、と言えようか。
ただ、小沢は権力(影響力)を失ってはいない(だからこそ執行部は腫れ物に触るように小沢を大切wにしてきた)とはいえ、マイナス要因のパージのためにその役職を退くわけだから、そういった人物の推挙を受けることは、必ずしもプラスになるとは限らない。
「西松問題の小沢の肝煎りの新代表」ということになれば、マイナスイメージを払拭するための代表辞任効果が薄れてしまう。
その意味では、小沢と距離を取り、代表辞任に積極的だった前原にリーチがあるようにも見える。




民主党が仮に前原体制で「対案路線」に舵を切った場合。

経済に関して、今このタイミングで「財政再建の優先」「緊縮財政」「支出抑制」を行ったりしたら、日本は改めてバブル崩壊直後に逆戻りする恐れがある。赤字は増大したが、麻生政権による「経済的パニックを緩和するための、経済への公金注入政策」は、緊急避難的な政策としては正しいと思うので。*3


安全保障に関しては安心できる。ただし、前原体制が党内主流派の反論を押さえ込めるのなら。自民党は安保政策に関しては中道右派だが、外患というか安全保障上の脅威が高まっているときは自民党の安保政策が支持を集める(現状では北朝鮮、中国の伸長など)。前原誠司の安保に関する主張は概ね自民と協調できるものなので、前原代表で総選挙を戦う場合、前原代表が民主党内を掌握できるなら安全保障政策は選挙の争点にはなりにくいだろうと思う。
直前に起こり得る北朝鮮による核実験、ソマリア海賊問題などが争点となる場合、前原代表が党内を押さえ込めなければ、それだけで一気に自民有利に傾く。だが、北朝鮮・中国・ソマリア民主党及び社民/共産/国民新党にとって「一致団結できない議題」でもあり、強い影響力を発揮できない前原に野党野合の舵取りは難しい。


人権・移民(在日外国人)・国内治安維持などについて言えば、長いトンネルに入るのは覚悟しなければならない。これについては、民主党の議員の殆どは、民主党の基本方針と大差ないと感じる。



ともあれ、「いざ」という局面で日本を混乱させたり、所属政党に破壊的な混乱を与えるのは小沢一郎の十八番であるわけで、今回も素晴らしいタイミングwで必殺技が出たなあ、とは思う。





付記:2009/5/11 18:00
重要なことを忘れてた。
このタイミングでの辞意表明を、麻生総理がチャンスと見るかどうかだ。
民主党が代表選を行い、代表を選出してしまう前に選挙戦に突入すれば、民主党はリーダーのいない迷走状態のまま選挙戦を戦わなければならなくなり、民主不利、自民有利。


リーダー選出を待つのが仁義だろうが、選出された新代表にはご祝儀的な「期待感」が付く*4ため、新代表が決まった直後の解散は自民に不利。
となれば、新代表が決まってアキレス腱が見えてから、ということになろうけれども、代表選がずれこめば、総選挙までの持ち時間は少なくなる。
民主が「代表選をいつ、どのタイミングでやるか」で、次期代表のご祝儀期待感を総選挙に生かせるかをコントロールできることになる。つまり、麻生総理側が混乱に乗じた解散を行わなければ、民主が総選挙のタイミングをコントロールできることになる。


現在、麻生政権は経済対策のための補正予算を今国会を延長せずに通したいという考えでおり、政局或いは総選挙を優先するなら今国会での*5補正予算成立は諦めなければならなくなる。
今国会の会期末は6/3なので、延長せずに通せるとしても最短で6/3までは解散は「できればしたくない」のが麻生総理側の事情。


民主党が新代表を選ぶための時間的余地も、そこまでは稼げるということになる。持ち時間はあと3週間ほど。
では3週間で一般党員・サポーターが参加した本格的な代表選が行えるかというと、それは絶対に無理なので、直接指名による権力禅譲を容認しないで、形だけでも代表選をやるということになれば、所属議員のみの推挙による代表選となり、民主党はまたしても拓かれない代表選出に臨むことになる。


また、昨秋の民主党代表選で候補者が出なかった理由は「党内の混乱を回避し、(小沢容認で)一本化するため」だった。その「一本化のための重石」だった小沢代表の辞任により、複数候補がそれぞれの主張を携えて立候補することになるわけだが、小沢が作った「対決路線で支持率を伸ばし、政権交替を題目にする」という路線の誘惑に民主党議員が勝てなければ、「政権交替を念頭に置いた対決路線」が圧倒的に支持される。その場合に、菅直人岡田克也連合vs前原誠司という図式もなくはないような。


「何が何でも政権交替」という誘惑にのめり込み、最後の一押しで美味しいところをかっさらいたい菅直人は、しかし同時に【チャンスをピンチに変える男】としても有名であるわけで、ここで菅直人を推してくる、民主党にとって最大のチャンスがピンチに変わる――という急転直下の展開を実演させてみせたら、僕は芸人・菅直人を一生涯奉戴したいw


6/3に、民主新代表選出、国会終了、衆院解散となった場合、選挙戦は6月中、早ければ7月には次期政権が決することになる。
が、それをしないでさらに引っぱって任期満了まで行く場合(9月選挙)、8月解散・公示、9月投票になる。その場合は、6月の代表決定から8月の解散・公示までの間に、民主党への期待感がどれだけ保つか、新代表のアキレス腱が露呈しないか、というのが課題になってくる。


新代表が前原誠司の場合は、安保上の緊張は自民の追い風になるとは限らないわけで、このへん補正予算*6と政局の二択になる麻生総理の判断は難しかろうと思う。




仕事はえー。

*1:かいわれ、薬剤エイズ。一方、小泉政権時代に表面化した年金問題諫早湾干拓工事問題の根幹原因は、菅厚生相時代に端を発する。「誰だ、こんな政策にOKを出したのは!」「アンタだ」という素晴らしいコント。

*2:それが故に民主党は「民主党の改革案を自民が盗む」とまでぼやいた。竹中平蔵は、民主党が政権を得たときに引き抜くつもりでいたのを、小泉政権に先取りされてしまった、ということらしい

*3:これが恒常的な政策だとしたら正気の沙汰ではないけど、緊急事態に緊縮財政を行ったら何が起こるかは1990年代に経験済みのはずだ

*4:昨年の麻生総理(総裁)も選出直後は高支持率だった。

*5:選挙に勝てなければむしろこれっきりで

*6:ここまでで景気対策予算のほとんどが通過済みだったことは、不幸中の幸いと言えると思うけど。