投票ハンドブック(1)

今、物凄く後悔中。


数年前から、「メディアリテラシーハンドブック(仮称)」的なものが売れるんじゃないかなという淡い期待から、どこにも出さない企画書を*1書いたり消したりしていたのだけど、メディアリテラシーと定義してしまうと適応範囲が広すぎるのと敵が増えすぎるのとwで、なかなか実現しなかった。

  • 新聞・週刊誌などから正確な情報を得るには
  • テレビ・ラジオなどから正確な情報を得るには
  • 「識者の発言」の読み解き方
  • 「政治家の発言」の読み下し方
  • 一次ソースの探し方
  • インターネットの活用の仕方

当初想定として、このへんを考えていたわけなのだが、ちと幅が広すぎて、総論的なものになりがち。具体論を挙げられないと、「道路を気を付けて渡りましょう」で交通安全対策を、「みんなで仲良くしましょう」で国際安全保障対策をしたつもりになるのと同じになってしまうし。


で、今この段になって、ああやっておけばよかった、と後悔しているのが、表記の「投票ハンドブック」。
区役所、市役所から投票券が来たら? とか、ハコの前に座ってる監視員の人達ってアレはなんなの? とか、そういうのを説明するものは、たぶん市区町村の選挙管理委員会の啓蒙パンフに載ってたりはするだろうと思うけど、「誰をどう選んだらいいのか?」という、割と重要なところに踏み込んだガイドブックというのはあまり聞いたことがない。
それこそ「うちに投票しろ」「あいつはだめだ」「政治的に不均衡だ」「政治運動の一端を担ぐ」「そんな本を出したら、もし万一のときに政治家や政治団体や市民団体*2から圧力を受けたら出版社が傾く」と、いろいろ支障があって実現が難しいのだろうと思う。


○○○はダメだから×××に投票しろ、と結論を言うのだったら簡単で、それこそ何も考えなくていいから白紙委任しろという民主党の主張*3と同じになってしまう。これはなんかバカにされているみたいでイヤ。
また、どちらか一方の主張に依拠した内容の本だったら、どちらか一方に向けてしか売れないだろうので、商品としても商機を自ら狭めることになってよろしくない。


選挙というのは、「公約などから立候補者・政党という選択肢をんで、推する」から選挙なのであるわけで、その選択肢をどうやって見極めるのか、しかも争点が複数の場合はどうか、総論賛成・各論反対の場合はどうか、それを主張している候補者の、その他の政策はどうか。
例えば、

という政策的争点があるとする。
自分の中で優先順位が高い問題はどれか、それぞれについて個々の候補者・政党は、どういう主張をしているかを知った上で、優先順にそって決めていくわけだが、

  1. 最良の政策を掲げる候補」を選ぶのと、
  2. 最悪の政策を掲げる候補」を選ばないのとは、

等価であるようで意味が違う。

(1)は最も良くなる、幸福を追求し、理想を実現するためのポジティブな選択だが、夢・理想というのは人によって違うので、大多数が同じ理想を選択するということは、実は案外少ない。
(2)は逆に、最も悪くならない、最悪を追及しない、悪夢を避けるためのネガティブな選択ということになる。


選挙というのは、よりよい選択を選ぶものという意識が強いのだが、この選び方で選挙に臨んだ場合、支持・選出されたものが理想通りの行動を取らなかった場合、それは失望から憎しみに変わる。「俺の期待を裏切りやがって!」という怒りにも変わる。世の政治家、行政上のトップ(この場合は内閣とか)は、そもそもが多数支持を得てその地位にあるわけで、就任当時は選挙という有権者の多数がそれを推挙している。票を金で買うことはできないし*4、皆が理想を選んだ結果彼等はその地位に就く。
が、個々の理想が等しく実現できるとは限らないから、結果的にそれは失望→怒りに変わって、一度は支持した候補の批判に繋がる。
これそのものは、民主主義の健全な「権限の執行者の交替」を促すことになってるので悪いとは思わないけど、毎回毎回都合のいい夢を相手の中に見て、相手が自分の思い通りにならないからチェンジする、の繰り返しではあまり発展的な効果は期待できないことになる。


逆に「最悪を選ばない」という選び方をする場合。棄権・白紙投票・投票所に行かないなどの死に票は、これは最悪を選ばなかった行動を取ったことにはならない。どちらかというと、何らかの投票行動を取った他の人の投票結果に対して、意志を示さずに白紙委任するということに近いわけで、【最悪を選ばなかった】ということにはなっていない。白紙委任した結果、自分が最悪と思うものが選ばれることを座視することになるからだ。
最良が選ばれるように、上位になるように、という投票行動は、結果的に上位、例えば小選挙区制だったら得票数1位の人が勝ち抜ける結果を後押しすることになるのだが、立候補者が5人いたら、生き残れるのは1/5で、4/5に入った票は死に票になる。
逆に、最悪が選ばれないように、最下位になるように、という投票行動を取る場合、意図して最悪だけを選ばないことで、自分の目標は4/5の達成率となる。4/5の確率で死に票にならない。
結果的に自分の推す候補が当選するかどうかではなく、自分が推さない候補が当選しないようにするために逆張りをする、という考え方である。


選挙というのは、いちばんいいものを選ぶ機会であると同時に、最悪を選ばない意思表示をする機会でもある。
――民主主義は考え得る限り最悪の政治体制である。ただし、それ以前にあった全ての政治体制を除いた場合。*5
最良を選ぶのではなく、最悪を選ばない。
そういう考え方をするのもありと思う。


それを踏まえた上で、「誰が口当たりのいいことを言っている最良の候補か」を見極めるのではなくて、「誰が最悪の候補か」を見極める、という方向で考えるとよいのでわないかい、という。


その上で、「争点と言われている問題の検討すべき点、双方*6の主張のメリットとデメリットを俯瞰でき、個々の問題別に支持意見に○を付けていったら、自分が総合的に推挙する候補・政党がわかる――。
そういう方向で実用的投票ハンドブック本を作ったら、何らかの需要喚起はできたんじゃないかなあ、と。
選挙の争点は毎回変わるわけだから、選挙の度に(数年ごとだけどw)新刊が出せるぞ、とか。


次の衆院選は最速で7月上旬公示8月投開票。任期満了までいった場合でも9月投開票になるので、準備期間としてはかなり厳しいけど、その次の参院選は2010年夏で動かないので、争点がある程度出揃うのが4〜5月頃として、今から準備始めたら十分余裕で間に合うんじゃないかなとか。


毎回選挙のたびに思うんだけど、「結局今何が問題になっていて、なぜ二つかそれ以上の解決策(公約)があって、それぞれのメリットデメリットを一覧として俯瞰できる手段」というのがないのは不便だな、と。
選挙公報を読むのは趣味なので*7毎回目を通しているけど、あれだって結局その人が何をすべきと思ってるのかがよくわからない、イメージ/印象のみのものが多くなってきていてあんまり役に立ってない。
実用書としていけると思うんだけどなー。これ。


投票ハンドブック(2)
http://d.hatena.ne.jp/azuki-glg/20090713/1247468277

*1:待てw

*2:主にコレ

*3:選択肢を提示せずに自分達を選択しろとか、具体案は政権を取ってから考えるとか、ここんところ民主党はそういう衆愚的煽動発言が多いので、政権奪取後に何をするのかまるでわからない。

*4:給付金を票を金で買うバラマキという輩もいるが、金を貰っておいて他党に投票することもできるし、その投票行動を証明することも証明する義務もないのだから、金で票を買ったことにはならないのは明白(´・ω・`)

*5:反意的に、民主主義にはいろいろ問題も多く最良にはほど遠いが、封建体制や独裁体制、共産主義体制に比べたら遙かにマシで、最悪から最も遠い政治体制である、という意味。

*6:二大政党制なら選択肢は二つで第三の選択肢はないが、現実では二大政党+小政党の割拠なので、第三、第四の選択肢もある。

*7:泡沫候補の主張を読むのが楽しいからw