自分の提案に反対する

民主党には前科があるのだが、またやらかしているらしい。
要旨としてはこんなとこ。
鳩山代表参考人招致するなら、民主党提案の政治資金規正法改正案の審議には応じない。成立しなかったら、参考人招致を言い出した自民が悪いのである」


……は?


よくわかんないので、その前に個人献金問題の現状をおさらい。
件の鳩山代表故人献金問題は、僕が忙しくしている間にどんどん進展していた。

  • 死んだ人、献金した覚えのない人からの個人献金があったことになってた
  • 「秘書が勝手にやったこと」「自分の個人献金が少ないことを秘書が不憫に思ったらしい」で説明責任終了w
  • 処理し直したら、実は政界で個人献金が飛び抜けて多いのが鳩山代表だった。*1
  • 個人献金は税控除の対象になるので、鳩山事務所から総務省に人数分の税控除証明が請求され、それは発行されていたらしい。
  • 税控除証明は、「架空の献金者」の分も発行されていた。
  • 存在しない献金者宛に税控除証明を送れば戻ってくるはずだし、心当たりのない税控除証明が来たら受け取った側もそこで気付いたはずだが、どうやら送られていなかったらしい。
  • 総務省は修正後の税控除証明の返還を求めているらしいのだが、これに鳩山事務所が応じない場合(つまり、税控除証明を他の用途や他の人宛に使っちゃってた場合)は、鳩山代表は脱税或いは総務省に対する共同詐欺行為に問われることになる。
  • 税控除証明が使用されずに返還された場合でも、その時点までの秘書の違法行為(不作為とか未必のなんとかではなくて、税控除証明の取得まで申請している時点で、うっかりミスではありえない)について、事務所代表者が連座しないというのはあり得ない。民主党、及び幹事長時代の鳩山代表は繰り返し自民党の同様の疑惑に対して「秘書に押しつけて逃げている」「代表者が連座すべき」と唱えてきたのだから、自ら範を示すべき。


……と、このへんが鳩山故人献金問題の現状のアウトライン。
このへんは政治資金規正法改正案とかと濃密に関わってくるところでもあって、民主党は小沢代表の西松年金企業献金問題を念頭に「企業献金の禁止」を訴えた政治資金規正法の改正法案を出してきた。
現在の日本では、政治家が政治を行うための資金として、「企業献金」「個人献金」の他に、「議員歳費*2」「政党助成金*3」などがあるのだが、*4民主党案はここで企業献金を禁止して、個人献金のウェイトを増やすべき、というものだった。
一般に、政治家は個人献金のウェイトはあまり多くない。これは、有権者個人と政治家を繋ぐ「装置」がないこと、一定の意味ある金額にまとめる窓口としての企業や政治団体がそれを集約してきたこと、数万、数十万、数百万という金額*5を見返りなしに献金できる個人が日本では少数派であり、それらの影響力が過大になるのを避けてきたこと、そしてそもそも日本には個人献金・寄付を行う習慣・伝統が遍く一般に定着していないこと、などが挙げられる。
お賽銭だって数円か数十円、よくて1000円出したら「お大尽!」と言われるくらいで、個人が政治目的に見返りを期待せずに金を出すということが行われたのは、おそらく幕末の政商による投資くらいではないか。*6
鳩山代表の地盤は北海道なのだが、北海道だけは別で個人献金・寄付を行う習慣がある――というのでなければ、鳩山代表の突出した個人献金に説明が付かない……と思ってたら架空でした、てへっ☆
というのが現状なわけだ。


もしこの問題が表出しなかったら、「企業献金が規制・禁止された後でも、個人献金で「稼げる」鳩山代表の一人勝ちで、その影響力がさらに伸びた可能性があった。
また、企業献金が禁止され、個人献金も大して増えるわけではない……という現実が襲いかかってきたとすると、どういう政治家が生き延びるかと言えば「もともと金持ち」か「タダで動員されてくれる信者/組合員がいる」かどちらかになる、という話は先だってのエントリでも書いた通り。
つまり、鳩山有利になるプランだったわけなのだった。





長い長い枕が終了してw、ここからが本題。
その民主党による企業献金の禁止を柱に建てた改正政治資金法についての提案を、本会議に掛ける前に委員会で審議することになっていたわけなのだが、何しろコトが「カネ」に絡む話である。
しかも、「企業献金の代わりに個人献金の充実」を訴えた民主党の代表が、「個人献金に関する不正疑惑」で大揺れに揺れているわけで、それ一体どういうことよ!参考人招致されるのは、当然といえば当然だ。
これに対して、民主党は「鳩山代表に対する嫌がらせ」「政局優先で容認できない」として、鳩山代表参考人招致を断った。
そんなこと言うんだったら、改正政治資金法の審議に応じないぞ!
……。
イヤイヤイヤ、待て待て待て。
この「企業献金の禁止を柱にした改正政治資金法」は、繰り返すが民主党提案による法案である。現時点では自民が多数派であり、また法案提出者である民主党は、法案の内容について説明し、自民党共産党他の野党に対して、法案の骨子とその問題点の解消方法などについて説明し、質問に【応じる立場】にある。
自民、共産各党は既にテーブルに就いており、*7民主党の審議拒否が続く場合、法案提案者を除いた形で審議を行うか、審議が開催できないか、ということになってしまう。
以前にも民主党は「自己提案だけど、自民党が賛成しているから反対」という、自分達が出した法案を自分で反対するというウルトラCをやってるのだけど、今回またその手をやらかしてきたと言える。


この戦術は実は非常に危うい。
社会党やその流儀を受け継いだ民主党は、気に入らないことがあると「予め用意した自分達の結論が採用されない限り、議論のテーブルに就かない」という戦術をしばしば使う。議論が進まないので、仕方なく譲歩して民主党の言い分を織り込んだりすることになってしまうのだが、これは実は六者協議での北朝鮮の戦術と完全に一致する。
予め自分達の要望を出しておき、「それが認められなければ、議論のテーブルに就かない」と一蹴してしまう。会議が行われなければ誰も何も得ることが出来ないから、会議のテーブルには就かせたい。そこで、「それについてはこれから話し合うとして、代わりに○○○については譲歩する」と、次善の課題については譲歩してしまう。
民主党は、この数年間、金正日のやり方をよく観察してきたと言える。
だがこれは、オモチャ屋の前でダダをこね続ける子供と同じで、買い物帰りの母親は、世間体が悪いから仕方なくおもちゃを買い与えざるを得ない。子供は味を占めて、次からは親の足下を見て同じようにオモチャ屋の前でダダを捏ねるようになる。


民主党の戦術というのは、まさにそのオモチャ屋の前の北朝鮮そのものと言える。


これで思い通りにならない場合は、「与党が自分達の提案に合意しなかったから、自分達の提案した素晴らしい法案が実現されなかったのだ」という。これまでもしばしば「与党が折れなかったから悪い。我々は悪くない」という、これまた北朝鮮と完全に同一の釈明をしているので、またやらかすんだろうなとは思う。
これ、国内でダダを捏ねてるうちはいいけど、外交でもやるつもりなんかなあ。国際政治におけるダダ=自国の主張を通すということなわけだが、これは「経済力、それに支えられた軍事力」という後ろ盾があって初めて通用する。相手もこちらの顔色を窺って折れてくれ、さらに折れることと引き替えにこちらも何かを妥協する、というのが政治であるわけなのだが、
「俺は弱者だぞ! 優しくしないとおまえが悪いんだぞ! おっなんだ殴るのか? 殴る気か? よーし、殴るなら話し合うぞ! いいのか、話し合うんだぞ! 友愛だってするぞ! それでもいいのか? いいのか?」

というような主張は恫喝にもならなければ、相手から譲歩を引き出すことにも役立たない気がする。*8


そんなわけで、冒頭の主張をもう一度。

北朝鮮「日本が拉致問題を主張するなら、六者協議には応じない。六者協議が進展しないのは、拉致問題を言い続ける日本が悪いのである」

おっと間違えた。

民主党鳩山代表参考人招致するなら、民主党提案の政治資金規正法改正案の審議には応じない。成立しなかったら、参考人招致を言い出した自民が悪いのである」

まあ、大して変わらないか。



他に、「北朝鮮関係船舶への立ち入り検査を可能にする、貨物検査特別措置法案」(北朝鮮への制裁を具体的に行うための実地法。先の五者協議、国連安保理の制裁声明などに基づく、国際社会の依頼に基づいて歩調を合わせるとして整備されているもの)についても、民主党は審議拒否による廃案を目指すらしい。
http://sankei.jp.msn.com/politics/situation/090710/stt0907100102001-n1.htm

自民党を蹴落とすためなら、北朝鮮に利することもするって、民主党はいったい何考えてんの!?


今後ともおわびして説明しながら、政権交代
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20090710-OYT1T00858.htm

……ますますわかんねえよwwww

*1:麻生総理の33倍くらいらしい

*2:給与に相当し、ここから秘書給与や事務所維持費などが捻出される

*3:所属する議員の人数(議席数)に応じて国から政党に対して交付される公的な政治資金。選挙資金にもなるため、党の財布を預かる幹事長の影響力が大きくなる

*4:他に「パーティー券」とか。後援会への参加を募り、一人数万円の会費を集めるのだが、実質献金に近い。あと本を出してその印税収入とか、講演とか。政治家があちこちに顔出しをするのは、演説と金稼ぎを兼ねているのだけど、それらは「交通費」「会場費」「スタッフ給与」などに消えるらしい。やはり人件費はどこまでいってもでかいし、タダにするわけにもいかないところなんで難しい。

*5:鳩山代表の公設秘書は、鳩山代表に対して年間150万くらいの個人献金をしてきたらしいですよ?

*6:もちろんそれらの政商は維新政府に対して商売の安寧を約束させているので、例外ではないのかもしれないけど。

*7:政策的には全然賛成できないけど、共産党は反対する法案についても必ず審議には出席し、裁決でも圧倒的に届かなくても反対票を投じている。このへんについては潔い&民主主義的な議会政治のルールを正しく守っていると思う。

*8:北朝鮮による恫喝は、痩せても枯れてもミサイルと核があるから腫れ物を触る対応になるわけで、そうしたものなしに弱者をタテに意向が通じると思っているのは甘え以外の何物でもない