補正予算執行凍結

補正組み替えは年明け 民主、秋の国会は執行停止のみ - 47NEWS(よんななニュース)
http://www.47news.jp/CN/200909/CN2009090101000076.html

民主党は、麻生内閣が決定した補正予算14兆円程度の補正予算を秋の臨時国会で凍結するらしい。
この補正予算の中身というのは、選挙前に「アニメの殿堂*1」として揶揄された国立メディア芸術センターくらいしか知られていないような気がするのだが、ここには省エネ家電買い替え推進*2のためのエコポイント制の原資とか、ここ最近続いている地震対策としての老朽化した学校施設・公共施設などへの耐震化工事費用とか、新型インフルエンザのワクチン開発・量産のための開発費用といった、喫緊の課題に対応する予算も含まれている。
が、執行しようとしていたものであっても、複数年に亘って分割で支払われている真っ最中の基金などのうち、執行済みのものを除いたものなども凍結される。*3


これらによって、新型インフルエンザワクチンの開発・量産体制の構築は、早くても来年以降に持ち越されることになるかのうせいが高くなったわけで、秋冬を目前に新型インフルエンザの本格的大流行への対応は完全に後手となった。
個人的防衛方法は、結局のところ立体縫製マスクとアルコール手洗いになるのではなかろうか。*4


平成21年度補正予算案の内訳は財務相に資料があったので、以下を参照。

平成21年度補正予算財務省
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h21/hosei210427.htm
http://www.mof.go.jp/jouhou/syukei/h21/sy210427/hosei210427c.pdf

民主党が掲げていた「子育て手当て」的なものは、既に自民党が春の補正予算案で通過させているのだが、これらは全て凍結され、恐らく似たような内容のものに、「民主党オリジナル」のタイトルが付け替えられた形で来年辺りに出てくる、ということになるのではないか。
少なくとも、既に今年行われている手当て内容の多くが執行凍結されることで、今年はいろいろ空転の年になるやも。そのダメージは、恐らく年末・年明けくらいに出てくるものと思われる。
国が「給付金」とか「○○○対策」というのをやっていると、国から直接お金を貰うわけではない人にとっては、「俺には関係ない」と思えてくるものなのだが、実は2〜3ヶ月くらいのタイムラグで、実際にその影響が末端にまで現れてくるものらしい。
減税は、実際にその影響が出るのは年度末に納税通知書を見るときだけで、あんまりじっくり見ない上にw、既にお金は使っちゃった後だから「幾ら減税になりました」とはいえ、税金そのものがゼロになるわけではないので、お得感があまりない。
一方、給付金的なものは確かに「目の前に金が来る」ので、それを原資に何に使おう、と末端の消費者の心をくすぐるので、消費励起に繋がる。
その中間にある、「補助金」の類というのは、僕らが直接使える金ではないので、「役人が使って終わりだろ!*5」とか、「○億円って何に使うんだよ!*6」という不満が出てきてピンとこない。
が、そういうお金を得た人達が、「もらった給料としてパソコン買ったり、近所で大根買ったり、コンビニで弁当買ったり」ということで、お金は動いていく。それらが行き渡っていくのに時間は掛かるけれども、結果的に末端にまでお金は行き渡る。こういうのを、所得移転というらしい。*7


日本の場合、大型土木事業がこの所得移転の手段として大いに活用されてきた歴史がある。道路建設、高速道路建設ハコモノ建設など、批判の対象にされるケースが多いのだが、その発端は満州朝鮮半島開発など、戦前にまで遡るらしい。*8
これは戦後の日本にも適用されて、田中角栄による列島改造論など、土木工事の誘致によるインフラ整備と景気励行を同時に行う手法は自民党の十八番となった。実際、高度成長期、バブル期などはそれによって「まとまった金が地域に配られる」という形での所得移転が大いに進んだ。
今でも、例えば道路工事やマンションを建設している最中、そこに従事している作業員・職人さんが弁当を買う、といった需要目当てに、工事現場の近くにプレハブのコンビニが建ったりする。結果的に、それらのコンビニは建設作業員だけでなく近所の住人も使うから、工事作業員による消費だけでなく、近所の住人の消費を招き、利便性も向上する……というのが、わかりやすい事例。


この「土木建設の誘致」は、分野によって「道路族」「建設族」といった族議員を発生させた。それらの議員は、支持基盤の中に建設会社や道路関連企業を持ち、そういった企業と、インフラが出来て得をする地域自治体などから継続的な支援を受けることになる。
田中角栄は新潟の土木事業の他、タクシー会社も(ry
これはもちろん田中眞紀子にも受け継がれている。タクシーなんか、道路あってのモノダネ。
鳩山由紀夫は一見無縁に見えて、母方の祖父はブリジストン創業家で、鳩山由紀夫の政治資金は母親からの生前贈与などの形でブリジストンから発生した金が流れている、という感じ。こないだも話題になっていた故人献金も、実は鳩山の母親からの迂回献金ではないか、という筋で検察は捜査に当たっているらしい。
言うまでもないけどブリジストンはタイヤの世界的メーカー。車が走る道路ができれば、儲かるのは消耗品のタイヤ屋さん。
鳩山由紀夫故人献金の主犯とされた会計責任者の秘書・芳賀大輔氏の実家は、北海道でも有数のセメント会社の一族で*9、秘書当人及びその親族から鳩山由紀夫(及び支部)への個人/企業献金が行われているのは、収支報告書をチェックすると見られる。*10


田中角栄の手法を引き継いだのが金丸信竹下登ときて、集金システムを完成させたのが小沢一郎、その側近としてやり口をつぶさに見ていた二階俊弘当たり、ということになるわけなのだが、彼等に限らず「大型土木事業を扱う企業から支援を受けている」というのは珍しくない。
すっかりなかったことになっている西松建設献金疑惑事件なども、こうした「土木事業を行うことで得られる利益」に纏わるものと言えるし。


良い悪いは有権者が判断するとして、斯様に「大きな工事を行えば、金が行き渡る」という理屈そのものは依然として存在するし、所得移転方法としては、完全な悪とは言えない側面があるのは確か。が、そこを蝕む人=利権が発生するのは避けられない。
春の直接給付のようなケースの場合、結局、個人事の所得の把握がされていない限り、「貰いすぎな人」「貰う必要がない人」「それじゃ足りない人」などの区別は付かず、付けようと思ったら今までずっと批判忌避されてきた個人事の所得把握=国民総背番号制*11の導入が議論に上がることになるのだが、これに最も反対してきたのが左派的な政治志向の方々。個人情報を国が完全管理するのはまかり成らん、ということで、同じ理由で住基ネットも批判された。
しかし、今度はそれを導入しないと「所得事の格差の把握や対応」はできないことになるわけで、掲げている民主党の方針との間にどうしても矛盾が生じてしまう。


結局、こういった問題に完全対応することは不可能に近く、当て継ぎ当て継ぎでやりくりしてきた自民党の構築した方法論について、卓袱台をひっくり返して否定してみても、最終的には畳みに散らばった茶碗とお皿の後片付けは自民党的なやり方でやるハメになるんじゃないのかな、という気がしないでもない。


タイトルと大分外れたけど、補正予算凍結、執行停止で直接影響を受ける皆さん、ご愁傷様。間接影響を受ける人はたぶん気付かないだろうけど、新型インフルエンザのワクチンなどの対応が遅れても、それは民主党政権の方針なんで、支持した人が責任を引き受けるしかありませんよ、ということで。
たぶん、こういうことってこれからどんどん出てくるんではないだろか。


いいのかな、それで。と思わないでもないけどこれが民意なので、これから民主党政権下で起こる様々な不便は、有権者の多数がそれを望んだ結果として、黙って従わなければならんというお話。


みんなが、「それがいい」と望んだことに、それを望まなかった人も従うのが民主主義なので、今後も決定には従うつもり。



追記。

民主党は、新たに独自の政策を作るのではなくて、自民党案の看板だけ掛け替えたものを「独自の民主党案をスピード感を持って云々」と言うんじゃないか、と懸念していたわけだが、さっそく始まった様子。

北朝鮮の貨物検査法案、民主提出へ…政府案*12と同内容 : 政治 : YOMIURI ONLINE(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/politics/news/20090901-OYT1T00602.htm?from=main4

民主党はこの案に反対したわけだが、その理由は「麻生内閣で成立させると自民の手柄になってしまうから」だったそうで、「国連主導の決定、しかも日本提案で決まった話を、なぜ民主党は反対するのか?」という疑問は解散前から出ていた。
衆院が賛成したこの法案は、参院民主が審議せずに廃案にしたもの。


このところ、「自民党ネガティブキャンペーンが酷い」という論調が非常に多く目に付いたんだけど*13、自民のネガティブキャンペーンと言われてきたものを改めて検分すると、その殆どは「ネガティブでもなんでもなく、単純に正論だったもの」であるケースが多い。


ふと思い出した。
皮肉*14は、真実を衝いているからこそ腹立たしく、苛立つものである。
それが事実から遠いものである場合、あまり腹立たしくはならないが、事実があまり知られておらず、事実から遠いものが事実であるように流布されてしまうと、挽回はいろいろ難しい。


いろいろ当てはまる話だな、と思う。
社会、政治というものは人の営みであるからして、フラクタルなものと思っていいような気がする。
大は国際政治、安全保障・外交政策から、中は国内政治、小は隣近所や職場・友人関係に至るまで、動員される規模が異なるだけで、その性質は大も小も、マクロもミクロもいずれも相似状態にあると思う。
フラクタルである。

*1:アニヲタに国立漫喫をくれてやるだけ、という批判が圧倒的に多かったようだけど、これについては「なぜ日本の浮世絵は、日本国外の博物館が多く所蔵しているのか?」と通じる話で、当時娯楽品・消費品(今の雑誌や漫画やアニメと同じ)だった浮世絵に、当時の日本は何の価値も見いださなかった為、輸出品の瀬戸物の包み紙としてそれらは欧州へ流出。それが海外で評価されるようになってから慌てて国内でも浮世絵の保護、価値が叫ばれたが、時既に遅く版木の殆どは再利用されたり薪として燃やされてしまっていた……というケースのまるごと再来になるだろう、と言われている。セル画はもちろん、マスターフィルムまで残っていないのが日本のアニメの現状で、その価値は日本以外の国々で決定されており、当の日本人はむしろ「価値の低いもの」と蔑んでいる。この構図は今後どういったメディア商品が登場しても引き継がれる気がする。

*2:これは内需刺激策で、「内需主導」を目指す民主党の方針と合致してるはずなのだが。

*3:リンク先ソースにもある、46基金4兆3000万余りのうち、既に執行済みのものを除いた3兆円など

*4:そういえば、投票所の入り口にもアルコールスプレーが置かれてたけど、ほとんど使われてなかった。しかも、それで手を拭いてからカバン開けて投票券を取り出してたら、全然意味ないわなw

*5:事業費、研究費、材料費、施設維持費などにも使われます。

*6:でも人件費が大きいのは事実。専門家を専従させたとして、専門家一人を完全にその事業専任にして拘束した場合の給与を一人あたり500〜1000万とすると、10人雇って5000〜1億円が毎年消えていきます。しかも、新規事業の場合、10人かそこらでできることはたかが知れているわけで、さらに研究費、材料費、事業費などなどで結構な金が動いても、実はそんなに大規模でもないという。ではそれを、年収300万の人に割り当てればより多くの人が助かる、というようにも見えるけれども、その人達が年収500〜1000万の人達と同等かそれ以上の能力的寄与ができるのか、という話にもなってきて、これまた大変バランス取りが難しいわけですな。

*7:この場合、税金で一度国に集約されたお金が、それを消費する事業に再投下されることで、結果的に再分配されていく、ということを所得移転と見なしてよいような。

*8:国の予算をそれらの地域のインフラ開発に投下、それを受注した今で言うゼネコンが現地にインフラを作りつつ、現地作業員が給与として受け取った金を作業現地で使うので、現地にはインフラが残されて便利になると同時に、建設作業バブルが起きて経済が活発化する、というモデル。

*9:以前書いたエントリ医を参照のこと。http://d.hatena.ne.jp/azuki-glg/20090702/1246565062

*10:いい世の中だと思うw

*11:アメリカなどでは社会保障番号として導入済み

*12:この場合の「政府」は、まだ首班指名が行われていないので「麻生内閣」のことを指します。

*13:権力者、圧倒的強者には横綱相撲を強要する風潮によるものと思うけど。

*14:アイロニー