日本は何があっても反撃しない、アメリカにもさせない、という宣言

岡田外相:「核の先制不使用」 米に求める方針 - 毎日jp(毎日新聞)
http://mainichi.jp/select/seiji/news/20091019k0000m010055000c.html


 岡田克也外相は18日、京都市内で講演し、核保有国が核攻撃を受けた場合の報復以外には核兵器を使わないと宣言する先制不使用について「大きな方向性としての先制不使用は否定できない。日米間で議論したい」と述べ、米国に先制不使用を求めていく考えを示した。外相は「(日本政府が)核の廃絶を強く言いながら(日本にかかわる米国の)核の先制不使用は言わないのは矛盾がないか議論になる」とも指摘した。

 先制不使用は核兵器の果たす役割を限定、核軍縮につながるが、日本政府はこれまで、米国の日本に対する核の傘に影響するとして消極的だった。

 米国が先制不使用を宣言した場合、北朝鮮弾道ミサイルに搭載した生物化学兵器で日本を攻撃しても、米国は核兵器では反撃しないという保証を与えることになる。今回の外相発言は日米両政府内で波紋を呼びそうだ。

民主党おもねり傾向が強く、特に岡田克也という人は「阿る政治家」の典型なのだが、これはいったい誰に阿ろうとしてるんだろうか。
誰阿。だれおも。


「日本は何をされても反撃しませんよ〜、アメリカの核は無効化しておきましたので、いつでもどうぞどうぞ」ということを、北朝鮮、韓国、中国、ロシアに対して言ってるんだろうか。
それとも、オバマ大統領が「核軍縮」発言でノーベル平和賞を受賞させられちゃった件を念頭に、オバマ大統領に阿るために「日本がやられても核反撃しなくていいですから!」と機嫌を取っているつもりなのか。
アメリカももちろん、核反撃カードは封印しますよね!」と。オバマ核廃絶を訴えてるからのってくるはずだ、と。それでオバマが喜ぶと?*1
日本国内には日米安保条約に基づく米軍基地が多く存在するわけだが、着弾地点が「日本」であろうと、「米軍施設に類が及ぶ場合」はアメリカは反撃を試みると思うんだけど、今回の「求めていく考え」というのは、アメリカにも日本と同様の「核反撃の放棄」を求めるものであるわけで、「一緒にやられっぱなしになりましょう」という合意要請をアメリカが受け入れるとは思えない。


岡田外相はつい先だっても東アジア共同体を巡ってアメリカ外しを明確にしたばかり。韓国、中国に言ってアメリカに言わない、話題にも挙げないってのは、「おまえら関係ないです」という決別宣言にも等しい。


アメリカの太平洋戦略としては、少なくともハワイを起点に東西(日付変更線の両側)について、アメリカが管理する、という方針できている。フィリピン・スービック基地を返還しても、基本的にその方針は変わらない。
西太平洋にはマラッカ海峡という難所兼太平洋とインド洋、ペルシャ湾を繋ぐ大海要があるわけだが、アメリカがこれを手放した場合、アジア〜インド〜中東に、東側からアプローチできなくなることになるので、それはあり得ない。
アメリカが冷戦中もずっとソ連(現ロシア)の太平洋進出を拒み続けてきたのは、太平洋戦争で日本が手放した後の西太平洋の覇権を死守するためでもある。
日本がアメリカと安全保障条約を結んだことで、アメリカはスービック、釜山に並び、沖縄、岩国、横須賀他の根拠地を手に、西太平洋を絶対圏としてきた。
冷戦時代は中国はまだ海洋進出できる段階にはなかったものの、それでもアメリカは対共政策から日本を西側(資本主義国圏)に引き留める必要があり、片務的性格の強い日米安保条約で日本を守る、という建前を持ちつつ、米軍基地を守ってきた。


米軍は国外最大の駐屯地である朝鮮半島の駐留戦力を削減し、指揮権を韓国に返還する。沖縄は機材集積を優先し、司令部をグァムにまで下げる、という方針転換を行っている。
もちろん、軍事費の圧縮という狙いもあろうけれども、駐屯地を縮小することになったのは、40年前に比べて緊急時の即時展開能力が高まったから=技術の進歩によるもの、とされている。海兵隊員を常時何千人も常駐させておかなくても、兵器弾薬などの資機材だけを現地に蓄積しておいて、要員はジェット輸送機で現地に運べばよいわけだ。緊急展開能力の向上は、現地待機を不要にする、ということであって、現地への展開を米軍が放棄したわけではない。


アメリカが西太平洋から撤退することが可能になるのは、アメリカの同盟国かアメリカに敵対しない国がアメリカと同調して西太平洋の管理を行う場合に限られる。
その意味で、ロシア・中国はそれぞれ候補から外れる。中国は近年、空母取得を目論んでおり、何年か後には国産空母の就役を目指している。


ただ、伝統的に中国を市場として重視する米民主党*2が、米中関係を前身させる可能性はある。
その場合、アジアの盟主=地域の首長国としてアメリカと対等対話をする国は日本ではなく中国になり、中国を「アメリカの同盟国」として西太平洋の管理を委ねる可能性――これは、まったくないとは言えない*3。日本Passingが進むなら、ない話ではない。


そういう時期にもってきて、「日本が攻撃されても、日本国内が攻撃されても、それが非核兵器であった場合、反撃は不要ですから」などと日本の外務大臣が言い出すわけだ。外交音痴を通りこして、自殺的外交であるようにすら思える。いや、たぶん思われているだろう。
アメリカが日本国内の集積基地を捨てることは、当面あり得ない。日本より南東には、グァム、ハワイあたりまで下がらないとアメリカの自由になる土地がない。そして西太平洋の管理を考えた場合、そこまで下がるのは戦略的に危険であるわけで。*4


なんとも恐ろしい。
アメリカ側が真に受けないことを祈りたいが、一国の外相の発言を相手国が「真に受けない」というのは大問題だし、真に受けて対応を講じてこられた場合、結局意見が二転三転するのか、説明もできないままに「マニフェストでそう約束したからするしかないのだ」と言いはるのか。
というか、核の傘の放棄と放棄への同調要請など、マニフェストに書いてなかったと思うんだが、またクレジットカードの契約書のルビなみの小さな字でどこかに書いてあったんだろうか。


現在の民主政権の閣僚は、明らかに「誰かへの阿り」「手柄献上競争」に奔走している。
これもその一環なのだろうけど、いったい誰に阿っているのか。
安全保障のカードを勝手に封印することを、民主に投票した国民は希望していたんだろか。

*1:オバマ大統領の空前の支持率は、空前の勢いで壊滅的に低下中で、オバマ的な「チェンジ!」を真似た民主党の先行きを示唆しているとも言われている

*2:しかし、この十数年の間に中国は市場から、アメリカ国内産業を圧迫する経済的侵略者になってしまった。アメリカ国内の繊維産業などはそれで壊滅している。今は北米大陸が中国にとっての格好の市場になっている。

*3:2008年の時点ではアメリカは拒否している

*4:北朝鮮台湾海峡へのプレゼンスが消滅するから