ポスト鳩山を巡るあれこれ

ぼちぼちポスト鳩山のロードマップに対する言及はあってもおかしくない時期だな、と思う。

独裁と政治的空転が交互に襲い来る日本

まず、民主党は今後4年間は解散しない。
これは自民党郵政選挙で取った議席を4年間手放さなかったのが前例になっているが、小選挙区制では過半数の獲得は非常に容易で、ともすれば2/3に届く議席の獲得も不可能ではないことが、2005年と2009年の二度の総選挙で証明済み。
となれば、今後の日本の政治は「いつ行われるかわからない、衆院選」が決めるのではなくて、「三年に一度の参院選」が実質的に「中間選挙」的な位置付けになってくるのではないか。
総選挙は常に四年目、つまり少なくとも四年間、最短でも三年間は、政権は維持できるし、その三年目に完全な世論掌握ができていなければ、2007〜2009年の自民党のように、常に与野党逆転の空転国会に見舞われ続けることになる。
衆院選参院選が同時か、衆院選後一年前後以内で衆院選の人気(支持率)が継続しているかであれば、参院選は準備ができるので勝てる。が、衆院選後の支持率が下がっていると、参院選は勝ちにくくなる。
また、「勝たせすぎた」「お灸が必要」という日本人特有のバランス感覚が働くことで、常に与党と野党が衆参で勢力逆転しているケースのほうが多くなるのでは。*1


そうなった場合。
日本の議会制度では、「衆院の優越」はあるにせよ、参院が否決したものを衆院が多数を使って再可決するには二カ月のみなし期間が必要になるので、日本の政治的決定は「常に二カ月遅れ」が常態化することになる。戦争、経済、外交、様々な政治的懸念が、常に二カ月遅れでなければ可決されないという状態は激しく問題がある。*2


一方の勢力が衆参いずれもで過半数を取ると、小沢一郎のような独裁者が独裁的な「政治」を作ってしまいやすくなり、独裁者が生まれやすくなるわけで、【独裁者】か【政治的空転】かの二択しかないという、恐るべき状況が今生まれつつある。
望まれた「政治の変化」や「政権交代」というのは、こういうことではなかったはずだが。

総理指名と外国人参政権

絶対多数を得た与党は、絶対にその議席を手放さない。
のだから、基本的に総理大臣が辞職・交代することはあっても、総理による衆院解散というのは、恐らくは起こりにくい。党務を行う外閣総理内臣小沢一郎が、総理の任命権を手放さず、党を掌握し続けられるなら、という前提は付くにせよ、民主党にしたって「問題を起こして支持率が低下した総理をすげ替えるのに、議席の喪失リスクを伴う解散総選挙を容認する」とは思えない。
特に、政府(行政)と与党(議会)を明確に一体化して乗っ取っている民主党は、行政組織改編は、党=議会の承認なしには行わない。
つまり、「党の支持」が、国会や政府を上回ることになるわけで、内閣総理大臣はこの際誰でもよく、党務を預かる「外閣総理内臣」の支持が全てを決めることになる。


ところで民主党は入党条件に国籍条項がない。
民主党内のあれこれは、国政ではないので公職選挙法も及ばない。つまり、外国人が大挙して民主党に入党することは可能で、それによって民主党代表選の権限を、党内で多数派になった外国人党員が左右するということも不可能ではない。外国人参政権がなくても、民主党の政局を外国人が左右できる時点で、日本の政局の趨勢に外国人がコミットできる、ということになるわけだ。


外国人参政権が実現すれば、これは容易に地方参政権や国の参政権にも繋がっていく。
政治に無関心な日本人の票を掘り起こすよりは、権利獲得*3のために政治参加意識の強い外国人に「参政件」という餌を与えて味方に付けるほうが、獲得票田を大きくできる。
つまり、「決められたパイを奪い合う」のではなく、「パイを外から持ってくる、しかも新たなパイが自分達に有利に働くように便宜を図る」というのが、外国人参政権を民主が推進する理由と言える。*4

総理交代の候補者

そんなわけで、小沢外閣が総理を指名するのだと仮定する。というより多分これはほぼ確定事項だろう。
その場合、候補者は誰になるか。

これは、総理としての資質とか政治的云々とかでは決まらない。
現状の民主党では最大派閥が小沢派、次が鳩山派。岡田、菅などがそれに続き、前原その他は少数派閥だ。旧社会党系、参院は、それだけで一派閥と考えていいだろうが、とりあえずこれは置いておく。

よく言われるのが、「鳩山が辞任したら、次は岡田か菅直人」で、希望的観測から「できれば前原がいいな」というのもある。
が、この中で、岡田と前原はおそらく「ない。絶対にない」と断言していいような気がする。


まず、前原誠司
民主党の中でも一番マシ」と期待されがちのようだが、小沢一郎からは最も遠いところにいる。民主党は一応「挙党一致内閣」を採っているが、その中で前原が据えられたポジションは国土交通大臣
これは自公連立政権時代は公明党の定番ポジションだった所轄であるのだが、とにかくトラブル・アクシデントが多い。うまくできても当たり前で、それによってプラスになることも脚光を浴びることもない。航空機事故、道路行政などなど、激務の割に評価が得にくい。
つまりは、「失脚と発言力低下」を期待されたポジションと言える。エキスパートである官僚の言い分に従えば「官僚のいいなり」と言われ、独自色は出しにくく、プラスの評価もされにくく、要するに手柄が上げにくい。
また、前原は安全保障の分野では比較的まともで、本来なら防衛大臣が希望であったろうと思われるけれども、前原がそこに座れなかったのは、「安全保障に限って言えば右派だから」ではないかと思う。中国と親密な関係を重視し、反米的な意見の多い、きっぱり言って左派である現民主党内で、安全保障上右派タカ派の前原が政府首班になることは、恐らくない。
だから候補から除外。


次に岡田克也
かつては外務大臣は総理になるためのマイルストーンのように言われていた時代もあったが、そうしたジンクスや慣例は民主党政権では通じないだろう。
現状、普天間問題などを巡っては、アメリカの代弁者になってしまっているというか、政権とアメリカの板挟みになっている。
普天間問題については数日前に書いたのでここでは割愛。
外務大臣としての著しい成果を考えた場合、これが「小沢一郎に気に入られる成果」でなければ、次期総理の候補には挙がりにくいが、普天間問題での小沢の姿勢は「連立重視」にあるわけで、鳩山総理はともかく社民党とも対立している岡田は、小沢には気に入られにくいだろう。
そもそも小沢は「従順な総理」を欲しているわけで、頑固で意見を曲げないとか、「まじめw」で融通が利かない岡田は、操り人形としてはふさわしくない。
元々、挙党一致内閣に入る前は小沢とは距離を取っていたくらいで、これまた小沢が「人形」に据える候補とは考えにくい。


次は菅直人
現在、鳩山政権でもっとも影が薄い副総理兼国家戦略w担当相だが、意外にもこの人は次期総理にもっとも近い一人ではないかと思う。
鳩山政権では、内閣の一員でありながら「何もやっていない」。
そして、特定の固陋な政策理念が(政権交代以外に)あるわけでもなく*5、変わり身が早い。
総理大臣という地位への熱望は強い。
そしてここからが小沢一郎の推す候補として重要な資質でw、

  • 言葉が軽く、方向修正に躊躇がない
  • 適度にマヌケでお調子者
  • 派閥の主だが、権力者ではない
  • 罵倒力がある

といった条件を兼ね備えている。
この「罵倒力」というか、まあ批判力というか、口汚さと言ってもいいのだが、これは案外重要。


なぜなら、鳩山総理を辞職に追い込む最右翼が、次期総理になるわけだから、鳩山総理の所業を舌鋒鋭く、というより「ヒステリックに批判できる」人間でなければならない。
その意味で、ここまで挙げた前原、岡田、菅の3者の中では、菅が一番弁が立つ。というより、「悪口に躊躇がない」。
最後の一押しは「おまえなんか辞めちまえ」と理不尽に怒鳴れるかどうかの胆力に掛かってくるわけで、前原/岡田は閣内にあってもそうした胆力は期待できない。


期待はされてないけど本人はそのつもり、という候補をもう一人挙げるなら、亀井静香
ま、これは「民主党ではない」というその一点においてあり得ない選択肢なので、考察の価値もないのだけど、「派閥の主だが権力者ではない」「罵倒力がある」は備えている。
小沢の支持を取り付けられるなら或いは、という希望を当人が持ってしまう気持ちもわからんではないけど、ムリでしょう。


ここまで出揃った候補の中では菅直人が有力かなと思う反面、実はもう一人個人的に「あり得るのでは」と思っている候補がいる。

田中眞紀子総理

甚だ夢想的な話ではあるが、条件を照らし合わせていくとないとは言えない候補が、田中眞紀子
そう思うに至った理由は幾つかある。

先にも述べた通り、
解散総選挙はなく、民主党議席を維持したまま、総理を交代させる」
という可能性が高いと思う。鳩山が総理を辞職するときは、鳩山支持は落ちているわけで、鳩山の人気凋落に引き摺られて民主党までが議席を失う愚を犯す必要はない、と考えるはずだ。
しかし、鳩山総理・鳩山内閣は「人気を失って」交代することになるわけだから、静かに身を引くと言うことはあり得ない。
これまでの事業仕分けやその他の事例でも見られたように、必ず「責任の吊し上げ」は行われるだろう。


このとき、口実または形としては、次のような展開が民主党にとって都合がいいのではないか。

  • 民主党が悪いのではなく、鳩山が無能である。責任は鳩山にのみある。
  • 鳩山を批判、更迭に追い込むのは、野党・自民ではなく、与党・民主である。民主には自浄作用があり、自浄のために野党・自民は必要ない。
  • 責任を追及される鳩山は、罵倒され、惨めにたたき出されなければならない*6

事業仕分けが本当に支持を得ているのだとすれば、それは先の衆院選での自民敗北と同じく、「衆目下にあってのリンチ、人民裁判」が望まれた結果であろうと思う。酷い目に遭う官僚、ざまーみろ、という意識を、人民裁判風の自己批判と総括劇で演出したのが事業仕分けショーの実体だ。


同じことが、総理解任劇の中でも当然行われる。
「鳩山総理を自己批判させ、罵倒し、総括を求め、自発的な辞任に追い込む」
という役を主導的に務める人間は、鳩山への不満の「代弁者」になることになる。先の衆院選で、自民を断じる代弁者の地位に立ったのは鳩山由紀夫当人だったし、事業仕分けではその役を蓮舫が担った。つまりそのポジションは、耳目を集めやすい。
しかも田中眞紀子は鳩山政権では閣外にあり、現政権の政策の全てに対して批判を行える立場にある。


言葉が軽くて方針変更に躊躇がない、適度にマヌケでお調子者、口が悪くて罵倒力があり、女性である。
田中眞紀子は派閥の主ではないが、田中角栄の娘である。小沢一郎にとっては師匠筋の娘であり、田中からすれば小沢は「父の弟子」である。小沢にとっても与しやすい。
加えて、田中眞紀子親中派である。父・田中角栄以来、中国人脈とは太いパイプがある、と信じているのだろうし、中国側からしてみれば田中眞紀子ほど中国にとって都合のいい総理は考えられない。
中国受けが良い、というのはこの場合、民主党政権下で総理大臣になるためには、非常に重要なポイントでもある。


鳩山を引き摺り下ろすショーを行えば、当然、断罪人役は高い支持を得ることができる。その高い支持を得た断罪人を新たな党代表=総理に据えれば、参院選はその勢いで戦える。
それを考えれば、鳩山辞任は来年の年初の通常国会を終えた後、3〜4月頃になるのではないか。4〜5月頃に新総理を立てれば、その人気が持続しているうちに7月の参院選に突入できる。
「前任者を罵倒し倒した断罪人」になる田中眞紀子は、同時に「日本初の女性総理」という肩書きも得ることになる。
4月の通常国会終了までに政策上の目鼻が付いて、予算も通過できているなら、5〜7月の総理大臣の仕事は参院選のみに専念できる。*7


参院選を勝ち抜くまで、重要法案は通過した後、有権者に強く訴えられるカリスマ性、という条件と環境を考慮するなら、鳩山を引き摺り下ろして後釜に据えるのに、田中眞紀子小沢一郎にとっては最も理想的なのではないか。


参院選が終わって、女性総理田中眞紀子の元で民主が勝利した後は、田中眞紀子の機嫌をとり続けるか、もしくは更迭してしまうかの二択になるのだが、そのへんが最大のリスクとはなるだろう。田中眞紀子という毒婦は、小沢一郎の言うことをいつまでも素直に聴くようなタマじゃない。恐らく、小沢一郎と袂を分かつことがあれば、民主党の意向など関係なしに解散を宣言してしまうだろう。
だから、小沢一郎は「田中眞紀子による長期政権」か、「参院選後に田中眞紀子を大人しく辞任させる」という、いずれにしても難しい二択を迫られることになるだろう。
このへんは、女性総理・田中眞紀子が実現した折、その時点での政治状況に左右されるので、もしこの予言が当たったら考えるw


自民党にできること

どちらにせよ、「鳩山総理を断罪する人民裁判」に、自民党がコミットできる可能性は低い。
「極悪人鳩山を、民主党内で処断する。自浄作用のある民主党から、新たなヒーローが出現」
という筋書きでは、自民がそれに関わることが非常に難しい。
ただ、最近民主党に入党したばかりの後発の新参者である田中眞紀子が、形だけであろうといきなり民主党のトップに立つということを、民主党生え抜きの議員や、社会党系の議員、岡田・菅・前原などの小沢一郎と対立的な議員が、全て容認するとは限らない。
田中眞紀子代表、田中眞紀子総理擁立の過程で、「親小沢系」と「反小沢系」の対立や分裂の可能性は起きてくるわけで、自民党が民主を割って巻き返しを図るとしたら、そのあたりの分断工作が突破口になる。


少なくとも今この時点では、自民が民主に手を突っ込むのは難しいし、今の民主に擁護的でも存在感は示せず、対抗してもその様子は報じられないという体たらく。
まずは「情報周知方法の見直し」が最も求められるんじゃないかなと思いつつも、「民主に比べたらずっと現実的でマシだった自民」の復権を、今は期待するしかないかなあ、と思う。


複数の人間が持つそれぞれの理想を、どれがひとつだけ選んで実現すると、理想が叶わなかった人間が騒ぎ出す。
だから、理想と理想の兼ね合いの中から、現実的な妥協策を捜すということが必要になるわけで、そうした「情報に対する知見、経緯の整理、妥協点への決着」というのが、政治の本質であろうと思う。
そうなると、もし誠実に現実を見据えた妥協点を捜していったら、結局は誰がやっても同じような結論に辿り着くことになるわけで、「誰がやっても、政治的に誠実なら、誰に任せてもよい」ということにはなる。
が、任された人間が自分の理想の実現を許可された、という勘違いをして理想独裁を進め始めると……今の日本のようになってしまうのだろう。
政治家がすることは大人が真似するし、大人がすることは子供も真似する。


自分の理想の為なら他人の理想は踏み潰しても良い、権力を得たらそれは最大限振り回してよい、権力を使ってライバルを殲滅するのもよい、自分の都合に合うように他人を弾圧して良い、過ちを犯しても謝れば許される。
そういう手本が示されている以上、それに倣う例がこれからどんどん増えていくのだろう。
「脱税しても謝ればok」
「人殺しちゃっても犯人の人権は守られる」
そんなのが当たり前の未来が、現実に忍び寄ってきているというこの恐怖。
怪談作家如きでは太刀打ちできませんな。

*1:現在の小選挙区制の生みの親は自民党時代の小沢一郎。元々小選挙区制のアイデア小沢一郎の実父・小沢佐重喜の発案による。親子二代の執念によって実現した制度であるわけなのだが、小選挙区制の問題点、そして利点は他の誰よりも小沢一郎当人が熟知している。怪集 蠱毒から言葉を借りれば真性の「クロスローダー」という奴でw ルールを熟知したいかさま師の上を行くことができる人間は極少ない。小選挙区制は「議席を多く採りやすい」ことから法案成立当時の自民党執行部も反対しないというか乗り気で導入されたのだが、この当時、小泉純一郎元総理は中選挙区制を支持し、小選挙区制導入に反対だったらしい。魅惑的だが危険すぎる、というのが慎重論の根拠だが、その小選挙区制のメリットを最大限活かして勝利したのが郵政選挙であった。ただこれは、4年後に確実に大敗北を喫する諸刃の剣であることも明らかだったわけで、それを知り抜いた小沢一郎が「四年後の大敗北」をどういう抜け穴で切り抜けるつもりなのかは、僕もまだ想像が及ばないのだが……いやな予感はする。

*2:麻生政権による経済対策が遅れたのも、参院民主の徹底拒否があったればこそで、空転国会の怖ろしさは「与党が自民だったから」というような話ではないのだけど、今後民主と自民が立場逆転したら、同じことが起こる可能性はある

*3:人民解放軍が2億人くらい来たら、それだけで日本の政治的独立は中国に移るw

*4:同じ理由から公明もこれに賛成しているし、自民の中にも同様の「票田欲しさ」がないとはいえない。

*5:そして、唯一の理念だった「政権交代」は既に実現されてしまったし。

*6:2005年郵政選挙敗北時の岡田代表の敗北会見の悲惨さを思い出す。あれが民主の基本性質だし

*7:サミットなんてオマケですよw