シー・シェパード/アディ・ギル号沈没

シー・シェパードの反捕鯨抗議船「アディ・ギル号」が、鯨研の第二昭南丸に衝突を試みて沈没した。

シー・シェパードの「未来型抗議船」、日本船と衝突し沈没 写真2枚 国際ニュース : AFPBB News
http://www.afpbb.com/article/environment-science-it/environment/2679824/5127080


Boat sinking after whaling clash in Antarctica | Top AP Stories | Chron.com - Houston Chronicle
http://www.chron.com/disp/story.mpl/ap/top/all/6800744.html

これについて、シー・シェパードポール・ワトソンは「第二昭南丸が急にエンジンを始動して衝突してきた」と声明を発表しているわけなのだが、鯨研側がその衝突の瞬間を捉えた映像を、いち早くYoutubeにUPしている。

YouTube - Sea Shepherd Ship Collision
http://www.youtube.com/watch?v=Z_KnBKriGog

これを見ると、当初、アディ・ギル*1が低速で第二昭南丸と併走しているのがわかる。
第二昭南丸は警告音*2と放水で接近に対する警告を行っている。とんでもなく近い距離を併走していて、船間は100mもない。これが日常的に行われているらしいのだが、いつ接触してもおかしくない危険行為である。
シー・シェパード側は「第二昭南丸が急にエンジンを始動して」としているが、第二昭南丸はこの映像中ではずっと等速航行している。
アディ・ギルは映像の0:00からじわじわと船間を詰めてきているのだが、0:16でアディ・ギルが増速*3、0:20で第二昭南丸と衝突。
この間、第二昭南丸の進路はほぼまっすぐで、アディ・ギルは第二昭南丸の前を、右から左に横切ろうと加速したことで、第二昭南丸の進路に進入、衝突したことがわかる。
このところ船舶衝突事故のニュースが多く扱われているので、海事の常識が一般にも知られるようになってきているが、「大型船と小型船の航路が交わる可能性があるときは、小回りがきく小型船が回避行動を取る」というのは国内だけでなく広く国際的な常識。ましてや、アディ・ギル号は改名前は「アースレース」という名前でバイオディーゼル世界一周世界最速を成し遂げた高速船でもある。衝突直前、アディ・ギルが併走状態から急加速を行う様子は映像にも記録されている通りで、回避行動を取れたのはアディ・ギル側のみ。
衝突後、0:29〜0:34あたり、流されていくアディ・ギルが見えるが、船首は左*4に流れている。
もし、アディ・ギルが回避行動*5を行っていたなら、衝突後も右に舵が切れているはず*6が、衝突によって船首をもぎ取られ、はじかれた状態でなお船体が左を向いているということは、アディ・ギルが左に舵を切り続けていたことの証左と言える。
また、0:38くらいからアディ・ギルと第二昭南丸の船尾方向の海面が映っているのだが、第二昭南丸の航跡がほとんど映っていない。もし、第二昭南丸が右に舵を切ってアディ・ギルに衝突を仕掛けたのであれば、画面向かって左側に第二昭南丸の航跡が映るはずだが、それがないということは少なくとも衝突後の第二昭南丸は左に舵を切っている。
船というのは、そう簡単に転舵できるものではない。大型船になればなおさら。アディ・ギルのような小型船*7だけが、細かい舵を切れるわけで。
アディ・ギルは船首を失った後、沈没。

アースレース(アディ・ギル) - Wikipedia
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A2%E3%83%87%E3%82%A3%E3%83%BB%E3%82%AE%E3%83%AB

アディ・ギルで検索するとアースレースの項目に飛ばされるわけだが*8、その船体は「複合カーボン繊維とケブラーで構成されている」とある。確か、いつだったかDiscovery channel(CS)だったかナショジオだったかでまだ「アースレース」という名前だった頃の特集番組を見た記憶があるのだが、そのときもそうした解説がなされていた気がする。おそらく、アディ・ギルの乗員達も「アディ・ギルは複合カーボン繊維+ケブラー製で、それは同じ重さの鋼鉄より頑丈なので、鋼鉄製の第二昭南丸と衝突したら勝てる」と踏んでいたのではないか、と思われる。
衝突後の船首断面から「実は木製だったのでは」という疑惑が持ち上がっているのだが、木製ならもぎ取られて当然の話。なんというか、「ダマスカスの剣と信じて斬りかかったら竹光でした」みたいな話かなあ。
乗員6名のうち一人が肋骨骨折したが、6名全員がシー・シェパード側の船に救助されて無事、とのこと。


この事件について、シー・シェパードはもとより反捕鯨に与する人々・国々が第二昭南丸への批判を強める可能性は高い。同時に、正確な事態を把握しないまま、鳩山首相が謝罪と捕鯨船側への非難を始めてしまう可能性が、非常に高い。


常々「誰が言ったか」より「どう言ってるか」が重要で、かつ、「誰かが言ったこと」は「出来うる限り、それを裏付けることができるソースがなければ盲信盲従すべきでない」と思っているんだけど、今回は衝突の当事者の一方である鯨研が、いち早く映像を提供してきた点は大きい。*9
シー・シェパード側は、その場に居合わせなかったポール・ワトソンの発言だけしか今のところ発表していない。

シー・シェパード捕鯨抗議船 日本の監視船と衝突 - MSN産経ニュース
http://sankei.jp.msn.com/affairs/disaster/100106/dst1001061609010-n1.htm

鯨研側は、映像資料を発表している。
おそらくシー・シェパード側の映像資料はアディ・ギルごと海に沈んだのだろうが、当事者の声明や証言以外の第三者が検証できる映像が公開されたことで、鯨研側の主張がより説得力を持ったと言える。




追記。
……と思っていたら、シー・シェパード側の映像も公開されてた。

http://www.youtube.com/watch?v=Rar9zxH1kts

これは抗議船ボブ・バーカー号からの映像。
冒頭、若干第二昭南丸が近づいていっているように見えるのは、ボブ・バーカー号も動いているから。
そして、アディ・ギルは第二昭南丸のほぼ真正面、真下を横切ろうとしているわけで、これは第二昭南丸のブリッジからはほとんど見えないのではないかと思われる。
衝突の瞬間、ボブ・バーカー側の音声は「Oh! Fuck!」「Oh my god!」とか言いつつも、笑ってやがる。*10仲間の船が事故に遭ってるのに。これは予定外の事故ではなく、予定内の攻撃と思われても仕方ない。
さすが、調査捕鯨船団側の転落事故の無線をキャッチして妨害に使うような輩はやることが違うな。
衝突後、第二昭南丸は左に転舵、アディ・ギルは全速後進をかけている。


双方の映像を見比べた上で、瑕疵判断すべきだ。
youtubeの元動画へのコメントは英文でね。


オマケ。
オブイェクトから知ったとこ。

戦標船南氷洋を行く 日の丸捕鯨船団の戦い 第一章
http://www.d1.dion.ne.jp/~j_kihira/library/nanpyoyo/nanpyoyo1.html

戦後の捕鯨再開時に、危うく戦艦長門捕鯨船として貸し出されるとこだったらしい話という……。

*1:映像中では「AG号(えーじーごう)」

*2:LARD?

*3:船尾後方からの水泡が大きくなっている

*4:反時計回り

*5:この場合は右

*6:しかも、衝突の衝撃が左側から加わっているし

*7:そもそも南極海に出張るような船ではない

*8:当然

*9:でも、このソース、僕が見た時点ではまだ308再生しかされてなかったな

*10:「おお、神よ!」ってこんなシチュエーションでへらへら笑いながら言う台詞じゃないだろ、とキリスト教徒ではない自分ですら思う。