オカルト政局論〜松岡の祟りと中川の祟り

僕は一応怪談作家の末席に座っている者なので、これから語る話は怪談、オカルトの類だと思って下さい。

松岡の祟り

もう3年くらい前になるけど、2007年5月、安倍内閣当時の松岡利勝農相が自殺した。

[時事][訃報]訃報二題
http://d.hatena.ne.jp/azuki-glg/20070528/1180338417

このときの追求内容は、当時流行語にもなった「なんとか還元水」。使途不明の事務所費の項目にあったミネラルウォーターが高すぎる、怪しい、とかいう類の話。
結局真相は明らかにされなかったが、何らかの裏金や後ろめたい政治資金やその使途を、事務所費に割り当てていたのだろう、それを後ろめたく思って自殺したのだろう――というのが当時の概評だったかと記憶している。


この松岡利勝という議員は、「特高の松岡」という二つ名を持っていた。
野中広務の懐刀で、国家公安委員長経験者。
政敵の後ろ暗い秘密を調べ上げ、それを武器として政敵を攻撃・籠絡する……という、古い時代の政闘における武闘派であったらしい。
野中広務が「毒まんじゅう」によって自滅、政界から引退した後は小泉純一郎に付き、安倍内閣では本来の農政族としての本領を発揮、攻撃的農政政策を展開……しようとした矢先に、先のなんとか還元水事件によって自殺を選ぶ。現役閣僚の自殺は戦後初。


さて、この松岡利勝が国会で指摘していた疑惑があった。
これは2005年春というから、郵政選挙前の小泉内閣の頃の話*1衆院予算委員会で、こう質問した。ちょっと長いけど、引用掲載。

松岡委員 ぜひとも、人類にとって最重要の課題であります温暖化対策、地球環境問題、総理の特段のその点での役割を発揮されることを強く期待をし、お願いをしたいと思っております。
 それでは、次の問題に移りたいと思いますが、まず、民主党は、先般から衆参の予算委員会におきまして、政治と金の問題について、あたかも自民党及び我が党議員の政治資金に関して不正があるかのごとき質問をされておりますが、これについては、総理及び関係大臣から明確に答弁がなされていたと理解しております。
 つきましては、政治資金に関し、民主党にかかわる不明瞭な点につきまして、二、三、質問をしたいと思います。
 民主党の議員が衆参両院の予算委員会で口をきわめて小泉総理に迫っておりましたが、同党の収支報告書によりますと、民主党の代表代行でいらっしゃいます藤井裕久議員が民主党自由党が合併する前の自由党幹事長のとき、平成十四年に限っても、国民の税金である政党助成金から約十五億二千万円が組織活動費として藤井氏個人に支出されております。
 ちょっとパネルを、お許しをいただいておりますから出していただきたいと思うんですが、これは、総務省の情報公開で求めていただきました資料でございますが、それをパネルにしたものであります。
 まず、上の方でありますけれども、平成十四年七月三十一日、九億七千九百万円、平成十四年の十二月の二十五日が五億四千百九十万円、合計十五億二千九十万円、こういうことであります。自由党助成金から民主党代表代行の藤井氏個人へ支出されたことがわかります。しかし、この十五億円余は、その後どう使用されたのかわかりません
久保政府参考人 自由党本部の組織活動費につきまして、平成十四年分の使途等報告書の記載について確認をいたしましたところ、藤井裕久に対し十五億二千九十万円を支出した旨の記載がございます。
松岡委員 それでは、再度お尋ねしますが、こういう事実をどうお考えになりますか。
久保政府参考人 政党助成法上、使途等報告書には支出の相手方、金額等を記載することとされておりますが、当該支出を受けた者が受領した資金をどのように用いたかにつきましての報告は求めておりません。
松岡委員 仮に法律上はそうであったといたしましても、いやしくも国民の税金である政党助成金の十五億円余に上る金の行き先が全く不透明であるということは、驚くべきことでございます。
 あれだけ政治と金の問題を取り上げ、自分はクリーンで相手が不透明であるかのように主張されております民主党の、その民主党の代表代行を務めていらっしゃる藤井氏に対し、自由党政党助成金から支出された十五億円余がその後どう支払われたか全くわからないというのは、これは、我々も含めて、国民として納得できるものではないと思います。ふだん政治と金について極めて厳しい態度をおとりになっておられます民主党ですから、まず、みずからの党のことを明らかにされることが必要だと思います。
久保政府参考人 先ほども御答弁申し上げましたが、一般論として申し上げますと、会計責任者は、収支報告書に当該政治団体のすべての収入、支出について所要事項を記載するほか、十二月三十一日において借入金の残高が百万円を超えるものにつきましては、当該借入先及び借り入れの残額を資産等として記載することとされております。
松岡委員 それでは、合併直前に民主党から自由党へ流れた政治資金の問題でありますけれども、平成十五年九月二十四日、民主党は二億九千五百四十万円を自由党に対し寄附をしております。二日後の平成十五年九月二十六日、自由党は解散したわけでありますが、わずか二日後に解散する自由党に対し、なぜ民主党が三億円近い金を寄附する必要があったのか。政党を金で買ったのと同じではないか、こういう疑いもあるわけです。

これが「藤井裕久の16億円ポケットないない事件」なわけだが、藤井前財務相は「全然知らない」と反論していた。
昨今の後追い報道では「藤井は本当に何も知らず、全て小沢の掌握する政治団体に流れ込んでいた」とされているものだが、億単位の金額の流れに自分の名前が出てくることを「まったく知らない」というのも政治家として脇が甘すぎるし、知っていてそう言い逃れをしているのだとすれば、なんとか還元水の比ではないわなあ。
この手法は、自由党でも新生党でも同じようにやらかし、合計22億が小沢一郎の手元に流れた。
小沢一郎民主党も同様に解党し、幹事長としてその政治資金を自分のポッケに入れるつもり満々だったのかもしれない。
つまり、小沢一郎は、税金=国の金を盗むために政治権力を壟断している、文字通りの泥棒に過ぎないのでは、という。


2005年のこの松岡利勝の追求は、その後大きく取り扱われることはなく、一度は記事にもなりながら、ぱったりと続報が途切れた。
その後の2年間、民主党よいしょキャンペーンが展開され、松岡利勝は自殺、その2カ月後、2007年夏の参院選で自民はついに参院過半数を失い、2009年9月まで続くねじれ国会による政治的空転を余儀なくされた。


そして小沢一郎の「金の流れ」を巡って、5年前の松岡の指摘が再浮上してきている。3年前に自殺に追い込まれた政治家の怨念と言える。
政治的確執という意味の怨念ではなく、オカルト的意味合いの怨念または松岡利勝の祟りと言っても過言ではない。
僕が怪談屋じゃなかったら言えないw

中川の祟り

もう一人、失意の中で逝った政治家が中川昭一
父・中川一郎が「自殺に追い込まれた政治家」であることから、中川昭一の死も「不審死」「自殺」「アルコール事故死」などの憶測が飛び交った。
父・一郎の死後、その政治基盤の継承を巡って、昭一と一郎の秘書だった鈴木宗男の間に確執が生じ、骨肉の争いとなった。その後、政治政局ネタの小説・映画・漫画における「秘書と世襲の対立」の底ネタにされ続けてきた有名な話。
鈴木宗男はその後、野中広務の懐刀として暗躍。袂を分かつ前の松岡利勝と戦友だったが、野中の失脚で松岡は時の政権に鞍替え、鈴木は離党、収監、独自小政党*2からの政界復帰、という運命を辿る。


さてこの中川昭一、2009年夏の衆院選でまさかの小選挙区敗退。比例復活もなく、そのまま失職した。その直後、失意のどん底にあったまま病死。
このとき、中川昭一の選挙区から出馬して、その議席を奪ったのが、今渦中にある小沢一郎元秘書の石川知裕議員(民主)。
中川昭一石川知裕との直接対決に敗れたわけなのだが、実はこの二人の直接対決はこれが初めてではない。
2005年9月の郵政選挙で一度正面対決しているが、このときは郵政選挙の勢いもあって中川の勝利。
そして2009年8月の政権交代選挙では、4年前と逆の結果となった。
その中川昭一の選挙区から出てきた石川知裕……の、元私設秘書だったのが、現在、小沢裏金問題で脚光を集める金沢敬。小沢一郎のアキレス腱を食いちぎる証言は、石川知裕の周辺に上がった火の手によって延焼を続けている。


怪談屋なので言える。
これは中川昭一の祟り。


鳩山由紀夫小沢一郎もこう嘯く。
「小沢や鳩山の金の問題は、選挙前からわかってたことだ。それでも国民は民主を選んだ。国民は小沢や鳩山の金の問題は微々たることだと判断したのだから、国民の判断に従うべきだ」
そんなこと言ってるから祟られるんだよ。
日本において、非業の死を遂げた*3政治家というのは祟る。菅原道真然り、平将門然り。*4


しかし、小沢を祟るのに生け贄を二柱も必要とするのか。
まだもう少し必要になるのか。


ところで、最近やたらと幅をきかせている民主執行部議員と言えば、輿石東民主党参議院議員会長と、山岡賢次国対委員長
輿石東といえば、山梨日教組を選挙に動員した前科を持つ。その後も「日教組の代弁者」を自認。山岡賢次と言えばマルチ商法推進議連の名誉顧問(http://d.hatena.ne.jp/azuki-glg/20081013/1223881960)どちらも個人の資質を問うなら黒々真っ黒な政治家で、なんとか還元水基準でこれらを指弾するなら、彼らはそれぞれ20回くらいは自殺しないと数が合わない、けれども。
勝てば官軍というか、「政権交代する民主党」という変革の誘惑に惑わされた投票行動の受け皿が、黒々真っ黒な民主執行部の専横・横暴に繋がってるというか……。


日本においては徳川幕府を駆逐した官軍は、勝って新政府を起こす。
その新政府は昭和20年まで命脈を保ち、敗戦によって刷新されることになるわけなのだが、思えばその敗戦もまた「勝った官軍」に対する祟りだったのかなあ、とかなんとか無理矢理に思ってみたり。


なんでも、権力は「軍人→知識人→商人→労働者→軍人→知識人→商人→労働者→」とループするらしい。
戦国時代辺りからの日本史を当てはめてみると、戦国大名と武士→徳川時代に入って武士が官僚・知識階級化→安定した社会内で商業が発達、商人の力が武士の経済力を上回る→文明開化と平民の時代→赤狩り先軍政治時代→敗戦と知識人の復権→高度成長期・バブルを巡る経済人の影響力拡大*5→労働者による権力簒奪*6……おお、確かに合致する。
民主党政権は「商人」と「労働者」が権力を掌中にしているが、いずれその腐敗と迷走の解消のため、という感じで右派的な勢力に支持された「軍人」というか、タカ派が政権を奪還する流れになるんじゃないかなあ、という気もする。
いわゆる軍事クーデターというのは、「雇用不安(経済不安)」を背景とした「政治の腐敗」に対するいらだちがあり、それを超法規的に改革しようという流れから起こる。
ナチスを民主的に政権に付けた戦前のドイツ人は気が触れていたわけではなく、「仕事がないことにいらだち、力尽くの解決を望んだ」のだろうと思う。不況、移民・外国人など安い労働力への排外意識は、いずれ「力ずく」を肯定する。
まず自民に対して「労働者革命」のような感じの政権交代が強いられたが、いずれ遠くない時期に民主政権に対しては、「化けの皮を剥いだら昔の自民党、その上、日本人の雇用を損なう」という、力尽くの改変が強いられる時期がくるかもしんないなあ、という気もしないでもない。


参院選、仮にまたしても与野党逆転が起きたとしたら、日本の政治的空転は2007年以来、さらにもう3年は続くことになる。
この空白はあまりに長い。




追記

元秘書が石川とともに小沢から証拠隠滅の指示を受けた日
2009年3月4日
http://www.nikkansports.com/general/news/p-gn-tp0-20100115-585906.html

藤井元財務相の個人事務所が全焼した日
2009年3月4日
http://www.google.com/search?hl=ja&lr=lang_ja&ie=UTF-8&oe=UTF-8&q=%E8%97%A4%E4%BA%95%E8%A3%95%E4%B9%85+%E4%BA%8B%E5%8B%99%E6%89%80+%E5%85%A8%E7%84%BC&num=50

石川議員が証拠隠滅の指示を受けた日に、藤井裕久の事務所が全焼してたらしい。
これ、詰みじゃないすか?

*1:選挙ヲチャーとしては、郵政選挙は実におもしろい見応えのある選挙で、小泉元総理の演説などでもしばしば「攻めの農政」が引き合いに出されていた。攻めの農政は松岡利勝の悲願でもあり、総理応援演説に引用されるほどに松岡が重用されていた証左とも言える。

*2:新党大地

*3:または政治的に憤死した

*4:個人的には浅野内匠頭西郷隆盛も然り、と思う。北海道は土方歳三に祟られてるw

*5:角栄・金丸・小沢の金権政治はこの商人による政治権力の流れ

*6:民主党政権を左派労働政党とするなら