医療費のこと
動物は健康保険に相当するものがないので、治療費は全て実費。
これが結構凄い金額になる。人間も、もし保険が一切きかない無保険者だったり、保険適用外治療だったり、高額医療対象外だったりしたら、それはもう目も当てられない金額の治療費が掛かる。極端な例としては、乳幼児の心臓移植とか。*1
猫はもちろん保険はないので、飼い主の実費治療になる。
2週間に一度の診察と投薬(制吐剤と消炎剤の粉薬2種)で、だいたい5000円くらい。輸液や包帯の交換、血液検査などが加われば1万はすぐに飛ぶ。入院したら一晩で1万円くらい。
お金がないから治療しないで下さい、なんて言えない。
けれど、お金でなんとかできるのであれば、なんとかしますから直して下さい、と言いたい。言いました。
治療方針を相談するときは、「だいたい○○○円くらいかかります」と、事前に目安を教えてもらえたので、それなりに覚悟はできた。
東大では血液検査の他に、MRIと内視鏡検査と手術、生検、数日の入院もあったりで、これまた結構な金額が掛かった。具体的にはちょっと凹むくらい。総額で安い中古の軽自動車一台分くらいは掛かったと思う。
治療費の目安を金額で具体的に知らされるのは、患畜の畜主に覚悟を問うているのだと思う。金を掛ければ直る、または延命ができる。しかし、掛けても延命できても直らないかもしれない。直らなければ、結局全ての費用が無駄になる。それでも延命をしたいのか。その覚悟はあるのか、みたいな。なんとかあがきたい、お金で購えるならなんとかしたい、という気持ちと、そこまでしてもいずれ無駄になるかもしれないことへの落胆を、未然に気付かせるため、我に返らせるための「費用は○○○円です」という告知なんだろか、と思ったりもした。
街の主治医ではできない治療*2であっても、大学病院なら対応できることがあるのは確かで、麟太郎の最初の癌は、内視鏡検査を受けていなければ切除できなかっただろうし、あれを取らなければ寿命はもっと早く尽きていただろうと思う。
一方で、高度医療というのは魔法ではなく、高額の治療費を注ぎ込んでも、わずかな先延ばしにしかならない、ということも多い。故に、「大学病院に期待をしすぎない」ということは繰り返し言われた。獣医師の側も、末期患畜を診る機会、末期治療に一縷の望みを掛けてくる畜主も多いことから、プレッシャーに感じているのだろうな、とも思う。
「完治できない病気である」
「余命は長くない」
ということを宣告するのは、獣医師にとってギブアップでもあるわけだし。
治らないかもしれないけど、それでも原因を知りたいということ、何か尽くせる手があれば知りたい、という強い希望で東大のほうを紹介していただいたのは、費用負担はあったれど無駄ではなかった、と思っている。
「さらに費用を掛けて入院させ続けることはできるだろうけれども、それよりも残り少ない時間をできるだけ長く、接してやって下さい」
という獣医師の判断は、僕は間違っていなかったと思う。
おかげで、宣告されたよりちょっと長めの余録がついた時間を過ごすことができたんだし。
全国ペット共済会、というものがある。
今でこそペットの治療費を保障するペット保険のようなサービスは増えたが、麟太郎がうちに来たばかりの頃は、丹念に選べるほど行き届いたペット保険というのは、あるようでないのだった。年間3万弱の保険料は決して少額ではないけれども、もし万一のときのことを考えると、入っておいたほうがいいだろう、ということで7年近く続けてきた。
今、昨年から先週までの間に掛かった麟太郎の闘病のためのコストを計算している。どのくらいまで認められるかはわからないし、全額は無理だろうけれども、幾許かの費用はおそらく支払われるだろうと思う。
一頭飼いですらこれだけの負担があったわけで、これが多頭飼い、老齢を複数ともなれば、費用負担の覚悟は相当なものが必要になるだろう。
怪談関係者は犬派猫派で言うと、どちらかといえば猫派が多い。
「超」怖い話の松村進吉君などは、僕の知る身近な怪談関係者の中ではおそらく一番の猫ジャンキーではないかと思うのだが、猫のために引っ越しをし、猫のために一財産を奉仕している。自分の経験と照らし合わせてみれば、それは畏敬に値すると思う。
別にお金が余って困ってる、というようなことは全然ない。
昨年など、実家の両親の事故で車買い換えとか、マシンクラッシュを伴ったPC買い換えとか*3もあって、晩飯がめざしともやしになるくらいの勢いで出費が嵩んだ。普段の暮らしが*4慎ましやかなので、生活水準はそんなに変わらんかったけど、この不況時に蓄えがどがしゃーんと減ったことは否めない。
まあでも、それでも、金を惜しんで後悔したくなかった。
あるものは全部使おう、今こそそれを充てよう、という踏ん切りは割と簡単に付いた。それほど、麟太郎というのは僕にとって掛け替えのないものだったのだな、と。チロルチョコでいったら何万個分したのか、と。
だから、それについては後悔していない。
保険金の支払い請求には、獣医師の診断+手術証明書、それも専用用紙への記入が必要になるらしい。ホームドクターの分は歩いて行けるところだからいいとして、東大のほうはまた出向いてお願いしてこなくちゃなあ。
もしこれで満額とかほとんどの金額がすんなり認められたら、麟太郎の置き土産というか気を遣いすぎ猫ということで、神棚に祀って拝みたい気分。