口蹄疫に関する理解
覚え書き。
口蹄疫そのものに関する理解。
口蹄疫という病気
どういった動物が罹患するか
感染と媒介の違い
- ここでの語義定義として、感染は病原体が体内に入り、それらの病気に罹患、症状が発症すること。
- 媒介は病原体を運び、他の生物に感染させること。
人間は「感染」しないが「媒介・拡大」させる
患畜の肉は食えるか
殺処分の詳細
- 口蹄疫罹患患畜が出た農場は、獣医の認定を受けた後、同一農場にいる全ての家畜を、罹患・未罹患に拘わらず、全て予防的な措置として殺処分しなければならない*5。
- 殺処分に当たって、行政補償を得るため患畜、殺処分対象家畜の、「殺処分認定」と「補償額の算定」を行政の立ち会いのものに行わなければならない*6。
- 殺処分を終えたら、発生場所からできるだけ近い場所(可能なら同一農場敷地内)に、5m以上の深さの穴を掘って、殺処分死体と消毒薬を交互に重ね、地上部分に2m以上の盛り土をして埋め立てる。
- 人力では不可能なので、埋設用の穴の掘削は土木機械*7で行う*8。
- ただし、広大な放牧地を持つ乳牛・肉牛などの農場と比べて、養豚農場は放牧を行わないため、農場そのものの規模(必要面積)が小さく、殺処分死体を埋設する敷地が致命的に足りていない。政府に早急に求められている具体策は、この「埋設用地の確保、埋設手続きの迅速化」。
- 口蹄疫が発生した農場は、5年間は同じ場所で同じ種類の動物を飼うことができない。
畜産産業、国内農家への影響
- 殺処分された家畜の補償は、国から全額補償を受けられる*9。
- ただし、農場経営そのものは立ちゆかなくなるため*10、廃業農家が多く出る可能性が高い。
- 養豚に限った場合、国内の総生産数は年間950万頭くらい。そのうち、宮崎県だけで90万頭*11、隣接する鹿児島県が130万頭*12。2県合わせると全国の総生産数の1/5に相当。既に宮崎県内で8万頭*13を越す数が殺処分されているが、「殺処分待機中」「疑似感染」「感染の可能性がある隣接警戒地域内」などを合わせると、これより多くの家畜が殺処分される可能性が高く、この数字は増えることはあっても減ることはない。
- 国内産豚・牛肉の価格は供給量減から高騰する可能性がある。
- 一方で、風評被害から敬遠され、他県産のものも含めて在庫がだぶつき、価格が下落する可能性がある。*14
輸入肉類の増加
風評被害の予防
- 「口蹄疫」の感染と媒介、食肉の安全性などについての正確な情報が、現状ではあまり足りていない。
- 自発的に情報を得ようとする人ばかりではなく、風評被害は受動的に「与えられた断片的な情報」「表層的な情報」「新聞・報道の見出しのみ」で判断する人が少なからずおり、そうした断片情報、表層情報、見出しが、誤解を与えかねないものが多い。
- 今回、政府の初動が遅れたのも、情報不足(報道に情報を頼った)+判断を下す立場の政治家が致命的に情報不足な上に、複数情報/事情/法律/制限条件の内容に関する理解が圧倒的に足りていなかったことに起因する。
- 「風評被害を防ぐために感染状況に関する情報を伏せた」というのは、風評被害としては最悪の対応で、結局伏せられた内容に関する憶測が却って広まってしまう。風評=憶測であり、風評被害の解消は詳らかな情報開示と、複合的な要因を子細かつ総合的に解説したものを、いつでも誰でも獲得出来るようにする、状況が収束するまで繰り返し周知報道する、ということに尽きる。
- 現状の日本の報道体制や政府による情報管理方式では、ニュース=最悪の結果なので、「最悪に至らないようにするための予防的な情報提供」が非常に未熟であると言える。*17
- 具体的には状況、要因、防止・阻止の具体的手段の繰り返し周知が必要。また、どこに情報を求めれば、総合情報・全体情報・子細情報が手に入るのか、といった情報ポータルが必要。
- 「食べると死ぬ」「汚染肉が市場に流通」などのデマを否定することが必要。
- 門外漢のコメンテーターの憶測を放送させない。
- 政局に話を持っていかない。
- 現地の現状について、該当地域以外の地域にリアルタイムに情報提示できる仕組みを半年以内に作る*18。
これが「戦争が発生しました。現在日本は正体不明の相手から攻撃を受けてます」というような事件が起きて、非難すべき明確な相手がいたとしても、「相手にそうさせてしまうような原因を作った日本が悪い。謝罪して引き上げて貰うべきだ」という主張が幅利かせたりするんだろうな、という気がするw
もちろん、大義名分を得て猛反発というのはあるんだろうけど、攻撃を仕掛けるだけで、やられたのに謝ってくれて、自発的に賠償をしてくれる国っていう、そういう謎のことをやらかしそうではある。今の政権のままだったら。
混乱の収拾というのは政治の重要な役目であり、報道はそれを補完する役目を「公器」として負っているはずだけど、役目果たせてないよね。
*1:これについては前例がまったくないわけでもなく、口蹄疫に罹患して同じ症状で死んだ症例もあるらしい。口蹄疫の感染で死んだと報告された例もある。もっとも当時は判断する手段が無く、検査できるようになってからの報告例がないことから「大丈夫」とされている。ウィルス性疾患であること、同じウィルス性疾患である鳥インフルや豚インフルのように、大量飼育されている畜産場で突然変異を起こしたものが、人間に感染する病気に変質する可能性は常にある
*2:今回の口蹄疫の拡散はこれが懸念され、人員や車両の消毒が急がれた。
*3:このため、従来の口蹄疫対策では、感染済みの家畜やその殺処分死体、従事者の移動が制限され、発生後に警戒すべき地域も広範囲に設定されていた。また、口蹄疫発生国からの肉・餌の輸入も厳しく制限されてきたが、民主党政権に変わってから口蹄疫発生後に清浄国宣言される前の韓国、中国本土からの餌わら、肉などの輸入が再開され、発生後に警戒すべき地域の指定範囲も従来より緩和されていた。
*5:法律で決まっています
*6:これをするのに獣医が足りない。政府からの増員が決められたのはGWを過ぎてからで、それが足りなかったため殺処分が遅れて感染が拡がった
*7:パワーショベルなど
*8:自衛隊が駆り出されているのはここで、他に地元の土木事業者も駆り出されている
*9:80%、残りの20%は共済から、という話だったが、共済に入っていない農家の救済のため国が全額、という話が出て、それじゃ共済入り損だ、という話も出て、これは混迷中
*10:同じ農場での同じ畜産ができなくなるため
*11:全国2位
*12:全国1位
*13:2010/5/13の情報
*14:この高騰の可能性と下落の可能性の双方があることから、「大丈夫、バランスが取れるから今までと変わらない」という政府高官もいるが、これもデマ。政府は供給量が減った分は輸入で補うつもりで、価格が下がれば結局国内農家にしわ寄せがくる
*15:これは、汚染された罹患肉が市場に出回るだの、口蹄疫が広まっていない地域の肉なども汚染されている、汚染されたことを農家が黙っているのだ、といった憶測と誤解によるもの
*16:アメリカ産牛肉がBSEで敬遠された後、輸入再開後もオーストラリア産牛肉が選ばれた、などの例
*17:普天間問題の根本を5月に入ってから首相がようやく理解した、というのなども同様で、複合的な要因とその優先順について、予防的な情報提供はもっと為されるべきだと思う。鳩山首相レベルにでも10分で理解できるようなものを。
*18:今回は間に合いませんが。東国原宮崎県知事が、連日の被害状況をTwitterで発信するなどしているが、これは良い対応。一方で、Twitterは揮発性が高く数日内の情報がすぐ流れてしまうこと、アカウント登録していないと最新情報に気付きにくいこと、などから、関連情報をリッピングして蓄積表示する仕組みは必要なんじゃないかな