麻生発言の朝日の全文書き起こし(私家版)

文章のニュアンスの錯誤が若干気になるので、自主トレも兼ねてパラグラフを整理してみた。

朝日新聞による全文*1書きだし(オリジナル版)

http://www.asahi.com/politics/update/0801/TKY201307310772.html


 僕は今、(憲法改正案の発議要件の衆参)3分の2(議席)という話がよく出ていますが、ドイツはヒトラーは、民主主義によって、きちんとした議会で多数を握って、ヒトラー出てきたんですよ。ヒトラーはいかにも軍事力で(政権を)とったように思われる。全然違いますよ。ヒトラーは、選挙で選ばれたんだから。ドイツ国民はヒトラーを選んだんですよ。間違わないでください。


 そして、彼はワイマール憲法という、当時ヨーロッパでもっとも進んだ憲法下にあって、ヒトラーが出てきた。常に、憲法はよくても、そういうことはありうるということですよ。ここはよくよく頭に入れておかないといけないところであって、私どもは、憲法はきちんと改正すべきだとずっと言い続けていますが、その上で、どう運営していくかは、かかって皆さん方が投票する議員の行動であったり、その人たちがもっている見識であったり、矜持(きょうじ)であったり、そうしたものが最終的に決めていく。


 私どもは、周りに置かれている状況は、極めて厳しい状況になっていると認識していますから、それなりに予算で対応しておりますし、事実、若い人の意識は、今回の世論調査でも、20代、30代の方が、極めて前向き。一番足りないのは50代、60代。ここに一番多いけど。ここが一番問題なんです。私らから言ったら。なんとなくいい思いをした世代。バブルの時代でいい思いをした世代が、ところが、今の20代、30代は、バブルでいい思いなんて一つもしていないですから。記憶あるときから就職難。記憶のあるときから不況ですよ。


 この人たちの方が、よほどしゃべっていて現実的。50代、60代、一番頼りないと思う。しゃべっていて。おれたちの世代になると、戦前、戦後の不況を知っているから、結構しゃべる。しかし、そうじゃない。


 しつこく言いますけど、そういった意味で、憲法改正は静かに、みんなでもう一度考えてください。どこが問題なのか。きちっと、書いて、おれたちは(自民党憲法改正草案を)作ったよ。べちゃべちゃ、べちゃべちゃ、いろんな意見を何十時間もかけて、作り上げた。そういった思いが、我々にある。


 そのときに喧々諤々(けんけんがくがく)、やりあった。30人いようと、40人いようと、極めて静かに対応してきた。自民党の部会で怒鳴りあいもなく。『ちょっと待ってください、違うんじゃないですか』と言うと、『そうか』と。偉い人が『ちょっと待て』と。『しかし、君ね』と、偉かったというべきか、元大臣が、30代の若い当選2回ぐらいの若い国会議員に、『そうか、そういう考え方もあるんだな』ということを聞けるところが、自民党のすごいところだなと。何回か参加してそう思いました。


 ぜひ、そういう中で作られた。ぜひ、今回の憲法の話も、私どもは狂騒の中、わーっとなったときの中でやってほしくない。


 靖国神社の話にしても、静かに参拝すべきなんですよ。騒ぎにするのがおかしいんだって。静かに、お国のために命を投げ出してくれた人に対して、敬意と感謝の念を払わない方がおかしい。静かに、きちっとお参りすればいい。


 何も、戦争に負けた日だけ行くことはない。いろんな日がある。大祭の日だってある。8月15日だけに限っていくから、また話が込み入る。日露戦争に勝った日でも行けって。といったおかげで、えらい物議をかもしたこともありますが。


 僕は4月28日、昭和27年、その日から、今日は日本が独立した日だからと、靖国神社に連れて行かれた。それが、初めて靖国神社に参拝した記憶です。それから今日まで、毎年1回、必ず行っていますが、わーわー騒ぎになったのは、いつからですか。


 昔は静かに行っておられました。各総理も行っておられた。いつから騒ぎにした。マスコミですよ。いつのときからか、騒ぎになった。騒がれたら、中国も騒がざるをえない。韓国も騒ぎますよ。だから、静かにやろうやと。憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。あの手口学んだらどうかね。


 わーわー騒がないで。本当に、みんないい憲法と、みんな納得して、あの憲法変わっているからね。ぜひ、そういった意味で、僕は民主主義を否定するつもりはまったくありませんが、しかし、私どもは重ねて言いますが、喧噪(けんそう)のなかで決めてほしくない。


パラグラフの位置が気になるので、文脈を考えつつ直してみた。
文面は変えてません。

朝日新聞の書き出しを元にパラグラフを整理してみる


ヒトラーはドイツの国民に合法的に選ばれた
 僕は今、(憲法改正案の発議要件の衆参)3分の2(議席)という話がよく出ていますが、ドイツはヒトラーは、民主主義によって、きちんとした議会で多数を握って、ヒトラー出てきたんですよ。
 ヒトラーはいかにも軍事力で(政権を)とったように思われる。
 全然違いますよ。ヒトラーは、選挙で選ばれたんだから。
 ドイツ国民はヒトラーを選んだんですよ。間違わないでください。
 そして、彼はワイマール憲法という、当時ヨーロッパでもっとも進んだ憲法下にあって、ヒトラーが出てきた。


憲法の善し悪しではなく、有権者の意志がナチスを選ぶことは可能だった
 常に、憲法はよくても、そういうことはありうるということですよ。
 ここはよくよく頭に入れておかないといけないところであって、私どもは、憲法はきちんと改正すべきだとずっと言い続けていますが、その上で、どう運営していくかは、かかって皆さん方が投票する議員の行動であったり、その人たちがもっている見識であったり、矜持(きょうじ)であったり、そうしたものが最終的に決めていく。


若い世代は好況を経験していないのに前向き、50〜60代はダメ
 私どもは、周りに置かれている状況は、極めて厳しい状況になっていると認識していますから、それなりに予算で対応しておりますし、事実、若い人の意識は、今回の世論調査でも、20代、30代の方が、極めて前向き。
 一番足りないのは50代、60代。ここに一番多いけど。ここが一番問題なんです。私らから言ったら。なんとなくいい思いをした世代。バブルの時代でいい思いをした世代が。
 ところが、今の20代、30代は、バブルでいい思いなんて一つもしていないですから。記憶あるときから就職難。記憶のあるときから不況ですよ。
 この人たちの方が、よほどしゃべっていて現実的。
 50代、60代、一番頼りないと思う。しゃべっていて。
 おれたちの世代になると、戦前、戦後の不況を知っているから、結構しゃべる。
 しかし、そうじゃない。
 しつこく言いますけど*2、そういった意味で、憲法改正は静かに*3、みんなでもう一度考えてください。


狂騒の中でなく、冷静な議論で改憲案は練られた
 どこが問題なのか。きちっと、書いて、おれたちは(自民党憲法改正草案を)作ったよ。べちゃべちゃ、べちゃべちゃ、いろんな意見を何十時間もかけて、作り上げた。そういった思いが、我々にある。
 そのときに喧々諤々(けんけんがくがく)、やりあった。
 30人いようと、40人いようと、極めて静かに対応してきた。自民党の部会で怒鳴りあいもなく。
『ちょっと待ってください、違うんじゃないですか』と言うと、『そうか』と。偉い人が『ちょっと待て』と。
『しかし、君ね』と、偉かったというべきか、元大臣が、30代の若い当選2回ぐらいの若い国会議員に、『そうか、そういう考え方もあるんだな』ということを聞けるところが、自民党のすごいところだなと。
 何回か参加してそう思いました。ぜひ、そういう中で作られた。
 ぜひ、今回の憲法の話も、私どもは狂騒の中、わーっとなったときの中でやってほしくない。


靖国神社参拝を狂騒する問題にしてしまったのはマスコミ
 靖国神社の話にしても、静かに参拝すべきなんですよ。
 騒ぎにするのがおかしいんだって。静かに、お国のために命を投げ出してくれた人に対して、敬意と感謝の念を払わない方がおかしい。静かに、きちっとお参りすればいい。
 何も、戦争に負けた日だけ行くことはない。いろんな日がある。大祭の日だってある。8月15日だけに限っていくから、また話が込み入る。
 日露戦争に勝った日でも行けって。といったおかげで、えらい物議をかもしたこともありますが。
 僕は4月28日、昭和27年、その日から、今日は日本が独立した日だからと、靖国神社に連れて行かれた。それが、初めて靖国神社に参拝した記憶です。それから今日まで、毎年1回、必ず行っていますが、わーわー騒ぎになったのは、いつからですか。
 昔は静かに行っておられました。各総理も行っておられた。
 いつから騒ぎにした。
 マスコミですよ。いつのときからか、騒ぎになった。
 騒がれたら、中国も騒がざるをえない。韓国も騒ぎますよ。
 だから、静かにやろうやと。

ワイマール憲法と全権委任法*4

 憲法は、ある日気づいたら、ワイマール憲法が変わって、ナチス憲法に変わっていたんですよ。だれも気づかないで変わった。
 *5あの手口学んだらどうかね*6。わーわー騒がないで。
 本当に、みんないい憲法と、みんな納得して、あの憲法変わっているからね。

「マスコミが作り出す狂騒状態」の中での憲法改正強行は好ましくない

 ぜひ、そういった意味で*7、僕は民主主義を否定するつもりはまったくありませんが*8、しかし、私どもは重ねて言いますが、喧噪(けんそう)のなかで決めてほしくない。

改めて読み直してみると、前後の文脈から「あの手口学んだらどうかね」というのは、実は【マスコミに向けられた嫌味】のようだ。


さて。
パラグラフを整理した理由について補足。
「本来分割すべきではない、文脈として連続しているセンテンスが、別のパラグラフに分割されたことで【何に掛かる言葉なのか】が変わってしまって分かりにくくなっているのではないか?」という疑問から。
例えば、こんな例文があるとする。

「リンゴがある。それはまるまるとしている。美味そうな子豚である」

これを、「リンゴがある。それはまるまるとしている」で区切ってパラグラフにまとめたら、「まるまるとしている【それ】」とはリンゴを指すことになる。
しかし、リンゴの下りを別のパラグラフに分けて、「それはまるまるとしている。美味そうな子豚である」のほうでまとめたら、「まるまるとしている【それ】は子豚を指すことになる。
つまり、パラグラフをどこで分けるかによって、「それ」「あの」といった文章が何を指すつもりで使われたのかが、がらっと変わってしまう可能性がある。


朝日書き起こしは元が「演者の主張にある程度共感していて、主張の骨子を理解しており、主語や目的語を省略したり対象を明示しなくても意図が理解できる」という聴衆集団に向けられた口頭の発言を文字に起こしたものなので、どうしてもわかりにくいところは出てくる。
原稿を読み上げ、ディレクターのカンペに従って進行するニュース番組の語りと、ライブで曲と曲の合間に即興でするMCと、それぞれを文章起こししてみたら、後者の「読み上げないトーク」のわかりにくさったらない、と思う。
こうした講演のトークはライブのMCに近いわけで、「わかりにくい」のは当たり前とも思う。


また、整理した私家版に入っている小見出しはAZUKIによるもの。
「書き起こしに小見出しを入れるのは反則」という批判は正しい。が、朝日が提示したパラグラフを整理し直した結果、それぞれのパラグラフはどんな趣旨の発言群になったか?について、改めて個別に理解を促すと「読解能力の差によって意図する通りに理解されなくなるだろう」と思ったので、ここは「AZUKI私家版は、朝日書き起こしと比較したときに、どのような意味を見出すように整理されたか?」を分かりやすくするために付けた。
……というような付記も、はてブコメントを見ると、「言わなくてもその意図がわかる人」と、「言われなければ誤解する人」にぱっくりと分かれる。つまりこれが、「理解に必要な情報量は、人によって個別に異なる」ということの証左であり、今回の麻生発言が「主語や目的語を省略したことで、分かりやすい人と分かりにくい人を分けてしまった」というところに繋がる。




仕事の文章整理でもそうなんだけど、「どこで改行するか」「どこで段落を分けるか」で、実は文章はそのまま同じでもニュアンスが結構変わってしまう。
助詞一つこっそり変えただけで意味が逆になることだってある。
「あの」とか「それ」といった言葉が何を指しているのか、それだけでやはり意味は変わってくる。


まして、整理された原稿を読み上げるのではない、アドリブ混じりの即興の講演・演説などでは、発言者の脳内で繋がっていて、連続して聞いている聴衆にもなんとなく繋がっているものであっても、それを文章に起こしたものだと印象も変わるし、やはりニュアンスも変わる。


新聞記事などではこうした発言者の全文を掲載せずに、「文章を整理する」「ニュアンスを要約する」といった作業が行われる。
取材者が現場で聞いた内容を整理要約したものを、さらに「現場に立ち会わなかったデスクや上司」が要約し、整理部が見出しを作る。
二重三重に「削ぎ落とされる」ことで、削ぎ落とされた中に入っていたニュアンスが伝わらなくなったり、逆の意味になったりする。
それが意図したミスリードである場合もあれば、錯誤や伝言ゲームのミスによる誤報になる場合もある。


現代人の多くは処理すべき情報が多すぎる。
仕事、日常、趣味、娯楽などなど。
そうすると、特に興味のない情報は見出しだけですませたい、となる。
車内吊りであったり、スポーツ新聞の数文字の見出しであったり、ネットニュースのスレタイであったり、140字のツイートに含まれる誰かの感想であったり。
それによって元のニュアンスが損なわれたり、逆の意味になったり、ということは日常茶飯に起きているのではないだろうか。


「腹が立つ記事」或いは「義憤に駆られることが許された記事」、見出しなどを見かけることがあったら、できるだけ原典に近いものに当たってみないと、「あっ、ナニコレ! 騙された!」というようなことがないとも限らない。というか日常茶飯。
我々は読む能力をもっと鍛えないといけないかもしれない。
「そんなつもりじゃなかった」「騙された」と騒いでも、どこからも賠償はされないんだし。

*1:どうも【全文】ではなく、講演全体の該当箇所(と朝日が判断した下り)の抽出らしいので

*2:朝日の書き起こしでは、「憲法改正は静かに」という文脈はここで初めて出てくる。つまり「全文書き起こし」ではなく、一番最初のパラグラフ以前に、別の主張があったはず。そこも検証すべきかも

*3:後でも出て来るけど、「静かに」は「注目を集めず」という意味ではなく「狂奔・狂騒状態ではなく、冷静な議論を」という比喩と思われる

*4:ナチス憲法、というのは全権委任法のことかと思う

*5:問題の発言は「マスコミは」という感じで「狂騒を控え静かにするべき対象=既に騒いでいる者」に向けられている。

*6:「学んだらどうかね」という言い回しには、「窘めるニュアンス」と「唆すニュアンス」の双方があるが、前段の流れで出てきたことを考えると、これは「騒ぐマスコミ」に向けられている。

*7:ここの「そういった意味」が、どこに掛かってるのかがわかりにくい

*8:ここは前述の「全権委任法を肯定しないの意