一般人から初音ミクはどう見えているのか?
本日、かなり大手な出版社にちょろりと打ち合わせに行ってきた。
今年2件目の怪談じゃない話でw
以前、この会社から出ていた雑誌にコラムを連載してたのだが、そこが昨年末になくなっちゃって(^^;)、そこにいらした編集さんが別部署に異動になったので、久々の挨拶なども含めて。
で、そこで「初音ミクどうすか」的な話題が出た。
昨年、TBS事件と前後した頃に、一度扱ったことがあったらしい。が、それもあって、「初音ミクと言えばヲタのおもちゃ」というイメージもあって、それ以上の切り口が見いだせないまま、「一回扱ったからもういいか」ということになってるのだそう。
僕としては、「いやいや、そういうのばっかでもなくてですね、結構重層的にいろいろな要素が絡み合っているので、いろいろな切り口で分析することができるんじゃないかと思うのです」と熱弁。
熱弁しながら考えた。*1
まず、「初音ミク」というソフトウェアは、あのグラフィック&設定を尊重しようとする限り、それに関連して作られた楽曲がどんなに良かろうとも、一般受けするものとしてアプローチすることが、難しいという代物なのだ、ということ。
実際、あのグラフィック&設定がまずありき、ということによってマニア(ヲタ)受けしたことは揺るがしようのない事実だし、そのグラフィック&設定に思い入れしたキャラクターソングに秀作が実際のところ多く、それらが高く評価されている(初音ミクを理解している人間の間では)ということは、揺るがしようのない事実。
僕が今日行ったセクションが取材を申し入れた時には、クリプトンからは「楽器として扱ってほしい」とコメントされたらしい。ヲタのおもちゃと見てくれるな、と。*2
でも、結局のところ、「そうはいってもあれはヲタク向けのおもちゃだよな」という結論がセクション部内で出てしまったようで、それ以上の注目には至らなかったらしい。
今日、僕が話を切り出したときも、最初は全然食いついてこなかった。
このセクションは、40代くらい向けにエンタテインメントを分析提示するというようなことをやってるところ。ヲタではない人に向けて、新しいエンタテインメントのツールであるところの初音ミクを、どう説明し、理解させ、興味を引くかというのは、なかなか難しく、しかし意義あることのように思えたので、もうちょっと熱弁を奮ってみた。そして奮いながら考えた。
イメージ&設定を除いた、純粋にソフトウェアとしての初音ミクというのは、ボイスシンセであり、楽器であり、DTMツールである。
それらの使用者の全てがヲタというわけではない。
というより、これらのツールはそれなりに音楽知識がないと使いこなすことはできえず、音楽の経験はあるけれど時間と人が足りない……つまりは、「かつて音楽を志向していたけど、今はもう諦めた」というドロップ世代が、大きくその地位を占めているのではないかと思える。
もちろん、それが全てということはないだろうけど、30〜40代の「自称・おっさんホイホイ」な方々というのは、結構いるんではないかと思っている。
また、作られる楽曲についても、初音ミクのグラフィックイメージ&設定からイメージされるようなものとは別に、30〜40代くらい、それなりに人生生きてこないと浮かんでこないような歌詞・フレーズの曲であったり、40代の人にはちょっと懐かしいw80年代調の曲なども散見される。
サラリーマンのうた
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2224359
雪峰〜yukimine〜
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1983502
つまり、そのあたりの人にとって懐かしいまたは同世代的共感をもたらすものを孕んでいると言える。
初音ミクを「ヲタのおもちゃ」という一面からだけ見ると、その点を結構見落としがちなのでは。
このあたりまでは、「初音ミクというツールを使っているコンポーザの実像」について。世間並みなヲタばかりじゃないんですよ、というアプローチ。
そして、CGMという「状態」を活用する事例についても熱弁した。
例えば、「作ってみた業者」或いは「また御社か」でおなじみの、痛社シリーズ。
また御社か
http://www.nicovideo.jp/tag/%E3%81%BE%E3%81%9F%E5%BE%A1%E7%A4%BE%E3%81%8B?sort=v
ニコニコ動画はあからさま宣伝行為を禁止している。けれど、この痛社シリーズは、「初音ミク」という題材をオモチャに、会社の機材を使って遊んでいるように見せかけつつ(いや、遊んでるのかもしれませんがw)、個々の企業の機材紹介、技術紹介になっている点が非常に面白い。これが、近所の商店街のチラシを作る行程だったら、こんなに注目もされずおもしろがられもしなかっただろうと思うけど、初音ミク的な何かを題材にすることで注目を集めている。これは一種の技術プロモーションと言えるし、特に規模の小さい中小企業では、その宣伝効果は決して小さくない、と言える。
「作ってみた」でおなじみの働く背中がカッコイイことで定評があるw社長などは、オリジナルマウス&ラッピングケースなどのプレゼントを活発に行っている。もちろん、権利上の許諾を得ない限り、初音ミク関連商品を売るという商売は難しいだろうけど、これは後々、オリジナル商品などを企画するような展開をする場合に、一番のキモとなる「絵の上手いイラストレーター/グラフィッカー」を確保するパイプ作りに大いに役立っているのではないか。
作ってみた その5(オリジナルマウス量産編)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1788931
中小企業というのとはちょっと違うんだけど、例えばhalyosy*3。
インディーズレーベルで活動しているバンドというのは、規模的にはやっぱり中小企業クラスと見てよいと思う。音楽=メジャー=売れる=毎回100万枚売り上げ……というイメージが強いけど、実際のとこインディーズだと「数百枚から数千枚プレスして、ライブで地道に消化」なんてのは全然珍しくない。自分達でCD-R焼いて売ってるようなインディーズだっていっぱいいるし。
そういう段階にあるインディーズグループにとって、数十万回以上も再生され、なおかつ継続的に話題になるというのは、プレゼンテーション&コマーシャル効果としては非常に大きい。*4
halyosy名義では、「メルト」「コンビニ」をそれぞれ歌っているが、halyosyの歌唱の実力の裏付け+それへ取り付けた支持というのは、それ単体では利益を生まなくとも、そこから連鎖する「知名度」という実利を得ることには十分役立っているのではないか。
メルト♂ (男性用キー上げVer.=halyosy)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm1754685
コンビニ*5 (halyosy)
http://www.nicovideo.jp/watch/sm2112420
つまり、初音ミクを軸とした「音楽を消費する新しい層」に向けて、いろいろなアプローチを試みている人々がいる、ということ、CGMという「コンテンツの海」をどのように活用していこうとしているのかは、模索段階にあるのだということ。
JASRACの管理下にある既存曲ではない、権利的に白の状態の楽曲をどのように事業展開できるのか(そもそもできないのかw)というような、ビジネス的側面からも、今はまさに実に興味深い段階にあるのだ、ということ。
ヲタのオモチャばっかってわけでもないんで、キャラクター&設定から一歩離れたところ、別方向からの切り口で見ていくと、この「初音ミク」(Vocaloid全般+そうしたものを使って作られる、JASRAC管理外楽曲と、それを用いたコンテンツ群)というのは、まだまだ一般向けに語るべき事柄がいっぱいある上に、むしろいろいろな側面からのそれを積極的に提起していかないといかんのでわないか、と思った次第。
実際のとこ、僕自身ずっと引っ掛かっていたというか気に掛かっていたところではある。
デP問題のときの削除賛成派の正論的主張としては、「一般向けではない」「お茶の間にアプローチできない」が多かったように思う。
が、「CGMコンテンツへの評価償却」「収益を上げるには?」的な切り口については、「時期尚早」「金が絡むとモチベーションが下がる」という反対意見が多かった。それもなるほどと思う反面、実はニコニコ動画*6の外、「初音ミク」のキャラクターの側面に興味がない一般人へのアプローチの部分は、むしろなおざりにされてきていないか? とも思う。
一般向けにアプローチする努力は、これは楽曲作者がする努力ではないわけで、どちらかというとその周辺部やリスナーや、そうでなければ胴元wであるニコニコ動画(ニワンゴ、ドワンゴ、DMP他)か、ピアプロ(クリプトン)が考えるべき努力なのかもしれない。
自社コンテンツサーバの魅力的コンテンツ、とした扱いに留めるなら、その内容は一般向けである必要はむしろ不要であり、一般向け/一般受けを考える必要も、実はないのではないか。
そうではなくて、そこからスピンオフ商品を一般向けに展開することを考えるなら、一般向けにアピールしていくことも必要になっていくのでは。
一般向けというのは、つまりは「一般の消費者」向けということになるのだが、消費者に何を消費して貰うかということまでひっくるめて、その周辺部に介在する「ビジネス」が動くことを意味するのだと思う。そこにビジネスとして展開する要素がある、そうなる萌芽がある、そういうことを感じられるものは、一般に向けて広く紹介されていくし、そういう可能性を帯びていないものは、一般に向けて紹介する必要そのものがない、ということになる。
ここでも、「一般向け」「一般化」「普及」には、「それがビジネスになりうる要素を持ちうるかどうか」「一社のみの成功ではなく、競合他社による追随、または協業他社による拡散する展開の余地があるかどうか」というところで、その分野・ジャンルの「将来にわたる長期的展開及び命運」が試されるのではないか。
消費者、もしくはそれを「楽しむ側」としては、できるだけ長い期間、多くの人によって、コンテンツが提供されていき、できるだけ多くの選択肢があり続けることが好ましい。市場は大きく長くなるのが、結果的に楽しむ側にとっての利益になる。
つまりは、一般化*7というのは、楽しむ側の目的を達成するためには、避けられない。
一般化という正義のために、「一般向けではない」ものを容認しない判断をしたなら、逆に一般化のための努力をしていくべきではないか。
……と、熱弁を奮うと話がループするのは、たぶんうちの母親の遺伝だと思われる。
そういうわけで、もしページが貰えたらw、そのときは是非とも「ヲタではないビジネスチャンスを模索する40代の一般人に向けて、初音ミクの現在・実体・将来性諸々について語らせてください」とそりゃもう熱くるしく語ってきた。
*1:口火を切ってから、喋りながら考えるのはいつものことw
*2:時期的にはTBS事件の後くらいの頃らしい。
*3:halyosy=森晴義、笹原翔太、中村博によるヴォーカル+ギターユニット「absorb」。初音界では「メルト」でブレイクした歌い手として知られる。
*4:第二日本テレビのT部長のインタビューにあった数字として、TVの視聴率は5%で300万人くらいが見ていると推測されるらしい。みくみくにしてやんよ♪の再生数はTV視聴率で言う5%相当をすでに稼いでいることになる。halyosyの歌ったメルトなどはそれには及ばないものの、TV視聴率の1〜2%程度に匹敵する集客力があったと考えると、相当凄い話。また、CMの放送回数や視聴回数に準えると、ン十万回の再生というのは宣伝コストに置き換えたら天文学的金額になるのかも。余談。
*5:2/13にFullが上がってたので急遽こちらで。
*7:その一般化された中の一部、または先端部に、コア/マニアな推進力はあり続ける