党首討論と内閣不信任案

仕事しつつ党首討論を中継で見るなど。
ああ、気になるw

再三繰り返しているけど、今、このタイミングで解散総選挙になると、短期的には「不甲斐ない悪の政権」に懲罰を与えることができ、溜飲が下がってすっきりするだろうけど、長期的には大きなしっぺ返しが来る可能性があって、あまり積極的に推進すべきではない、というのが僕の主張。


もし今解散総選挙になると、恐らく高い確率で民主政権は下野する。
小沢グループ、もしかしたら鳩山グループも民主から離脱する可能性があり、民主残留組は菅直人の汚名の余波で戦わねばならず惨敗。
鳩山個人は当選できるかもしれないが、鳩山待望論は望めず、鳩山新党に躍進はない。
小沢個人はこれまた当選できるだろうし、小沢待望論を捨てきれない元民主支持層のいくらかは小沢Gを後押しするかもしれない。
小沢新党はしかし、20人を超える当選者を出せるとはちょっと思えない(組織力の問題と、小沢求心力の衰え)。
小沢新党は、たちあがれ日本みんなの党その他と連立したところで政権与党にはなれないが、みんなの党、公明と同程度の議席規模を確保できるなら、毎度おなじみの「キャスティングボート政党」として非民主政権の連立に食い込もうとするかもしれない。


ただ、非民主政権が安定的に政権運営をするためには参院での過半数が必要で、現状で参院第一党の自民を含めない非民主政権は想定しにくい。
下野した民主と選挙に勝った自民が連立政権を、というウルトラCは、選挙民の意志を尊重しないものになるため、非民主政権=自民政権が批判の矢面に立つことになり、選びにくい。
非民主政権=自民政権が連立のパートナーに選ぶとしたら公明だろうが、これにたちあがれ日本(今回の不信任案共同提出)、みんなの党(不信任案は共同提出しないが不信任案には賛成)が加わる多党連立の可能性はある。
さらに、小沢新党がこれに加わる可能性もあるが、そうなったらたぶんかき回されるだけかき回された挙げ句に主導権取られて泣きっ面に蜂。


非民主政権が政権を取るのは、恐らくできれば2012年9月以降が望ましい、と自民は考えていたのではないか、と思う。
理由はいろいろあるだろうけど、2012年9月は自民総裁選がある。
谷垣総裁は一期目を終え、二期目続投するかどうかが問われることになる。
仮に自民が野党のまま谷垣で続投し、2013年参院選衆院任期満了に伴う総選挙がW選挙の形で2013年夏に行われ、民主がそこで初めて政権転落、谷垣総理誕生というシナリオの場合、総裁任期の残りは2年、二期目なので延長なしで、谷垣政権は2年の短期政権になる。
自民野党のまま2012年9月の総裁選を迎え、「翌年の選挙に向けた戦闘的執行部」を想定するなら、谷垣を下ろして「あわよくば総理になれる総裁」の椅子を、ポスト谷垣を狙う自民議員が争うことになる。
現時点での候補は、石破茂河野太郎石原伸晃、この辺り。
中川秀直古賀誠町村信孝では戦えないし勝てない。
「日本初の女性総理」という鳴り物を付けるなら小池百合子野田聖子辺りの鼻息が荒くなってくるところだろうが、現時点ではそういう気風はないし、小池は2009年衆院選では選挙区落選比例復活、野田聖子は不人気すぎて求心力が得られない。
下馬評の一番人気は石破茂、といったところだろう。
2012年9月に向けて動くなら、2012年春くらいには評判が上向いている必要があるわけで、今年は仕込みの意味でも勝負所のハズ。


もし、総選挙が繰り上がって、谷垣自民で選挙に「勝ってしまった場合」は、総裁選で谷垣を下ろすためには「党内抗争」を繰り広げることになり、かつて渡辺喜美舛添要一、他の議員達がそうしたように、「言い分が通じなかったから党を出て一旗揚げる」という分裂を招きかねない。
その意味でも、「今は総選挙はなく、できれば総選挙は2012年冬から2013年夏までの間、自民総裁選の後」というのが、自民にとっては望ましい。


民主にとっては、今選挙をすれば確実に政権転落するのは間違いない。
しかし、郵政選挙に負けて党勢を減らした民主や、政権交代選挙に負けて党勢を減らした自民が、それぞれ消滅にまでは至らなかったように、民主が政権転落して党勢が削られたとしても、消滅には至らないと見るべきだ。(この場合、民主が分裂しないという前提には立つ)
2年間、非民主政権が「外交、経済、復興」で十分な成果を上げられたと評価されるかというと、恐らく非常に難しい。
原子力政策では原発継続に舵を取れば感情的な反発を受けるのは避けられないし、復興には即効薬はない。民主との比較で蜜月報道が行われるのは1〜3カ月以下。(最近は3カ月もない)
2年もあれば、「やっぱり自民じゃダメ」という空気が醸成され、政権が不満の捌け口にされるいつものスパイラルに陥っている。


そこで、「やはり民主」という待望論が鎌首を擡げてくる可能性がある。
今でこそ、もう一度民主などあり得ないという雰囲気になってはいるものの、「もう一度自民などあり得ない」と言われて下野したはずの自民の政党支持率が民主を抜いて1位に返り咲いている現状を考えれば、同じコトがもう一度くり返されるという予想は容易い。
喉元過ぎれば何とやら、というアレだ。


ここまでは民主が2年後もまだ「民主党なら」という想定。
民主党という党は残っても、解散総選挙になれば(もしくは、ならなくても)、小沢Gが小沢新党を作って民主の党勢を削ぐ、というシナリオもある。
小沢は民主が与党である間、結局政権首班には就いていない。
恐らく機会があっても院政を選び、原口一博辺りを傀儡とした政権を操るシナリオを選んだだろう。総理という矢面に立たされて一年程度の短期政権の後に引きずり下ろされるより、「意向を気にされる存在」でいたほうが責任も負わずに済み、傷つかない。
その小沢に対する待望論(幻想論)がくすぶる限り、「鳩山由起夫はダメ、菅直人はダメ、しかし小沢一郎が残っている」という【希望】に縋る輩が一定数残る。
パンドラの箱に最後まで残っていたのは希望だが、希望は良いモノではなく、「実現を約束されたわけではない、バラ色の未来の【可能性】」という奴で、なまじ希望があるからこそ人は希望を口実に目の前の現実から逃避してしまう。その意味で、希望とは最大最悪の災厄である――。
そういうネガティブな意味でも、確かに小沢は「希望」と言えるだろう。


そう考えるなら――。
ベターなシナリオはこう。


内閣不信任案は通り、菅直人は解散せずに辞職する。
小沢は民主に残る。(通らなければ党を割る、と宣告しているため)
総選挙は行われないので民主政権は継続。
民主に小沢系傀儡政権、できれば小沢自身の政権ができる。
民主で、小沢系政権と、岡田・前原・野田・枝野辺りの短期政権が次々に【消費される】。
民主が総理のタマを使い切った辺りで自民総裁選。戦闘態勢整う。
2013年、参院選衆院選W選挙で政権再交替。


2007年からの自民の迷走は、主に参院選議席数が足りないが故の「議席が足りなくて政策を実行できない」ことによる政治空転。
2009年からの民主の迷走は、主に政策の整合性と実現力(官僚の扱いとか)、統治力の欠如からくる、「智恵が足りなくて政策が実行できない」ことによる政治空転。
民主が、自民時代までの蓄積を反故にしてやり直そうとした政策の多くは、回り回って自民案を換骨奪胎したものとして復活する、というものばかりで、単に「あらすじを辿って元に戻る」ケースが多かった。
つまり、民主が努力しても自民の提案を超えられない。無駄足。


民主政権を延命させる、民主政権に力を与えるのは、非民主政権を断罪させるため、溜飲を下げるためには格好の手段かもしれないが、民主政権には【ひっくり返したちゃぶ台を片付ける能力がない】。
自民以外の政党には、ちゃぶ台をひっくり返す膂力すらない。
以上から考えると、改めて自民政権に参院も含めた安定的議席を与えて政権運営させる55年体制以降の「日本の戦後政治が最も安定し、発展していた時代」に巻き戻すほうが、日本の大多数の有権者に取っては有益であるように思う。


ぶっ壊した後の後片付けをやりたくない、できない、やり方がわからない、というなら、そもそも威勢良くぶっ壊すなどと口走るべきではない。
自民党は変わる。変わらなければ私がぶっ壊す」と言った小泉純一郎は、「ぶっ壊す」の部分だけが省略され、クローズアップされ、「自民党をぶっ壊した男」の評を得たが、これにはまだ続きがあって、
自民党は変わった。だからぶっ壊す必要がなくなった」ということを、後の選挙の応援演説では言っていた。
壊す覚悟で臨んだ郵政選挙で「勝ちすぎた」ことを、開票当日にあれほど警戒してた小泉元総理は、「勝ち驕り」でいずれ自民が壊れることを予見していたのだなあ、とは思うのだが、勝ち驕りが驕りであることを自覚するには、とことん負けてみるしかないわけで、郵政選挙の勝ちも、2007年参院選(安倍政権)、政権交代選挙(麻生政権)の負けも、必要な負けだった、とは思う。


後は有権者の自覚の問題で、有権者と政党(政権与党)を【労使関係にある別の存在】という理解の仕方をするのは間違いな気がする。
どうしても卑近なところに引きずり落とさないと因果関係を理解しにくいから、「政権与党=経営陣」「国民=社員・労働者」という理解に当てはめて、経営陣と社員は別、経営陣の失策は労働者として指弾すべき、というような他人事感覚が共有されがち。
だが、実際には政権与党は「国民=有権者の最大多数意見の代弁者」であるわけで、政権与党が失敗したなら、そんな与党がその程度と見抜けなかった有権者自身の【見る目のなさ】が批判されるべき。
「チャンスを与えてやったのに生かせなかった愚か者め」
「悪いのは政権与党であって、有権者は裏切りにあった被害者」
というような目で政権与党を見ている限り、有権者自身が選択の結果の責を負うという自覚を持てない限り、何度も裏切られ、その都度、【資産、所得、未来を減らしていく】ことになるんじゃないかなあ、とも。


これからの数日、数週間は、いろいろ事態が流動的になるかもしれず、今日書いた予想の成立条件が全てシャッフルされて予想のやり直しになる可能性も高いのだけど、2年後、3年後、この先10年のことを考えた上でギャンブルじゃない選択をしないと、2009年からの2年間と同じような地獄を長期的に味わうことになると思うよ、ということでした。