風体について

僕の髪は緑色。
「碧の黒髪」などの美称ではなくて、ビリジアンをやや淡くしたような緑色をしている。
ヘアマニキュアで、だいたい3か月に一度くらいの割合で、美容室で染める。
ここ10年くらい、ずっと同じ美容師さんにお願いしている(店を3度変わるたびに追っていって、今はその方も独立開業されて一国一城の主)。
染め始めた頃は、前髪にワンポイントとかだったのが、だんだんメッシュが増えて、今は全ブリーチ・全マニキュア、しかも長髪なので非常に目立つ。
待ち合わせの目印、街中で移動するときの目印に最適。
初めて会う人との話題造りに。無店舗稼業なので、顔を覚えて貰う(正確には髪の色)のにも最適。
だいたい僕が憶えていなくても、相手がこちらの顔(髪の色)を憶えている。便利。
 
でも多分、この髪を切ったら、もしくは黒く染め戻したら多分誰も僕を僕だとわからない。
世に紛れて隠遁しなければならないことが起きたら、そのときは短く刈り揃えて黒く染め戻そうかと思っている。
 
「なぜ緑なんですか」と、色の選別理由について聞かれるが、深い意味はあまりない。
金髪はイマイチ、茶髪はありがち、赤やピンクは原宿あたりにたくさんいそう、青や紫はお婆さんみたい。消去法で消していったら緑しか残らなかった。
確かにあまりいない。今までに自分以外で緑の人は、4〜5人くらいしか見たことがない。そのうち、いちばん綺麗な緑だった人は、何年か前の有明で見た「アルファさん」のコスプレをしていたお姉さん。日常生活は難しいでしょう、その色だと。僕は慣れましたが。
 
モノカキを商売にしているので、会社に通わないで済むしお得意さんに頭を下げる機会も少ない。(なくはない)背広を着て仕事をする機会はさすがに年に数えるほどしかないが、緑の頭は背広には合わない。
モノカキだから許される、という部分はあるかもしれない。
 
その昔、京極さんがデビューされて間もない頃に、トレードマークとしてされている指ぬきグローブをして、「なぜグローブなんですか?」というインタビューをされているのを拝見した記憶が朧気ながらある。そのとき京極さんは「野坂昭如さんのサングラス、栗本慎一郎さんの帽子、と同じようなものです」と答えておられた。
まずないと思うけど、僕が「なぜ緑なんですか?」とインタビューを受ける機会があったら、「野坂昭如さんのサングラス、栗本慎一郎さんの帽子、京極夏彦さんのグローブ、と同じようなものです」と答えようかと思う。二番煎じ。
 
昔は、髪を染めていると眉をひそめられた。今だってあまりカタギには見えないだろう。
うちの親なんかえらいびっくりしたらしいが、今は慣れた。
昔は、この髪の色を見て子供が大変喜んでくれた。こちらも嬉しい。
今の子供も物珍しげに、かつ喜んで噂をしてくれる。「ママ、あの人緑!」親はだいたい困った顔をする。「指さしちゃいけません!」とかなんとか。敢えて話題に出さないように耐える人もいる。
一方で、最近のおじちゃん、おばちゃんといった年齢の人たちは、あけすけに言う。
「あら! お兄ちゃん、綺麗な色の髪だねぇ!」
びっくりして、羨ましがって、そして褒めてくれる。
こんな気分のいいことはない。
 
「次は何色にするの?」
とたまに聞かれるが、色は多分今後も緑。
だってこれ、商売道具で看板ですから。