弔文

スズケンは僕の高校の同級生で、同じ美術部だった。
僕が上京してきた19年前に1年間、僕と同居していたルームメイトでもある。
スズケンの後、3年間ほどは青木邦夫と同居していた。その邦夫の後が最初の結婚生活。
スズケンというのは、おもしろい奴で。
古文漢文の授業、僕らの担任は「猛烈に板書をする」というタイプの教師で、それを僕らは必死になって書き写していた。必死に書かないと、教師が書き終わった最初のほうのをどんどん消してどんどん新しいのを書いていってしまうという、そういうタイプの教師で。
だから、必然的に書き写す方も筆が速くなっていく、という。
スズケンは、それを必死に書き写しつつ、なんだか妙な解釈を書き加えたり、もしくは板書の内容にギャグの解釈を書き足していたり、というようなことをやっている。
僕は彼にしばしばノートを借りた。
間に合わないから……ではなくて、彼が書き取りながら書き足していた内容が面白かったからだ。
同居を辞めた後も、スズケンは江古田界隈にずっと住んでいた。
コンビニのバイトをして、でも趣味に全身全霊を傾けていて。
奴の末期について聞いたところでは、「靴下を履こうとして、屈んだ」ら、そのまま逝ってしまったらしい。落語じゃねんだよ。バカだなあ。
多分、今、このタイミングで死んじまうとは当人も思っていなかったと思う。
「え? そうなの? もう終わり?」と納得いってないんじゃないかとも思う。
一方で、どうなんろう。当人は。案外、楽しい人生だったりするんだろうか。好きなことやって。好きなもん見て。好きなことに打ち込んで。
独身で妻も子もなく、その意味では後顧の憂いもなかったかもしれない。
まあなんだ。
だからって、俺たちをびっくりさせんなよ。もお。
悲しいとかなんとかそういうんじゃなくて、とにかくもうビックリしている。
知らせを受けた後も、取材をして、仕事をして、合間に旧友に連絡を回して、仕事絡みの宴に顔を出して、笑って、飲んで、また電話して。
いつものような一日を過ごしている、そんな合間に、「ああ、死んだのかなあ」と得も言われぬ気持ちが込み上げて、目頭に水が溜まる。そんな自分にびっくりしたりする。
 
 
 
 
 
10月28日午後から29日の夜まで、告別式参列のためいません。
急ぎの連絡は携帯にお願いします。
ごめんなさい。