ネタ倉庫の在庫

年内の仕事は、明日〆切のとある雑誌への原稿(怪談2本)と、年末〆切の「超」怖い話Ηを残すのみとなった。
いつものことだが、書くのにはさほど時間は掛からない。
その気になれば、一日(12時間程度)あれば20頁〜30頁は書けるもので、どちらかというと「取材」や「整理/選抜」のほうに時間が掛かる。
僕の場合は特に「整理/選抜」に多くの時間を割いてしまうほう。今回は雑誌用とΗ用のネタをそれぞれ同時に選抜している。


現時点でネタ倉庫にストックされている未使用のネタは、常時300〜400本程度。
今年は、
「聞き取りというのは時間が掛かるものであり、たった一人の人間が年間に何冊も出せるほど話を取材できるはずがない!」
というお叱りをいただいたりもしたが、むしろそうではなくて「なんとかして世の中に放出してしまわなければならないお預かりもののお話が、なかなか減らなくてまだ400余りもある」という状態なのである。頑張って書いているつもりなのだが、なかなか減らない。というより、出待ちのお話がむしろこの数年で膨らんで来つつあるような気もする。
この400本の中には、伺ってから3年以上も寝かせた長期熟成モノもあれば、ほんの数日前に仕入れたばかりの話もある。聞いた直後に書く気満々になる話もあれば、聞いた直後は全然ピンとこなくて、1年以上も経ってからその話の異様さに改めて気づく、という話もある。
僕の力が足りなくてまだ書けないものもあるし、様々な理由から書くことを先送りにしているものも少なくない。まったくもって、面目次第もないのだが、いつか必ずや「聞いた話は全て世に放つ」という本懐を遂げたいとは思っている。


で。この400本あまりのネタを、一仕事始める前に毎回全部目を通し直している。
読み直すことで、「あ、そうか」と気づかされる話があるためだ。収穫(取材・聞き取り)と、成熟(原稿執筆)のタイミングは、必ずしもどれも同じではないからだ、と思うようにしている。
そうなると、自然「ネタの整理/選抜などの準備に時間が掛かる」ようになってしまう。


今年は「妖弄記―書き下ろし実話妖怪談集 (ルナティック・ウォーカーシリーズ)」というタイトルで妖怪らしき目撃談ばかりを集めた本を上梓したり、家についての話ばかりを集めた「「弩」怖い話〈2〉Home Sweet Home (竹書房文庫)」を上梓したりしたが、これと同様に、目撃談・体験談を、特定のテーマ/カテゴリーごとに選別している。トイレ、家、自衛隊、動物、妖怪、短いの、長いの、呪い・祟り、戦争、ドライブ、UFO、バカ(笑)、などなど。
40〜50以上、同一カテゴリーの話が集まったらそれで1冊書けるのだが、なかなか思い通りには揃わない。「今すぐ蔵出し」したいほどすんごい話を、敢えて我慢してしまい込んでいたりもする(^^;)


僕はネタをワインに、ネタ倉庫を「カーヴ(ワイン倉庫)」に例えることがしばしばある。
ヌーヴォーで美味しいネタもあれば、慌てて抜栓せずにじっくり寝かしたほうが美味しくなるネタもあるわけで、その点、怪談とワインは似ているんじゃないかなあと思う。
その意味で、今後も良いタイミングで良い話をお届けできる、良き怪談ソムリエでありたいものだ。