弩4の最高値と常設棚

昨年、「おまえら行くな。」が発売後一ヵ月もしないうちに「マーケットプレイスで、定価の二倍になってました!」という話を聞いて顎を外した。さすがに1年も経つとその顎外し本もフィーバーぶりが落ち着いて、順当な価格になっていた。
続刊の「続おまえら行くな。」が出回り始めたせいか、そっちが手に入りにくいせいか(笑)、引っ張られて前巻も売れ始めた様子で、Amazonの順位が再浮上を始めていた。


今春に出た「弩」怖い話4。「弩」怖い話シリーズは例年春先に出るため、本来の怪談の旬とは無縁で、怪談の旬の頃には次の商品とタッチしてしまう。なので、今頃の時期はぼちぼち捌けて品薄になりはじめる。
Amazonでも新品在庫は残り1点。
ところが見ると「最安値580円。新品/ユーズドは4冊」とある。「弩」怖い話の定価は580円。ユーズドが定価と同じ金額付けても意味ない気がするなあ、と思って見てみたら、最安値は新品だった。
ユーズドの最安値が998円。最高値は11,074円。
……いやいや、高すぎだろ(笑)
自分で言うのは悔しいけど、これはコレクター価格を付けるべき商品ではないような気がする上に、それにしたって頑張りすぎというか桁を間違えてるとしか思えないような……。
1107.4円ならまだわかる。でも、それだって新品が580円であるんだし今年の本だし、なんでそんな強気な値段が付けられるんだ(^^;)


こういう売れ行きみたいなものはいろいろな調べ方がある。
売れ行き順位の他に、在庫残り点数が減るペースとか、中古の放出数、中古価格の設定値の推移などなど。書籍通販サイトのレビューも参考値になるが、「何冊余ってて、どのくらいのペースで用意した冊数が消化されていくか」が実際の動向を窺う上では大きい。
売り上げ順位を発表しているサイトはあまり多くはないけれど、「在庫残りあと何点」を出している書店系通販サイトは結構ある。
この数字を複数ヲチすることで、だいたいの傾向は掴めてくる。(もちろん、都市部と地方部や地域性などでばらつきはあるので、後で「その他の方法*1」で調べられたものとつきあわせて全体を見ていく。


中古価格の上昇というのは単純に消費需要に対して「新刊が品不足」(供給弱)ということでもある。発行部数が少ない(笑)か、想定外の規模で消費需要が拡大しているかのどちらかで、重刷に結びつくか次回の初版部数が増えるか、そうでなければ配本地域の見直しのいずれかになると思われる。
これが重刷や次回初版増になると単純に著者としては嬉しいのだが、そういう簡単な話でもなくて、重刷ができた頃にブーム終了して売れ残った地域から返本が帰ってきたりすることがある。そうすると、新規重刷分と返本分がダブルパンチで倉庫を圧迫することになり、それらを消化するために長い長い死のロードが……(^^;)
怪談本の場合はある程度はブームに大きく左右されないロングテール品になることが多いのでじわじわやっていけるのだが、市場が大きくない本をうっかり重刷すると酷い目に遭うwので、その点いつどの段階で重刷に踏み切るかの判断というのが非常に難しいらしい。*2
ロングテール商品というと例えば岩波文庫などがそうだと思うのだが、書店に専用の棚を持ち、そのシリーズを常備することがステイタスであるという権威を作り、欠本が出たらすぐに補充するよう営業し、百〜数百部単位で細かく版を重ねて重刷数を稼ぐ。
初版のみと二刷り本なら二刷り本のほうが売れているように見えるし(実際売れてるし)、二刷り本と二十刷り本だったら二十刷り本のほうが「大ヒット中」に見えるから、営業さんも「今売れてます」と言いやすくなり、書店さんも「ああ、売れてる本なんだな」と思い込みwやすくなる。


シリーズを増やして常設棚を稼ぎ、そこに新商品を絶えず投入するというのはラノベでも見られたもので、複数社寄り合いで一ジャンルが形成されると、書店の中での定位置を確保しやすくなる。(その確保した定位置の棚の中での居場所の奪い合いも起こる)
単発本しかない状況だと、書店ごと本ごとに定位置が違ってくるので見つかりにくい。
たぶん、続おまなんかは「タレント本」のコーナーに置かれそうな気もする。


角川書店のホラー文庫が11月創刊だったこと(これは年末〜正月の映画シーズンにホラー映画をぶつけてくることと関連があったんじゃないかと記憶)もあって、夏のオカルトと正対する冬にピークがくる。アメリカではハロウィンの後、クリスマスの時期に大作が来るので、ホラーもそっちの時期に公開されることが多かったような。日本では半年遅れで夏に公開されたりしてたけど、今は全世界同時公開とか多いのと邦画が国内で盛り返してきたこともあって夏にホラー・怪奇映画がリリースされる方向に回帰してきたような気もする。
その動きが書店に常設棚を設けることに繋がるといいんだけどなあ(^^;)


角川書店には屈強な営業部隊がいることが昔から知られていて、ホラー文庫が創刊されたときに瞬く間に「ホラー文庫棚」をあちこちの書店に確保してしまっていて、あれはすげーなあと感心した。そこにホラー小説がどんどん常備されていくようになった一方で、何年も前の旧刊がずっと初版のまま居座ってる(岩波文庫方式?)のが増えすぎると、今度は書店側にとって厄介なスペーサーになってしまう。

  • ある程度、複数の出版社から同傾向の本が同時多数出る
  • 季節フェア終了後も定位置の棚に同傾向の本を収録できる
  • そして年間を通じて月イチくらいで新商品と旧商品の入れ替えができる(棚のフレッシュさを保てる)

この辺は結構重要なのではないかという気もする。
書く側としては自作は人気商品になってほしいし、いつまでも売れてほしいし、売れて亡くても(笑)いつも書店にあると嬉しい。が、売れない本がいつまでも書店の棚を占め続けているのは結果的に悪影響を及ぼすわけで(あのジャンルの本は売れねえ、と書店さんに印象づけてしまうと、新刊の入荷数にも影響が出るから)。
棚の1/3くらいに「今売れている本」、1/3くらいが「最新刊」、1/3くらいが「定番本」という構成になって、その棚全体の1/3〜1/2が毎月入れ替わっていくくらいの勢いでどうすか。まだ見込み甘いすか。


それにしても、夏限定じゃない怪談本常設棚、全国の書店にできてくんねえかなあ(´Д`)ノ
そうすれば、新人がデビューする余地が今より増える(新人デビューの余地がないジャンルはマンネリ化しやすく飽きられやすく、新商品入れ替えが進みにくいのでスペイサーになりやすく、結果、ジャンルとしての衰退が進みやすくなってしまう)。
新人の増加はベテランの脅威にもなるのでなかなか一朝一夕には進まないかもしれないけど、ベテランがクオリティを稼いで読者を育て、読者が新たな選択肢を求めるようになったところに新人という選択肢を提供し……というサイクルで市場そのものが大きくなっていくのが理想と言えば理想。前述の例で言えば、1/3の毎月出てくる新しい本に新人が食い込む余地が出てくる。
もちろん、新人の全てが売れるわけではないから、何割かは(大多数は)次の新人に席を譲ることになるのかもしれないけど、そういう機会そのものを作ろうと思ったらやっぱり常設棚。
複数出版社で切磋琢磨しつつ書店開拓が進んでいくといいな、と、夏にだけ出現する「怪談本コーナー始めました」のフェア棚を見ては毎年溜息を吐くのだった。

*1:いろいろあるのですが、それはしみつです(笑)

*2:このへんは、イケイケの編集者と慎重な営業さんの判断で決まる。概して営業さんが慎重なことのほうが多い。稀に営業さんがイケイケで編集者にオーダーを出してくるケースもある。