発電4種

この夏は、新エネルギー関連の情報が相次いでいる。


原発反対派は、原発依存からの脱却、代替新エネルギーを叫ぶ割に、実際のコストに見合う代替エネルギーには反対したりする。
原発は危険だから反対、水力発電ダムは建設コストが高い(その大部分は用地買収費用)ので脱ダム的に反対、火力発電は湯を沸かすためだけに原油を燃やす方式だが、原油確保のための中東〜インド洋〜マラッカ海峡シーレーン確保のための海自の能力増大には反対……。


太陽光発電に切り替えていけばいいじゃない!」と顔真っ赤にしていう方々が実に多かった一方で、太陽光発電発電効率が大変低く、これまでに太陽光の10%程度しかエネルギーに変換できなかった。この変換効率では、設備維持をして収益を上げる事業としては成立せず、成立しないが故に本格的な商業太陽光発電施設というのは建設されなかったし、太陽光発電パネルを採用している建物の多くも、「エコ意識がありますよ」というアピールの域を出なかった。
恒常的に継続していける施設を建設するためには、やはり「ちゃんと儲かる」という要素を考慮する必要があったわけだが、「そんなことは関係ねえ、国のカネでどうにかせよ*1」という小島よしお的なむちゃくちゃな全方位反対意見がまかり通ってきたのがこれまでの状況だ。


今回、その太陽光発電を一変させる技術が開発された。それも日本で。

宇宙の太陽光利用 新技術開発

宇宙の太陽光利用 新技術開発
http://www3.nhk.or.jp/news/2007/09/04/d20070903000135.html
この技術は、大阪大学レーザーエネルギー学研究センターと独立行政法人宇宙航空研究開発機構」などが共同開発しました。
人工衛星で太陽の光を集めて地球に送ることができれば、天気に左右される太陽光発電などと違って常時エネルギーとして使えますが、宇宙から地上までエネルギーを送るための技術が課題になっています。
研究グループは、太陽光からレーザーを発生させる装置にクロムとネオジウムという金属を一定の割合で混ぜたセラミックを使うことで、光のエネルギーの42%をレーザーに変換することに成功しました。
これは従来の変換技術より4倍以上も効率がよく、実用化されれば、赤道の上空3万6000キロの静止軌道に打ち上げた1つの人工衛星から出力100万キロワットの原子力発電所1基と同じエネルギーを送ることが可能で、地球温暖化対策やエネルギーの安定供給に役立つ画期的な技術として注目されています。
グループのリーダーで財団法人「レーザー技術総合研究所」の今崎一夫主席研究員は「季節や時間帯に関係なく、24時間、太陽エネルギーを利用するための突破口になると思う」と話しています。

これは結構凄い話。
記事中にもあるように、これまでの太陽光発電パネルでは、太陽光の10%程度しかエネルギーに変換できなかった。しかも、天候に左右される。このため、エコアピール以上の効果は薄かったが、今回はその4倍近くも変換できる。これは事業として成立させることが可能なレベルで、しかも静止軌道上ということになると天候に左右されない。しかも、太陽光は人類の尺度で言えば枯渇しないエネルギー源と考えて問題がない。*2
現在、人間は様々な資源を使って作りだしたエネルギーを、様々な装置を動かすことに使っているが、最終的にはどんな資源であっても電気に変換されていると考えていい。(内燃機関を動かす燃料と、暖を取るための燃料は別だが、これも電気モーターと電気ヒーターに置き換えられる)
それが装置維持費以外の燃料費を掛けずに発電し続けられるとなれば、物凄い話。エネルギー問題が一気に解決しかねない。


ただ、この先の工程は恐らく平坦で順調な道程ではないかもしれない。
以前から、「軌道上で発電して、マイクロ波で地上にエネルギーを送る」という技術については取りざたされてきたことがあるが、地上に送る方法は恐らくマイクロ波(ワイヤレス)になる。軌道上から地上に向けて有線するわけにはいかないからだ。
マイクロ波というのは平たく言うと電子レンジの中を飛び交っているアレ。最近、米軍が暴徒鎮圧用にマイクロ波を剥き出しの人間に射出する「殺人光線w」装置を開発実用化していたが、人体にマイクロ波が当たると、体内の水分が沸騰してしまうわけで、大変危険といえば危険。


では、衛星軌道上からのマイクロ波受信設備をどこに建設するのか。もし、マイクロ波送信設備がほんのちょっとでもずれたら、近隣は山火事、都市部なら殺人光線を浴びて生物は死滅してしまうのでは。故に住民の反対運動勃発〜となりかねないし、実際になると思う。反政府のメシの種になるなら、何にでも反対するという反対運動利権団体にとって格好の材料だ。


また、受信設備のないところにマイクロ波を送ると、そうした事故が起こるのではないかという懸念は、逆にそれを兵器利用できるのではないかという疑念をも呼ぶ。つまり、「衛星軌道上からの攻撃兵器」と見なすことができてしまうわけだ。
軌道上からのレーザー攻撃兵器というと、映画「AKIRA」に出てきたSOLがまさにそれなのだが、あれは曇天では使用できず、衛星破壊兵器の突入以外では攻撃を遮断できないというものだった。*3


そうなると、中国の衛星破壊手段を持った国は発電衛星の脅威になるし、発電衛星の存在そのものが、「衛星兵器に対する防衛手段としての核武装の正当性」を与えてしまうのでは、という懸念も出てくる。
現実にはそういう心配はない装置ですよ、という説明が成り立ったのだとしても、そういうことを心配する人は「自分の知識と認識だけを正しいものとし、自分が疑っている相手からの説明には耳を傾けない」という傾向があるため、「いやいや、衛星兵器に違いない」「いやいや、受信施設周辺を焼き殺す事故を起こすに違いない」と考えてしまう。


ようやく突破した「技術的に可能」の次に、「事業として経済的に可能」、次に「安全性を鑑みて可能」、そして「安全保障上、近隣諸国を警戒させない」という面倒な壁が次々に立ち上がってくる可能性は高い。
しかし、日本自身もそうであるように、来日中のチリ、エネルギー不安の大きいベトナム、アフリカ諸国などのような、エネルギー供給小国にとっては、画期的技術であることには間違いない。
掘削技術が確立されておらず実用化できないメタンハイグレードに比べれば、少なくともこうした技術について回る用地買収が、地上側の問題のみになるのは大きい。
それこそ、離島や海上の埋め立て地に受信基地を作ってもいいわけだから。
「とにかく反対!」な声に負けず頑張って貰いたい。たぶん、この技術は世界中の資源小国と、温暖化対策に大きく役立つ。


そして、巨大発電に対して、微少発電技術も進化しつつある。

ジョージア工科大学、血流を使って電力発電をするナノ素子を開発

Technobahn ニュース : ジョージア工科大学、血流を使って電力発電をするナノ素子を開発
http://www.technobahn.com/cgi-bin/news/read2?f=200707231009&page=2

これは、血液の流れを利用して発電する発電素子。
使い途は、体内で使うナノマシンを駆動するためのエネルギー供給源になるのだそうで、充電や電池交換の必要が無く、低コストで製造できるのが利点。
発電効率は不要なものの、将来的に「体内に埋め込んで使う装置」の類を動かすための電源として、我々の血流そのものが使えることになる。
埋め込み型医療装置への電力供給源として期待できる。
逆に、これは血流がなくなると発電しなくなるというものでもあるわけで、兵士の体内にビーコンを埋め込んでこれで電源供給し、死亡すると止まるという「生死判定装置」のような使い方も出てくるのかもしれない。

体温発電で駆動する超低電圧回路

体温発電で駆動する超低電圧回路 - Engadget Japanese
http://japanese.engadget.com/2007/08/17/body-powered-circuits-developed-by-fraunhofer-institute/

これは、体表面温度と外気温の温度差で発電する発電装置。
実はこの技術はSEIKOがすでに一度商品化していて、腕時計の裏側(に当たっている腕の体温)と外気温の温度さで発電・駆動する、つまり腕に付けているだけで発電される時計というのが製品として実在するのだが、それをさらに進めたもの。
現状では装置の大きさに対して発電量が圧倒的に小さいので、まだ開発途上でしかないのだが、これが効率化され商品として実用的な範疇に入ってくると、握っている手の体温で発電し稼働する「体温発電携帯電話」とか「体温発電ミュージックプレイヤー」とか、腕や身体のどこかに巻き付けておくだけでビーコンを発信する(ry


体温発電ではないが、ソニーバイオ燃料電池の新型を発表した。
これはなんと、ブドウ糖で発電するというもの。

ぶどう糖で発電するバイオ電池を開発

Sony Japan|プレスリリース | ぶどう糖で発電するバイオ電池を開発
http://www.sony.co.jp/SonyInfo/News/Press/200708/07-074/index.html

まだプロトタイプということで若干大きめだが、確かにブドウ糖で50mAを発電しウォークマンを鳴らしている。
このブドウ糖発電というのは、エネルギー源の供給価格が非常に安くでき、なおかつ農業的に生産可能である点が素晴らしい。薬局に行くと固形のブドウ糖結晶が、150gで367円。ブドウ糖バイオ電池のほうは残念ながらどの程度の量のブドウ糖を、どの程度の期間使用できるのかなどの電池寿命などについて発表されていないので、コストが実用に見合うのかどうかはわからない。
だが、再生可能なバイオ燃料電池、しかも広大な作付け面積を必要とするトウモロコシではなく、薩摩芋やカボチャなど栽培が容易な作物からも作ることができる点が非常に大きい。


遠くない将来、カボチャ畑に併設されたバイオ燃料電池供給工場、なんてのも出てくるかもしれない。


科学と技術と工業の未来を考えるとき、かつてモーターが「産業の米」と言われた時代があった。現代ではバッテリー(蓄電・放電)と発電機がそれに変わりつつある。
個人ユースの小型装置向け小電力発電装置と、ホームユース、オフィスユース、或いはパブリックユースの超大型発電装置について、この夏、次世代技術が次々に発表されたことは、非常に明るいニュースだと思う。


願わくば、政治的な都合や利権争いという愚かしい理由で、こうした未来を閉ざしてしまうことがないように。*4

*1:国が責任持ってそれをやるために必要な費用を確保しようとすると、今度は「増税反対!」「消費税反対!」という声が上がる。最終的には、「公務員をゼロにするか、公務員はタダ働きさせろ」に辿り着いてしまうのだが、それに反発した公務員労組(自治労)が宙に浮いた年金問題を引き起こし、引き起こした当の自治労幹部が、それを攻撃した民主党から当選してしまうというのが、先の参院選の実に不思議な一面であった。

*2:数十億年オーダーでは別だが、そこまで考慮しなくても問題ない。

*3:衛星軌道上が常に好天でも、地上に雲が懸かっていたらエネルギー送信はできないのでは、という疑問も残るがどうなんでしょう

*4:例えば、自民党がこれに肩入れしたら、民主党は絶対に反対するだろうから。