漫画総理

と言っても麻生氏のことではなくてw


僕が子供の頃は漫画に政治家が出てくることっていうのはあんまりなくて、あるとしても「汚職悪徳市長」とかレベルだったような。僕が子供の頃ってことはつまり、70年代の議員像=ロッキード事件に象徴される「政治家とは汚職をするものだ」という先入観に立ったものだったり、または「暴力団の背後に悪徳代官のように隠れている黒幕」として描かれたりしていた。
そもそも政治家を「黒幕」「悪役」「水戸黄門ワイルドカード」として使うのはまだしも、政治そのものを題材にした漫画や政治を忌避すべきものとして描かない漫画というのが出てくるようになったのは、おそらく本宮ひろ志以降じゃないかと思う。


で、5年続いた小泉政権以前の漫画の中の政治家というのは、「老人」「オールバックか禿」「損得勘定」「慎重」「汚職w」で描かれることが多かった。例えば、「沈黙の艦隊(講談社:かわぐちかいじ)」に出てくる政治家のほとんどはこんなイメージ。これはよく考えると、任侠漫画に出てくる組の幹部やゴッドファーザーのボスみたいなイメージかもしれない。
で、小泉政権以降の漫画には単に政治家というだけではなく、総理大臣そのものが登場することが増えた。
相変わらず悪役として描かれることもあれば、善玉として描かれる機会も増えた。これは小泉人気を受けたものだろう。

特に特徴的だなーと思うのは、この2000年代に入って以降、漫画に登場する総理大臣に前髪があるキャラが増えた、ということ。前述の通り、それ以前の政治家のイメージは「オールバックか禿」だったのが、小泉政権時代を経た後「前髪」のあるキャラとして描かれる機会が断然増えた。これは、総理が重要な役の場合、チョイ役・ゲストキャラの場合、善玉悪玉を問わない。
さらに、性格が軽くなった(笑)

ひょうきん者・お調子者として描かれるのはやはり小泉前総理を意識してのものだろう。「大使閣下の料理人(講談社:西村ミツル×かわすみひろし)」には、もう間違いなく小泉前総理そのまんまの総理が登場するが、この漫画は外交官の視点から政権を見ているせいもあってか「お調子者・博打打ち」的な描かれ方もしている。
近代麻雀オリジナル掲載の「ムダヅモ無き改革(竹書房大和田秀樹)」に至っては悪辣強運で日本を救うかっこいい最強雀士として描かれている*1。これはもうモデルもへったくれもないのだが、戦う強い総理として好意的に総理を描いていると言ってよかろうと思う。

もちろん、相変わらず「名誉欲に取り憑かれた権力者のゴンゲー*2」として描かれるケースも少なくない。あ、でも昔は「権力を得た権力闘争の覇者」や「権力を行使する絶対者」として描かれることはあったけど、「政治的目的を達成し名誉を獲得しようと画策する」と描かれるようになったのは、日朝国交正常化を巡る話が出てき始めてからかな。「我が名は海師(小学館:小森陽一×久保ミツロウ)」なんかでは、国名は挙げていないものの北朝鮮問題を巡って自分の名声を上げようとするやや悪徳総理、という描かれ方をしている。もちろん前髪はあるw。

最近、また漫画総理のイメージが変わってきた。
日本沈没(小学館:小松左京×一色登希彦)」には緒方総理という架空の(熊本出身の)総理が登場する。もちろん前髪があり、小泉前総理を意識して描かれているのだが、責任の重圧から緊張の糸が切れてしまった後の弱々しい姿は、どうも安倍総理をイメージしているように見える*3
さらに、「グ・ラ・メ!〜大宰相の料理人(新潮社:西村ミツル×大崎充)」になると、阿藤一郎という総理が登場する。前髪はあるのだが、これはもう間違いなく安倍総理(昨年の総理就任当時の)をイメージしてるっぽい。設定を見ると、「バツイチ」「だが子供がいる(ただし娘)」「切れ者で食わせ物の秘書官がいる」「情熱はあるが脇が甘い」「与党内では閣内スキャンダルが続発して立場が危うい」「外交ではきっちり言うことを言う」などなど、小泉前総理と安倍総理が混じってる(^^;)

安倍総理から拝借したイメージは、
「弱気」「若造」「脇が甘い」「ボンボン」
というものが多く、細川護煕元総理(熊本県知事出身、藩主の末裔の門閥政治家、ボンボン)とイメージをダブらせているところもあるかもしれないのだが、就任直前までの安倍総理のイメージは「タカ派」「勇ましい強硬派」「北朝鮮では小泉総理の弱気を叱咤して支えた」などだったはず。これが「協調派→総花的→お友達優遇→ボンボンはやっぱりダメ」と漫画での描かれ方のイメージを変えていったのは、やはりマスコミの「描き方」に影響されている部分が大きいのかもしれない。


ここで話を現実に引き戻すと、麻生太郎福田康夫も、どちらも二世議員。(麻生議員に至っては五世議員w)
総理総裁就任後に「やっぱりボンボンはダメ」と叩かれる要素は持っている。
二人とも久々(と言っても二代ぶり)の「前髪がない総理」になる。キャラの濃さ、情熱、勇ましさ、口の悪さwでは麻生議員に一日の長があるような印象が強いのだが、ヲチャー的wには憲政史上最長の官房長官として3年6カ月も内閣官房にあった毒舌官房長官の口の悪さと人の悪さも魅力。

ちなみに、麻生議員は稼業を継いで民間企業の社長として経営に従事していた経歴を持ち、福田議員は丸善石油を40代で課長まで勤め上げた実績を持つ。二人とも「セケンの荒波」をきっちり経験しているわけで、社会人の生活を数年しか経験していないとか、大卒→官僚→政治家に転身といったセケン知らずでもない。
この辺りの経歴は期待していいと思う(福田議員は、中間管理職として上から下から突き上げられる経験と、日本最強の中間管理職(笑)である官房長官の双方を経験しているあたりが武器)。

現実問題としては、どちらが総理総裁になっても、もう一方の候補を重要なチームメイトとして活用せざるを得ないのではないかと思う。人材の払底という意味ではなく、どちらも別種の魅力の能力があることを当事者が理解している上に、党内政局で消耗するゆとりが今の自民党にないことを、この候補者達はもっとも分かっているはずだ。
だから、対立点は出しながらも相手を誹謗中傷し合わない紳士的かつ合理的で現実主義的な総裁選が進んでいるわけなのだが、これもいずれ「茶番」というイメージで描かれることになるんだろうか。


福田議員も麻生議員も、朝日新聞政治部の記者にめちゃくちゃキツく当たる。福田官房長官の質疑は朝日gdgdだったし、麻生外相の定期会見の記録を見ると「おたく、どこの新聞社? 朝日?」とわざわざ会見録に残るように名前を聞いて念押しした上で記者の無知と無定見を嬲るように応答を。そう言えば総理就任前の安倍総理もきつかったw
ということは、どちらが総理総裁になっても朝日新聞政治部からの報復は絶対にあるわけで、だからこそ今、どちらが総理総裁になっても叩けるように、ネガティヴな印象操作の仕込みを始めてるのかもしれないなあ、とかなんとか。
それにコントロールされて作られる次の、漫画総理のイメージはどうなるのか。
いつか来るかもしれない民主党総理のイメージはどう描かれるのか。


歌と漫画(絵巻)は世を映す鏡である点、平安の昔から日本は変わってない。伝統的でたいへん奥ゆかしいw


で、今日のお題の結論は何かというと、「グ・ラ・メ!」はどう見ても安倍総理がモデルの総理が準主役な上に、事実上のもう一人のヒロインと総理の関係がストーリー上の重大なテーマになっていて、これを解消しないとお話が決着しない(ウルトラCとしては打ち切りだが、話は面白いのでそうもいかない)という、緊急事態に陥っているのではないかと思われるってこと。たぶん、この一週間で一番ダメージを受けたのは、西村ミツル×大崎充だろうと思われる。


どうなるんだ。グ・ラ・メ!

*1:佐藤ゆかり杉村太蔵ブッシュ大統領親子に加えて、最新エピソードには金正日麻生太郎も登場。

*2:全然関係ないけど弟切草のあの台詞はなんでゴンゲーなんですかね。

*3:熊本出身というところから細川元総理をイメージしてるのかもしれない。