才能の不一致

愛の才能がないのは川本真琴(の歌)。
それはそれとして、僕の世代の人間は「シンガーソングライター」というと中島みゆき井上陽水を連想し、それはまた同時にニューミュージックやフォークであったりするのだが、それもさておき。
その昔、バンドを組むのではなくてとりあえずギターが一本(或いはピアノが一台)あれば、自分の作った歌を、バンドやオケがなくても歌える……ということで、シンガーソングライター、つまり「シンガー(歌手)でありソングライター(作詞作曲家)」という自作自演自歌唱演者というのが大挙して世に出た。
遡りすぎると1960〜70年代あたりのフォーク、グループサウンズの時代を経て、さらに1970〜80年代あたりのポプコン――YAMAHA ポピュラーソング・コンテストの時代なんかがあった。
さらに、その後インディーズのムーブメントがきて、人生(後の電気グルーヴ)や有頂天やラフィンノーズや、さらに、たま、セメントミキサーズ、JITTERIN'JINNあたりが表に出てきたりして、またまたシンガーソングライターは個から群れになる。


で。
そういう経緯があるもんだから、なんとなく「シンガー」と「ソングライター」という才能は常に一致しているようなイメージがある。歌を作れる人は歌がうまいはずだ、という思い込みというか。確かに謡曲もそうだろうし、辻演歌(復興節とかの)あたりでも歌唄いは同時に歌を作る人であったりはする。確かにそうだ。
これは、唄うためには音感が必要で、伴奏するための楽器の演奏ができなければならず、楽器の演奏にはこれまた音感と技術が必要だった、ということと密接な関係があるような気がする。
まあ、気がするもなにもなく、「自分の発声する音声」をコントロールできない人=音痴には、歌は歌えず、音感制御ができない&演奏技術のない人間は伴奏楽器も演奏できない。
このへん、歌うという技術というのは古代から現代に至るまで、人間(演奏者、歌唱者)の才能に完全に左右される、実にアナログなものであるのが当然だった。


で。
近年ではデジポップの類というか、打ち込み音楽が大いに一般的になった。近年と言っても、古くはCX-7YAMAHAがDX-7の外部コンポーザとして使うために作ったMSXパソコン)あたりから、人間の演奏者を必要としないデジタル打ち込み音楽の萌芽はあった。もっと言えば、オルゴールや自動ピアノの類は打ち込み音楽の走りなのかもしれない。
で、PC9801系のゲーム音楽なんかは、bit数の絶対数も足りない条件下で作られていた。ファミコンなんかもそうだろうけど、大きな設備を必要としない、ホームユースのパソコンで打ち込み音楽を作るDTMというのが、職業的な音楽設計者以外に普及しはじめたのは、やはりここ20〜15年くらいのことじゃないかなあ、と思う。
それでも、打ち込み系DTMというのは曲を作り曲を打ち込むにしても、インストゥルメンタルというか、ボーカルのメロディライン以外しか作れなかった。歌詞を付けて曲を歌にするには、やはり言葉を歌えるボーカルは必要であるわけで、デジタルに作られた曲が「歌」になる工程で、人間の歌手というアナログな存在が外せなかった。


90年代、マシンボイスを使った曲というのがいろいろ出てきてた。アナログに発声された歌手の音声を補正したり、わざとメカっぽくしたり、といった使われ方が多かったように思う。2000年台のDaft Punkなんかがそう。
でも、SFXやCGやロボットなんかがそうであるように、技術の進化が目指す方向は「ロボットっぽいもの」ではなく、「よりナチュラルなもの」であるわけで、それを志向しつつコストの廉価化、一般への普及を目指したのがYAMAHA+クリプトンのVoc@loidシリーズである。


ナチュラルに発声する合成音声というのは、アナログな人間に負い続けてきた「歌唱」というパートを、人間のボーカリストに負うことなく、打ち込みの一工程として扱えるようになった、ということ。つまりは、打ち込みDTMでインストしか作れなかった、曲作り止まりで歌までを一人で作れなかった(もしくは、作れても歌えなかった)ソングライターが、作った歌を「歌わずに歌わせる」ということができるようになった、ということに他ならない。
これまで、「ソングライターの才能」はあっても「シンガーの才能」が欠落していた――本日の表題にある才能の不一致によって作った歌を持て余してきた才能が、その「歌」を世に放つ方法を手に入れた……というのが、ここんところの初音ミクを始めとするDTMが拓いた、次への扉なんじゃないのかなあと思った次第。


長々書き連ねたけど、初音ミクでオリジナル曲を歌わせている無名のソングライターの曲のストックが、62曲に。カバーや替え歌を加えると84曲に。
曲が凄いもの、歌が凄いもの、そしてVoc@loid(初音ミクMeiko)の調整(調教)が非常に練り込まれていて、説明されていなければ人間が唄っているのとほとんど見分けが付かないものが、続々出てきている。打ち込み+合成音声で作られた歌だということを完全に忘れてしまうような曲が増え始めてることも、まったくもって末恐ろしい。
なんとも素晴らしいことに、これは今のところ無償で手に入る。できれば金払いたいというのは以前も触れた通りだが、もっと素晴らしいのはこれらの曲はいくら聴いてもJASRACになんの気兼ねも遠慮も必要ないwということだ。
個人的には無償云々より素晴らしいのは、毎日2〜4曲程度の新曲が手に入り続けるということ。
もちろん、ソングライターの腕前・センス・練り込みの差違で、好みではないものが入ってくることはあるけれど、実在の歌手・実在のバンドだったら、こういうペースでの曲のロールアウトはあり得ない。曲を多産するアマチュアバンドであっても、ライブハウスに行くたびに毎回全部違う曲、というのはあり得ない。今後もアマチュアバンド、インディーズバンドはチェックしていくけど、DTMというのはそういうのとは別のベクトルで展開される音楽シーンに成長していくのかもしれないなあと思った。
ライブハウス行かなくてもインディーズが聴けて、「昨日より改良しました」というのが毎日出てくる素晴らしさ。




この思いを家人と分かち合おうと思ったら、
「その音、耳障りで苦手」
と……orz
マシンボイスとかアイドルボイスが苦手な人って確かにいるからなあ(´・ω・`)

今のところ、まだまだテクノorアイドルボイスに寛容な人でないと、入りにくいのかも(´・ω・`) 曲調はテクノじゃない曲がどんどん増えてるけど、Voc@loid2そのものは声優さんの声をベースにしている限り、アイドルボイスの制限からは抜けられない。
Voc@loidシリーズには、初音ミクMEIKOの他にKAITOという男性ボーカルもないことはないのだが、今ひとつ評判がよろしくない(というか、おっさん声なので使いこなすのが難しいらしい)。
ハスキーな声(=ホワイトノイズの入ってる音というか)を表現できるようなバリエーションが出てくると、これがまたDTMで作られる「歌」の幅を広げることになるのかもしれない。
いろいろ楽しみ。

ニコニコ動画またはYoutubeで手に入る初音ミクDTMでお奨めのもので、現在iPod touchにつっこんであるもの。
★は原曲が他にあるカバー曲、☆はクリプトンのサイトで提供されているDEMO。無印は完全なオリジナル曲。
smXXXXXとあるのは、曲にタイトルがないもの。

  1. 初音ミク-恋するVOC@LOID
  2. 初音ミク-夕闇の狭間
  3. 初音ミク-優しい気持ち
  4. 初音ミク-迷惑なあなた
  5. 初音ミク-明日への扉を開いて
  6. 初音ミク-猫飼いたい
  7. 初音ミク-猫になった日
  8. 初音ミク-電脳スキル
  9. 初音ミク-伝えたい気持ち
  10. 初音ミク-大好き!お兄ちゃん!
  11. 初音ミク-待ちぼうけ
  12. 初音ミク-戦う漢
  13. 初音ミク-星空
  14. 初音ミク-初音ミク高校
  15. 初音ミク-初音ミクさんの心境
  16. 初音ミク-仕方ないのよね
  17. 初音ミク-幸せの言葉
  18. 初音ミク-光と影
  19. 初音ミク-君の笑顔に、ありがとう
  20. 初音ミク-君に会うために
  21. 初音ミク-記憶
  22. 初音ミク-希望ノカケラ
  23. 初音ミク-花
  24. 初音ミク-リラホルン
  25. 初音ミク-みくみくにしてあげる♪
  26. 初音ミク-みくのこもりうた
  27. 初音ミク-ミクたんのテーマ
  28. 初音ミク-パエリア
  29. 初音ミク-ねむいsm1187304
  30. 初音ミク-ぬこ、待ってて
  31. 初音ミク-ちょっとおちゃめなVOC@LOID2
  32. 初音ミク-タイムリミットs
  33. 初音ミク-すてっぷ
  34. 初音ミク-すくーる・うぉーたー・こすちゅーむ
  35. 初音ミク-シンキロウ
  36. 初音ミク-シューティング☆スター
  37. 初音ミク-この想い伝えたくて〜花びら乱舞〜
  38. 初音ミク-この想い伝えたくて〜ココロノ花ビラ〜
  39. 初音ミク-きみの体温
  40. 初音ミク-おしえて!だぁりん
  41. 初音ミク-おさななじみ
  42. 初音ミク-えれくとりっく・えんじぇぅ
  43. 初音ミク-あなたの歌姫
  44. 初音ミク-White Letter
  45. 初音ミク-wanderer
  46. 初音ミク-sm1091311
  47. 初音ミク-saturation
  48. 初音ミク-PARADOX LOVE
  49. 初音ミク-Packaged
  50. 初音ミク-P.M.M.R
  51. 初音ミク-OnChristmasDay
  52. 初音ミク-melancholy
  53. 初音ミク-LALAWAY
  54. 初音ミク-HappyLuckyBaby!
  55. 初音ミク-Favor
  56. 初音ミク-Do you want my heart
  57. 初音ミク-Chocolate-Magic
  58. 初音ミク-celluloid
  59. 初音ミク-BEST FRIENDS
  60. 初音ミク-an advance
  61. 初音ミク-1枚のはね
  62. 初音ミク-@rigatto!
  63. 初音ミク-DEMO3_pops ☆
  64. 初音ミク-DEMO2_kakurenbo ☆
  65. 初音ミク-DEMO1 ☆
  66. 組曲『ニコニコ動画』SP-Edision_feat.ミク ★
  67. 初音ミク-涙で雪は穴だらけ ★
  68. 初音ミク-岬めぐり
  69. 初音ミク-鳥の詩
  70. 初音ミク-素直 ★
  71. 初音ミク-君に胸キュン ★
  72. 初音ミク-やわらか初音 ★
  73. 初音ミク-こわいペンション ★
  74. 初音ミク-JR発車音楽山手線 ★
  75. 初音ミク-JR発車音楽
  76. 初音ミク+メイコ-てれびの子 ★
  77. メイコ-涙で雪は穴だらけ ★
  78. メイコ-涙そうそう
  79. メイコ-初音ミクがやってこない迷宮組曲
  80. メイコ+初音ミク-涙で雪は穴だらけduo ★
  81. メイコ+初音ミク-創聖のアクエリオン
  82. メイコ+初音ミク-眼鏡越しの空 ★
  83. メイコ+初音ミク-さよならナカムラ ★
  84. メイコ+初音ミク-カンフーレディ ★

ニコニコ動画で、曲名検索すれば見つかる。
中にはPV動画まで進められているものもあり。