E聖火リレーと自衛隊で防げない事態

安全保障の話の続き。


国と国が軍事力を行使しあうのが戦争。
国と国ではない組織(テロ組織、反政府勢力、民兵、暴徒など)の対立は、内戦またはテロ戦争、暴動。


そもそも軍隊というのは「相手も同様の軍事力を行使する」という前提に立っている。相手が戦闘機を飛ばすから戦闘機で迎撃するし、相手が戦艦で砲弾を撃ってくるから戦艦で迎撃するし、相手が上陸してくるから地雷でそれを防ぐ、相手が戦車でやってくるので対戦車ヘリで迎撃、相手がミサイルを撃ってくるのでこちらも迎撃ミサイルで……というように、「組織化されて運用される兵器は、同程度かそれを上回る兵器の運用で応じる」という考え方。
兵器というのは維持や運用に莫大なエネルギー(兵器の操作には職業的知識を持つ専門家の組織的連携を必要とするし、一般人より体力のある兵士を必要とするし、それら兵器と兵士の維持コスト、人件費などの費用も必要)が求められる。統制されない集団や個人ではそうした兵器の維持運用は難しいから、「軍隊は国家でないと持てない」というのが冷戦くらいまでの考え方だった。


ところが、個人携行兵器の性能が飛躍的に向上した。
どのあたりに出発点を見るかは専門家*1の間でも意見が割れるところだろうけど、近代戦では二次大戦でナチスドイツが使用した対戦車個人携行兵器であるところのパンツァーファウストあたりかな、と思う。これが発展して現在のRPG*2になっている。
RPGはアフガンやイラクでも大活躍していて、簡単な操作訓練を受けた民兵やテロリストが、米軍のヘリや輸送機、DHLの民間輸送機、民間航空機を撃墜するテロにも使われるようになった。
大型の兵器と違ってこれらの小型携帯兵器は、最小で「個人が一人」いれば発射でき、なおかつその他の大型兵器と比べて衛星やレーダーなどで事前に探知しにくい。発射されるまで存在がわからず、*3発射されたら数十秒程度で標的を破壊する。*4


こうした武器がテロリスト個人などに容易に渡るようになったことで、それまで軍隊は自分達と同規模の軍隊、兵器、基地を目標として叩けばよかったのが、「どこにいるかわからない見えない敵」と戦うことになった。このため、

  • テロリスト個人に兵器を供給する資金源の凍結*5
  • 個人携行兵器の運搬ルートの破壊*6

という形で、「個人携行兵器が行き渡る前に抑える」という対応策に出た。


それでも911のようなソフトターゲットを狙う攻撃は防げない。
攻撃対象が軍隊である場合、そうした対象をハードターゲットと呼ぶが、都市=そこに生活するものが兵器で武装していないことが前提となっている場所(や、そこに生活する非武装市民)をソフトターゲットという。
テロというのは、ソフトターゲットを攻撃対象としている点が厄介で、そして高度に発達した都市というのは、そうした攻撃に対して極めて脆い。


例えば、日本の場合。
これまでのところ「事故」ということで「足止めされて迷惑」くらいにしか受け取られていないけれども、クレーン船が送電線を一本引っ掛けただけで、東京東部一体がすべて停電する。
山手線で人身事故が起きれば、数十分以上の遅れが出る。以前、信号事故で半日以上の運行されないことがあったが、都心部の人の移動は鉄道+地下鉄が担っている部分が大きく、「日本の活動を止める」のは、案外簡単だということが露呈している。
これらが純粋に事故であるなら、問題解決は時間&技術的障害の排除だけで済む。それこそ、壊れた信号機、切れた電線を繋ぐ作業に邪魔は入らない


これが事故ではなく、破壊工作だった場合。
まず、敵が特定できず、相手が兵士とは断定できない場合、総理大臣の命令が出せないので、自衛隊は動けない。
事故或いは事件となった場合、警察の管轄となるが、破壊工作のための特殊部隊が相手の場合、所轄の警察官では対応できない。
対応が出来ないため、送電線切断、信号機破損などの状態は続き、首都機能は事実上遮断されることになる。押井守パトレイバーで想定したのよりもずっと、東京は脆い。
そして、人数。
陸上自衛隊は常備自衛官が15万人くらい、即応自衛官(予備役)が8000人くらいいるのだが、それは全国を全部かき集めての話で、普段はあちこちに分散している。警視庁の所属警察官はおよそ43000人くらい。もちろんこれも非番警官も含めた総人数である上に、都内各所に分散配置されているし、警察官といっても巡邏や機動隊員ばかりではないわけで、事務職もこの中に含まれる。


もし、破壊工作が「特殊部隊によるもの」であった場合、犯人が特殊部隊と特定できない限り自衛隊は使えず*7、法的に対応できる警察官は人数&練度のいずれでも特殊工作員には対抗できない。


今回のエクストリーム・聖火リレーを巡って浮き彫りになってきた、国内の治安維持上でもっと厄介なのは、「特殊部隊による破壊工作」ではなくて、大規模な組織的な暴動が起きた場合なのではないかと思う。

  • 中国は短期間に数千人の中国人(留学生)を蜂起させることができる
  • 中央(中国大使館)の指示について、無批判に数千人が実際にそれを履行する
  • 中央の指示する「正義」に基づくことで、指示内容の遂行に障害となるものに対して、遠慮や配慮のない行動を取る、日本の法律を尊重しない集団が、日本国内にいる
  • 日本の警察は、そうした数千人規模の暴徒に対して、基本的に無力である

警察が無力というのは、中国の肩を持っているとかいうそういう感情的な話ではなく、数千人の暴徒に対して本気で発砲して押しとどめるようなことは、日本の警察には技術的にはできない。
学生運動では機動隊vs学生の伝説がよく語り継がれるけれども、これには事前の取り決めやルール、様式美のようなものがあった。一種、お約束の上に成り立っていた茶番であるとも言える。だいたい、学生の鎮圧も水鉄砲で水を掛けるだけだった。*8
茶番が茶番ではなくなったのがあさま山荘事件であり、それが学生運動というお祭りから潮が引く決定打にもなった。


江戸時代の江戸の治安は、100万人の江戸町民+駐留する各藩藩士に対して300人に満たない北町・南町奉行所の同心が担っていたわけなのだが、これは厳罰と自治の徹底と、大規模な暴動(一揆)を封じ込めていたからこそできた話。
今回の長野の例は、「中国の指示に基づき国内の中国人留学生が本国指示に無批判に従った官製一揆を行う」という可能性がゼロではない、または実行可能であることを裏付ける結果になったのではないか。


僕が中国の対日戦略担当者だったら、日本の治安制圧能力について「中国人留学生による蜂起を仕掛ければ、上陸部隊を送る前に日本の首都機能を停止に追い込むことは簡単」と判断するかも。
自衛隊ROE*9もそうだけど、警察のROEも必要なのかもしれない。


また、長寿医療制度のところでも触れたけど、「外国人移民の受け入れ=もっとも近い地域から、日本の法律や文化を尊重しない集団を導入する」のであれば、「本国指示による一斉蜂起や恣意的に仕組まれた暴動」が首都圏で起こる可能性は十分にある。
そうなった場合に、日本的なあなあや水鉄砲では押さえ込めない暴動を、自衛隊を用いた戒厳令で封じ込む度胸が民主党政権にあるのかどうか。及び、今の警視庁の対応姿勢で対応しきれるのかどうか。


この辺り、治安上いろいろ連動した大きな課題が露呈したのかもしんないなと思う。

*1:マニアw

*2:テーブルトークRPGではないほう。ソ連が開発したロケットランチャー。

*3:短射程なので

*4:航空機などの移動標的相手だと、当たらないことも結構ある。

*5:経済制裁、口座凍結など

*6:ペルシア湾のパトロールなど

*7:そして自衛隊には対特殊部隊のスペシャリストがいる、という話はあまり聞いたことがない

*8:中国の警察/軍による地方の農民一揆の制圧はものすごいもんがあって、威嚇ではない水平射撃による実弾発砲、天安門事件のような戦車を繰り出しての実力行使も珍しくはない。日本の警官はこうした暴徒を前に、そもそもの実力行使が許可されていないわけで(したって水を掛ける程度だ)、事実上何も出来ない。

*9:この場合、株式基本利益率のほうではなくて交戦規定のほう。