グリーンピース逮捕と尖閣諸島の件

5/15のエントリー(http://d.hatena.ne.jp/azuki-glg/20080515/1210858156 )で書いた通りの展開。

  • 持ち主の同意を得ずに他人の所有物を持ち去る行為は「窃盗」
  • 捜査令状/捜査権のない団体・個人が違法な手段で獲得した物件に証拠能力はない
  • グリーンピースには捜査令状を得ずに捜査をする資格も権利もない
  • 「横領」と指摘された行為は、遵法行為であり横領の事実は存在しなかった、と地検判断

事件発覚から容疑者の逮捕まで一ヶ月近く掛かったことについては、容疑者に逃亡の意志がなかったため泳がせても大丈夫と判断していたのだろうけど、窃盗犯に対する態度としてはむしろ寛大すぎ。

グリーンピース側は、

  • 窃盗は事実無根(窃盗の様子は写真付きPDFで佐藤容疑者自身がグリーンピースのサイトに公開)
  • 不法行為の摘発のためには、違法な手段も正当化される

などと反論。
それなら、グリーンピースは怪しいから、グリーンピース宛の郵便物や貨物は、集配所でどんどん断りを入れずに開梱しますけど、もちろん警察ではない別の個人が勝手にやりますけど、もちろん「違法行為を明らかにするため」だから、問題ないですよね? というツッコミは山ほど入ってきたので、今更言うほどでもない。

この「不法行為の摘発のためには、違法な手段も正当化される」というのは、「目的が正しければ手段は不当でも許される」ということでもあるわけで、「自分が正しいと信じたら、自分を邪魔する奴を殺しちゃっても違法ではない」と言っているのと事実上同じ。
この「自分を絶対視、自分を、自分の信条を遂行するための正義の代行者」として考えるというのは、例えば十字軍を派遣した原理主義キリスト教徒だの、911同時テロの遂行犯=原理主義イスラム教徒だの、地下鉄サリン事件を起こした原理主義オウム真理教徒だの……そうした、狂信的教条主義者というか、「正義の味方症候群」というか……そういうのと精神構造的には何ら変わらない。

グリーンピースというのは宗教なのだと思う。同様の指摘をされているサイトも幾つかあるけれども、「自己の主張を正当化し、押し通すために、妨害するものを犯罪手段を使ってでも排除しようとする」というのは、狂信者であると言っていい。狂ってるのだ。
でも、酔っぱらいが「俺は酔ってねえ!」というのと同じで、狂信者は自分のことを「狂ってない!」と主張するものでもあるわけで、手に負えねえなあ、とか思う次第。
生暖かい目で遠巻きにしておきたいところだけど、そんな狂信者が自身の中でだけ通用する正義に酔いしれて、こちらに向かって突っ込んでくるという事態は本当に困る。

安全保障話に結びつけて考えることもできる話で、こちらにそんなつもりがなくても「日本はやるつもりに違いない!」とばかりに、侵略・進出・軍備増強を自己正当化する国というのは日本と隣接する周囲にいっぱいいる。ロシアの伝統的南下政策、北朝鮮テポドン竹島の不法占拠を強化する韓国、尖閣諸島を刺激する中華民国、海底ガス田開発を口実に太平洋に躙り出る中国*1などなど、こちらにそのつもりがなくても、相手は相手の正義に基づいて不法行為を「無理強い」してくる。
こちらとしては、穏便に遠巻きにしていたいけれども、穏便にしているうちに、既成事実が出来てしまう例*2もある。


言うべきは言うべきなんだけど、言うとワーワーとうるさいから黙ってると、ますます立場が悪くなるというのがこれまでのパターン。
これからもそれが続くのか、ぼちぼち堪忍袋の緒を切る人が出始めるのか。
堪忍袋の緒を切る人が理性的であればいいと思うのだけど*3、こういうときって短期的な利益だけしか頭が働かない短絡的感情的な排除主義*4が台頭してくるものでもある。
日比谷焼討事件は当時の新聞が「短期的な利益だけしか頭が働かない短絡的感情的な排除主義」を煽ったことがきっかけとなって起きたわけなんだけど*5例の尖閣諸島の件や今回のグリーンピースの件のようなことの積み重ねは、いずれ「堪忍袋の緒を切る気運」を高めることになり、そこに憂国的なフリをしたマスコミによって「短期的な利益だけしか頭が働かない短絡的感情的な排除主義」が煽り立てられるようなことがあれば、きっと多くの人が「よしきた!」「いっちょ暴れようぜ!」「新聞がいいって言ってるから!」「他の人がやるなら俺もやっていいよね!」と雪崩れていく可能性が高い。


60年前とは違う、と60年後の僕らは誰もがそう思ってるけど、70、80年前に旗を振っていたときと「情報提供者」「煽動者」の体質が変わっていないことは、頭の隅っこに置いておくといいかもしんないと思う。


尖閣諸島の件は非常に興味深かったのだけど、あれは国民党(外省人)と中国共産党の確執と合作とか、そのへんを踏まえて考えないとわかりにくい話でもあるかもしれないので、子細は今度機会があれば。
まあ、韓国の大統領が何度代替わりしても「日本は謝罪するべき」というのとか、ヒトラーが「ドイツの不景気はユダヤ人のせい」というのと同じで、国内の不満を国外の「共通の敵*6」に押しつけることで、政権への不満の矛先を変えようという、初歩的かつ古典的だけど効果がある「統治のための戦術」だと見てよいように思う。これは、中国政府が四川大地震の復興の遅れに対する批判を逸らすために、白樺油田を中国側有利で獲得したかのように報じている*7のも同様。
それをすることで、誰が得をするのか? というのを、短絡的にではなく重層的に見ていくと、いろいろな見え方ができて面白い*8と思う。

*1:白樺油田については、あれは油田採掘が主目的ではないと思っている。埋蔵量があまり多くないこともわかっているし。あそこに中国が、というより「人民解放軍の艦隊」が駐留できる要塞があるということが彼等にとって重要なのではないかと思う。日中国境線の最先端の洋上に、中国海軍が駐留できる施設があるということの意味を考えるべき。

*2:竹島

*3:慇懃な嫌がらせができる政治家であればいいのだけど

*4:これを一言で言えば「右傾化」という奴なのだが、右=街宣右翼とか、三島由紀夫愛国主義という理解もまた短絡的。「考えの違うものは排除しよう」というのが右傾的思考で、「考えの違うものと共存しよう」が左傾的思考(本来の)なのだけど、現在は左側の人々もまた「我々と考えの違う奴らは排除」という態度を取っているので、どっちも右傾的性質と言えんこともなく非常に紛らわしい。

*5:その後の軍国主義を暴走させたのも、その萌芽の多くは勇ましすぎる論調を書き立てた新聞が国民を煽動したところが大きいように思う。

*6:ドイツのユダヤ人の場合は、ゲルマン民族にとっての共通の敵

*7:不満を日本側にぶつけさせる

*8:funnyではなくinterestingという意味で