とてつもない日本

「借金はするな!」(借りを作るな)
「流行り物には乗っておけ!」(意見を述べるなら経験してから)


という家訓が(ry


そういうわけで、「とてつもない日本」を買って読んでみた。
これは「これまでの状況」「やることはちゃんとやってる日本、だからできること」「日本はどう思われてるのか?」などについて砕けた説明がされた本で、政治や経済についてあまり興味がないけれども、自分達はこのままじゃダメなんだろうか、と不安で不安でしょうがない人が読むと、元気が出る系であろうと思う。
発行は2007年、麻生総理が外務大臣を務めた小泉改造内閣安倍内閣、そして三度目の総裁選に敗れた後の無役時代に、本人blog向けに書かれたコラムなどを下敷きにしたもの、とある。入手したのは6刷。うーむ、あやかりたいw


時代背景的には2002年頃(小泉時代)からの景気回復に伴う長期的な右上がりの時代を踏まえて書かれたものなのだけど、リーマンショックによって多少前提条件が変わったもの(高齢者を就労に当てるなどの提案)もあれど、極めて理性的・現実的、そしてポジティブな提言と思われた。ニートサブカルなどについて触れている点があるので、これをして「麻生はヲタに媚びた」と早合点する人は、例によってうっかりさん。
こういうのは、ちゃんと一次ソースを当たってから批判しないと、後で猛烈に恥を掻くと思う。てか、安倍元総理の「美しい国*1」とかもそうだけど、新書で出てる政治家の本っていうのは、「一般人」向けの提案書がほとんどで、説明も用語も平易。だいたい2時間もあれば読めます。


三位一体改革とか、小泉時代の改革を総務大臣の立場で押し進めただけあって、そのへんの「改革が必要な理由」などについての総括もきちんとされていた。「アソーとコイズミが全部悪い」系の報道が多いんだけど、表層的でエキセントリックな報道の見出しと、こうした一次ソースとを照らし合わせてみると、「この表現、この説明が、どうしてああなっちゃうの?」という疑問、また「ああいう報道をされりゃ、こりゃ誤解されて当たり前だわ」という驚きを感じたりもする。
べっ、別に小泉信者だとか麻生信者だとかじゃないんだからねっw
というのをさておいたとしても、政治家の提言というのは、

  • 現状を把握できているか、実績を数字で示せるか
  • 主張に一貫性はあるか、しかし頑迷ではないか
  • 妬み嫉みを孕んでいないものになっているかどうか

このへんが結構重要かなー、と。


例えば、「今の自分が不幸なのは、自分は悪くなくて誰かが悪い。さしあたっては、自分を救済してくれないのに権力や利得を貪っている社会が悪い、正義が悪い」と思い込むのは簡単で、そういう人のところにいって耳元で「そうだそうだ、社会が悪い。政府が悪い。官僚や政治家が悪い。だから政府をひっくり返せば全てがうまく行くぞ」と囁かれたりすると、ついその気になって「そうだそうだ、政府が悪い」とその煽動の尻馬に乗ってしまう。
実際に乗ってしまった事例が、515事件/226事件の熱狂であり、日中戦争/太平洋戦争の熱狂であり、戦後では団塊世代が経験した学生運動あたりである。もっとミニマムにしたのが金属バット殺人事件あたりに端を発する「家庭内暴力」であって、そのどれもが「自分は悪くない。自分がこんな人間になったのは/自分が救済されないのは、自分を管理保護しなかった親・保護者/権力者が悪いのだ」という意識に根ざしている。


これは感覚的には「魔女狩り」に近いんではないかと思う。
「自分達は悪くないのに、自分達に悪いことが起こるのは、どこかに魔女がいるからで、魔女は自分では違うと言いはるが実態は悪であり、その魔女を排除さえすれば全てはうまくいく」
と、「民衆の味方」を称する誰かが囁いたり叫んだりして煽動する。
最近では民主党/社民党/国民新党がコレをやってますw*2
戦前戦後洋の東西は関係ないのかもしれんなあ、この感覚は(´・ω・`)


この、「自分は悪くない」「だから自分を導かなかった権力者が悪い」式の囁きというのは実に耳に心地よい。だって、失敗や不遇について責任を一切負わずに、誰かのせいにできるわけだし。責任を免除した上に、「悪いのはあいつだ」と囁かれたら、そりゃ責任転嫁して逃げたくなるし。
こういう感じで、心の隙間に入り込んで「あいつが悪い、あいつが悪い」と繰り返す類の煽動っていうのは、ついつい深く考えずに判断を委ねてしまいがち。
「お前は何も考えなくていい、悪いのはあいつだ、お前は悪くない、俺に任せておけばうまくやっておいてやるから」
仕事や家庭がうまく行かなかったりしてるときにこう言われたら、多分この誘惑に抗うのは凄く大変だろうなーと思う。
これって、新興宗教が個別勧誘するときの手口と同じなんだよね(^^;)
上京して20ウン年の間、なんだかやたらめったら宗教勧誘に声をかけられてきたんだけどw、「お前は悪くない、悪いのはあいつ」的な手口って実際に多かったしなあ。
最近では民主党が(ry


なので、政治家の本なんかでも「君らは悪くない、悪いのは○○○*3だ、今必要なのは政権交替ではないか」系のものは、眉に唾付けて棚に戻す。


もっとも、「君らは悪くない」ここまではだいたいどの政治家本でも書かれてる枕なんだけど、その枕のニュアンスは著者によってかなり異なる。
「君らは悪くない」の後に、「悪いのは政府だ」という感じで「悪の化身が実在する」と囁くのは、傾向としては野党政治家の本に多い感じがする。この後に「だから我々と一緒に政権交替しよう」と続く。
今回の「とてつもない日本」と「美しい国へ」は、元になったテキストが書かれた時期が近いこともあるんだろうけど、いずれも、

  • 日本人はダメってマスコミや「識者」が言うけど、それほどダメでもないよ
  • 日本は国際貢献を結構やってて、仕事ぶりが知られていない外務省*4も、いい仕事いっぱいやってるんだよ
  • カンボジアPKOの経験がイラク復興支援*5に生かされていて、単に金出した以外のこともしてるよ
  • カンボジアイラク以外の国の「司法制度整備」や「行政機構整備」にも手伝いをしてるよ*6
  • 中国と韓国と北朝鮮以外からは信頼もされてるよ
  • アジアは北東アジア(中国・韓国・北朝鮮)が全てじゃなくて、南アジア、中央アジア他のアジア各国では日本は評価されてるよ
  • そういうわけで、ポジティブかつ自信を持つべきだよ

というような内容。
新聞や朝のワイドショーのコメンテーターの受け売りで、渋い顔して「アソーがコイズミが」とやるよりは、幾分随分、日本人として気が楽になるんじゃないかと。


うまく行かなくて凹んでるときに、「あいつが悪い、おまえは悪くない」と言われてその気になって責任転嫁の対象を探してると、なんか卑しい顔になっていく気がする。他人の悪口を言う人の話を聞くというのもなんか辛いし、自分が悪口を言う側に回りたいとも思わない。
うまく行かなくて凹んでるときに、「そんなに凹むなよ。自分で言うほど君は悪くないよ」と言われたら、ちょっとは元気が出るような気がする。
とりあえず、ポジティブシンキングで行こう、妬んだり嫉んだりする人間にはならないで行こうと思ってる人なら、読んで大丈夫な本じゃないかと思った。
少なくとも、煽動者に煽られて、事態もよくわからんまま熱に浮かされて魔女狩りに参加するような愚を犯さないためにも、マスコミフィルターを通さない言い分っていうのは、与野党いずれの勢力に関しても、一応は眺めてみたらいいんじゃないかなとか思う。*7


ブックレビュー的なことはあまりしないんだけど、まあこういうのは流行りものですからw
あくまで、「実際に手にとって買って読んでの感想」ということで。
ここでも、「あいつがそう言ってた」を鵜呑みにせず、自分で読んで自分で判断、誰かの要約した感想をそのまま自分自身の意見にすげ替えてしまわないようにしたほうがよろしかろうかと思う。メディアリテラシーは大事っていうか、他人に踊らされない、他人に責任を転嫁しない自分でありたいっていう自己満足wのためにも。


主観が完全に入らないクリーンで中立的な解説とか要約とかって、どこかに売ってないもんですかねえw

*1:これも買って読んだけど、書かれてる内容は別に夢に浮かされた感じでもなかったし、極めて現実的だった。「へ」を略しちゃって「今の日本が美しい国と浮かれている」という批判が非常に多かったけど、読んでいれば絶対に言えない誤読であるわけで、助詞ひとつ消すだけで大誤解・バッシングを導きだした情報操作の成功例と言える気がする。

*2:共産党もやってるけど、彼等は対案を出すだけマシ。

*3:小泉でも安倍でも麻生でも好きなモノをどうぞw

*4:田中眞紀子の伏魔殿発言で随分と悪者されたけど

*5:イラク復興支援の現場記録については、ヒゲの隊長こと佐藤正久参院議員の【イラク自衛隊「戦闘記」】が結構おもしろかった。

*6:リビア民主化にも日本が一枚噛んでるのは知らんかった

*7:公平を期すため民主党系政治家の本も一応書店では眺めてるんだけど、故永田久康衆院議員みたいなプチ辻政信みたいな感じの内容が多くて、どうもちょっと。魔女狩りの先頭に立つ系の勇ましい文言って苦手なので。