子供手当てと扶養控除と配偶者控除

数字に関しては専門ではないうえに、今は詳しく調べてないのでやや曖昧。概念についてのみ覚え書き。


民主党公約の目玉の一つである「子供手当て」は、民主党が政権を得た場合に2010年度から開始する、としている制度。
全ての家庭の0歳から15歳(中学卒業)までの子供一人に対して、月額2万6000円を給付する、というもの。受給者の所得制限はなく、親が生活保護を受ける極貧であろうと、家族で毎シーズンハワイに行ける裕福な家庭だろうと、一律で支払われる。
これは、少子高齢化/子育て支援の一環で、「若年夫婦には経済的余裕がなく、夫婦単独で子育てをする資金(経済的負担力)が欠落しているのが、結婚・出産・育児が進まない原因である」として、その不足資金を国が支出しよう、というものだ。


実際、経済力=糊口を凌ぐ能力は、そのまま育児可能な労力・人数に比例的に反映されるものなのだそうで、南米のとある部族を対象に「労働力=経済力がある家は多産」という研究成果が出ているらしい。*1


で、民主党の案が仮にそのまま適用され、0歳から15歳まで、つまり2010年から2025年まで民主党政権が交代することなく継続したと仮定する。
子供一人当たりに給付される金額の総額は、15年間で468万。年間だと一人当たり31万2000円。結構な金額。民主党は完全実施した場合の所要額を年5.3兆円と見込んでいる。
もちろん、打ち出の小槌があるわけではなし、また韓国の例にあるように「金がないなら刷ればいいじゃない♪」というわけにもいかない。*2


そこで財源が必要になる。
民主党案は「所得税の扶養控除、配偶者控除を見直す(実質的には廃止)」することで、それまで控除されていて取れなかった分を所得税に上乗せして徴収しよう、というもの。


つまり、「子供手当て、一人当たり年31万」を、
「扶養控除、配偶者控除で控除されてきた相当額を税金として徴収する」ということで捻り出す案だ。


これを単純に損得で言うと、子供15年分の養育費負担を、「扶養控除・配偶者控除」であてがうことになるわけなのだけど、この扶養控除と配偶者控除ってのは、それぞれ「経済力のない親族を扶養している場合の、世帯主(納税者)の控除」と、「結婚をしている場合の、配偶者(世帯主が夫の場合は妻にあたる)の控除」であったかと思う。


家庭内にいる子供の人数が、扶養される親族*3や、配偶者*4よりも多ければ、得した気分になれる。*5
まあ、「核家族で親から独立して生活しており、奥さんは共稼ぎ、子供は二人以上」だったら、わりと儲かる感じ。実際、そういう家庭を想定しているのだろうから、これで足りなかったら話にならないし。


ただし、同じ世帯で年金生活を送る高齢者など「世帯主に扶養される親族」と「専業主婦」がいた場合、それまで世帯主(納税者)に対して緩和されてきた扶養控除・配偶者控除はなくなることになる。この控除額が子供の人数分の子供手当てで賄えない場合、むしろ家計は苦しくなる。
例えば、一人っ子、夫と妻、夫か妻どちらかの両親と同居、などの場合。扶養する両親、妻などの控除額合計が30万以下であればいいけど、そのへんどうなるのかな、とか。


また、子供手当ては0歳から15歳までの15年間についてのみ支給されるものなのだが、扶養控除・配偶者控除は、それぞれ「対象者が死ぬまで」か「配偶者と離婚するまで」は本来対象となる期間は無期限*6で、扶養控除・配偶者控除から得られるメリットとの比較はどうなのか。
核家族化の進行(親と同居しない)が進むから、ということでこういう対応をしているのだろう(世帯内に高齢者がいない前提)けど、今後、20年間は高齢者が増大することになるわけで、介護などで高齢者を世帯内に抱える家庭が増えることが見込まれる。
そうなると、高齢者=扶養家族が増えても、それは15歳までの子供ではないので手当てはなく控除も廃止、つまり「高齢者を家族に迎え入れることは若年層夫婦の経済的負担」になるので、高齢者介護が却って敬遠されることになるまいか。*7


と、各論の細かいところに迷い込んでみると、この「子供手当て」という響きのいい政策は、いろいろと別種の不満の噴出、親捨てのような社会現象を引き起こしかねないのではないかなあ、と思えた。
うちの弟んところは子供3人いて、夫婦と両親同居。
うちは夫婦2人で子供なし。猫有り。*8
となると、このへん与えられる影響は自ずと違ってくる。


公約・政策というのは、期待するものはメリットばかりしか目に入らなくなるし、興味がないものを排除したいときはデメリットばかりが鼻に衝く。
でも、実際にはメリットとデメリットを比較することが大事。
大事だけど……そんなこと悠長にやってる暇なんてないから、自案のメリットを叫び、他案のデメリットを大声で叫ぶ人がいると、まるごと委ねたくなっちゃうものなんだろな。
こういうときに、先入観に訴えるスローガンの効力って大きいっていうか、世の中はコピーライターで動いてるなあ、と実感するw

*1:ただしこれは別の研究の一部で、「労働力ではない高齢者が健在な家庭と、高齢者が鬼籍に入っている家庭とを比べると、高齢者がいない家庭のほうが多産であるという。子供は成長して労働力になりうるが、労働力である時期を過ぎた高齢者は「糊口」のひとつとして消費はすれど生産力・労働力には結びつかないので、子供を育てるための障害になっている、というものらしい。ソースは確か数年前のTechnobahn。

*2:韓国の場合は、ウォンが買われまくったワロス曲線の当時、相当なウォンの増刷をしたらしい。当たり前の話なのだけど、金をばんばん刷ると貨幣の供給過多に陥る。流通している貨幣の量に対して、流通している物資の供給量が増えるわけではないから、総体的には供給不足になってインフレ(物価上昇)が起こる。また、貨幣の流通量が増えて物価が上がるということは貨幣の価値が下がるということでもあるわけで、貨幣価値が下がると貿易などでの競争力が下がり、外貨獲得額にも影響が出る。過度にインフレが進むと結果的に競争力・経済全般が停滞してしまう。かといって逆方向に振ったデフレは、働いても給料が上がらないので同じように競争力/経済全般が停滞してしまうけど、ここでは細かいことは割愛。

*3:有り体に言えば年金生活に入った親と同居しているような場合。

*4:専業主婦の奥さんとか。

*5:扶養控除と配偶者控除の金額、割合を調べてないので具体的なことは断言しないでおく。

*6:とはいっても、人間には寿命があるので永久ではないけど。

*7:先の欄外注釈でも触れた通り、「経済力・生産力のない高齢者を抱えた世帯は、出産・育児による新たな生産力を得る能力が鈍る、という話。よしんばそれが両立できても働き盛りの世代にとって大きな負担になる。

*8:猫が非課税でホントによかったw でもいずれ、「ペット税」を設けよう、という話もある。これは、ペットを安易に捨てるのを抑止しようという目的のものだったかと思うけど、この項とは別種のテーマなので割愛。