地震と道路
弟は仕事で栃木方面にいたらしく、無事。
ただ、東名高速の大部分が不通になってしまったため、戻れないらしい。*1
13日朝13日午後には突貫工事での復旧の見通しとのこと。*2
東名高速の土台部分は予算切り詰めのため「盛り土して基礎を載せる」という簡素な構造になっているため、地震+台風コンボに弱いらしいのだが、逆に基本構造が簡素なので盛り土をやり直すことですぐに修復することができるのだそうな。
高額で頑丈、しかし壊れると直すのに金が掛かるものと、
廉価で脆い、しかし壊れてもすぐに直せるもの。
廉価で頑丈、なかなか壊れず壊れてもすぐに直せる、という魔法戦士みたいなのが理想なのだろうけど、回復魔法と攻撃魔法を巡る僧侶と魔法使いのようなもので、このパラメータ配分はなかなか都合良くはいかない。
日本に住む限り、地震災害から逃れることはできないわけで、「東海地方だからいつか地震がある、だから道路に金を掛けておけ」としても、壊れるときは壊れる。
良く行く居酒屋なんかを見ていて思うんだけど、ミスオーダーや失敗はないに越したことはないけど、ミスがない店というのは案外記憶に残らない。ミスだらけの店というのはもちろん評価を落とす。が、ミスはあるけどリカバリーが早い・うまい店というのは、不思議なことにミスがない店よりも記憶に残り、ミスは起きているのにミスがない店より好印象になったりすることがある。リカバリーがうまいと、ミスをしても許せる気持ちやむしろ応援したい気持ちになってしまうというか。
その意味で、過去にお気に入りだった店の多くはミスのない完璧な店よりも、ミスはあるけどリカバリーのうまい、良く言えばミスを取り戻そうとする姿が一生懸命に見えて、むしろ愛嬌にすら感じられるという、応援したくなる感じ。
このへんはこうした災害対応も同じで、本来被害は起きないに越したことはない。
ニューオリンズの台風災害も、堤防決壊は予測可能な人災だった、と言われている。僕の安全保障趣味というのは、たぶん地震/台風など「予想できない、または予想ができても避けられない」という災害を身近に感じるからこそ、同様に「予想ができても避けられない、他国から仕掛けられるかもしれない戦争」に対する対応に興味を持つのだろうと思う。その意味で、僕の基本性質である超心配性は、静岡県出身であることに起因すると言っても過言ではないw
今回の東名高速の被災について、「手抜き工事」とか「政府・自治体の不手際の結果」を言い募る向きも恐らく出てくるのだろうと思うけれども、ここは「お盆の混雑」を回避するべく最短の工程で復旧対応に拘わっている行政、現場の人々などにエールを送りたいと思う。
一日40〜50万台が通る東名高速が止まると、関東・関西を繋ぐ陸送物流は中央道やその他の迂回路経由になる。東名高速は、通販でモノ買う人から帰省客まで、物流大国*3日本を支える大動脈である。一日も早い復旧を願いたい。
ところで、こうした道路の補修費用というのは、高速道路の通行料金や道路建設目的税や揮発油税などで賄われている。昨年4月に民主党の反対で一時的に否決され、成立が2カ月遅れた「暫定税率」というのは、ガソリンなどに掛けられたものだが、これは今回のような地方の高速道路の修繕費にも充てられる。
昨年4月の暫定税率の一時的な撤廃は、年間予算が執行される4月の地方を直撃し、道路補修費の多くが計上できなくなった自治体も少なくなかった。
「道路は石でできている、だから何もしなくても壊れない」
というのは思い込みに過ぎない。
幹線道路の交通量は、がっちり作られたアスファルトに、簡単にトラック幅の轍を作る。
北陸、東北、北海道など、積雪で埋まった道路から除雪が必要になる。
今回の静岡のように、台風や地震などで道路が寸断された場合も同様だ。
道路というのは、メンテナンスしないでいるとあっという間に壊れるのである。
道路問題に関しては「道路族議員が誰も通らないような田舎に道路を作って云々」という批判のテンプレがある。これは、今度の総選挙で民主党から立候補する田中眞紀子の実父・田中角栄が総理として唱えた日本列島改造論*4に対する批判でもあって、我田引水の地方開発を揶揄する喩えでもある。
地方に作る道路といっても、「終着点が地方という道路」と「地方をバイパスする道路」とでは意味合いが違う。
終着点が地方の道路は、そこそこの都市なら物流を刺激して地方が拓けるが、そこが過疎地の場合はさらに都会に人が出て行ってしまうので、さらに過疎化が進み文字通り「獣しか通らない道」になってしまう。
地方をバイパスする道路は、都市間物流を刺激するので、それぞれの終端やインターのある街は拓けるが、高速道路として通過されるだけの地域は過疎化する。*5
「道路に金を掛けるのは一律禁止」
「高速道路料金は一律無料」
とした場合、今回のようなイレギュラーな道路修繕費が必要になった場合、誰がその費用を出すのか? という話になる。もちろん、料金からの積み立てがなくなったり、ガソリン暫定税率などの目的税からの受益者徴収がなくなるということは、車を持たない人から免許のない子供に至るまで、おしなべて国民全員がそれを負担するということになる。
民主党が掲げる高速道路無料化というのは、こういったイレギュラーな事態をあまり想定していない。
安全保障・災害対策というのは、政治の重要な目的を体現していて、「イレギュラーな事態を回避するか、回避できない場合にどう対応するか」というのが求められるのだと思う。
安全保障政策がほとんどないに等しかった民主党マニフェストを見るだに、そして今回のようなイレギュラーな避けられない災害が実際に起きた場合に、どうやってそれをリカバリするのかを、予め決めておき、想定外の事態に際しては党利党略を捨てて最善最速で事に当たるのが政治というものではないのか、と思うのだった。*6
PS.
そういえば、昔、小中高の社会の教科書に出てきた「東名高速道路」の写真を、ふと思い出した。
高度成長期の爆発的な物流需要を可及的速やかに満たすために作られたのが新幹線であり、また東名高速であった。
この東名高速、主に用地買収が容易な山間部を走るのだが、山間部となれば当然トンネルが増えるわけで、用地買収費を圧縮できても今度はトンネル掘削費が馬鹿にならない。
そういうこともあってか、静岡には東名高速と国道が海に突き出して岬を迂回するポイントがあって、これが「日本の国力で作り上げられた本土の大動脈」を象徴するのにいいってんで、当時の教科書には頻繁に使われていた写真だったかと思う。
この要衝、実際東海道でも平野部がほとんどない場所でもある。*7
静岡は、江戸の昔から暴龍・天竜川、越すに越されぬ大井川、天下の険・箱根など、物流を阻害する関所や要害を多く擁した。その昔から物流の要であると同時に、交通の難所も多かったわけで、そうした課題を「高速自動車道」で解決したのが東名高速でもあった。
現在、迂回路及び建設から40年過ぎて老朽化した東名高速の再建のためもあって、第二東名がじわじわと建設中なのだが、「高速道路無料化」をしてしまうと、これまた新たな道路専用国債のアテも難しい今*8、今回のような災害による主幹道路崩落や復旧、道路の更新などなど諸々を考えた場合、結局民主党も「現実路線」を選ばざるを得ず、今気前よく約束しているマニフェストのほとんどは空約束になるのが目に見えてるような気もする。
顔ぶれに左派が多いまま現実路線に舵を切って第二自民党になるのか、旧来通りの第二社会党のまま現実路線に舵を切らないのか、どうなるんだか。
*1:現在は静岡IC〜菊川IC、静岡IC〜袋井ICが通行止め。
*2:当初、朝予定だったのが、被害規模が予想より大きく午後にずれ込みとのこと。牧ノ原SA辺りの崩落範囲が広く、ここが遅れている原因らしい。
*3:分単位の過密物流管理がされているのは恐ろしいと思う
*4:総裁選の公約だった
*5:「ぼくのなつやすみ2」に出てくる田舎の港町が正にそれだった。ちなみにあの舞台のモデルは静岡県南伊豆の富戸らしい。
*6:その意味で、リーマン・ショックに際し国内景気対策最優先に切り替え、金融恐慌の被害を最小にする政策を掲げた麻生政権の判断は正しく、それを全力で遅延させた民主党の判断は間違っていたと思う。75兆円の経済対策は、国から国民への資産転換なのだが、「利益を受けた感」があまりないインフラ投資は、それを実際に施工する企業やその社員、派遣、日雇いを通じて民間に流れる。先の給付金2兆円は、そうした循環を飛ばして末端消費者に直接資産移転するというもので、これも毎年遣るのではなく一時的な対応としては悪くない。ただ、2カ月できれば4カ月早く施行すべきだったし、それを阻止し続けた参院民主は、正に党利党略最優先で国民生活の復帰を遅らせたと言える。昔の自民党が派閥抗争で使った悪辣な手口そのままなのは、なんだかんだ言って民主の執行部が「悪辣だった頃の古い自民」そのままだからだろうと思う。
*7:ゼロではありませんw
*8:目的が限定されず、道路以外にも使えるようになったため