鳩山外交の成果

初訪米から国連演説と、外交デビューを果たした鳩山首相
主な成果として日本で報道されたものは以下の通り。

・CO2排出量を1990年比で25%削減。ただし米中が足並みを揃えるなら。
・核開発/核軍縮への取り組みとして日本は核カードを捨てると宣言。
オバマ米大統領ファーストネームを呼べる仲になったので、自分のファーストネームも呼んで欲しい、らしい。

……実は、これらは一つも成果ではないような気がして成らない。

CO2の25%削減

まず、CO2の25%削減について。国内では「いくらなんでもそれは無理」「具体案を考えてから口にすべきで、方法も思いつかないうちに国際公約するのはおかしい」などの声も上がっている。
この25%削減については、実際に実施するとなると日本はそれらに取り組む国に技術&資金供与をする、という提案までセットされている。途上国に顎足付きで技術も上げますよ、ということであるわけなのだが、多くの途上国は産業の非効率性が高い反面、先進国に比べて産業そのものが未発達なので、国内の森林などによるCO2吸収量が概ねそれを上回る。このため、先進国は途上国のCO2吸収量を「買い取る」ことで、自国のCO2排出量を「減らしたことにする」という帳尻あわせをする国際的ビジネスが、このCO2問題の背景にある。
ところで、「途上国」なのに産業の発展が著しく、資源輸出国から輸入国に転身し、公害問題も多く抱えている……つまりCO2排出量の削減に取り組まなければならないけど、自国自身は途上国なので産業の発展にブレーキを掛けるCO2規制は受けたくない、というジレンマにある国……といえば、中国。
「産業の効率性向上技術が未発達で、しかし産業は発展しつつある途上国」という定義に当てはまる国で最大のものが中国である。
鳩山首相の主張を「CO2削減技術と資金をあげますよ」という提案に置き換えるなら、これで一番恩恵を受けるのは中国なんじゃないのかな、と思える。
新手の献金、或いは中国ODA*1の再転換かなあ、という意地悪な見方もできてしまう。
しかも、これらの宣言は「他国もやるなら。他の国が乗ってこないなら日本はやりません」という条件付きのものなのだが、英語でのスピーチではこの条件付き、という部分が発音の悪さwで「無条件で」となってしまっているらしい。こちらの意図と聴衆の了解がどこまで一致しているのかが怪しい。
また、この鳩山イニシアチブとされた演説内容については、欧米ではほとんど報道されていないらしい。*2


核外交から日本はドロップ

これは、「日本は核兵器を持たないし、持ち込まないし、開発するつもりもないし、それを手段とした外交からも遠ざかりますよ」という一見すると非常に良いもののように聞こえる。でも、そう聞こえるのはたぶん日本人だけ。
その前にまず、日米安保条約のおさらいが必要。
日本は日米安全保障条約=日米同盟という軍事同盟をアメリカと結んでいるわけで、これは「日本が攻撃されたらアメリカが反撃する」「アメリカが攻撃されても日本は反撃しなくていい」という片務的な性格を孕んでいる。
そもそもの日米安保条約は、二次大戦終戦後、冷戦期に突入した共産勢力の南下をアメリカが警戒したもので、武装解除して「戦争しない宣言(9条)」を持たせた日本自身の再軍備を進めさせたくはない、しかし日本が共産化してしまうのも困る……というジレンマの中で、「じゃあアメリカが守るから」という形で形成されてきた。*3
普通の軍事同盟=集団的自衛権を併せ持つ安全保障条約というのは、同盟国への攻撃に際しては条約加盟国は全員でその反撃に当たるが、日米安保条約は日本を西側に繋ぎ止める保険として用意されているので、日本側の責務は薄い。それじゃあんまりだ、ということで、日本が反撃に直接荷担しないことの代替条件というのが、国内の基地提供や米軍へのおもいやり予算などになっているわけで、これらを拒否するなら日本は日米安保条約の責務を果たすために「米軍が攻撃されたら日本が反撃する」という義務を負わなければおかしい。
この日米安保条約の主眼はなんだかんだ言って「米軍の核の傘の中に、日本を含める*4ことで、日本の安全をアメリカが保障する」というもの。
グルジア戦争でのアメリカの対応から、「米軍はいざというとき守ってくれない」という疑惑が生まれ始め、また北朝鮮*5の南下の際に、アメリカは本当に日本を守ってくれるのか? という疑念を日本が持つというのは当たり前の流れと言える。
前政権末期、与党側から「今すぐ持つわけではないが、日本も核武装を検討してもよいのではないか」という声が出た。
これは国内でも賛否両論あったものの、核アレルギーの強い国民性から日本人はおよそ「実現はされないだろう」と思っている。
が、日本以外の国はどう考えるのかというと、日本人とは違う考え方をする。
「あんなに怖い兵器で攻撃を受けたのだから、自分も同じものを持てばいい。そうすれば攻撃されなくなる」
ある意味、これが「普通の国の普通の反応」である。「怖いから持ちたくない」という拒絶思考について、日本人は「きっと回りも同じだろう」と、自分の嗜好が相手と共通すると考えてしまいがちだが、実はこと安全保障に関して言えば、その考え方は少数派だと思う。「自分が他人の家に泥棒に入ったりしないし、入られたくもないから、自分の家に鍵は掛けない。泥棒も同じことをされたらいやだから泥棒などしないし、家に鍵も掛けないだろう」というのは、自分に都合のいい期待であって、普通は鍵を掛ける。この場合の鍵=核武装であり、自国防衛のための武装安全保障戦略ということになる。「されたくないことは相手もしないはず」という性善説を、国の安全保障に当てはめるのは非常に危険で、常に性悪説で当たるべきなのだが、そこんところどうも日本人は善意を相手に期待しすぎる。


話は戻って、「日本は今後核開発などしません宣言」というのがどう受け取られているか、というのを考えると、実はほとんど信用されてないと思う。
まず、日本が本気で核開発をしない(できない)という保障は、時の政権が信用されているかどうか、ということでしか計れない。なぜなら、日本は「その気になれば核開発・ミサイル開発を自国のみで行える能力がある国」として認識されているからだ。自国内に原子力発電所を多く持ち、核開発能力が高く、それらの運搬手段としてのミサイル=ロケットを独自に開発している。HTVをISSに運ぶ手段であるH2Bは、10t以上のペイロードがある。通常、核ミサイルは核弾頭の小型が必要とされるため難しいわけだが、ペイロードがそれだけでかいなら小型を待たずにいいわけだから、H2Bはそのままいつでも核ミサイルになり得るのではないか――。
という疑念が日本以外の全ての国側にあるわけだ。
日本は核攻撃を受けた唯一の国であり、核兵器の効力を誰よりもわかっている。だから、核武装を考えないほうがむしろおかしい。何か企んでいるか、秘かに開発しているに違いないと疑うのが普通の国の安全保障思想である。故に、日本はNPTの査察を受けて核技術の透明化に努めているわけなのだが、それでも常に疑いを持たれ続けている。
日本が核開発しない、してないと宣言しても、そのへんはまったく無意味で、「日本は原発を全廃」「原発建設企業は全て解散」「ロケット打ち上げ事業やロケット開発事業は全て撤退、全廃*6」このくらいして、関連技術の廃棄を証明でもしない限り信用されないし、仮にそこまでやっても「関連技術者が存命だし、資料を隠しているかも知れない」と疑われ続ける。
日米軍事同盟は堅持しながら、米軍に「日本に核を持ち込ませない」ということがどれほど通用するのか。
この「日本に米軍の核を持ち込ませない」という宣言はまた、「米軍の核など不要で、日本は独自に核武装する」というニュアンスで受け取られる可能性がある。
日本人だけがそう思っていないだけで、北朝鮮によるテポドン2の発射、核開発について言えば「日本が対抗手段として急ピッチで核開発を行う可能性が懸念される」というのが、六者協議加盟国のうちの日本以外の国が不安がっているところで、「このままでは日本が核武装を決意してしまう畏れがあり、北朝鮮という脅威をそのままにすると日本の決意を正当化することにならざるをえない」と、日本は思われている。
オバマ政権下でヒラリー・クリントン国務長官が「日本は核の傘で守ってるから大丈夫」と念押しをしにきたのも、日本の核開発を思い留まらせる為であるらしい。


我々自身がどう考えているか、ではなくて、「そのポテンシャルと置かれた状況を鑑みれば、そういう行動をいつとってもおかしくない」と第三者から判断されているという状況下で、「いえいえウチはやりませんよ」と宣言しても無意味だし、「言葉と行動は一致する必要はなく、作っていませんと宣言しておいて、こっそり進めるのではないか」という疑惑が膨らむばかりということになる。
幸い、民主党やマスコミが嫌いに嫌った「腐敗した自民党政権」の行ってきた外交によって、「日本は約束を守る国」「日本は信頼が置ける国」という評価がまだ生きているけれども、今後民主党政権が国際的な約束を自己都合で反故にするようなこと*7をするようなことがあったら、「やはり日本は信用成らない」という疑いの目を持たれることになる。


どちらに転んでも意味ないわけで、むしろ、
「日本はアメリカによる核の傘に満足している」と宣言して、アメリカが核の傘を今後も十分に提供しうるなら、核開発を拙速に行う根拠がない、と明示してしまうほうがよい。
これは、日米同盟の確認と同時に、日米関係が危うくなること=日本の核武装気運が高まる、という論理が明確化されるわけで、中露もそれを念頭に置かなければならなくなる。*8
逆に、
「このまま半島の核問題が解決されないなら、日本も核武装を検討せざるを得なくなる」
と発言してしまうことで、周辺国に「それは困る!」と思わせれば、事態は急転したかもしれない*9
「日本の技術力、こうと決めた後の実現力の高さ」というのは、日本以外の国では脅威とも思われている。家電溢れる秋葉原は世界有数のサイバー都市wで、東京は超科学の都で、日本は技術的に恐ろしい日用品が溢れていて、しかも品質管理に恐ろしくうるさい*10。こういう評価をされていることを、たぶん我々日本人だけが知らない。もしくは「またまたご冗談を」と謙遜する。*11


また、アメリカの核に守られている日本が核廃棄を言っても説得力ないよ、という反論……というか妬みを持たれる可能性というのがある。
多くの軍事的に不安が残る中小国にとって、アメリカとの安全保障条約、アメリカの核の傘に入るということは、安全保障上の悲願であるとも言える。日本はその気になれば核の自主開発をできる能力もあり、世界有数の海上艦船数を有し、世界でも数少ないイージス艦保有国であり、米軍に次ぐF15保有国であり……その上、核の傘の下にいる。
それらの全てを持たざる国から見れば、「軍事的に恵まれた羨ましい、妬ましい国」である日本が核廃棄を訴えるのは、
「財閥の御曹司が一族の財力に守られながら、金に執着するのは浅ましい、と説教たれるようなもの」
であって、まるで説得力がない。
その意味でも、無意味な上に称賛どころか不安と嫉妬を不用意に煽る宣言ではなかったか? と思う。


ちなみに、2002年の小沢一郎民主党幹事長の発言はこんなでした。

小沢党首核武装可能と中国牽制産経新聞 2002.4.6)
自由党小沢一郎党首は6日午後、福岡市内で講演し、軍備増強を続ける中国を批判して「あまりいい気になると日本人はヒステリーを起こす。核弾頭をつくるのは簡単なんだ。原発プルトニウムは何千発分もある。本気になれば軍備では負けない。そうなったらどうするんだ」と述べた。
小沢一郎氏に最近会いに来た「中国情報部」関係者に対して、自身が語った言葉としてこの発言を紹介した。
小沢党首は「願わくば中国と日本が共生できる方が望ましい」と両国の連携強化が真意であると強調したが、中国が暴言と反発するのは必至。
日本の核武装の可能性まで持ち出して、中国を牽制する姿勢は内外で波紋を広げそうだ。
講演で小沢氏は「国際社会で日本は政治的にも厳しい局面に置かれている。中国や北朝鮮がある北東アジアが世界で最も不安定だ。中国は超大国になろうと軍備増強にいそしんでいる」と指摘、自らの核武装可能発言を紹介した。
その後「中国は早く民主化して日中運命共同体になるのが世界平和に役立つ。中国の混乱(した場合)はアフガニスタンユーゴスラビアの比じゃない。世界的な大混乱になる」と述べた。
共同通信*12

オバマ大統領との信頼関係構築

ロンとヤス。といえば、ロナルド・レーガン大統領と中曽根康弘総理。
ジョージとジュン。といえば、ジョージ・ブッシュJr大統領と小泉純一郎総理。
これらは、「日米関係が親密であり、日米は足並みの揃った緊密な同盟関係を維持している」というようなことを示唆する意味を持つ。
本来「Mr.President」と呼ぶべき相手をファーストネームで呼べる関係ということになれば、外交的プレゼンスも高まる。日本側から見れば、相手のネームバリューの余禄を貰うようなものだ。*13
今回はオバマ大統領が「自分のことはバラクと呼んでくれ」と言ってくれたそうで、これに応じて鳩山首相は「自分のことをユッキーと呼んで貰おうと思っている」ということだった。実際にそう呼ばれているかどうかは不明。
「由起夫=ユキオ=Yukio」
というのは欧米人には発音しづらいだろうから、フランクなニックネームで呼ばれたい、という配慮なのだろう。


ところで。
「ユッキーという言葉をエキサイト翻訳で訳すと凄いらしい」
という話を聞いたので、訳してみた。

以下、ユッキーと発音可能な単語とその意味(米英スラング)

yukky →不快
yukkie →酒癖の悪いヤッピー
yuck  →オェッ
yucky →不快


英語翻訳-エキサイト翻訳
http://www.excite.co.jp/world/english/


……。
鳩山首相芸人時代留学生としてアメリカに滞在していたことがあり*14英語は堪能だという触れ込みなのだが……。
本当にユッキーって呼ばれたいんだろうか?(´・ω・`)

*1:中国向けODAについては、中国国内でそれがほとんど知られていない上に、先頃「既に途上国ではない」ということで打ち切られている。CO2/25%削減というのはこの抜け穴を新たに作るものとも言える。

*2:このままなかったことになればいいのにw

*3:実際にはもっと細かい複雑な事情があるのだが、そのへん脱線が過ぎるので割愛w

*4:パクス・アメリカーナ

*5:潜在的には中国、ロシアも

*6:そういえばJAXAの政府統合とか、「ロケットはもういらない」という意見が民主党から出たりとかしてたが……

*7:北朝鮮のNPT離脱宣言や、日ソ不可侵条約の一方的放棄みたいな

*8:ちなみに自民政権はこの路線を取ってきた。だから日米安保を重視してきた。

*9:この「日本の核開発方針転換」というのは、米中露ででは「起こり得る選択肢」として検討されているらしい。知らぬは日本人ばかりなり。

*10:嘘つきをした会社を潰してしまうほどに

*11:こうした日本人の美徳である「謙遜、謙譲の意識、精神」は、たぶん日本でしか通用しないんだなと思う今日この頃。

*12:産経新聞共同通信から記事配信を受けていた。

*13:ロンヤスの場合は「二人で打ち解けてそうなった」で、ジョージとジュンの場合は「真昼の決闘を巡るやりとりでブッシュ大統領が小泉元総理を大変気に入って、そう呼ぶようになった」ということらしい。

*14:その頃幸夫人と知り合い、後に略奪婚