日米同盟の破棄と普天間問題

本日の拾いネタ。

11 名前:名無しさん@十周年 投稿日:2010/04/18(日) 09:20:41 id:bPd+JP7F0

「左舷針路に氷山がある。右に舵を切ろう」
「そんな事したら船が揺れて船酔いに弱い人がかわいそうだろ!」
「腕を掴むな、邪魔だ!すぐに右に避けないと大変な事になるんだよ」
「俺に任せろ!安全運航で避けてやるぜ!」
「無理だろw」
「無理じゃない。俺を信じろ」
乗客「そうだ、自民ひっこめ!」


――舵取り交代――


「よーし、左に面舵*1いっぱい!」
「は?」
「あれ、おかしいな…」
「衝突コースじゃん。避けられるんじゃなかったの?」
「いままで操舵してたのお前だろwwwお前の責任な」
「そんな事どうでもいいから避けろって」
「避けるの無理だって言ったのお前だろ!」

付け足すものは何もなし。






とかいいつつ、普天間基地問題の簡単なおさらい。

(1)沖縄に駐留する米軍の基地が沖縄県普天間にある理由
普天間基地は、
「国連軍が朝鮮半島有事に備える」
「日米が、中国による台湾有事に備える」
の二つの目的のために存在している。
まず、朝鮮戦争は「休戦」であって「終戦」はしていない。このため、「米軍が国連軍として朝鮮有事に備える、という前提は今も有効。そのうえ、北朝鮮の軍事的脅威が増している昨今、これまでしばしばSFの題材にもなってきた「第二次朝鮮戦争」に対して備える必然はなくなっていない。
つぎに台湾有事について。
中国は台湾を「自国領、中華人民共和国台湾省」と主張、台湾側は「台湾は中華民国。人民共和国ではない」と反論。
中国人民解放軍*2台湾総統府を特殊部隊で急襲して政変を起こす戦略を持ってている。これが実現すると、中国海軍は太平洋を自由に航行する能力を得ることになり、日本は「太平洋側からの中国の攻撃」「インド洋に抜けるマラッカ海峡周辺のシーレーン」を中国に掌握される、安全保障上の大問題が出てくる。
中国の太平洋進出を許すことは、アメリカの裏庭たる太平洋に、アメリカにとって軍事的に対立する可能性がある中国にフリーハンドを与えることに繋がりかねない。*3
この中国の太平洋進出ついては、日米ともに杞憂としているので、ここに日米が共同歩調で中国の進出に備える、という前提ができてくる。日本は基地用地を供出、米軍は直接的打撃力を供出、という共同戦線を張っている、というのが、沖縄という地理に、米軍が「日米の安全保障のために」存在する理由。
北朝鮮の脅威は主にミサイルについてだが、中国の脅威はミサイルよりも「太平洋への中国海軍の自由な航行」に対するもの。*4


(2)戦略的理由と戦術的理由
「沖縄の米軍」というところから、二次大戦後の米軍進駐がまだ終わっていないような錯覚から、「負担」「米軍はそろそろ出て行け」という声が上がったり、「竹島へ行け」「県外か国外へ」といった意見も出たりするのだが、そもそも米軍基地が沖縄になければならない理由というのが、「台湾を圧迫して太平洋に出ようとする中国」と、「朝鮮半島からいなくならない北朝鮮がいじくり回す核というおもちゃ」という、地理的な理由を伴う原因に基づく。それらを排除する、またはそれらに備えるという目的がある以上、沖縄から動かすことはできない。
これは戦略的理由。
そして、もうひとつは戦術的理由。
それぞれ(朝鮮半島と台湾)の双方に、米軍のヘリコプター*5が、無給油で展開できなければならない。現在のヘリは無給油で300km飛んで2時間戦術的活動をして、300kmを無給油で飛んで戻ってこられる、という性能なので、それが満たせる場所でなければ基地を置く意味がない。
例えば仮に場所が余っていようが地元が熱烈歓迎していようが、沖縄・台湾間の2.5倍以上も離れているグアムにヘリ部隊が全面的に撤退する、ということはあり得ない。*6
ましてや、平坦な場所が一切ない岩礁である竹島*7では用を為さない。
このヘリ部隊は、上陸部隊(海兵隊)を輸送する目的のものであり、上陸訓練も一体的に行わなければならないわけで、「基地と訓練地を分離する」という机上案はまるで意味をなさない。
軍というのは、単に自己満足のために配備されるわけではなく、「安全保障上の必要から、もっとも効果的な場所に効率的に配備する」ことで、初めて抜かずの宝刀の役目を果たす。
鞘の中に真剣が入っていて、いつでも抜ける、そしてそれはいつも手元にあり、目の前に置いてある。だからこそ、相手は「真剣が抜かれないように、慎重になる」。これが安全保障の基本的考え方であって、「鞘と真剣を別々の場所に保管、真剣は危ないから後方に下げ、真剣を振る練習などもってのほかなので別の場所へ、鞘など使わないものなのだから、真剣だけ実家のタンスにしまっておけばいい……。と、これでは「いざ」に対応できないので、相手は対抗されることを一切心配せずに軍事的行動に出ることができてしまう。これではイカンわけで。


(3)同盟国との決別を良しとするのか?
ここまでの安全保障論は、
「中国は日本及びアメリカに対して友好的であるとは限らない」
「日本はアメリカ側の勢力*8に与している」
という前提に立っている。日本がこれからも地球上の唯一の超大国であるアメリカの「味方」でいるならアメリカの軍事力による安全保障が得られるが、アメリカの味方に付かない、つまりは「アメリカと軍事的にも対抗する決意がある」なら、ここまでのアメリカとの共同歩調という前提は崩れる。
先週は、週刊朝日やゲンダイやら……「アメリカは生意気」とか「アメリカの言いなりにならない」やら、ずいぶんと勇ましい記事が飛び交っていた。鬼畜米英とか、ABCD包囲網に巻かれた時代の日本はそんな雰囲気だったのかな、とも思う。そう言えば、日比谷事件を扇動したのも、先軍政治を鼓舞したのも、226事件を擁護的に報道したのも、全部そのへんの新聞だったなあ、とふと……。
自前の軍事力に足りない分を同盟国の軍事力で補うという、戦後の安全保障方針は間違いではないし、この路線を維持することを僕は支持している。
のだけど、世の中にはそれとは違う二つの選択肢があったりする。


(4)自前で普通の国になる
仮にアメリカの力を借りずに自力で安全保障を行うのであれば、これまで米軍が担ってきたのと同程度の軍事的圧力を、日本単独で周辺国に与えられるようにならなければならない。
端的に言えば核保有、またはそれに匹敵する打撃力*9保有と、それを専守防衛以外の目的(予防的防衛、先制攻撃)に行使する意志と法的環境の整備、ということになる。
これはこれでハードルは決して低くない。というか高い。
戦後65年、平和に慣れ、子供のうちから平和教育を施され、「人が死ぬのは良くないことです」という常識が共有されている現代の日本人が、そうした「先制的攻撃力」をホイホイと受け入れられるかどうか、とか。
政党で言えば、国民新党、たちがれ日本などの右派政党は、そうした威勢の良い保守論に与しやすいし、右派を煽る目的でそうした発言が出てくる可能性は高い。右派というレッテルに嫌悪感を感じる人であっても、「人様のために泥を舐め続けることを受け入れなさい」と言われて、それについて永続的にハイと言い続けられる人間は多くはない。


(5)中国と組む
アメリカの力は借りない、しかし自前の軍事力は増強しない、しかし周辺国とは安全保障を獲得したい。
このねじれを全部満たすなら、「アメリカを共通の敵にしつつ、一緒に戦える強大な同盟国」に乗り換える、ということになる。
現在、アメリカに対抗する潜在的な意欲がある勢力圏と言えば、冷戦の敗者たるロシアから、中国に変わりつつある。
日本にとって中国の脅威からの防衛、というのはアメリカと共有する論理であるわけなのだが、アメリカが自国防衛のために日本を楯にしているのは気にくわない、だからいっそ、くるりと踵を返して、アメリカに脅威を与える側の尖兵になってしまえば、アメリカは日本を一目置くかもしれないし、アメリカに対抗しようとする中国も日本を手厚く扱ってくれるに違いない――。
とまあ、そういう心理が左派・親中派にはある。
大変小早川っぽい考え方だなあと思うのだが、戦国の習いで言えば「裏切りで加勢してくる武将が、勝ち組の重鎮として重用されることはあり得ない」んじゃないかなあ、と……。
また、1945年からの10年間の「米軍による進駐(占領政策)」が、比較的友好的かつマシなもので、しかもサンフランシスコ平和条約の後は、西側に付くことで自由を回復もした。
日本は米軍による進駐という経験を「占領政策というのはそういうもので、ちゃぶ台をひっくり返して占領を受ければ、現状より改善される」というような理解の仕方をしてしまっていて、中国による進駐を受け入れ、日米安全保障条約に代わって日中安全保障条約を結べば、アメリカに対抗する戦力を中国と共有できて……というような考え方を持つ政治家が、


……まあ、そういう政治家を与党にしちゃったからなあ。
有権者の投票の結果そうなったわけだから、その先の責任は有権者自身が負うのが民主主義の習いなわけだが。


中国が日本の価値観に足並みを揃えることはあり得ないし、対等な同盟もない。中国が自国内で行っている各種の内政については、それが日本ではないのであれば、干渉する立場にはないが、それと同じ政策を日本にも行う、日本政府も中国式のやり方を日本国内で施行するということになってくると、いろいろよろしくない。
ネットは常に検閲され、政府の政策に疑念を唱えると逮捕されて行方不明になり。不平不満と他人の不幸を飯のタネにする商売は駆逐され、口さがないことなど一言も書かれないものだけしか世に現れない。
そんな日本になるのは嫌だし。
今後も日本語を母国語とし日本的な諧謔と日本的な曖昧さと日本的な楽天さと日本的な飯へのこだわりとを堪能していきたいのであれば、中国と組むという選択はないなあ、やっぱ。


(6)我に返って現実を選ぶ

現実に立ち返れば、
a)アメリカと今後も組む
b)中国と今後は組む
c)米中のどちらとも組まずに、米中のどちらにも警戒されるだけの軍事力を自前で整備する
の三択をする覚悟があんのかどうか、という話になる。
(c)は威勢も良くかっこいいんだろうけど現実的とは言い難い*10
(b)を選ぶほど中国を信用できる根拠はない。
(a)を選び続けるしかないのだとしたら、普天間問題は結局「軍事的にもっとも効果的で効率が良い場所を選ぶ」というのを最優先にしないと、そもそも意味がない。


結果的に、
普天間基地を移設せず、現状維持でこれまで通り運用
辺野古沖(現行案)か辺野古沖改案に移設
の二択しかないわけだが、5月末に決めるためには連立与党の組み替えを行わない限り無理なので、結論としては普天間基地の現状固定が進むのではないだろうか。
そもそもアメリカの議会は移転のための予算を凍結して、普天間基地の継続使用の方向の予算しか通さないつもりみたいだしなー。


日米安保を今後も継続するのかしないのか、という選択肢にまで話を広げちゃって、鳩山政権はどう落とし前を付けるんだろう。

*1:面舵=右に舵を切ること。左に切るのは「取り舵」。

*2:=中国国軍ではなく、自民解放軍は中国共産党の私軍

*3:太平洋戦争初期に真珠湾攻撃を許した経験から、ハワイ、グアムなどの米軍根拠地の周辺に、軍事的対抗国が自由に出入りすることを、アメリカは非常に嫌う

*4:余談だけど、韓国海軍のコルベットを沈めたのは、北朝鮮じゃなくて中国の潜水艦だったりして。北朝鮮なら「共和国の成果」を高らかに喧伝するところだし、アメリカ、日本、台湾はそれをする理由がない。日本海側ならともかく、黄海側はロシアがいる海域ではない。中国にもそうする理由は薄そうだが、「その気になればいつでも実力で外洋(黄海の外)に出られる実力を有していることを潜在的に示しつつ、しかし表向きは絶対にそれを認めないことで事なきを得る、とか。あの事件の直後に潜水艦を含む10隻の艦隊が太平洋上の公海に現れたなどのタイミングは、どうもわざとらしい。

*5:将来的にはオスプレイ

*6:司令部の後退と、実用部隊及び根拠地の撤退は全然意味が違う

*7:=国際的には「リアンクール岩礁

*8:この場合のアメリカ側というのは、「海洋国」であり「議会制民主主義の国」であり、という意味。冷戦時代の西側と近似ではあるが、中国とは「陸軍の国中国」と「海軍の国、日米英」という見方で対するのが理解しやすい

*9:軍事力、兵器、兵員規模

*10:僕はライトなミリヲタだけど、「いざというときのために必要だけど、普段は使わない。でも維持はしていかなきゃならない」という、使わない宝剣としての軍事力の過度の整備が絶対敵に良いことだとも思わない。実際、消費されない資機材を維持するのは負担でしかないことに変わりはないわけだから。だから、自前で運用しなくてもヨソから借りてきて同じ役に立つものであれば、シェアリングすべきだと思う。日米同盟というのは、日本とアメリカが米軍と自衛隊をそれぞれ目的に応じてシェアリングするという考え方に立っているものであり、一国で全てを賄うのに比べれば双方ともに負担は軽い。そう考えれば、全てを自国で賄うのではない集団的自衛システムは維持していくべきだと思う。安全保障趣味者としてはそう思う。